第240話 この模擬戦の意味
前回のあらすじ
ドリュスがユーマに模擬戦を申し込んだ理由、それは先代竜神を始めとする歴代の竜神が眠る聖域、竜魂の霊山を竜王の1体、風竜王が守護しているからだと話す。
その風竜王が思い込みが激しい性格だという事から、何も知らないユーマ達が行けば戦いを避けることは不可能だという判断から、ドリュスはユーマに竜王の力を見せるのが目的だという事を。
そして現在に戻り、僕は竜王の力を直接体験するというドリュスさんの言葉に従い、彼と模擬戦をする事になった。
先程までゼノンさんとレイシャさんの模擬戦の審判をしていたイリスさんに代わり、今度はレイシャさんが行う事になった。
ゼノンさんとの模擬戦をこなした後なのに、僕達の模擬戦の審判も出来るというその疲れ知らずな体力、流石は最強の竜人族という所かな。
「それではこれより、雷竜王のドリュス殿と、『雷帝』のユーマ殿による模擬戦を行う。勝敗はどちらかが続行不可能、または双方の終わりの同意があった時とする。両者、準備はよろしいか?」
「僕は何時でもいけるよ」
「僕も大丈夫です、レイシャさん」
僕達の同意を聞き、レイシャさんは僕達が所定の場所に立っているのを確認し、両手を挙げた。
「それでは、始めじゃ!!」
その合図と共に、僕達の模擬戦を見るべくまだ留まっていた門下生や騎士達はさっきと同等かそれ以上の歓声を上げた。
「まずは僕から行くよ! 人化の姿をしているとはいえ、僕達竜王の力は、Sランクでもトップクラス! その力、受けてみろ!!」
最初にドリュスさんが動き、人化を解いて右腕を竜の状態に戻しての巨大な腕での一撃を繰り出してきた。
僕はその攻撃を鞘に納めたアメノハバキリで受け止めたが、その鞘から伝わって来る掌底の衝撃が非常に重く、力んだ足場がその瞬間に大きく陥没した。
「ぐっ……!! 何だ……この力は……!?」
今の攻撃はアリアやスニィも出来るけど、その魔力の規模は竜神のアリア程ではないとはいえ、その攻撃に乗せられた勢いはアリアを上回っている。
「僕の力は、正直アリア様には及ばない。でも、アリア様は君と訓練などでで戦う時、竜神としての力を大きくセーブして、その力をフルに活かしてはいなかった筈だ。いくらEXランクと適合する程の魔力を秘めているとはいえ、生身の人間が神に匹敵する力を持つという魔物の全力の攻撃を受ければ、例え掠っただけでも跡形もなく消滅しているよ」
ドリュスさんの指摘は確かに的を得ていた。
アリアが僕達との訓練での模擬戦で、僕達の力量に合わせて大きく手加減をしているというのは知っていた。
アリアに限らず、クルスもレクスもアインも、僕達のEXランクの従魔達は人間の僕達の能力の合わせて大きく手加減をしていた。
だけど今のドリュスさんは、勿論手加減をしているだろうけど竜王としての力を片鱗だけでも伝えようと攻撃している。
実際この掌底に伝わって来る衝撃には、アリアとはまた違う物を感じた。
これはドリュスさんが僕に伝えたい、竜王の力とはまだまだこんな物じゃないという事。
そして竜王の力をもっと見せると、この初撃は所謂最初の挨拶の様な物。
「それは分かっていますよ、ドリュスさん。この一撃にも、アリアとはまた違う力、そして僕に竜王の力を教えたいという思いが伝わってきます。僕も、あなた達竜王の力がこんな物じゃないというのは理解しています。だからこそ、僕はそれをこの身をもって理解し、そして竜魂の霊山に行って風竜王と対峙しても冷静に対処し、必ず風竜王と分かり合って見せると! ドラグーンフォース・ライトニング!!」
その言葉と共に、僕はフォースを発動させて足腰に力を籠め、アメノハバキリでドリュスさんの腕を押し返した。
