第274話 第4の竜王
前回のあらすじ
ユーマ達の前に現れた甲殻竜達は、水竜王の配下だった。
子供を助けてもらったお礼をしたいという甲殻竜の申し出を受け、水竜王の神殿に招かれる。
その道中アリアから他の竜王の事を教えられ、遂に水竜王との対面を迎えた。
人1人が通れるくらいに開いた扉から現れたのは――
「私をベヒモスなんかと一緒にするんじゃらいでしゅよ。失礼でしゅねぇ」
そんな舌足らずな声と共に現れたのは、レイシャさんと同じぐらいの幼女だった。
身に纏っている衣服は、浦島太郎に出て来る乙姫の様な格好だった。
「ええええええ!!? 子供!?」
思わずそんな声が出たと同時に、人の姿のアリアが前に出た。
「お久し振りです、水竜王様」
「こちらこそ、竜神様。雷竜王から話は聞いています。真の竜神として覚醒したと。おめでとうございます」
そんな2人の会話を聞いて、信じられないワードが聞こえた。
「ちょっと待って、アリア。聞き間違いじゃなきゃ、この女の子が……」
「あら、そちらでしゅね。竜神様と適合ちたという、炎竜王の言っていた人間というのは。初めまちて、私は水竜王。水属性の竜を率いる竜王でごじゃいましゅ」
やはりこの子供の乙姫の様な子は、人の姿になった水竜王だった。
そして僕をビシッと指差した。
「それからそこのあなた! 私は子供じゃないでしゅわよ! 失礼じゃないでしゅか、よく見なちゃいよ!」
そう僕に叱咤するが、どう見ても小さい子供が背伸びしている様にしか見えない。
後では可愛い物好きなラティが抱っこしたそうにうずうずしてもいる。
するとアリアが声を掛けた。
「水竜王様、その姿では人間の幼女と思われても無理ありません。ちゃんと姿を変えなければ」
「あら、そうでちたわね。ここ最近人間と会話ちていない時期が長かったから、ついこの姿のままでちた。ちょっと待っててくだちゃい」
そして水竜王は後ろの壁に手を当てると、手に魔力を集中させた。
そうしたら、壁と右手に水の魔力が集まり水竜王の姿に変化が起こった。
身体が服と共に水の様な不定形になり、子供から大人の背丈へとなり、変貌が終わった時僕達の目の前には20代前半程の美女がいた。
勿論水竜王だというのは分かるが、その姿は益々乙姫を彷彿させる姿だった。
「何だ!? 突然年齢が変わったぞ!?」
僕達はこれまでに3体の竜王と出会い、その規格外の能力などを見て来たから今更これくらいでは驚かなかったけど、ライオルドさんだけは目の前で水竜王の外見年齢が変わった事に驚愕していた。
「これくらいの外見でいいかしらね。これで少しは話やすくなったでしょうか」
舌足らずな口調までも普通になり、文字通り水竜王は大人の女性となっていた。
「水竜王様は、体内の水を調節して外見を自由自在に変える事が出来るのです」
アリアの説明を聞き、僕はすぐに理解した。
これは全く単純で、竜王の属性同化能力の応用だという事だ。
「そうか。水竜王の属性は水。つまり身体を水その物に自在に変質させる事が出来る」
「気付いた様ですね。如何にも、私は身体の水分の量を調整してその体積を変える事で外見の年齢を変化させる事が出来るのです」
元々生物というのは、身体の半分以上が水分で構成されている。
中でも水の扱いに特化した水竜王なら、今の様に体内の水分を属性同化で身体全体を水にして、その量を調整して外見を変えられるという事だ。
少なくすればさっきの子供の姿に、増やせば外見年齢を成長させて今の大人の姿にだって出来る。
「歴代の水竜王も、この能力を使って外見を自在に変え、中にはそれを利用して人間社会に完全に溶け込んで暮らした者もいるそうです。尤も私の場合は会う人間によって姿を選ぶ程度に留めていますけどね」
人間に対して無暗に力を誇示したりせず敵対しない掟を作ってきた竜王の中には、ドリュスさんの様な人間が大好きで共存している者もいる様に、過去の水竜王にもその力を使って直に人間と共存した例もある様だ。
「それにしても、こんな力を見せたというのにあなた達は全く動じませんでしたね。そちらの方は寧ろ普通のリアクションを見せてくれましたが」
