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第243話 竜王の攻略法

前回のあらすじ

ドリュスの竜王の真の能力の前に、ユーマは様々な雷属性が主体の複合魔法で攻撃を試みるが、ドリュスの雷その物の身体にダメージを与える事は出来ずにいた。

だがユーマは過去の記憶から、ある方法を思いつくも同時に嫌悪感を抱く。

しかし自分を納得させ、ユーマは自身のフォースを更なる段階へと昇華させる。

 ハイブリッドフォース、ドラグーンフォースに2つの属性の魔力を合わせた、かつて僕が武闘大会でクレイルと戦った時に序盤で使った、ハイブリッドエンチャントのフォースバージョンの複合強化だ。

 あれ以上に莫大な魔力を消費するが、フォースの翼で魔力の循環を補助している分、消費魔力を極限まで抑えている。


 このフォースのアイディアは、先日僕達がバロンさん達に複合強化を教えていた時に、互いの強化時の同属性の魔力を相手に譲渡して強化したというのを基に、別の属性同士を掛け合わせてフォースをより強力に出来ないかと試していた。


 結果は成功といえば成功したが、この魔法は魔力消費は抑えられたがそれとは別に、まだ不完全な部分があった。


 本来フォースを始めとする複合強化は身体強化をベースに、別の属性や魔法を組み合わせて術者の身体能力を始めとした、魔法の威力、視力や聴覚などの五感、身体のあらゆる能力を飛躍的に上昇させる究極の強化魔法だ。

 だがその状態を維持させるのに極度の集中力が要される為、平常を保つには精々属性は1つが基本だ。


 でもこのハイブリッドフォースはその複合強化に乗せる属性が2つで、それによる強化状態を維持させるには通常の複合強化の数倍の集中力が必要となる。


 魔法は行使する為に、その魔法に乗せた魔力を制御する為に集中しなければならない。

 それを複数の属性を合わせて放つ複合魔法で放つ場合、その複数の属性を同時に制御するから、通常の魔法よりも高い集中力を要する。


 そしてこのハイブリッドフォースは、その複合強化で2つの属性を同時に制御するので、その制御技術も八岐大蛇クラスの規模となり、それを身体強化として長時間維持させるとなると部分制御を会得して魔法技術を向上させた僕やクレイルでも、現時点では通常のフォースの半分も持たない。


 だからこれを使った以上、僕は既に勝つか負けるか、その瀬戸際に立たされている状態だ。

 魔力切れという時間切れが来る前に竜王の攻略法を見つけて勝つか、時間切れとなって敗北するか、そのどちらかだ。


 そして今、そのハイブリッドフォースを発動させて雷に加えて闇属性の魔量を纏った僕の姿は、身体を纏っていた雷の鎧の各部が闇の魔力で変化し、所々から闇の魔力で出来たオーラの様な物が溢れ、左の翼も闇で形成された物に変化して翼というよりはその形をした闇の魔力となっている。


 そして両手のアメノハバキリと黒薔薇は、雷と闇が合わさった黒い雷を纏っている。


 その変化した姿に、ドリュスさんは目を見開いていた。


「驚いた……まさかその強化に更なる段階があるなんて……君の異名は『雷帝』だから、純粋な雷属性特化型と思っていたけど、結構色んな属性も使いこなせるんだね」


「ええ。元々僕は全属性を使いこなす事が出来ます。ただその中でも雷属性が最も高い適性があっただけで、僕は雷属性を中心にしていたんです。それでも、他の属性も使えるというのはさっきの複合魔法でも見せましたよ」


 他にも銀月の翼を結成した頃は、他の属性も使ってはいたけど、後にクレイルとレクス、コレットとアインが加わり、戦力が充実して役回りが増えた事で前衛の僕にもかなりの余裕が出来、以降は雷属性で十分戦える様になったから、僕は安心して雷属性だけで戦う事が増えていただけ。