そして腕を引っ込めたドリュスさんの視界には、初めてフォースを纏って戦闘形態になった僕の姿が映った。
「その姿……さっきゼノンが使った魔法とよく似ているね」
「それはそうですよ。ゼノンさんが使った複合魔法、覇王竜魂纏依。それを教えたのが、僕達銀月の翼です。特にゼノンさんのは、僕が主に教えた事で会得した物で、このドラグーンフォースこそがいわば本家本元の様な物です」
「へえぇ……それはそれは……随分と面白い魔法を持っているんだね。ゼノンの時は竜化魔法の魔力を強く感じたけど、君の場合は雷属性の魔力が強い。僕は雷竜王だから雷属性の魔力はどの竜王よりも敏感でね、君の雷の魔力を瞬時に見極めるのはお手の物なのさ」
確かに雷属性を極めた竜王なら、このフォースの源になっている雷の魔力はただの魔力の塊の様な物に見える筈だ。
それに加えてドリュスさんは、ベヒモスやスレイプニルとかと違って明確な知性を持ち、ベヒモスの様なパワー、スレイプニルの様なスピードのどれかだけに突出した能力ではなく、パワーもスピードもバランスよく能力が備わっている。
パワーは今の掌底で分かったし、スピードは初めて会った時に瞬時に僕達の目の前に移動してきた時に分かった。
そして何より、ドリュスさんは竜種。
どの魔物よりも遥かに高い知性を持ち、人語も話せる。
それだけ高い知性を持っているとなると、相手の戦い方を覚えていき、対処の仕方を思いつく事だって出来る。
つまり竜王は、これまで戦ったSランクの魔物よりも遥かに戦いづらい相手だという事だ。
そして僕達はそう遠くない内に、その竜王と本気で立ち向かわなけれなならない。
この模擬戦はただ僕だけが経験する為の物じゃない。
今この戦いを見ている皆にも、その戦いを見せる事でしっかりと竜王の強さを見せようとしている。
僕達は自由と引き換えに危険と隣り合わせの世界に生きる冒険者。
模擬戦や武闘大会の試合を観戦する時とかで、その人達が戦っているのを見る事でどんな戦いをするのか、その対処法などを見ている内に考えたりもする。
他に、魔物と戦う時にも予めその種類や生態などを把握しておけば、その魔物を調べてどんな戦い方をすればいいのか、又は種類が分からなくても赴く場所からどんな魔物が生息しているのかを把握し、その場所でどんな戦いになるのかも考える。
勿論、中には僕達や八輝帝、お父さん達暁の大地の様な恵まれた環境や、元から持っていた才能などで成功する冒険者もいる。
だけど誰もは最初からそうではなく、常にどんな事をするか、どうすればランクを上げられるか、そうやって考えたりするのが冒険者の姿でもある。
この模擬戦は、僕はドリュスさんと直接戦闘をして竜王の力がどういう物なのかを経験し、ラティ達はその戦いを見る事で竜王の戦い方の対応策を模索する。
これが僕達がこの模擬戦の意味。
ドリュスさんはそれを見越して、僕に模擬戦を申し出た。
その思いを無駄にしない為にも、僕は全力で彼に答えるだけだ。
「確かに、雷属性の扱いでは、ドリュスさんは世界でも指折りでしょうね。だけど、僕だって世界最強の雷属性の使い手という、『雷帝』の称号を持った男。そう簡単に雷属性の勝負で負けるつもりはありませんよ」
僕は改めてアメノハバキリを抜き、その剣先を向けて告げた。
「面白いよ、ユーマ。僕も雷竜王として、竜王の力を見せてあげるよ」
ここからが僕達の本当の勝負だ。
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次回予告
2人の模擬戦は本格化し、ドリュスは遂に雷竜王としての実力を発揮し始める。
ユーマもフォースと神器の力を駆使して挑むが、ドリュスは竜王としての真の能力を見せる。
次回、竜王の真の能力




