第271話 男に二言はない
前回のあらすじ
偶然にもライオルドと出会ったユーマ達だったが、ライオルドはユーマの事で八輝帝を追放された事は何とも思っていなく、ユーマ達は彼と打ち解ける。
ライオルドと一緒に魔物が現れた原因を調べようとした時、ユーマ達からの罰でライオルドを連れ戻しにやって来たファルムス達八輝帝と再会してしまった。
「俺に戻って来て欲しいってどういう事だ? 確かそこの『雷帝』を八輝帝に入れる為に、『帝』の名を得られなかった俺は無能で不必要じゃなかったのか? 尤も、その『雷帝』のユーマがここにいる時点で、彼を加入させるのは大失敗に終わった様だな。大体の経緯は彼らかも聞いている」
皮肉交じりのライオルドさんの言葉に、ファルムスさん、レミスさん、ラーガンさんは真摯に受け止めているが、イグザム達はぴくッと反応した。
「確かに、私達は『雷帝』を八輝帝に入れる事で、全ての属性の『帝』を揃えようとした。その結論がお前の追放だった。だが私達はユーマくんに接触し、武闘大会で彼を加入させるかしないかの決着を付けようとし、結果は我々の敗北となり失敗に終わった。それだけを聞くとお前に戻って来て欲しいというのは、単純に彼の代用品と思われるかもしれない」
実際、僕達と背あって経緯を知ったばかりのタイミングでこう言われたら、どんなお人好しでもそう思われてしまうだろう。
でもライオルドさんのあの皮肉は、とてもではないがその代用品とかに捉えている様には思えなかった。
「でも、私達は決してお前を代用品だと思った事は無い! 私やレミス、ラーガンはお前の追放に反対したが、最終的に満場一致という事でお前の追放が決まってしまい、守り切れなかった事は本当にすまなかった。謝罪しても許される事じゃないのは分かっている。だが、我々は純粋にお前とまた八輝帝としてやっていきたいと思っている!」
「お願いです。また私達と一緒に冒険者をやりましょう!」
「お前の装備もまた俺が整備してやる。俺の造った武器を大事に使ってくれるのは、この八輝帝の仲間だけだ。勿論、お前もその1人だ」
レミスさんとラーガンさんも必死に戻る様に懇願し、イグザム達は余計に状況を悪化させない様にして黙っている。
「ファルムス、レミス、ラーガン。お前達の言葉が心からの願いだというのは聞いて伝わってくる。長い付き合いのお前達ならば聞いただけで分かるものだ。後ろのイグザム達もあの様子を見れば、俺が戻る事には反対はしていない様だ」
「じゃあ――」
「だが悪いが、俺は戻る気はない」
ライオルドさんのはっきりとした言葉に、ファルムスさん達は言葉を失ってしまった。
やはりこの状況は、前世のラノベとかで当時流行っていた追放された後でまた戻って来いと言われるがもう遅いという通りの展開になるのかな。
「別に、俺がまた必要になったがもう知らんとかそういう訳じゃない。俺もお前達とやって来た日々は本当に楽しかったし、俺の仲間はお前達だけだと心から思っていた」
「なら何故だ? どうして戻る気はないというんだ?」
「ファルムス、俺が八輝帝を抜ける時にお前達に言った言葉、忘れたのか?」
一体何を言ったんだ?
「俺が抜けた時、お前達に誓った。『俺は2度と八輝帝の名を名乗らない。そしてけじめとして2度と八輝帝の敷居を跨がない』っと。つまり、俺は誰が何と言おうと、自分の言葉に従い2度と八輝帝と関わらないと決めたんだ」
それはつまりライオルドさんが戻らない理由は、その抜けた時に言った言葉を守る為で、所謂男に二言はないという事だからか。
「そんな……それだけの理由で、もう私達は一緒に組めないというのですか?」
レミスさんも悲しそうな表情で、彼を見ていた。
「すまんな、レミス。だが、俺の故郷では1度誓った言葉は命よりも重大な物なんだ。決して軽いつもりで言いそれを破ってしまったら、それはもう漢ですらない。俺にとってはそれだけ大切な近いなんだ」
「では、私達はもう組めないというのか?」
「1つだけ方法がある。それは、一旦八輝帝を解散させ、それでまた俺も含めた8人でまた新たなパーティーを組む事だ。そうすれば俺が誓った対象の八輝帝は無くなり、めでたく俺はまたお前達と組めるという事だ」
あれ?
