第269話 加勢する雷
前回のあらすじ
ネプチューン王国にやって来たユーマ達はリゾートビーチでバカンスを満喫する。
しかし、突然魔物の気配を察知し、それに対しユーマ達は戦う事を決める。
そこに現れたのはブラッドスクウィッドの群れで、しかも古竜の幼体が捕らえられていた。
沖の方で現れたブラッドスクウィッドの群れに、ビーチにいた人達はパニックになりながらも警戒に来ていた海人族の騎士達に誘導され、安全に避難出来ていた。
だから僕達は安心してブラッドスクウィッドとの戦闘に集中する事が出来た。
「クレイル、まずはあの甲殻竜の幼体の救助が先だ。ラティとコレットはここから魔法で援護を頼む。クルスはアインを乗せて空から遊撃。僕とクレイルはアリアと一緒に甲殻竜を助ける。レクスはここに残って、ラティ達に向かって来る奴がいたら2人を頼む」
「おし! そうとなれば、とっととやるぞ!」
僕とクレイルは神器を構え、フォースを発動させた。
「ドラグーンフォース・ライトニング!!」
「フェンリルフォース・コキュートス!!」
「グランドドレス!!」
今回クレイルは氷属性のフォースを発動させ、氷の爪や鬣、鎧を纏ったワーウルフの外見になり、ラティも土や砂で出来たドレスを纏った形態になった。
今回クレイルとラティがこの属性を選んだ理由は、ブラッドスクウィッドとの相性を考慮したからだった。
ブラッドスクウィッドを含む大概の水棲種は、その固有とする属性が水属性で共通していて、この属性を持つ魔物は特殊な例外でない限り雷属性が最も大きいダメージを与えられる。
その点はあのデビルジェリーフィッシュとの戦いを思い出せば納得する。
またブラッドスクウィッドやデビルオクトパスの様な軟体生物系の魔物は、質量を持った物理攻撃も有効で、その物理系のダメージを与えられる氷属性と土属性の複合強化を2人は選んだという訳だ。
だがクレイルの場合は更に考えがあった。
戦闘形態になり、僕とクレイルはアリアとレクスと共に甲殻竜を捕まえているブラッドスクウィッドに目掛けて突撃した。
僕はフォースの翼によってアリアとクルスと共に上空から攻撃態勢を取り、クレイルは氷の魔力で脚をつけた海面上を凍結させながら海の上を掛けた。
これがその更なる考えで、クレイルのフォースは僕のと違って翼が無い為地上戦に特化している。
だが水面上の移動はいくらスピードに特化したクレイルでも駆けるのが困難だが、氷属性のフォースで海面を凍らせる事で即席の足場を作り、半ば無理矢理に水面上で戦える様にしている。
「その幼竜を放して貰うよ!」
フォースの加速で甲殻竜の幼体を捕縛した個体に接近し、右手に持ったアメノハバキリで立ちはだかる脚を切り裂き、幼竜を捉えている触腕を目指した。
「邪魔だ! ユーマの邪魔はさせねえぜ!」
周囲のブラッドスクウィッドが僕を襲おうとするが、クレイルが加速魔法で襲い掛かる触腕を全て薙ぎ払った。
「クルス、ユーマの頭上に移動して! あたしが広範囲に魔法を撃つわ!」
「グルルルゥ!!」
頭上にアインを乗せたクルスが僕の頭上に現れた。
「アイシクルサンフラワー!!」
アインの放った氷魔法が全方位に放たれ、周囲にいたブラッドスクウィッドを複数仕留めた。
中には受けずに済んだ奴もいたが、こっちにはまだ攻撃出来る者がいる。
「ストーンエッジ!!」
「グランドスコール!!」
海岸側から放たれた、ラティとコレットの魔法が炸裂し、一気にブラッドスクウィッドの数を減らした。
だが、更に沖の方から新手のブラッドスクウィッドが現れた。
「また出て来やがった! こいつら何で急に出て来たんだ!?」
「今はとにかく、この状況を何とかしよう! アリア!」
幼竜を捕まえた個体の頭上から、僕の合図を受けたアリアが仕掛けた。
『その竜を返して貰います! ドラゴニッククラッシャー!!』
覚醒した事で会得した竜覇気を纏った一撃が炸裂し、幼竜を捕えていたブラッドスクウィッドは胴体を粉砕された。
身体を失った事で触腕から解放された幼竜は、上空へと放り出された。
『ユーマ!』
「任せて!」
一旦倒されたブラッドスクウィッドの死骸に着地してフォースを解除し、改めてライトニングウィングを展開して上空に上がり、幼竜を受け止めて確保した。
「皆、目標は確保した! 後はこいつらを撃退するだけだ!」
