第256話 竜神vs竜神
前回のあらすじ
先代はアリアが幼い時に寿命を迎えてしまい、竜神として未熟な段階で継承した事を明かす。
そしてアリアにその竜神の力を完全に覚醒させるべく、その試練をさせる事を話し、アリアは受ける事を決意する。
先代も魔力の全てを引き出し、一時的に実体を作り出す事で戦いの準備を整えた。
『良いブレスですね。ですが……その程度!』
先代が左の翼を広げると、身体を左へと動かして翼から発した遠心力の風圧で、アリアのブレスを掻き消してしまった。
『そんな!? 私の得意なブレスの1つが、ただの風圧で!?』
『その程度のブレスなら、私もブレスで対抗するまでもありません。今の攻撃には、まだまだ覚悟が足りていません。その程度の覚悟では、真の竜神になるなど夢のまた夢ですよ』
先代はアリアの優しさを見越して、敢えて厳しく突き放す事でアリアの精神的成長を促そうとしている。
アリアはそれに気付いていない様だが、果たして……。
『ならば……この技ならばどうですか!!』
アリアは飛翔して空中で停止し、両前脚に雷の魔力を纏った。
『私とユーマで編み出した、絆の技! ジェノサイドクラッシャー!!』
これまでに多くの強敵と戦った時に使って来た、アリアの得意な接近技を繰り出した。
急降下しながらの鋭い爪撃が決まりそうな瞬間、凄まじい音が鳴り響いた。
アリアの攻撃箇所を見ると、アリアの雷の爪は先代の身体の表面上で止まっていて、よく見ると先代の身体の表面上が薄い膜の様な物が張られていた。
「凄いわね……先代はあんな芸当まで出来るなんて……」
傍で見ていたコレットがそう呟き、アインが解説してくれた。
「あれは人間達が使う魔力障壁の応用版で、竜の魔力を膜状に張って物理、魔法の攻撃を遮断させる効果があるのよ」
「俺の使う複合強化のオーラみたいな物か?」
「原理上はあれに限りなく近いわね。でも先代の場合は単に魔法攻撃を強化させるのではなく、それを自在に操作してあのように防御手段に使う事も出来れば、もしかしたら自身の攻撃力まで大幅に底上げさせるかもしれないわ。それこそ、下手したら異名持ちの魔物だって一撃で下しちゃうくらいの」
そんな事が出来るのか、竜神っていうのは……。
『これこそ我が竜神に代々受け継がれた秘技、竜覇気。竜の魔力を集中させる事で、あらゆる攻撃を防ぐ最強の鎧に、あらゆる物を貫く最強の武器になるのです』
竜覇気……それが先代が言っていたアリアが引き出せていない竜神の力なのか。
『この技はある代の竜神がとある魔物に手傷を負わされた経験を基に、魔力を練り上げた事で編み出した物です』
『その魔物とは、『超獣』ベヒモスの事ですか?』
『そうです。当時の竜神は己の力に絶対の自信を持っていました。本来竜族は、全ての魔物や生物、あらゆる生態系の頂点に立つ最強の種族と言われています。その竜族の頂点である我ら竜神は、どんな攻撃を受けても傷1つ付かないという絶対的な防御力を持っていますが、何も完全な無敵ではありません。竜族の鱗は竜の魔力によってその強度がありますが、その魔力の規模を超える衝撃、または魔力の攻撃を受ければダメージを受けます。そしてそれは竜神も例外ではなく、ベヒモスの強大な力によってその竜神は防御を突破されて傷を負わされたのです。その経験を基に、後世の竜神へ伝えるべく編み出されたのが、この竜覇気なのです』
ベヒモスがかつて竜神に手傷を負わせたというのは、以前アリアから聞かされてはいたが、それを通して当時の竜神はそんな技を編み出したのか。
『そして、この竜覇気は防御に使えばベヒモスの攻撃にも耐えられる最強の鎧にもなれば、この様にも使えるのです!』
そう言うと先代は身体をずらしてアリアの攻撃を受け流し、アリアがそれによって地面に着地したのと同時に先代が繰り出した尻尾の一撃を食らい吹っ飛ばされた。
『がはっ……!?』
アリアはまるでゴムボールが弾むかのように地面を数回跳ねた。
更に驚く事に、これまでどんな魔物との戦いでも罅すら入らなかったアリアの鱗が、砕かれていた。
「そんな!? アリアの身体にあそこまでダメージを入れるなんて!?」
「いくら竜神同士でも、先代の攻撃はそこまですげえっていうのか!?」
「おそらく、先代の言っていた竜覇気も影響しているんだ。通常の打撃なら例えアリアを吹っ飛ばしても、あそこまでダメージが入るのは難しいけど、竜覇気を纏った事による一撃が、アリアの防御力を上回ったんだ」
