第246話 楽しい宴
前回のあらすじ
ドリュスから竜王になるもう1つの方法を聞き、ユーマ達は竜王の間に設けられた掟なども知る。
暁の大地が討伐した竜王は、その掟を破り、私利私欲に竜王の力を振る舞った事で竜王の誇りを穢した竜王だったのだ。
そしてその竜王を討伐し、図らずも竜王の誇りを守り抜いた暁の大地は竜王から恩人として尊敬されている事を知り、ユーマとラティは自分達の親の活躍に誇りを抱く。
ドリュスさんからお父さん達が討伐した竜王の事を聞き、僕とラティは自分達の師匠であり、親達が成した偉業を誇らしく思った。
それから暫くして、遂にルーカニクス陛下が宴の準備が出来たと言いに来て、僕達は宴に出るべく城に仕えている侍女達によってドラグニティ王国の正装に着替えさせられる事となった。
アリアとスニィ以外の従魔達は正装する必要がない為、待合室で待つ事となり、僕達男性陣は先に着替えを終え、クルス達と合流した。
ドラグニティ王国の正装は、中国のチャイナ服を彷彿させる服で、ガイノウト帝国の様なピシッとしたスーツ系と違って身体のラインが見えにくく動きやすい服だった。
「何だか俺達、最近こんな風に着せ替えされる事が多い気がするな」
「でもそれは仕方ないよ。まさか王族が主催の宴で、いつもの冒険者の格好でいる訳にはいかないから。それに、こういう服を着る機会って、こういう時しかないから偶にはいいじゃない」
「まあな。それにこの前と比べて、こっちの方が動きやすいし、俺はこっちの方が好きだな」
「それは言えているな」
そこに同じく正装したバロンさん達がやって来た。
「前の正装と違って、今回はきつい感じがしませんね」
「俺達には、こっちの方が合っているな」
トロスさんとダグリスさんは自分達が着ている服を摘まんで着心地を確かめ、ドラグニティ王国の正装をとても気に入っていた。
「待たせたな、皆よ」
そして男性陣で最後にゼノンさんが来た。
彼の正装姿は普段の格闘服とよく似てはいるが、普段の武人としての立ち振る舞いから僕達の中でも格段にに似合っていた。
「ゼノンさん、とてもカッコイイです」
「ああ、こうしてみると、まるで貴族みたいだ」
「何だか、かなり着慣れているという印象を感じます」
「私は竜魔武道館の師範代であり、老師様の一番弟子だ。その縁でこの城に足を運ぶ機会もよくあり、その度にこうして正装していたのでな。故に正装には、普通の冒険者よりも慣れているつもりだ」
確かに、ガイノウト帝国で正装した時も、僕達はスーツの窮屈さに不慣れだったのに対し、ゼノンさんはそうじゃなかった。
僕達よりも普段から正装になれていたからこそ、このドラグニティ王国のとは違うデザインの服でも問題なく着こなせたという訳か。
そう納得していると、別の扉から正装した女性陣が出て来た。
ラティ達の正装姿は、人型になった獄炎竜が来ていた様なチャイナドレス姿で、腰辺りから深くスリットが入り綺麗な脚が丸見えとなっていた。
しかも僕達と違い、身体のラインが見えやすく、ラティとコレットの場合はそのスタイルがよく分かる程だった。
「どう、ユーマくん? この服、似合うかしら?」
「うん。凄く似合っているよ」
「どうかしら、クレイル」
「ああ。スゲエ似合っているぜ」
僕もクレイルも揃ってありきたりな誉め言葉だが、正直2人が余りにも魅力的過ぎてそれしか出なかった。
「この服を着るのも数年ぶりだけど、やっぱりこの国の文化らしさが出ていて、私も好きよ」
イリスさんも同じく正装しているが、彼女の元々のモデル体型に加えて皇族育ちの美貌も相まって、魔族じゃなかったらこの国の貴族令嬢と言われてもおかしくない程だった。
そうしている内に、竜人族の侍女がやって来た。
「皆様、陛下がお待ちしています。こちらへどうぞ」
僕達はその案内で、宴の場へと向かった。
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ルーカニクス陛下によって開かれた、僕達を、そして竜神のアリアを歓迎する宴が始まり、僕達は目の前に並べられたご馳走を食べていた。
「美味いな、これ!」
「ウォフゥ!」
「こっちも美味しいわよ!」
「グルルルゥ!」
「ほっほう! お主ら、中々の食いっぷりじゃな! じゃが、儂も負けてはおらぬぞ!」
ラティを始めとするうちの大食い組に負けじと、レイシャさんも凄まじい勢いで次々と料理の盛られた皿を平らげていく。
バロンさんとダグリスさんも、そんな皆と同じくテーブルマナーの欠片もない勢いで食べていた。
そんな皆を余所に、僕とアリア、コレットとアイン、イリスさんとカミラ、トロスさんとピック、バロンさんとダグリスさんの従魔のロップスとジオン、ゼノンさんとスニィ、レイシャさんの従魔のディランさんは、王族であるルーカニクス陛下の御前であるという事を弁え、行儀よく食べていていた。
