第264話 親友の存在
前回のあらすじ
試練を乗り越えたアリアに待っていたのは、先代との別れだった。
悲しみに暮れるアリアだったが、先代の励まされ、その成仏を見届ける。
ユーマは先代の最後の頼みで魔石を掘り起こし、アメノハバキリで斬りその力を吸収し、アリアがこれからも先代の魂の一部といられるようにし、同時にアメノハバキリも神の力の共鳴によって強化された。
アリアの墓参りを終え、無事にやる事を終えた僕達は、風竜王の計らいで今夜はこの竜魂の霊山で過ごす事になった。
現在いるのは、そこで最も星空が良く見える場所で、僕はラティとクルス、そしてアリアで星を眺めていた。
因みに、ラティは標準サイズになったアリアの身体をずっと撫でまわしていた。
覚醒した事で全身がモフモフの体毛になった事で、それを堪能しているのだ。
「アリアの身体、とてもふかふかで気持ちいわねぇ」
「グルルルゥ~」
クルスも自分も撫でてと、ラティに擦り寄り、結果ラティはアリアとクルス、2人のモフモフを堪能出来る事となっていた。
『ラティ、本当にありがとうございます』
「何が?」
『ユーマから聞きました。あなた達がユーマの背中を押してくれたそうで、お陰で私はこうして真の竜神として覚醒し、お母様を超える事が出来ました。本当に感謝しきれません』
アリアは皆が僕の背中を押してくれた事で、それが自分が覚醒する最大のきっかけとなったと認識していた。
故にラティとクルスに心からお礼を言っていた。
「いいのよ。あたし達、家族じゃない。家族の為ならいくらでも力になるわ。今までだってそうだったんだから」
「グルルルゥ」
『そうですね。ですが、今回は今までで最も大きな感謝になります。皆さんと出会えた事に、心から誇りに思います』
そうして皆で夜空を見ていると、背後から足音が聞こえた。
振り返ると、そこにはクレイルの姿があった。
「クレイル」
「あっ、悪い。ちょっと話が合ったんだけど、今取り込み中の様だから、また後にするわ」
クレイルは僕がラティと一緒にいるのを見て、邪魔しちゃ悪いと思ったのか、気を遣わせようとしていた。
「あっ、大丈夫よクレイルくん。あたしがちょっと席を外すから」
「いいのか?」
「うん。ユーマくん、ちょっとアリアも連れて行っていいかしら?」
「別にいいけど……」
「ありがとう。じゃあ、アリア、クルス。皆の所に行きましょう」
『わっ、分かりました』
ラティはクレイルの様子を見て、クルスとアリアを連れて皆の所へと移動して、今この場には僕とクレイルだけになった。
「ええっと……とりあえず、隣座っていいか?」
「勿論いいよ」
「んじゃぁ、お邪魔するぜ」
隣に座ったクレイルを見て、ある事に気付いた。
「そういえば、レクスは? 亜空間にいるの?」
「いや。あいつは今皆と一緒にいる。ちょっとお前とだけで話したくてな」
僕と?
