第267話 また会う日まで
前回のあらすじ
ユーマ達は出発する前にとレイシャに模擬戦を挑まれ、パーティー全員で彼女に挑むが、レイシャの圧倒的な強さの前に成す術がなかった。
ユーマの機転で何とか一矢報いようとするが、レイシャの実力に阻まれ、最後はレイシャの1人勝ちとなった。
上には上がいるという事を学び、ユーマ達はレイシャに感謝した。
城の一室へと移動し、僕達は今後の予定を国王やレイシャさん達に話していた。
「まず今後の旅ですが、まず僕達はこの国での目的を全て達成し、同時にこのゼピロウス大陸の国を全て回りました」
僕達の旅の最大の目的である安息の地探しとして、まず十天大国の全てを回り、各国家元首から後ろ盾を得るという事で、僕達は現在、メビレウス大陸でのアルビラ王国、ヴォルスガ王国、エリアル王国、ロマージュ共和国、このゼピロウス大陸でオベリスク王国、ガイノウト帝国、ドラグニティ王国の7ヶ国の後ろ盾を得た。
同時にこの大陸の国も全て回り、残すのは最後の大陸、グランパレス大陸の国のみとなった。
「ですので、僕達はグランパレス大陸へ行こうと思います」
「成程な。じゃがグランパレス大陸となると、デスペラード帝国がある。その国には、あ奴もいるという事になるのぅ」
そのあ奴というのは、レイシャさんの知っている人物という点から十中八九、八輝帝のガルーザスだろう。
「でも正直の所、俺達今はデスペラード帝国には結構行くのが複雑な気持ちなんだよな」
「それは何故だ?」
ルーカニクス陛下に聞かれ、僕達は素直に答えた。
「実は、僕達はデスペラード帝国関連で、結構色々やっているのです」
まずは1年前の武闘大会の時、ラティがデスペラード帝国の貴族に目を付けられ、僕との婚約が危うくなった。
これに関してはその貴族が完全に悪かったという事で、執事のチャルスさんが上手く立ち回ってくれたからどうにかなった。
「次にアルビラ王国で起こった、王族が起こした誘拐事件です」
元王子のヘラルが起こした誘拐事件を、僕達は暁の大地、赤黒の魔竜と共に解決し、その黒幕だったヘラルを捕らえ、アベルクス国王の決断でデスペラード帝国の鉱山へ鉱山奴隷送りにした。
今頃ヘラルは奴隷として自害する事も出来ず、暗い鉱山の中で生き地獄を味わっている筈だ。
「そして1番最近ですと、今年の武闘大会での八輝帝との一件です」
そして最大の問題は、デスペラード帝国が八輝帝の拠点の国だという事だ。
旅の都合上デスペラード帝国には必ず行く事になるが、それは八輝帝と再会する可能性が非常に高い事を意味する。
現在彼らには追放したライオルドさんを探し出し、再びパーティーに戻すという僕達からの命令を与えているから、もう僕を無理矢理八輝帝に入れるという事は無いと思う。
だがもしまだそれを達成していなくて、その状態で僕が彼らと会ったら、Bチームだった4人が何をするか正直分からない。
もしかしたら、またラティ達と揉め事を起こすかもしれないし、もしそうじゃなかったとしても何か別の問題が起こるかもしれない。
そう思うと、僕は既に胃がキリキリしそうになって来た……。
「でも、どの道デスペラード帝国の後ろ盾も得る以上は、あの国にも行かなくちゃいけないんです。もう出たとこ勝負で、僕達はいずれはデスペラード帝国にも行きますよ」
「そうか。もしあ奴に会ったら、儂の事を伝えて欲しい。頼めるかのぅ?」
「それは構いません。僕もあの話を聞いたら、ガルーザスには話しておくべきだと思っていたので」
そうして、今度は最初に行く国を決める議題になった。
「ここから出発して、グランパレス大陸に行くとなると、1番近いのはネプチューン王国ね」
地図を広げてコレットが指した場所を見ると、1番最短で到着する国は、海人族の国、ネプチューン王国だ。
「それならまずはネプチューン王国に行って、そこから順番に行こうか?」
「いいんじゃねえか? 俺はユーマの決定に従うさ」
「あたしも。ユーマくんの自由に決めて」