 でも普段から魔力制御の訓練は欠かさずにいたから、他の属性の魔法もこれまでと同じ、またはそれ以上に使える。


「そういえばそうだったね。そして今、君はその強化状態となっている。その属性は……見た処闇属性の様だけど、それが僕達竜王の属性同化能力に対する答えとでもいうのかい?」


「そうです。この闇属性を加えたフォースが、あなた達竜王の身体にダメージを与えられる、僕達の唯一の方法です。それがどんな風になるかは、あなたとの戦いで見せますよ!」


「面白い! どんな答えなのか、僕が身体を張って見極めさせて貰うよ、ユーマ!」


 そして模擬戦が再開され、ドリュスさんが最初に動いて左腕を雷化させた。


「ボルテックススラッシュ!!」


 雷化した竜の腕で、爪による斬撃を繰り出したが、それを僕はその場から動かず背中の闇の翼を広げて僕の身体を覆う様にした。


 すると、さっきまでは同等以上の雷攻撃でやっと相殺出来た彼の攻撃を、今度は攻撃でもない闇の翼で受け止める事に成功した。


「馬鹿な!? 今君はさっきの様な攻撃魔法を使っていない! 一体何をやったんだ!」


 ドリュスさんも何故雷魔法無しで受け止める事が出来たのか、その理由が分からないでいた。


「その秘密は、この翼を形成している闇属性にあります」


 何故こうなったのかは、そのフォースにあった。


「翼って……その翼は確か、今君が言った通り闇属性で出来ている……くらいしか……」


「この翼は、ハイブリッドフォースによって属性が2つになった事を意味する様に、片方ずつをそれぞれの属性で出来ているイメージを込めています。そしてこの翼の闇が、あなたの雷の魔力を無力化させて実体を無理矢理引き摺り出したんですよ」


 この原理は、かつて僕達が武闘大会で敵対した、八輝帝のBチームのイグザムの武器、闇神の大鎌の効果を参考にしたものだ。

 あれの能力は鎌の部分から発する闇で、相手が放出した魔法を吸収して解放し、相手にお見舞いするという強力なマジックアイテムだ。


 その最大の効果である闇は、所謂全てを飲み込む最強の引力の様な物だ。

 全てを飲み込むという事は、全てを無力化出来るという事。


 つまりその闇の無効化を上手く使えば、ドリュスさんの雷化した身体にある実体を捉えて、ダメージを与える事が出来るんじゃないかと思ったんだ。


「そして結果は、こうしてあなたの攻撃を雷魔法無しで受け止める事が出来た時点で成功したという訳です」


 正直このアイディアを思いついた時、最初はあんな奴の力を参考にするという事で、結構嫌な気分になった。

 あれだけ僕の家族や仲間を馬鹿にした、八輝帝の傲慢チームの筆頭の力を借りる様な物だから、それだけは絶対に嫌だと言う自分がいたからだ。


 だがこの模擬戦は竜王との戦いで明確な攻略法を見つけるというのが目的だからと自分に言い聞かせ、何とか自分自身を納得させたという訳だ。


「成程ね……まさか闇属性でそんな事をするなんて……君は本当にレイシャとそっくりだよ。その思いがけない魔法の使い方をする所がね」


 するとドリュスさんは背中から翼を広げ、僕の遥か上を取った。


「君は本当に凄いよ! この短時間で僕達竜王に対する攻撃手段を見つけ出し、こうして成功させた! 本来ならこの時点で模擬戦を終了させてもいいけど、悪いがもう少し付き合って貰うよ! 竜王の僕にここまで喰らい付いた人間は、レイシャ以来で久し振りなんだ!」