これはまだ推測だけど、あの竜覇気というのはまだ竜神の本当の力の一部かもしれない。
アリアもそれは分かっていると思うけど。
『うぐっ……! 以前ベヒモスと戦った時は、痛みはあれど、鱗が砕かれるという事はありませんでした……。お母様の力は、『超獣』以上というのですか……』
『それは違います。アリア、あなたがベヒモスと戦った時、あなたは全力で対峙したのでしょう。その時、全身に魔力が溢れ出し、疑似的にですが竜覇気に似た力が出ていましたのでしょう。つまり、あなたは少しずつですが竜神としての片鱗を出しつつあったのです。この試練は、その力を完全に引き出す為の物。その為にも、あなたは全力で私に向かって来るのです』
『お母様……ですが、私にはお母様を本気で攻撃するというのは……』
やはりアリアは、確かに全力で挑んではいるが、母親に手を掛けるという行為に躊躇して完全な本気で攻撃するという事が出来ない様だ。
『あなたは本当に優しいですね。ですが、時には非情な心で挑むのも大事な時もあるのです。何より、ここにいる私は本当の竜神ではありません。情けなくも未練を残して未だに現世に留まっている亡霊。その亡霊に、躊躇する必要はありません。今の竜神はあなただけなのです』
それでも先代は、アリアを叱咤激励し全力で来る様に告げた。
『お母様……ぐっ! 荷電粒子咆哮波!!』
アリアは次に三つ首竜を一撃で下した、雷の上級ブレスを放った。
雷の魔力を粒子レベルで圧縮した雷のブレスが一直線に走るが、先代は微動だにしていなかった。
『それがあなたの全力なのですか? 先程の炎のブレスとはまるで変わりませんよ! プロミネンスレイ!!』
対して先代はアリアの初撃の時と同様炎属性らしきブレスを放とうとしているが、アリアの時と違い光の輝きが強かった。
気になって探知魔法で調べてみると、先代の口から炎属性だけではなく、光属性の魔力が感知された。
「まさか先代は、炎と光の両方のブレスを放つつもりなのか!?」
「2つのブレスだって!? そんなの可能なのか!?」
確かに三つ首竜の時ですら、それぞれの首から各属性のブレスが放たれてそれが1つに合わさった事があったけど、あれはあくまで元々は単属性のブレスだった。
元から複数の属性を合わせたブレスを放てる竜なんて、アリアですらやった事がない。
でも相手は魂だけとはいえ、成体の竜神。
竜神の規格外な能力を思い出せば、出来ても不思議ではないのかもしれない。
そう考えている内に、先代の放たれた凄まじい勢いの閃光のブレスが、アリアの荷電粒子のブレスを掻き消し、アリアに迫った。
『そんな!』
アリアは翼を広げて上空に回避し、何とかそのブレスを躱したが、アリアのいた場所の大地が大きく抉れ、先代のブレスの破壊力を物語っていた。
『ただのブレスではなく、炎と光、この2つの属性から発せられる熱を収束して放たれたブレス……それがこのプロミネンスレイ。私たち竜神は、竜王や古竜など主に1つの属性しか使えない竜と違い、全ての属性を操る事が出来ます。そしてその複数のブレスの長所を組み合わせ、通常の数倍の破壊力を持った子のブレスが、竜覇気に並ぶ竜神の奥義、複合ブレスです』
最強の武器と鎧に出来る竜覇気、複数のブレスを融合させてより強力なブレスにさせる複合ブレス。
これが先代が言う真の竜神の力なのか。
そしてアリアはまだこれらの力を引き出せていなくて、先代はこの試練を通してアリアにこの2つを会得させようとしている。
理屈だけなら簡単そうに見えそうだが、どれも竜神の未知数の力を完全に使いこなして制御する事が不可欠。
まだ幼いアリアに、その力を制御させるにはやはりアリアがこの母親との戦いを通して、その力を目覚めさせるしかないという事か。
こんな時に見守る事しか出来ない状況に、僕は無力感を感じるしかなかった。
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次回予告
先代の完全なる竜神の力の前に、アリアは次第に追いつめられていく。
ユーマはその姿を見ても尚、結界の中で静観を貫こうとしたが、それを見かねたクレイル達はある行動に出る。
それはユーマとアリアを想うが故の措置だった。
次回、ユーマの決意




