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第234話 もう1人の愛弟子

前回のあらすじ

レイシャによってゼノンがイリスを始めて連れて来た時の話題になり、ユーマ達はゼノンとイリスの出会いがどんなだったのかを尋ねる。

ゼノンとイリスは当時の事を語り、ユーマ達は仲間の事をまた1つ知る事が出来た事に喜ぶのだった。

 ゼノンさんとイリスさんの出会いを聞き、僕達が仲間の事をまた1つ知る事が出来た事に満足した後、ゼノンさんは改めてレイシャさんに向き合っていた。


「老師様。この度の帰還につきまして、もう1つ報告するべき事があります」


「む? なんじゃ?」


 ゼノンさんは先程王城でルーカニクス陛下にも報告した、ガルーザスの一件を話した。

 するとレイシャさんはルーカニクス陛下と違い、かなり複雑そうな表情を浮かべていた。


「そうか……ガルーザスと再会したのか。あいつは本当に素晴らしい逸材じゃった。じゃが儂が何もしてやれずにあいつが国外追放になったのは、本当に残念じゃった。儂が奴の心をもっと深く知り、丹精込めて育てておれば、もしかしたら彼を変えてやる事が出来たかもしれぬのに……」


 レイシャさんもガルーザスの事を知っているという事は、もしかしてあいつも……。


「レイシャさん、もしかしてガルーザスもここの門下生だったんですか?」


 同じ事を思っていたコレットも、僕がしようとしていた質問をした。


「ウム。ガルーザスもゼノンと同様、儂が育てた愛弟子の1人なのじゃ。あいつは本当に素晴らしい素質を持っており、ゼノンと共にこの武道館の師範代を担っておった。儂がもっと丹精込めて育てておれば、あいつを国外追放にされる事もなかったと思うと惜しい奴じゃった」


 やはりガルーザスもレイシャさんの弟子だったのか。

 そもそもゼノンさんが「我が友」と言っていて、そのゼノンさんがこの武道館の師範代なら、あいつも師範代クラスでそのゼノンさんと兄弟弟子だったというのも納得がいく。


「でもさ、確かにあいつのパワーは凄かったけど、レイシャさんの弟子なら何であんな風になったんだ? いくら力が全てだって言っても師匠のレイシャさんを見れば、そんな風に指導したとは思えないんだ」


 直接本人と対峙したクレイルもその経験からガルーザスの性格を思い返し、どうしてレイシャさんの弟子であんな風になったのかが気になっていた。


 でもそれは僕達も気になる。

 いくら素晴らしい人に師事しても全部がそうなるとは限らなくても、レイシャさんという最強の竜化魔法の使い手の弟子として過ごし、その過程でゼノンさんを始めとする兄弟弟子達に囲まれても尚、その力至上主義の思想を抱き続けたのか。


「実は、ガルーザスはゼノン達と決定的に違う部分があった。ゼノン達は純粋に王都や各街で不通に生まれ育った者達じゃが、ガルーザスはスラム出身の孤児じゃったのじゃ」


 この世界も、前世の地球も、必ずスラム街というのは存在している。

 僕達が普通に暮らしている世界とは別に、何時死ぬか分からない環境下に置かれ、中には生きる為に手段を択ばず犯罪の道へ堕ちる者もいる。


 現在アルビラ王国ではそのスラム街への対応に、ルドルフとアンリエッタが役所などに日雇いの仕事を与えさせる事で暮らしを安定させ、少しずつではあるが前進させているという。

 だがそれはあくまでアルビラ王国での話であり、このドラグニティ王国ではまだそういう政策をとっていないという現実がある。


 そしてガルーザスはそのスラム街で生まれた事もあり、素の気性の激しさに加えて生きる為の力を人一倍求める様になったという。


「儂がガルーザスと出会ったのは、そこのゼノンがまだスニィと出会ったばかりの頃じゃった。儂はある日とある街のスラムに行き、そこで幼い頃のガルーザスと出会いその内に秘められた竜化魔法の才に築いた儂は、彼を半ば無理やり連れて来た」


 今あっさりと言ったけど、結構無茶な事をしているな、この人。

 幼い子供を無理矢理拉致る形で連れて来るんだもの。

 実際にゼノンさんも当時の事を思い出しているのか、かなり渋い顔になっているし……。


「ガルーザスは本当に将来が楽しみな逸材じゃった。そして儂の一番弟子であるゼノンと切磋琢磨させる事で、互いの心身を成長させる事を考え、ガルーザスも儂の愛弟子として育てたのじゃ」


 成程、その過程でゼノンさんとガルーザスのライバル関係が成り立ったのか。


「でも、それなのにどうしてガルーザスは国外追放になってしまったんですか?」


「それは本当に儂の見越しが甘かったという奴じゃ。ガルーザスは確かに最初の頃はゼノンと共に竜化魔法の戦い方を真面目に学び、その過程でゼノンは徒手格闘、ガルーザスは青龍剣を用いた戦い方を編み出し、2人は儂の予想通りの成長を遂げ強くなり、14の頃には2人ともこの武道館本部の師範代にもなった。じゃがそれでもなお、ガルーザスがスラム時代に抱いておった力への渇望は完全には無くなってはおらんかった。あいつは修業を経て強くなった事でその力を過信する様になり、戦った相手に敬意を払わず圧倒的な力で屈服させる戦い方をする様になったが、それは竜人族の誇りを穢す戦いであった」


「私はこのままではガルーザスの将来が危ういと感じ、道を正そうと何度も勝負を挑んだが、結果は全敗だった」


「儂も幾度となく奴を叱責したが、あ奴は己の信じる道と言い全く聞き入れる事なく、儂らの説得も無駄となってしまった」


 そのゼノンさんの全敗が以前あいつが言っていた、自分に1回も勝てなかったという言葉の真相か。


「そして王都の民も力のみで相手を下すあいつよりも、常に相手に敬意を払い誇りを胸に戦うゼノンを信頼する様になり、何時しか儂以外の武道館の連中も、ルーカニクスの若造を始めとする王族も、ガルーザスよりもゼノンを称える様になった」


「そして奴が国外追放になる決定的となった、あの事件が起こった」


 あの事件?


