第29話 街中での出来事
前回のあらすじ
冒険者登録を済ませ、旅の準備をしているユーマはある日ラティを呼び出す。
これまでの生活を通して彼女への想いを自覚したユーマは、ラティに告白、プロポーズをする。
それを承諾したラティは、ユーマの婚約者となる。
ラティにプロポーズして2週間が経った。
僕達は首に、お揃いの婚約ペンダントをかけて、王都をデートしている。
デートとはいっても、アリアとクルスも一緒だけどね。
旅に出る際の食料や必要品を買い終えていて、準備が整い始めたから少し余裕が出来たんだ。
「失礼、そこの少年達よ」
折角の恋人とのデートを楽しんでいる最中、誰かに声を掛けられて振り返ると、そこにはでっぷりとしたお腹が出た、裕福そうな服に身を包んだおじさんがいた。
もうその姿を見た時点で、デートのムードも何もかもがぶち壊しになってしまった。
「あなたは確か王家の……」
「ほう。私を覚えていたか。私は王家に仕える軍務大臣、ヴィダール・フォン・フラインだ。君達の事は、10年前から国王陛下から聞いているよ」
ヴィダール大臣、王家に仕える軍務大臣で、アルビラ王国が世界を統一するべきだと戦争を促そうとする過激派の1人だ。
10年前、国王がアリア達の事を宣言した時にも、真っ先に食って掛かり僕達を軍事利用しようとした。
だが、国王はそれを許さず、彼を強引に下がらせる事で、あの時は収拾した。
「それでだ、私が前々から君達に注目していた。そこで、少々私と話をしないか」
口では頼んでいるつもりかもしれないが、その態度は半ば強制といった感じだ。
念の為、探知魔法で辺りを調べたら、案の定大臣の魔力と波長が一致した反応があちこちに出て来た。
探知魔法で魔力を探し、その魔力と他の魔力の波長が一致していると、それはその魔力の主同士がお互いを仲間と認識している事を意味する。
おそらく、この反応は大臣の部下、もしくは過激派の息がかかった兵士といったところか。
つまり、断れば仲間が飛んできて、僕達を連行するつもりなんだろう。
「申し訳ありませんが、僕達には予定があります。それに何より、知らないおじさんにはついて行かない様にと母に言われていますので、失礼します」
僕達は丁重に断って、大臣の前から去ろうとした。
「待て! 貴様、大臣であるこの私に逆らう気か! お前達、このガキどもをひっ捕らえろ!!」
その途端、断られると思っていなかったのか大臣はたちまち本性を現し、隠れていた仲間に僕達の捕縛を命じた。
すると、あちこちから剣や槍を持った兵士達が現れ、僕達を取り囲んだ。
街中でこんな事をするなんて、周りの人達が見ている。
こうなれば、被害者は僕達で加害者は大臣になる。
「いいんですか? 街中で無抵抗の庶民に武器を持った兵士を囲ませるなんて、こんな事が許されると思ってるんですか?」
「ふん! お前達の様な平民は我らの言う事をただ聞いていればいいのだ! 我らが生きろと言えば生きていいし、死ねといえば死ね! お前達の命は我ら貴族の言葉次第なのだという事を思い知れ!!」
この言葉に、僕達だけでなく、周りの人達も怒りを露わにした。
そりゃそうだ。
僕達の命はそれぞれの物なのに、その命を我が物顔と言い張る大臣の態度に怒らない筈がない。
傍ではアリアとクルスが大臣を睨んでいる。
これは確実に怒っているな。
「先にけしかけたのはそっちだから、これは正当防衛ですよ」
周りの人達に聞こえる様に、僕は予め言っておいた。
これで後から何か言われても、多くの人達がこのやり取りを見ていたから、僕達が悪だと言われる事は決してないだろう。
「ユーマくん、この人達、あたしがやってもいい?」
「いいけど、街中だからあまり派手にはやらないで」
「分かってるわよ。じゃあ、行くわよ」
ラティは杖を取り出し、周囲に魔力を集中させた。