そんな簡単な解決策があるなら、早くそうすればいいのに。
「なあ、なんかあっさりと解決しそうじゃね? 要は一旦八輝帝を解散させてまた組み直せばいいだろ?」
「そうね。それならあたし達からの罰も簡単にクリア出来そうだけど」
2人も同じ事を思っていたが、コレットだけは違った。
「いいえ。これはそんな甘い考えで決められる事じゃないわよ」
「どういう事?」
「確かに、その方法を使えば、ライオルドさんの誓いを守りつつ彼を仲間に戻す事が出来る。でもそれは今の八輝帝が冒険者の世界から消滅――つまり、彼らがパーティーとして積み上げてきた実績が全て消えるという事よ」
そうか。
冒険者は個人とパーティーでそれぞれランク分けされている。
パーティーのランクは、そのパーティーメンバー全員のランクの平均で決まるから、既に全員がSランクの彼らが組み直せば最初からSランクパーティーで活動出来る。
だがそのパーティーはあくまで八輝帝とは全く別のパーティーだから、チームとしての実績はまた一から積み直しになる。
勿論、Sランク冒険者としての恩恵や、八輝帝というパーティーに過去在籍していたという経歴から、多少の影響はあると思うが、全ての恩恵が八輝帝の時のままにはならない。
つまり、ファルムスさん達がライオルドさんを仲間に戻すには、これまでのパーティーの実績やEXランクの最も近いパーティーという称号などを一旦手放さなければいけないという事だ。
だがそれはファルムスさん達3人はともかく、八輝帝の名に特にプライドや拘りがあったイグザム達が了承するとはとても思えない。
すなわち、ライオルドさんを引き戻すのに、彼らは完全に詰んでしまったという訳だ。
「確かに、私達としても、このまま八輝帝を解散させるというのは出来ればしたくない。私達がこのまま解散させてしまったら、EXランクになるという目標が大きく遠ざかってしまう。それは仲間であるイグザム達が望む事ではない。ライオルド、お前にはどうしても戻って来て欲しい。だが、同時に他の仲間達の気持ちも無下に出来ない……」
「ファルムス……」
苦しそうに言ったファルムスさんの姿を、イグザム達はただ見つめる事しか出来なかった。
「ならこの話は一旦ここまでだな。まあ、今の俺はお前達とは関係ない。お前らが俺とまた組みたいなら八輝帝を解散させるなり好きにするんだな。俺はお前達の決断を尊重するから」
そう話を切り上げ、ライオルドさんは僕達に歩み寄った。
「待たせてすまなかったな。それじゃ、俺達は予定通り調査に行こう」
「いいんですか? 仲間なんでしょう」
「元な。良いんだ。俺は俺の信念を貫いているだけだ。己の掲げる信念や、信じた道を歩き続ける、それが真の冒険者という物だ。あの程度で思い悩むんだったら、あいつらはその程度の覚悟だったという事だ」
そう言ってライオルドさんはギルドを出て行ってしまった。
「あ……あの、その……失礼します!」
僕達も八輝帝の7人に挨拶してギルドを出て、ライオルドさんを追った。
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一方、ギルドに残されたファルムス達は、今後どうするかを話し合っていた。
「どうするんだ? まさか、このままライオルドの言葉に従って、八輝帝を解散させるつもりじゃないだろうな?」
「勿論私も出来ればそれはしたくない。だが、このままではライオルドを戻す事は出来ない。ユーマくん達から課せられた要求も達する事も出来ない」
「やはり、ライオルドを戻すのを諦めて、ユーマ様をまた勧誘した方がいいのではないですか?」
「そうさ。あいつだって言っていただろ? もう俺達とは関係ないって。なら、あんな奴はほっといて、俺達は俺達で好きにやればいいじゃないか」
ミスティの懲りない言葉にガルーザスが賛同したが、それに真っ向から反論したのはファルムスよりも先に動いたレミスだった。
「それでは何も解決になりません! そもそも、あんな事を言われてすんなり諦める程、八輝帝のプライドというのはその程度の物だったんですか?」
レミスの挑発じみた言葉だったが、ガルーザスはすんなりと反応してしまった。
「んな訳ねえだろ! 俺達はEXランク最も近いパーティー、八輝帝だぞ! その俺達が、あんな奴にぼろくそ言われた程度で、簡単に言う様な奴らじゃねえ!」
良い意味でも悪い意味でも、己のプライドに正直なガルーザスの言葉に、イグザムも頷いた。
「そうだな。何はどうであれ、ここまで来て何も出来ずに帰るのは八輝帝の名が泣くな。ライオルドを戻すかはどうかは一旦置いといて、何かするべきだな」
そこにはかつてクレイル達を見下していたイグザムは鳴りを潜めつつあり、一冒険者として立ち直り始めていた。
それを相方のファルムスは嬉しく思っていた。
「そうだな。八輝帝を解散させるかは一旦保留にしよう。もしかしたら、ライオルドの意思を尊重しつつ八輝帝をそのままに連れ戻せる方法があるかもしれない」
「それで、どうするつもりなの?」
「まずは彼らを追おう。何かを調べると言っていたから、それを手伝おう」
癖のあるメンバー揃いの八輝帝だが、リーダーの決定には素直に従う彼らを連れ、一行はギルドを出たユーマ達の後を追うのだった。
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次回予告
ライオルドを追うユーマ達は、彼からデスペラード帝国の概念を聞かされる。
一旦八輝帝の事を置いておくことにし、一同は調査に出発し、最初に魔力を感じた海域を目指す。
そこである魔物と出会った。
次回、海域に住む者