「いいですよ! 僕もここまで来た以上、あなたに最後まで付き合います!」


 僕も雷と闇の翼を広げて上昇し、左右の黒い雷を纏ったアメノハバキリと黒薔薇を構えた。


「行きますよ、ドリュスさん!!」


「来い、ユーマ!!」


 僕は雷速で距離を詰め、アメノハバキリでの峰内を繰り出した。

 対してドリュスさんはそれを防ぐべく、雷の左腕で受け止めた。


「よし! 雷に加わった闇が、ドリュスさんの実体をしっかりと捉えた!」


「ぐっ……! さっきよりも攻撃が鋭くなっている! これがその身体強化による恩恵か! だが!」


 ドリュスさんは右腕で僕の首を掴み、地面に目掛けてぶん投げた。


「まだです!」


 すぐに足元に魔力を集中させ、履いていた空歩の靴で地面を数回蹴り、すぐにまた肉薄して今度は黒薔薇で攻撃を仕掛けた。


「本当に凄いね、君は! でも随分と顔色が悪くなってきているよ! もしかして、魔力の消費が追い付いていないんじゃない?」


 そう指摘され、僕は自分の魔力がかなり減っている事に気付いた。

 普通ならここまで減りはしないけど、このハイブリッドフォースはまだ不完全だったこともあり、予想よりも早く魔力が消費されている。


 悔しいが、これ以上この形態を保つのは無理そうだ。

 こうなったら、次の一撃で勝負を決めるしかなさそうだ。


 そう判断した僕は、ドリュスさんの腹部をドルフィンキックの要領で蹴り、そのまま距離を空けた。


「ドリュスさん、次が僕の最後の攻撃魔法です!!」


「面白い! なら僕も、雷竜王としてその勝負を受けて立つよ!!」


 僕達はこれを最後の勝負にするべく、それぞれ極限まで魔力を溜めた。


「九頭竜神・闇雷!!」


「ボルテックスメテオシャワー!!」


 闇属性を加えた黒い雷で出来た9本の頭を持った竜と、巨大な雷の塊の流星群が激突し、鍛練場が爆発と衝撃波に包まれた。


 煙が晴れると、そこには倒れた僕とドリュスさんの姿があった。

 僕達の魔力は今の一撃で一気に消耗し、もう僕は普通の複合強化すら発動出来なかった。

 ドリュスさんもまた、かなり魔力を消耗していて、すぐには完全回復するのは不可能の様だった。


「そこまでじゃ! この勝負、引き分けとする!!」


 すかさずレイシャさんの判定が下され、僕達の模擬戦は引き分けで終わった。


「大丈夫か、ユーマ?」


 倒れた僕の傍にクレイル達がやって来た。


「僕は大丈夫。ちょっと魔力を使いすぎて、頭がふらつくくらいだから。ラティ、少しでいいから魔力を譲渡してくれない?」


「勿論よ。あたしの手を握って」


 僕はラティに譲渡の指輪で魔力を分けて貰い、同時に回復魔法も掛けて貰った。


「今回は随分と無茶をしたわね。まさかまだ不完全のハイブリッドフォースをぶっつけ本番で使うなんて」


「でも、そのお陰で竜王に対する攻撃が見つかったんだ。クレイル、ちゃんと見ていたよね?」


「勿論だ。お前のお陰で、風竜王に会った時もしっかり対策が出来そうだ」


 クレイルの言葉に全員が頷き、無事に僕の戦いは皆にも参考になってくれた様だ。


「ユーマ。あなたは本当に凄いご主人です。完全な本気ではなかったとはいえ、竜王と引き分けたのですから。あなたの成長は凄まじいです」


「ありがとう、アリア」


 こうして僕とドリュスさんの模擬戦は、無事に目的を達成した事で終わったのだった。

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次回予告

模擬戦を終えたユーマ達の前に、ドリュスがお礼を言いにやってくる。

その際、ユーマが暁の大地の血縁者だと見抜き、ドリュスはゲイル達が討伐した竜王の事を語り始める。


次回、暁の大地が討伐した竜王

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― 新着の感想 ―
[良い点] 色んな要素はあったけど雷竜王ドリュス、ちゃんと竜王としての「格」の片鱗を見せた模擬戦だった。 個人的にはユーマと引き分けたというのも大きい。 [気になる点] 八岐大蛇並か、ラティならもっと…
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