そして、その魔力を兵士達の周囲に集め、魔法にして発動した。
「エアプレッシャー!」
その瞬間、兵士達が一斉に地面に倒れ伏した。
いや、倒れたのではなく押し潰されたんだ。
エアプレッシャー、風属性の魔法の1つで、魔力を対象の周囲に集める事でその場所の風による風圧で、目標を押し潰したり動きを封じたりする魔法だ。
だが、今回は魔力を調整してあるので、兵士達は気絶で済んだ。
「ふう。終わったわよ」
「お疲れ様。さて、これで後は大臣、あなただけですよ」
「くっ……! 覚えておれ!」
そんな小物の捨て台詞を吐いて逃げようとしたが、僕がそれを逃がす筈がない。
僕も杖を取り出し、闇属性の魔力を集中した。
「シャドウバインド」
その時、大臣の影が動き始め、立体的な形になって大臣を捕縛した。
シャドウバインド、これは闇属性の魔法で、対象物の影に魔力を流して立体上に形成して対象を拘束する魔法だ。
それから少しして、騒ぎを聞きつけた王城に仕える兵士達が駆け付けて来た。
「これは一体……! これは君達がやったのかい?」
隊長らしき兵士が僕達に聞いてきた。
「そうです。あの大臣が僕達を兵士で取り囲んだので、彼女の魔法で兵士を気絶させました」
「そうか。では、あの大臣は?」
彼は、僕の魔法で動けなくなってる大臣を指した。
「兵士達を無力化した途端に逃げようとしたので、僕の魔法で捕らえました」
「君達は何者だい? こんな事が出来るのは並みの子供では無理だ」
「僕は、ユーマ・エリュシーレです。彼女は婚約者のラティ・アルグラースです」
「エリュシーレとアルグラースという事は、君達があの暁の大地の子供達か! 話は分かりました。後は私達に任せてください。お前達、ヴィダール大臣とそこの倒れている兵士達を国家反逆罪で捕らえよ!!」
彼の掛け声で、ヴィダール大臣と気絶した兵士達は一瞬で捕縛された。
ヴィダール大臣は捕縛された後に、シャドウバインドを解除した。
捕縛が終わり、隊長さんが僕らの前に立ち深く頭を下げた。
「ユーマ殿、ラティ殿、この度は御2人方に多大な迷惑をおかけした事、深く謝罪します」
「あの、何があったんですか?」
ラティが尋ねたが、その質問は僕も気になる。
何故、大臣ともあろう人がこんな街中にいたのか。
「それに関しましては、国王陛下からご説明があるとの事です。今から、王城にお越し頂けませんでしょうか?」
「仕方ない。行こう」
「うん。折角のデートだったのに……」
彼女は最後にそう呟きながらも、同意してくれた。
でも、僕だって同じ気持ちだ。
あの大臣の所為で、デートが台無しになってしまった。
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僕達は兵士達が用意した馬車に乗り込み、王城へ向かった。
検問を通過して、お城に入り、隊長さんに案内されて玉座の間に入ると、そこには国王だけではなくお父さん達までいた。
「来たか。2人とも怪我はなかったか?」
「お父さん、僕達は大丈夫。でも、どうしてこんな事になったの?」
「それはね……」
「そこからは私が説明する」
そう口を挟んできたのは、国王だった。
「まずは、ユーマ殿、ラティ殿、この度は我が国で起こった不祥事に巻き込んでしまい、誠に申し訳なかった」
国王はそう言って、深く頭を下げてきた。
まさか、王様に頭を下げられるとは、思ってもみなかった。
「国王様、頭を上げて何があったのか、一から説明してもらえますか?」
お母さんの言葉で、国王は頭を上げ、軽く深呼吸してから口を開いた。
