第32話 旅の道程
前回のあらすじ
遂に旅立ちを迎えたユーマ達は、ゲイル達から譲り受けた馬車で外の世界へと旅立った。
今僕達は、ゴーレムに引かせた馬車に乗って、ヴォルスガ王国に向かって旅をしている。
国へ続く街道を走り、旅は順調に進んでいる。
「じゃあ、これで」
「なら、これで。チェックメイト」
「ああっ! また負けた」
今僕とラティは馬車の中で、暇つぶしにチェスをしている。
この世界ではボードゲームの類がなかった為、僕は数年前に土属性の訓練も兼ねて、チェスのボード盤と駒を作った。
他にも、将棋やリバーシなどのボードゲームも色々と作った。
最初は僕がラティやお父さん達にルールを教えながらプレイして、結果は僕が勝ったが、皆はこのゲームにのめり込み、数時間でルールを完全に把握して、僕と互角に勝負できるまでになった。
「本当にこのチェスは面白いね。ユーマくんが前にいた世界ではこんな面白いのがあるなんて、地球って楽しい所なんだろうね」
「うん。本当に楽しいよ。種族は人族だけだけど、仕事もこの世界にはない物もあったし、魔物も魔法もない素晴らしい世界だよ」
「……ねえ、ユーマくんは地球に戻れるなら、戻りたいの?」
彼女は不安そうな顔をしながらそう尋ねてきた。
確かに、僕がこの世界に転生したのは、地球の神様の手違いによる物だった。
それがなければ、僕は今も地球で仕事をしながら生活して、近所の子供達と楽しくして過ごすというそれはそれで幸せな人生を送れただろうな。
でも……
「確かに、地球には僕の岩崎悠馬の家族もいる。友達や仲間もいるけど、1度起こってしまったものは仕方ないさ。それに、神様がこの世界に転生させてくれたから、僕はこんなに可愛くて素敵な婚約者が出来たんだから。だから、戻るなんて選択肢は僕にはないさ」
「ユーマくん……」
ラティは嬉しそうに抱き着いてきた。
僕もその背中に手を回して抱きしめ、僕は愛する女性との時間を楽しんだ。
『……おほん。取り込み中の所で申し訳ありませんが、2人とも、魔物が近づいています』
御者台に通じる幕から顔を出したアリアが、僕達にそう言ってきた。
アリアとクルスは、僕達2人が中にいる間、御者台から周囲の警戒に当たっていた。
出発してすぐに、2匹の魔力もゴーレム達に登録したから、ゴーレム達は2匹の命令にも従う様になったんだ。
「分かった。今行くから。さあ、ラティ」
「うん、行こう」
僕らは馬車から降りて、周囲の確認をした。
「サーチ」
探知魔法で魔力を捜したら、約20メートルの距離に魔力の反応が出た。
「反応あり。数は1。強さは……この反応はCランクだ」
その時姿を現したのは、巨大なカマキリの姿をした魔物だった。
『あれはジャイアントマンティスですね。Cランクの魔物で、その鎌足の威力は強力です。ですが、注意して対処すれば、どうという事はありません』
「分かった。いつも通りの布陣でいくよ。僕が前でラティが後ろ。アリアとクルスは上空からの援護だ」
「『了解!』」
「クルゥ!」
ジャイアントマンティスは、先頭に立った僕に目掛けて右の鎌を振り下ろしてきた。
僕は身体強化で躱し、左側に回り込んだ。
「よし、新しい武器の試運転も兼ねて彼奴を倒すぞ」
僕は収納魔法から右手に白百合、左手に黒薔薇を取り出して装備した。
ジャイアントマンティスは再び鎌を振り下ろしたが、僕が頭上に剣を交差させて受け止めると、相手の鎌は接触した箇所から粉々に砕け散った。
「凄い……なんて威力なんだ……これが黒薔薇の効果による撃滅の力。それじゃあ今度は、ライトニングエンチャント!」
僕は雷の身体強化を施し、ジャイアントマンティスに目掛けて突進した。
そして右手の剣を振り止まったら、白百合の神速の力もあって、僕は一瞬で魔物の巨体を通過して鎌が砕けた左腕を斬り落としていた。
「ギギギギ~~~!!!」
腕を斬られた痛みからか、カマキリからは絶叫が上がった。
「五月蠅いわよ! スパイラルウィンド!!」
ラティはエンシェントロッドで魔力を整え、螺旋状に放った風の刃で残った右腕も斬り落とした。
スパイラルウィンド、風属性の中級魔法で、魔力で生み出した風を螺旋状に放って真空の渦を作り、それによる風の刃で敵を切り裂く魔法だ。
『止めです! シャインブレス!!』
「クルルルゥゥゥ!!」
そして、アリアの口から放たれた光属性のレーザーの様なブレスが、クルスの周囲に現れた風の魔力を圧縮して放たれた風の矢がジャイアントマンティスの体を貫き、ジャイアントマンティスは絶命した。
僕もサーチで様子を伺い、完全に死んだ事を確認した。
「大丈夫、倒したよ」
「お疲れ様、ユーマくん」
「お疲れ様。その杖での魔法、凄かったね。今までのスパイラルウィンドとは、スピードも威力も段違いだった」
「ユーマくんも、これまでのライトニングエンチャントよりも断然速かったよ」
僕達の強さが段違いに上がったのは、マジックアイテムの武器による底上げが原因だ。