そういう水竜王の目は、殆ど動じなかった僕達よりも驚愕したライオルドさんに向いていた。
「僕達はこれまでに炎竜王、風竜王、雷竜王のドリュスさんと会っていますから、流石に竜王の力にはもう慣れたと思います」
「対してライオルドさんは竜王には初めて会ったんだ。竜神のアリア程じゃないけど、その竜王の規格外な能力を見てこういう反応する方が当然なんだ」
「その通りだ。前のパーティーでも竜の従魔がいたけど、それでも古竜止まりで、実際に竜王に直接会ったのはこれが初めてだ。噂以上に凄かったけどな」
ライオルドさんという第三者に、水竜王は目が鋭くなった。
「成程です。処でそちらの人間はどなたですか? 炎竜王や雷竜王から聞いた話では、アリア様と一緒にいる人間は全部で4人。人族の男女に狼人族の少年にハイエルフの女性。雷竜王と風竜王から最近聞かされた話では、もう1人の人族に豹人族、竜人族に悪魔族が2人で、そちらの男性は鬼族。聞いていた情報のどれにも該当しない人間がいるので、改めて詳しく話を聞かせて貰いましょうか」
アリアから聞いた話では、水竜王はドリュスさんと同じく人間との関係を大事にしているが、あくまで初めて会う人間には念入りに調べて信用出来るかを確かめようとしていた。
そもそも竜王とは8体全てがSランクでもトップクラスの力を持ち、竜種共通の特徴として高い知性を持ち合わせている。
その竜王に会い、その力を私欲的に上手く利用出来れば、それだけで大きな力を手にする事になる。
勿論そう上手くはいかないだろうけど、それでも何があるかは分からないから、水竜王は本当にライオルドさんが信用出来るかどうかを自ら判断しているんだ。
用心深く、そして相手を見る目を持ち合わせ、誰でも油断しない性格を持つ、それがこの水竜王だという事か。
そういう意味では、この手の相手は非常に恐ろしくもある。
だからあの時風竜王も水竜王の名前が出た時に、あそこまで狼狽していたという訳だ。
そうしている内に、水竜王はライオルドさんにいくつか質問をし、彼からの返答を聞いて少し目を閉じて考え、再び目を開いた。
「とりあえずアリア様やユーマさん達に害を及ばすような存在ではないのは間違いなさそうですね。己の信じる道を突き進み、自らの決断を決して曲げたりしない強い心を持っているのを感じました。それだけの人間ならば、信用材料には足りるでしょう。あなたも大切な客人として歓迎します」
無事にライオルドさんも、水竜王の神殿に歓迎される事となった。
「さて、アリア様が今回ここに参られましたのは、甲殻竜の子供を保護してくれた事の他に、もう1つ理由がありましたっけ」
「そうです。その幼竜を保護した時に、ネプチューン王国のリゾートビーチでブラッドスクウィッドの群れに襲われました。観光地として開かれている地で高ランクの魔物が突如現れた理由を調べる為に、ここまで来たのです」
「もしかして、水竜王は何か知っているんですか?」
僕が尋ねると水竜王は静かに頷いた。
「そうですね。本来なら海での問題は我らが解決するのですが、竜神様のアリア様や皆様が来たというのには、きっと運命的な物があるのでしょう。詳しい説明をします。まずは私の部屋に来てください」
思わぬ所で、僕達は目的である魔物が出現した理由を知る事が出来そうだった。
今は水竜王を信じて、僕達は彼女の部屋に入った。
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魔物情報
水竜王
水属性の竜を統べる竜王。
身体を水属性と同化させる能力を持ち、その水の性質を海水から地下水などと自在に変える事も出来る。
またその能力で体内の水の量を調整する事で、外見の年齢も自由に変えられる。
人間との関わり合いを大事にしており、普段から人知れず海域の魔物達を支配する事で安全を護っている。
討伐証明部位は逆鱗。
次回予告
水竜王から事態の詳細を聞き、遂に何が起こっているのかを知る。
同時に、海域に潜む魔物についても知らされ、水竜王は改めてアリアに協力を頼む。
その事態を納めるには水竜王かラティの力が必要だった。
次回、海域の異変




