第237話 師弟対決の決着
前回のあらすじ
ゼノンがユーマ達との日々で培い、鍛えてきた技をレイシャは次々と破り、更にはゼノンが放った究極奥義ですら、レイシャには傷1つつける事が出来なかった。
遂に攻撃を開始し、追い詰められるゼノンだったが、師に一矢報いるべくとっておきの複合強化を発動させた。
竜化魔法と身体強化を組み合わせて、全身を竜化魔法で形成した爪や鱗の鎧に包まれ、背に1対に翼が現れ、最強の戦闘形態になったゼノンさんを見て、それまで余裕たっぷりだったのが一変して驚きを隠せずにいた。
「何と……それがゼノン、お主の言っておった奥の手か」
「はい。ユーマ殿を始めとする銀月の翼の方々に教えを乞い、魔力の制御を一新する事で編み出した新たなる境地、複合強化。そして私の竜化魔法と身体強化を組み合わせる事で可能としたのがこの奥義、覇王竜魂纏依です」
そして場にいる人達も、僕達を除いて全員が驚愕していた。
ルーカニクス陛下とドリュスさん、ディロンさんもゼノンさんの姿を見て口が開きっぱなしとなっている。
「複合強化……確かお主達銀月の翼が先日ヴォルスガ王国で行われた武闘大会で、その様な属性の魔力を纏って途轍もない強化をする複合強化を使ったという噂を聞いたが、まさかゼノンも使えたのか……」
「実際には、今審判をしているイリスさんも、こちらのバロンさん達マッハストームの皆さんも同じように複合強化が出来ます」
僕がそう告げると、3人は一斉に目を限界まで見開き、バロンさん達を見た。
「尤も、教えたのがつい最近で、まだ完全にはなっていないけど、それでもSランクの魔物にも十分戦えるがな」
「そうですね。最近戦ったので1番強かったのですと、『神馬』のスレイプニルだったでしょうか」
クレイルとアリアのわざとらしい会話に、3人はますます驚愕した。
真っ先に反応したのがドリュスさんだった。
「なんと!? あの『神馬』を倒したの!? 単純な速さだけなら僕達竜王でも手を焼くのに、それを君達は討伐出来るのか!?」
「それでも、動きを封じるのにかなり苦労しましたけどね……」
実際あの戦闘はスピードのあるクレイルやレクス、アリアやイリスさんの無効魔法がないと、いくら複合強化を使っていてももっと討伐に時間が掛かっていた筈。
それでも彼らは僕達がスレイプニルを討伐した事に驚いているし、もしそれよりも前に僕達が立った4人と4体でベヒモスを倒したという事を知ったらどうなるかは目に見えているが、あまり余計に混乱させない様、僕達は黙っている事にした。
それはともかくとして、目の前で行われているゼノンさんとレイシャさんとの模擬戦に注目した。
レイシャさんはゼノンさんが覇王竜魂纏依で強化した姿を見て、今までで1番歓喜の表情をしていた。
「凄いぞ、ゼノンよ! まさかこの数年でここまで力を身に着けておったとはな! その魔法、魔力だけの見掛け倒しなんかではなく、純粋な力強さを感じるぞ! まだ攻撃を受けてもいないのにここまでの存在感を出す、これが攻撃に移るとなるとどれ程なのか見物じゃな!」
「すぐにわかります。この覇王竜纏魂依、まだ習得して日も浅い為改良出来る点がいくつかありますが、それでもユーマ殿のお墨付きがあります故! ここからの私の技は全て、更なる段階へと進化します!」
ゼノンさんは構え始め、鋭い一撃を放った。
「覇王竜天爪撃!!」
右腕に魔力を集めて巨大な竜の腕にし、それを伸ばした爪撃が襲い掛かる。
「フンっ!!」
その攻撃を竜化させた右腕の甲の部分で後ろへと受け流し、レイシャさんは最小限のダメージで抑えた。
そしてその攻撃はそのまま真後ろにいた門下生や騎士達へと向かったが、彼らは竜人族としての身体能力で躱す事が出来、壁だけが受ける事となった。
しかし今の攻撃で始めてレイシャさんに痛みを与える事に成功した。
その当人が今、その痛みに表情を歪めていたのだから。
「くっ……弟子との模擬戦とはいえ、儂が対人戦で痛みを感じたのは何年振りか……それをやってのけたのが我が愛弟子とは……見事じゃぞ、ゼノン」
「まだまだこれからです! 覇王竜転輪砕脚!!」
すかさずゼノンさんは懐に一瞬で飛び込み、カポエラを彷彿させる動きでの連続の回し蹴りを放った。
「くっ……!? 確かに全ての技が格段に強化されておる……! これが複合強化による力か! ……じゃが!」
レイシャさんは自身の幼女の小柄な身体を活かして素早く身を屈めて、そのまま払い蹴りでゼノンさんの両手を払いバランスを崩した。
「ではこれで! 覇王竜刃翼斬!!」
すかさずバランスを崩した勢いで、広げた翼をその勢いから身を捩っての遠心力で生まれた一撃を放った。
「そこまで多彩な攻撃手段があるか! その複合強化は中々に万能の様じゃな!」
すかさず両手を竜化させて防ぎ、その間にゼノンさんは体勢を立て直して距離を空けた。
「技だけではない。咄嗟の機転に対応出来る程までに身体能力が向上しておる。これはもしかすると、竜王にも匹敵するかもしれぬのぅ。しかもこれはまだ未完成な部分があるという。これが完成するとなると、どれ程の力となるのか……」
「覇王竜翔閃剣角!!」
一直線にレイシャさんに向かって突撃し、右手に魔力を集中させ手の鋭い手刀による刺突を繰り出した。