「あれはイリスと出会う1年程前の事だった。竜魔武道館には年に1度、全ての武道館の支部の師範と師範代をこの本部に招き、交流を深めるのを目的とした合同で鍛練を行う日がある。当時は、この本部からは総師範の老師様と、師範代の私とガルーザスが代表で出席し、手合わせをする事になった」


「じゃが、それが最悪の結果を招く事になった。ガルーザスはその合同鍛練を機に自分が誰よりも強いと誇示するべく、全ての師範と師範代達を同時に相手にするという傲慢な態度を取り、彼らはその不遜な態度に怒りガルーザスに挑んだ」


「だがガルーザスは竜人族としての強さを思うがままに振るい、私と老師様が止めた時には師範の大半が重傷を負い、師範代に至っては数人が再起不能となって戦士としての生命を絶たれてしまった」


 そんな事をやらかしたガルーザスの所業に、僕達は衝撃のあまり言葉が出なくなってしまった。


「そしてその事件はルーカニクスの若造の耳にも入り、ガルーザスは騎士団によって取り押さえられて投獄、その後に言い渡された処遇は知っての通りの国外追放となった」


「よく追放で済んだな……普通なら牢獄生活か犯罪奴隷になっても文句は言えないレベルだと思うぞ」


「それに関しては儂とゼノンが何とか取り計らったが故じゃ。ガルーザスのしでかした不始末は確かに許される物ではない。しかしあいつは誰1人命までは取らなかった。それを指摘し、どうにか罪を軽く出来ないかと掛け合い、何とか国外追放で済ませ貰えたのじゃ」


「だが、それでも奴はもうこの国の敷居をまたぐ事は許されなくなり、奴は従魔と共にこの国を去ってしまった」


「後に、デスペラード帝国にとんでもない実力を持った竜人族の冒険者が現れたと聞き、それがガルーザスと知った時には奴がどんな形であれ元気にやっておると知り嬉しかった」


「嬉しかったって、さっきから気になっていたんですが、レイシャさんにはガルーザスを破門にするという選択肢はなかったんですか?」


 僕の指摘に、レイシャさんは途端に俯いてしまった。


「残念ながら、当時の儂には弟子を破門にするという考えはなかった。儂ならばガルーザスの抱く力への渇望を取り去り、立派な戦士へと導けると思い上がっていた。そして結果は奴を国外追放にしてしまい、大切な弟子を失ってしまった。儂にとっては、どんな形になってしまってもゼノンもガルーザスも、儂の生涯大切な愛弟子である事に変わりはない」


 レイシャさんは自分の無意識に抱いていた驕りから、ガルーザスを破門にする事なく育て続け、そしてその弟子への愛情は今でも変わらないと告げた。


「のう。お主達はヴォルスガ王国でガルーザスに会ったんじゃよな? 奴は元気にしておったか?」


「ええ……まあ、確かに性格はあれでしたけど、とりあえずレイシャさんの思う感じのままでしたら、元気でしたよ」


「かなり嫌な奴だったけどね」


「ええ。出会い頭に、私達をユーマの仲間に相応しくないとか、ユーマの本当の仲間と名乗ったりとか、かなり自尊心が強かったわね」


「でも、俺が武闘大会でコテンパンにしてやりました。その驕っていたプライドも根元から圧し折ってやったし、俺が仲間の大切さを乗せた拳で懲らしめましたからね」


 ラティ、コレット、クレイルの正直な感想に、レイシャさんも思わず苦笑いしていた。


「そっ、そうか。それはすまない事をしたのぅ。弟子の不始末として、儂も詫びするとしよう。儂の弟子が迷惑をかけた様で、本当にすまなかった」


 既に国外追放となり、師弟関係でなくなったというのに今でも1人の師としてガルーザスを思いやるレイシャさん。

 何時かまた八輝帝に会う機会があるとしたら、ガルーザスに直接レイシャさんの事を教えてやる事にするか。

 別にそこまでする義理とかはないと思うけど、あの騒動の当事者として、そしてレイシャさんの心情を知った物としてやはり伝えるべきだろうな。


「さて、暗い話はここまでにしよう。お主達、儂の話に付き合ってくれてありがとうな」


 レイシャさんが自ら切り上げて場の雰囲気を戻した時、ゼノンさんはレイシャさんにある申し出をした。


「老師様、1つよろしいでしょうか?」


「フム。なんじゃ?」


「私と手合わせをしてくれませんか?」

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次回予告

ゼノンは師匠のレイシャに模擬戦を申し込み、レイシャは雰囲気を一転させ1人の武闘家として承諾する。

ユーマ達は騎士団の鍛練場に移動し、2人の戦いを見守るが、レイシャの実力はこれまでの竜化魔法の常識を遥かに超えていた。


次回、師弟対決

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― 新着の感想 ―
[良い点] ザ・傲岸不遜な奴だけど色々と訳アリだったって事か。 [気になる点] 某亀の仙人がやったように上には上がいる的な事を自覚させるべきだったとかかね。 [一言] 今回の話の後思い返すとあの時のク…
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