「まず、全ての発端は過激派によるものでした。10年前、私が彼らとその従魔の後ろ盾になると宣言して以降、ヴィダール率いる過激派は迂闊には手を出せなくなったが、奴らはアリア殿とクルス殿の事を諦めてはいませんでした。奴らはその後も、彼らをどうにか手中に収め軍事利用できないかと機会を伺っておりました。しかし、ユーマ殿とラティ殿が冒険者の修行をしている間は暁の大地の皆様がついており、私もそのような事が無いように、ホマレフを始めとする信頼できる者達に奴らの事を監視させていました。しかし先日、2人が冒険者登録をしまして、近々この国を旅立つという話がこの城にも届き、それを聞いた過激派共は焦ったのでしょう」
「成程、僕達がこの国を旅立つ前に、何とか僕達に接触を図って僕達を上手く誘い込んで、僕らを人質にとってアリア達を手中に収めようとしたんですね」
「でも、その前にあたし達がお話の誘いを断ったので、焦った大臣が本性を現した結果が、兵士をけしかけた実力行使だったんですね」
僕達の推測に、国王は頷いて肯定した。
「その通りだ。ヴィダールはどういうルートで手に入れたか知らんが、奴隷の首輪を2つと従魔専用の奴隷の首輪とも言える、隷属の首輪を2つ入手していました。そして今日、監視の者を力尽くで突破し、城を出たという報告を聞き、もしやと思った私はまず暁の大地の皆さんに会いに行き2人の予定を聞きました。その結果、王都に出ていると知ったので、すぐに兵士を向かわせたのだが、」
「到着した時には既に、僕達がひと暴れした後だったという訳ですね」
こうして聞くとあの大臣、そんな穴だらけの策で本当に僕達を手中に収められると、本気で思っていたのか?
もしそうなら、あのおっさんは相当な愚か者だな。
「そうだ、国王陛下、あの大臣は本性を出した際、こんな事を口走ってました」
国王はあのおっさんが言った事を聞くと、段々とその顔が怒りの感情に染まり真っ赤になっていった。
お父さん達もそれを聞いて、酷く不快感を露わにしていた。
「あの男、我が国の国民にその様な暴言を……! これまでは王家の大臣という事であまり大きく出る事が出来なかったが、今度という今度は堪忍袋の緒が切れた。皆さん、安心してください! 私の責任で、今回の件に関わった者は1人残らず処罰します!」
「そうですね。お願いします」
こうして、過激派の運命は呆気なく決まってしまった。
「して、ユーマ殿とラティ殿はもうじきこの国を発つのだったな」
「はい、恐らく2週間後には出発できると思います」
「そうか、では、私から君達にあるものを送ろう。ホマレフ」
「はい、こちらに用意してあります」
国王はホマレフ宰相から受け取った木箱を僕らの前に差し出し、蓋を開いた。
その中には、銀色に輝くこの国の王家の証の2本の剣が交差して後ろに盾がある紋章が刻まれたメダルが2枚入っていた。
「これは王家の証のメダルで、このメダルを持っていれば国外でもアルビラ王国国王の後ろ盾を証明する事が出来る。つまり、これを持っていれば、他国でも今回の様な事を回避できるという事だ」
「いいんですか? そのような物を受け取って」
「よいよい。元々、近い内に君達に渡す予定だったのだ。その予定が早まっただけの事よ。この度の謝罪も兼ねて、受け取ってくれ」
そう言われたら、もう何も言えなくなる。
お父さん達も黙って頷くだけだったので、僕達はメダルを受け取った。
「分かりました。陛下のご厚意、しかと受け取りました」
こうして、僕達は国王の完全な後ろ盾を得て城を後にした。
余談だが、ヴィダール大臣は今回の一件で失脚し、鉱山奴隷としての終身刑を言い渡された。
また、僕達を襲った兵士達も10年間の鉱山奴隷、その他にも過激派の大半が今回の一件で失脚して兵士と同じく10年の鉱山奴隷となった。
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次回予告
旅立ちを明日に控え、楽しみにしているユーマ達に、ゲイル達はある贈り物をする。
それは……。
次回、餞別