また、今回の宴に出席した王族は、ルーカニクス陛下の妻のメリーアン王妃、第1王子のトリリトン殿下と、ルーカニクス陛下の3人だった。
陛下によるともう1人王子がいるそうだが、僕達が王都に到着する2日前にオベリスク王国へ政務関連で赴いているらしく、今回は顔を合わせる事が出来なかった。
トリリトン王子は僕達銀月の翼に憧れていたらしく、僕達やアリアに初めて会った時には、感動と緊張のあまり彫刻の様に固まっていたりする。
メリーアン王妃も竜神のアリアに久し振りに会えた事を喜び、そのきっかけを作った僕に感謝していた。
「陛下、うちの仲間がかなり行儀悪くて申し訳ありません」
「私もリーダーのバロンに代わってお詫び申し上げます。後で2人にはよく言い聞かせておきますので」
僕とトロスさんが大食い組のマナーの悪さに謝罪すると、陛下は何故か笑っていた。
「よいよい。寧ろあれくらいの食べっぷりでなければ、私も宴を用意した甲斐がないという物だ。そもそも、こちらからもレイシャ殿があれだけ豪快にやっているのだ。ならお互い様という事で、お前達もそんなに気にしないで良い」
意外とすんなりと上手く行き、僕達は改めて落ち着いて宴を楽しむ事が出来た。
「ユーマくん、ルーカニクス陛下はあの獣王陛下やグレイドニル陛下と友人同士なのよ。あの豪快な国王の友なら、確実に同類よ。だからあまり堅くする必要はないと思うわ」
成程、類は友を呼ぶという奴か。
獣王陛下も僕達の頼みをすんなり聞いたり、あれだけの規模の武闘大会を開く程の人物だ。
グレイドニル国王も、会って早々に僕に模擬戦を挑んだ程に型破りかつ豪快な王だった。
なら、そんな王様達と友人のルーカニクス陛下も、王の常識としては型破りな人だと考えるのも妥当かもしれないな。
そうしている内に宴はどんどん盛り上がり、クレイルやバロンさんは何時の間にかレイシャさんと飲み比べを始めていたり、ラティはイリスさんやコレットと女性同士で盛り上がったり、ゼノンさんはトリリトン殿下に僕達と出会って以降の出来事を嬉しそうに語ったりしていた。
僕も出てくる料理を1つ1つ丁寧に味わいながら味を覚え、料理人の人達に料理名や作り方などを教えて貰い、自分のレパートリーに加えたりもしていた。
すると、ルーカニクス陛下が隣にやって来た。
「ユーマ殿、ドリュスから聞いたが、お主達は竜魂の霊山へ先代竜神様の墓参りに行きたいのだったな?」
「はい。1度アリアを、お母さんの墓標に連れて行って、挨拶をさせてやりたいのです」
「アリア様の事をそこまで思ってくれて、私も竜人族の王として嬉しく思う。良かろう。ドラグニティ王国の国王、ルーカニクス・フォン・ドラグニティの名の下、銀月の翼、赤黒の魔竜、マッハストームの聖域、竜魂の霊山への来訪を許可しよう」
陛下は王の名を出して、大々的に僕達の聖域へ行く許可を出してくれた。
もしかしたら、この宴を企画した理由は、単にアリアや僕達を歓迎する為の他に、この宣言をする為の場を設ける為もあったのかもしれない。
「ありがとうございます、陛下」
「よいと言っている。それから、聖域への案内役に、ドリュスを付けよう」
しかも、ドリュスさんを僕達の墓参りに同行させてくれるとも言って来た。
「知っていると思うが、竜魂の霊山には歴代の風竜王様が守護者となって、彼の地を守っている。そこに、今の風竜王様はとても思い込みが激しい性格をしているとの事だ」
「はい、ドリュスさんから聞いています。僕達が何も知らずに行けば、間違いなく僕達を墓荒らしと見做して襲い掛かって来るとも。その為にドリュスさんは僕に模擬戦を申し込み、竜王の戦い方や能力を教えてくれたんです」
「ならば、同じ竜王のドリュスが一緒ならば、幾分かは説得がしやすくなる筈だ。私としても、お前達が風竜王様と完全に敵対するというのは望ましくない」
確かに、僕達だけで言って説得しながら応戦するよりも、ドリュスさんが一緒に来てくれれば、アリアとドリュスさんの2人でもしかしたら説得が出来るかもしれない。
僕としても、風竜王とは命のやり取りをするつもりはないし、それはアリアもドリュスさんも望んではいない。
ならば、可能な限り穏便に済ませられる手段があるなら、そうした方がいいに決まっている。
「分かりました。その申し出、有り難く受けさせていただきます」
「聞いての通りだ。ドリュス、案内を頼んだぞ」
「任せて。よろしくね、ユーマ」
「こちらこそ、よろしくお願いします、ドリュスさん」
こうして、僕達は頼もしい案内役兼説得役を得て、無事に竜魂の霊山へ行く準備を済ませる事が出来た。
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次回予告
宴が終わり、ユーマ達は武道館で寝泊まりする事となる。
そこでこの日の出来事を振り返り、その中でラティがある事を尋ねる。
それは、マッハストームがどうやって結成されたのか、という事だった。
次回、マッハストームの成り立ち