ゼノンさんの一撃が迫る中、レイシャさんは再び微笑んでいた。
先程の驚きが嘘の様で、今は嬉しそうに笑みを浮かべていたのだ。
「成長したのぅ……ゼノンよ」
次の瞬間、ゼノンさんの刺突が決まり、再び辺り一面に衝撃波が広がった。
そして巻き上がった土煙が晴れると、そこにはこれでもう何度目か驚くべき光景があった。
何と竜化させた右手の人差し指1本を突き出して、ゼノンさんの刺突を受け止めたレイシャさんの姿があったのだ。
「うおい!! 今のゼノンさんは覇王竜纏魂依で戦闘形態になってるんだぞ!? その攻撃を指1本で受け止めるなんて、レイシャさんの強さはどうなってるんだよ!?」
「さっきまで結構焦っていたのに、今は平然としているわよ!? 効いてたんじゃなかったの!?」
クレイルとラティはその光景に酷く狼狽しているが、僕は探知魔法でレイシャさんの魔力を見てみた。
すると、彼女の魔力が先程よりも強くなっているのが見えた。
「いや。さっきよりも魔力が強くなっている。もしかしたら、さっきまでのレイシャさんは力をかなりセーブしていたんじゃないかな」
「ユーマ、鋭いね」
そこにドリュスさんが肯定した。
「知っていると思うけど、レイシャはドラグニティ王国最強の竜人族であり、全ての竜魔武道館を束ねる総師範だ。フェニックスによって若返った事で身体の成長をやり直した過程で更に強くなり、それらの肩書に恥じない実力を持っている。その修行の過程でレイシャは力を段階式に制御出来る様になり、模擬戦で相手を負傷させて再起不能にならない様にする事が出来たり、相手の力量を図る上で非常に有能にもなったのさ。そうする事で相手の強さを正確に見極め、相手の成長度合いを判別出来る様にもなっているんだ」
その力を段階式に制御というのは、おそらく部分強化による物だろう。
まあ最強の竜人族というからには、そういった技術も当然できてもおかしくはない。
「つまりレイシャさんはその力の段階別でさっきよりも上の強さに変えたという事ですか?」
「そうさ。ゼノンがあの姿になるまでは大体古竜と戦うくらいの強さだったけど、今のレイシャはかなり上の強さまで魔力を上げている。おそらくあれは、僕達竜王と一戦交えるくらいの強さだと思う。それだけゼノンの強さがかなり上がっているという事さ。僕が覚えている限り、以前のゼノンはその古竜のレベルまで力を出させるのがやっとだったからね」
まだ完全な本気ではないが、レイシャさんにそれだけの力を引き摺り出せる事に成功したのか、ゼノンさんは。
「見事じゃぞ、ゼノン。儂に完全ではないとはいえ結構な本気を出させたのじゃからな。豪褒美にじゃが、儂の軽い全力の拳をプレゼントするとしよう」
そう言いレイシャさんは左手を握り、ゼノンさんの腹部に目掛けて瞬撃の一撃を放った。
そして複合強化によって強化されたゼノンさんの身体が一瞬で吹き飛び、そのまま僕達がいる所の壁に向かってきて、僕達が避けるとゼノンさんは壁に激突してしまった。
「ゼノンさん!?」
「大丈夫ですか!?」
まだ模擬戦中だから直接触れる訳にはいかない為、離れた場所から声を掛けるくらいしか出来なかったが、土煙から返事の声はしなかった。
そして力なく地面に倒れたゼノンさんが現れ、それを見たイリスさんが審判を下した。
「そこまで! この勝負、レイシャさんの勝ちとします!」
模擬戦が終了した事ですかさず僕達はゼノンさんに駆け寄った。
倒れていたゼノンさんは意識はあったが、ダメージが大きかった事で複合強化が解けていた。
「大丈夫ですか、ゼノンさん?」
「ああ……大丈夫だ。覇王竜魂纏依がなかったら、間違いなく私は一貫の終わりだったかもしれない」
「あれを使ったお前が敵わないなんて、お前のお師匠さんとんでもないな」
「まだ不完全とはいえ一矢報いる事は出来たが、それでもまだ老師様には届かないのは覚悟していた。とはいえ、まだまだこれ程に力の差があったとはな」
「じゃが、ゼノンよ。お前の成長は素晴らしい物であった。儂にて傷を負わせる程にまでなったのじゃからな」
そこにレイシャさんが寄って来て、先程の攻撃を受け流した際に腕に負った傷を見せた。
それでもか擦り傷程度だったが、それ以外に傷らしい傷はなかった。
「お前の使ったオリジナルの究極奥義、実に見事であった。お前は間違いなく儂の後を継ぐのに相応しい男になる事じゃろう。その日が来るのが楽しみじゃ」
「ありがとうございます。この手合わせを通じて、私も更に精進する事を約束します」
「楽しみにしておるぞ、ゼノンよ」
2人が握手を交わし、周りにいた騎士や門下生達はゼノンさんの健闘を称えて拍手を送った。
僕達もルーカニクス陛下もドリュスさんもディロンさんも、2人の勝負を称えて拍手をしていた。
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次回予告
模擬戦が終了し、ユーマ達は雷竜王のドリュスから歓迎の宴の招待を受け、これを承諾する。
そしてユーマはドリュスにドラグニティ王国にやって来た目的を話すが、それを聞いたドリュスは様子を変えてユーマにある申し出をする。
次回、雷竜王の申し出