「これらのマジックアイテムは、性能がとんでもなく高い。だから、これからはこの武器の制御も視野に入れて、慢心せずに行こう」
「そうね。武器に頼りきりじゃあ、一人前とは言えないし」
僕達はお互いの強さの再確認をして、これからの方針を決めた。
『さあ、話が終わった所で、このカマキリの解体を終わらせましょう』
アリアの掛け声で、僕達はミスリルナイフでの解体を始めた。
このカマキリは、片方の鎌足が討伐の証明部位だった為、僕は砕けてない方の鎌足を収納し、残った体から魔石や素材になりそうな物を取り出し、残りは焼却処分した。
旅を再開し、日が暮れた頃で馬車を止め、今夜はこの平原で野営をする事になった。
僕は収納から、薪を出して火を焚き、収納から鍋や包丁などの道具を出し食材を出してご飯の支度を始めた。
前世では小さい頃から料理に興味があり、中学生になった頃には自分で食事の支度をするようになって、高校を出て自立した頃には自炊をしていた。
また、専門学校にも通ってた事もあり、料理の腕には結構な自信がある。
実際に、前世の事を話してからは僕も食事の手伝いをしていて、みんな僕の作った料理の美味しさにとても喜んでいた。
今回作るのは、鶏肉と野菜のコンソメスープだ。鶏の肉をぶつ切りにして、先に沸かしたお湯の入った鍋に入れ、その間に人参、じゃが芋、玉葱、セロリ、にんにくを切って、鶏の出汁が出た頃に野菜を入れた。
野菜に火が通った頃にキューブ状のコンソメを入れて蓋をして暫く煮込む。
その間に大きなお皿に、僕が作った手作りのパンを並べる。
前世ではパン屋で働いて、学生の頃からパン作りが趣味だった為、僕は料理もパンもお菓子作りもこなせる。
やがて、煮込んだスープが完成し、それをお皿に盛りつけ、みんなに配った。
「はい、出来たよ」
「ありがとう。わあ、美味しそう」
『ありがとうございます。本当に良い香りです』
「クルルルゥゥゥ!」
「じゃあ、食べよう。皆の器を貸して」
ラティ達は僕に器を差し出し、僕はそれらにスープを具と一緒に盛り、再び皆に渡した。
アリアとクルスの場合は足元に器を置いてあげた。
「それでは、いただきます」
「『いただきます』」
「クルルゥ」
皆はスープと一緒に具を頬張ったり、パンを食べたりと、それぞれ美味しそうに食べていく。
「やっぱり、ユーマくんの作るご飯美味しいよ」
『そうですね。これがユーマの才能という物なのでしょうか。ユーマ、あなたはいいお嫁さんになれますよ』
アリアは感激のあまり、そんな事を口走り、僕は思わず引き攣った表情になった。
今アリアが言った言葉に思いっきり聞き覚えがあったからだ。
「アリアさん……一体何処でそんな言葉を覚えたんですか?」
『ん? 昔、お母様が教えてくれたんですが、何か?』
「さいですか……」
まさか異世界で、前世でよく友達に言われていた言葉を聞く事になるとは思わなかった。
アリアのお母さんは一体何者だったんだろう……。
「クルゥ! クルルルゥ!」
クルスが呼んだので見てみると、お皿の中は空っぽだった。
どうやらお代わりを希望みたいだ。
「分かったよ、クルス。お代わりだね」
「ユーマくん、あたしもお代わり」
『私にもお願いします』
さらにラティとアリアもお代わりを希望してくる。
実はこの3人、こう見えてかなりの大食いだったりする。
アリアとクルスは魔物で、元々の大きさがあれだから分かるが、ラティは人族の筈なのにブラックホールの如く、食べ尽くしてしまう。
それでいて全く太らないから、あの細い体の何処にあれだけの量が入るのかは全くの謎だ。
本人は食べた分の栄養が全部胸に行っているとか言っているけど、確かにあの豊かな双丘を見るとあながち間違いじゃないのかも。
結局、大量に作ったスープは3人がきれいに食べ尽くしてくれた。
まあ、これはこれで僕も作り甲斐があるから、別に良いんだけどね。
また、食後に作っておいたデザートもみんな喜んでいた。
特に甘いものが好きなアリアは、獲物を食らうかの様に食べていた。
その後、僕らは協力して水の魔法で食器を洗い、土魔法で作ったスペースでお湯を用意して体を洗った。
その後は、野営用のテントで夜を過ごし明日に備えて眠りについた。
それからの道中は、偶に魔物に遭遇してはそれを討伐して素材を剥ぎ取り、日が暮れれば、僕が食事を作っては皆が食べ尽くしてくれて、夜は皆でチェスや将棋などで遊んで過ごし、旅は楽しく順調に進んだ。
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魔物情報
ジャイアントマンティス
全長5メートル程の巨体を誇る、Cランクの昆虫種の魔物。主に森から平原と自然のある場所に生息している。その両腕の鎌足は巨大な鎌になっており、大木を一振りで真っ二つにしてしまう。だが、動きは結構鈍い為、鎌に注意して戦えば討伐はそれほど難しくない。討伐証明部位は片方の鎌足。
次回予告
道中、最初の街へ立ち寄ったユーマ達。
そこで宿をとるが、ユーマとラティはある一大イベントへ……。
次回、最初の街、そして初夜