何だか今更な気がするけど、クレイルは何時だって真面目な奴だ。
そんなクレイルが僕とだけで話したいとなると、余程深刻なんだろう。
「まずさ、ちゃんとお前に謝りたいんだ。昼間は、ごめんな。お前の背中を押す為とはいえ、思いっきり殴っちまって」
「……へっ?」
「ほら、アリアの試練の時、お前最初は相棒を信じる為に、自分の心に背を向けてまで静観を貫こうとしていただろ? だけど、そんなお前を俺達は見ていられなくなって、俺が代表してお前の目を覚ます為に殴っただろ。その事を謝りたかったんだ」
「その事だったら、僕は気にしていないよ。だってクレイルのやった事は、正しかったんだから」
クレイルは僕を殴った事を謝罪したが、僕は皆の心が分かっていたから全く気にしていなかった。
尤も、痛かったけどね……凄く……。
「本当にごめんな。でも俺、お前があのまま苦しむ姿を見るのだけは、どうしても嫌だったんだ」
「どういう事?」
「俺、頭悪いから難しい事は上手く言えないけど、自分に嘘をついて言い聞かせるお前を見ていると、なんだか許せなくなったんだ。お前は俺を――俺達を導いてくれた恩人だったから」
「僕が皆を導いた……?」
「そうだ。俺、小さい時に父さんと母さんを失って、それからはコレットに引き取られたけど、俺の家族はレクスだけだった。だけど、お前とラティは全くの赤の他人だった俺を銀月の翼に――お前達の家族に誘ってくれた。それが取っても嬉しかった。まだ俺にも、家族と呼んでくれる存在がいたんだからな」
僕達が誘った時、クレイルはそこまで嬉しかったのか。
「それに、お前は俺だけじゃない。自分じゃわかっていない様だけど、皆にも大きな影響を与えたんだ。お前と出会わなかったら、コレットは俺と結ばれる事もなく、何時までもエリアル王国でひっそりと暮らしていた。お前と出会い戦わなかったら、バロンさんやゼノンさん達はアライアンスを結んで一緒にいる事もなかった。アリアもお前と出会わなかったら、ああして覚醒して真の竜神になる事もなかった。そして俺は、お前に出会わなかったら、永遠にレクスとだけで冒険者をやって、誰とも組む事なく孤独に生きていたに違いない。お前はそれだけ多くの人達を結ぶ輪を作って来たんだ。だからそんなお前が相棒を信じるという理由を建前に、自分に嘘をついてそれで苦しむ姿を見るのが、俺達には耐えられらなかったんだ」
クレイル……。
「俺はお前達の誘いを受けて銀月の翼に入った時に決めたんだ。この先どんな事があろうと、俺は絶対にユーマとラティの力になると。お前達の幸せを守る為なら、俺は何でもやってやるって」
クレイルはどんな時も真正面で捉え、嘘偽りなくまっすぐに突き進む事が出来た。
でもその思いの根幹は、僕達の為。
恥ずかしながら、僕は親友の事を心から知ってはいなかった。
だがこうしてその思いを知る事が出来、僕は改めてこの親友の存在の大きさを知る事が出来た。
「ありがとう、クレイル。そこまで僕達の事を想ってくれて」
「いいさ。それに俺だけじゃない。コレットもレクスもアインも、アライアンスの皆も、お前達の為なら俺と同じ事が出来る。皆お前達が大好きなのさ」
知らなった。
僕達がこれまで歩んできた道で、そこまで皆に大きな影響を与えていた事に。
その事実が僕には嬉しかった。
「クレイル、これからもこんな僕と一緒にいてくれる? 僕と友達でいてくれる?」
「んなの当たり前だろ。俺達はこれからもずっと親友だ」
「ありがとう。これからもよろしく」
「ああ」
僕達は互いの拳を交えて、その友情を改めた。
――――――――――――――――――――
夜が明け、僕達は王都へ帰還するべく聖域を後にしようとしていた。
今風竜王に見送られようとしていた。
『では皆さん、お気を付けてください。ボクはこれからもこの聖域を守り抜きます。先代様の思いの分まで、アリア様のご期待に応えて見せます』
『それは頑張れと言いたいところだけど、風竜王。やっぱり君の犯した失態は見逃す訳にはいかないから、今回の件は竜王の皆に知らせておくわ。その処置として、近い内に監視役として側近の風の古竜をよこすから』
ドリュスさんは僕達をご都合解釈で暴走し襲い掛かって来た事を、他の竜王に知らせ、もうそんな事にならない様に側近の古竜をよこす事にした。
『うぅっ…………分かりました……』
風竜王も今後の未来を想像したのか、かなり暗くなってしまった。
『それじゃあ、皆。王都に帰ろう』
『分かりました』
『畏まりました、雷竜王様』
僕達はアリアとスニィに乗り、落ち込んだ風竜王に見送られながら竜魂の霊山を後にした。
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次回予告
王都に帰還した後、ユーマ達は教会を訪れた。
女神イリアステルに聖域での出来事を報告するユーマとアリアだが、ユーマにはそれとは別にイリアステルに尋ねる事があった。
それには、先代との戦いを通して抱いた疑問があった。
次回、ユーマの雷の本質