「このパーティーのリーダーはあなたよ。最終的な決定権はユーマにあるの」
3人の承諾を得て、僕達は次にネプチューン王国へ行く事を決めた。
「それじゃあ、アリア。また君の力を借りるよ」
『勿論です。今の私でしたら、1日で大陸間を行き来出来ます』
こうして僕達は、次の目的地を決めて、今度はアライアンスの皆の今後を聞く事になった。
「ゼノン、バロン殿、お前達はどうする? やはりユーマ殿達と共に行くのか?」
陛下の質問に対し、まずはバロンさんが答えた。
「俺達マッハストームは、この大陸を旅する事にします。正確には、ガイノウト帝国にはもう行ったので、残るオベリスク王国に行こうと思います」
バロンさん達の答えは、僕達とは別に出発するだった。
「一緒に行かないんですか? ここまで一緒だったのに」
「ごめんな、嬢ちゃん。俺達、武闘大会で八輝帝に負けてから、自分達の実力を見直していたんです。別れてからの1年で、ユーマ達があんなに強くなっているのに、俺達はただキャリアだけで先輩をしていていいのかって。それで彼らに鍛えて貰って、俺達5人は複合強化を会得しました」
「ですが、これ以上鍛えても、もう後は個人の調整だけとなり、それなら一旦彼らと離れて僕達だけで完全な物にしようと決めたんです」
「もう2度とこいつらの足枷にならない、『雷帝』の腰巾着と呼ばれる事が無いようにする為に、オベリスク王国を目指しながらひたすら鍛えようって思ったんです」
オベリスク王国は巨人族の国。
そしてあの国の領内はその巨人族の魔力に反応してか、大型の魔物が多数生息している。
そんな魔物達を相手にすれば、バロンさん達の複合強化も磨きがかかるだろう。
「それに、俺達もこいつらとアライアンスを結んでいる以上、自分達の身を固める為にオベリスク王国の後ろ盾も得るべきだって思ったので、それも兼ねて」
バロンさん達も自分達の意思で後ろ盾を得る旅をするという訳か。
「そうですか……でもそれなら僕から1つ忠告します。あの国王はかなりの戦闘狂ですので、もし模擬戦を挑まれたりしたら、気を付けてください。僕はその所為で豪い目に遭って来たので……」
あの国で僕はグレイドニル陛下に模擬戦を挑まれ、しかも神器の攻撃にさらされた物だから大変な思いをした事を話すと、3人はゴクッと喉を鳴らした。
「そんなに戦闘が好きなのか……」
「これは……僕達も覚悟を決めるべきかもですね」
「五体満足で生き残る事を祈ろうぜ……」
「僕も祈っています。どうか無事に生きてください」
僕は既に彼らがあの戦闘狂国王に巻き込まれる事を前提にそんな事を話していた。
「ああ……ゼノンよ。お前も彼らと共にオベリスク王国へ行くのか? 聞く所によると、この数ヶ月はバロン殿達とずっと共にいたそうだが」
「それですが、私とイリスはこの国に残ろうと思っています」
ゼノンさん達も僕達とは別の道を行くと告げた。
「ゼノンさん……」
「すまない、ユーマ殿。本当はもっとお主達に学びたい所存だが、私達の複合強化は細かい微調整の身となり、これ以上学んでもユーマ殿達の猿真似となってしまう。そこで私達は、武道館に残って己を見つめ直そうと思っている」
「実は、この前のゼノンとレイシャさんの模擬戦と、ユーマくんとドリュスさんの模擬戦を見て以来、武道館の門下生達がゼノンにあの技を教わりたいと殺到していたの」
あの日の僕達がそれぞれやった模擬戦で、僕とゼノンさんは複合強化を披露し、僕はドリュスさんと引き分け、ゼノンさんは負けこそはしたけどレイシャさんに一矢報いる事が出来た。
その僕達の戦いぶりに感化されたゼノンさんの弟弟子達が、ゼノンさんに複合強化を教わりたいと懇願してきたそうだ。
だがゼノンさんは最初は僕達から教わった事を、僕達の許可もなしに教える事に躊躇していたのだが、僕達は気にしていないと予め伝えていたりする。
結果ゼノンさんは自分の技術を弟弟子に伝えて指導する事で、指導を通して己の更なる精進に繋げようというらしい。