だがそれもつかの間、新手として現れたブラッドスクウィッドの群れが僕に触腕を伸ばしてきた。
その時、ラティ達がいる所とは別の方角から雷撃が放たれ、伸びた触腕を黒焦げにしてしまった。
「今のは……」
少なくとも、僕は雷魔法を放ってはいない。
つまり、あれは僕達の誰でもない第三者の魔法だという事だ。
「ユーマ、今の魔法は!」
『あそこからです!』
アリアが指した方角には、雷で出来た鬣を持った馬の魔物を連れた巨漢だった。
その外見は額に鬼の角の様な物が生え、手には身の丈はある巨大なバトルアックスを持っていた。
「あなたは!?」
「ここに来たら、この騒ぎでな! 見た所君達だけで大丈夫そうだが、つい見かねて助けた! 余計なお世話だったか?」
男性は僕達を助けた事を余計な事だったかと言っているが、そんな事は無い。
「大丈夫です! 助けていただき、ありがとうございます!」
そしてラティとコレットが男性に声を掛けた。
「ユーマくんを助けてくれて、ありがとうございます。あなたは……」
「ただの通りすがりの冒険者だ。自己紹介は後にして、今はあの魔物どもを何とかしよう。乗り掛かった舟だ。俺も力を貸す。行くぞ、ルイン!」
ルインと呼ばれた魔物に乗り、そのまま海面を駆けて雷の魔力を纏ったバトルアックスを振り回し、次々とブラッドスクウィッドを仕留めていった。
属性の相性もあったとはいえ、Aランクの魔物を一撃で仕留めるなんて……あの冒険者はSランククラスの実力を持っている様だ。
「強えぇ……何だあの人……」
「僕達も負けてはいられないね」
僕もアリアに幼竜を任せ、クレイル、クルス、アインと一緒にブラッドスクウィッドを次々と討伐し、やがて魔物の群れは現れなくなった。
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戦闘が終わり、僕達は海岸に戻ってラティ達と合流し、改めて助けてくれた男性に声を掛けた。
「あの、助けていただき、本当にありがとうございました」
「気にしないでくれ。本当なら、君達の力だけで撃退出来たんだ。やっぱり俺のやった事は余計な世話だったと思う」
「それでもです。僕達は全員、あなたに感謝しています」
「あのぅ、お名前を聞いてよろしいですか?」
「ああ、そういえばまだ名乗っていなかったな。すまんすまん。俺はライオルド・ゲッヘラルド。魔族の1つの鬼族で、かつてはあるパーティーにいたが、今は脱退してフリーのSランク冒険者だ。こっちは俺の従魔のライジングホースで、名前をルインと言う」
ん?
ライオルド……確かその名前って……。
「なあ、ユーマ。この人ってまさか……」
皆もこの人の素性に気付いた様だ。
「うん。あの、ライオルドさん。その脱退したパーティーってもしや……八輝帝ではありませんか?」
「え!? 何でそれを知っているんだ!? 確かに俺が以前いたパーティーは八輝帝だ!」
やっぱりこの人は、以前レミスさんが言っていたイグザム達によって追放されたライオルドさんだった。
「実は僕達、1ヶ月くらい前にその八輝帝に会ったんです。僕を入れる為に」
「入れる為って……まさか君は……」
覚悟を決めて僕も自分の素性を明かした。
「申し遅れました。僕はユーマ・エリュシーレ。Sランク冒険者パーティー、銀月の翼のリーダーで、『雷帝』の異名を持つ者です」
これが僕達と元が付くが八輝帝の最後の1人、ライオルドさんとの出会いだった。
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魔物情報
ライジングホース
Aランクの馬の姿をした獣種の魔物。
鬣や尻尾などの毛が雷で出来ていて、蹄の周りも雷に覆われている。
稲妻の速さで駆ける事が出来、最高速度を出している時は空中や水上も走れる様になる。
性格は普段は温厚だが、戦いになると鼻息が荒くなり、鬣などの雷が身体中に漏電し、それによって刺激され興奮状態になる。
討伐証明部位は尻尾。
次回予告
ライオルドと出会ったユーマ達は一旦ギルドに移動し、討伐の報告を行う。
ユーマはライオルドに八輝帝との因縁を話し、自分なりのけじめをつけようとする。
だがそこには、更なる修羅場が待ち構えていた。
次回、恒例の巻き込まれ体質