「そういう事でしたら、僕達も異論はありません。またお別れする事になりますが、どうか頑張ってください」
「それに、私達はこの国で冒険者活動を続けるから、その活動をで複合強化を極めるつもりよ」
「それじゃ、またイリスさん達とはお別れなんですね」
ラティも姉の様に慕っているイリスさんとお別れする事になり、寂しそうにしていた。
「大丈夫よ、ラティちゃん。私達はまたいずれ会える。だって、私達は仲間なのよ」
「そうですね」
「次に会う時には、私達もSランクになって来るから、楽しみにしていて」
イリスさんも言った通り、バロンさん達は複合強化を会得した事でその実力が大幅に上がり、実際にスレイプニルや風竜王にも勝てた。
後は冒険者としての実績を積めば、そう遠くない内にSランクになれるだろう。
「では、僕達はまた別々に行くんですね」
「ああ。暫くはこの9人が揃う事は無いが、俺何だか思うんだ。近い内にまた会えるんじゃないかって」
「奇遇だな、バロン殿。私も同じ事を思っていた。何故だかは分からんが、すぐにまた会えるような気がするのだ」
バロンさんとゼノンさんは、僕達がすぐにまた再開すると予感していた。
残念ながら僕には分からなかったが、これは冒険者としての年季の差があるのかもしれない。
だが僕達は暫くして気付く事になる。
この人達の予見が、ある国で現実になるという事に。
こうして僕達はそれぞれの道を決め、出発の目途が付いたのだった。
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そして出発の日を迎え、僕達とバロンさん達は王都の城壁に来ていた。
この国に残ると決めたゼノンさんとイリスさん、更にレイシャさんにディロンさん、ドリュスさんが見送りに来ていた。
ルーカニクス陛下は政務があるので来られなかったが、それは当然と言えば当然だな。
「それじゃ、ゼノン。お前と一緒に旅が出来て、楽しかったぜ。また会う時には、互いにSランクになった時だな」
「そうだな、バロン殿。私もここで更に精進する。そして必ずや、Sランクとなり、共に彼らと並び立とう」
出発を目前にして、バロンさんとゼノンさんは暫しの別れとなる為、握手を交わしていた。
「ドリュスさん、アリアの墓参りの時は、本当にお世話になりました」
「気にしないで。僕はルーカニクスに従っただけだし、何より友達の為にと思ったから。アリア様の為が最優先だったけど、僕だって竜王の前に1体の竜だ。友達の為になれればと思うのは、人として竜として当然さ」
一方僕達もドリュスさんに挨拶を済ませ、いよいよ僕達は出発の時を迎えた。
僕達は竜の姿になったアリアに乗り、バロンさん達もオベリスク王国への街道を目指し、僕達はゼノンさん達に見送られて王都を発った。
「ではバロンさん! トロスさん! ダグリスさん! 皆さんもお元気で!」
「こっちこそ! 俺達を鍛えてくれてありがとうな!」
「ユーマ殿! 私達はもっと強くなる! そしてまた、共に並んで戦う事を誓う!」
それぞれに別れを告げ、僕達を乗せたアリアはまず海を目指して翼を羽ばたかせた。
『それでは行きますよ! ネプチューン王国に!』
「頼む、アリア。そして行こう! 最後の大陸に!」
僕達は最後の大陸、グランパレス大陸を目指して出発したのだった。
これで第13章は終わりです。
次回から「第14章 ネプチューン王国」に入ります。
その前にいくつか幕間を入れる予定です。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
「面白い」、「更新頑張れ」と思った方は、是非評価をしてみてください。
今後の執筆の励みにもなりますので、よろしくお願いします。
次回予告
ネプチューン王国にやって来たユーマ達はリゾートビーチでバカンスを楽しむ。
しかし、ユーマの探知魔法が魔力を感知し、そのまま事件に巻き込まれてしまう。
次回、バカンスの筈だった




