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第233話 ゼノンとイリスの出会い

前回のあらすじ

ゼノンの師匠、レイシャがかつてフェニックスによって命を救われ、その副作用で幼女の姿に若返ってしまったという事を聞かされたユーマ達。

しかし、若返ったという点を活かして更に強くなれたという、レイシャの前向きな思考と、その人間性を目の当たりにし、ユーマ達はゼノンの師匠の素晴らしさに感動した。

 ゼノンさんのお師匠さん、レイシャさんの過去を聞かされ、僕達の邂逅が一段落するとレイシャさんはゼノンを見て嬉しそうに微笑んでいた。


「それにしてもゼノン、お前がここに客人を連れて来るというのは、そこのイリス殿の時以来ではないか? ここは王城の敷地内にあるからと無暗に旅人を連れてくる事は出来ないと、常に自分に言い聞かせていた頃が懐かしいのぅ。じゃが、今回は竜神様も一緒じゃし、何よりお前が心から大切に想える友を連れて来たのじゃ。それだけで儂は嬉しく思うぞ」


 どうやらゼノンさんはこの育った武道館が王城にあるという事で、これまで殆ど人を連れてくる事は無かった様だ。

 確かに王族が暮らす城というだけあって普通なら入るだけでも色々面倒な事があるから、本来なら複数の王家の後ろ盾を得たり招待される様な事をした事で、普通に王城に出入り出来るという僕達の方が、珍しいんだから、イリスさんと出会うまでのゼノンさんが旅人を無暗に連れて来なかったという方が当たり前なんだ。


 だけどゼノンさんは何らかの理由で、イリスさんをこの武道館に連れて来たという事だ。


「ゼノンさん、それってつまり、イリスさんと初めて出会った時の話ですよね?」


「そうだ。私はかつてイリスと初めて出会った時に、彼女をここへと――強いては王城の中へと連れて来た事があった」


「思い出すわね。ゼノンは当時からこんなだから、私も最初はどう接すればいいのか分からないって思ったわよ」


「なあ、ゼノン、イリス。お前達の出会いって、どんなだったんだ?」


「そういえば、直接聞いた事はありませんでしたね」


「この際だから、仲間の事をもっと知りたいよな」


 僕達も、ゼノンさんとイリスさんというこの2人がどうやって知り合って赤黒の魔竜を結成したのか、それをこの機に聞いてみたくなった。


「イリスさん、教えてください。ゼノンさんと出会った時の事を」


 ラティもイリスさんに頼み、イリスさんは静かに語り始めた。


「ええ、良いわよ。私とカミラがゼノンとスニィと出会ったのは、私が冒険者になってガイノウト帝国を旅立ち、ドラグニティ王国を目指した時で、もうかれこれ6年くらい前になるわ」


 イリスさんはガイノウト帝国の第2皇女だが、この目で世界を見る為や自由に生きるという目的で冒険者の身分を作り、カミラと共に旅に出た。


「その際にヴァンデルンお兄様が魔眼で私の未来を見てくれて、ドラグニティ王国を目指すといいと言われたの。その際にまずは帝国の各街を転々として依頼を受けながらドラグニティ王国への国境を目指しつつランクを上げて、Dランクになって商隊や貴族の護衛依頼を受けたりしてこの王都を目指したの。ランクに関しては魔族としての能力や、4人の皇族の中でも特に魔法に優れたというのがあって上げる事は難しくはなかったわ」


 そしてイリスさんは6年前にこの王都に辿り着いた。


「到着して依頼完了の手続きを終えた私は、宿を探しながら王都を散策していたんだけど、その途中ガラの悪い人族の冒険者に絡まれたのよ。あの欲に塗れた目つきは、完全に私であんな事やこんな事やそんな事をしようと考えていたわね」


 イリスさんの容姿は、皇女というだけあって本当に凄い美人というのが素直な感想だ。

 だからあらゆる能力に長けた魔族という点を入れても、やっぱそういう下衆な考えを抱く馬鹿はどうしても現れるんだろうな。


「正直私がちょっと本気になればどうという事は無かったんだけど、街中で、更に人々がいる中で派手な魔法を使う事も出来なかったから、適当にあしらおうとしたところに、偶然現れたのがゼノンよ」


「例え竜人族でなくても、このドラグニティ王国にいる者ならそんな誇りを穢す様な事はするなと一喝し、その者達を下がらせたのだ」


「ゼノンはその頃から既にこの武道館の師範代で、王族を始めとした王都の人達からの信頼が厚く、そのゼノンの事は冒険者達からも知られていた様で冒険者達も簡単に引き下がったという訳よ」


 成程、確かにゼノンさんの性格から考えれば、そういう下衆な事を考える人は到底許せるものではないし、ゼノンさんの事を知っていれば竜魔武道館の師範代を敵に回すという馬鹿はしたくないのも頷ける。


「そしてイリスとカミラと出会い、イリスからその辺の冒険者や人間とは違う物を感じた私は、イリスをこの武道館へ――つまり王城の中へと招待したのだ」


 つまりゼノンさんは、直感みたいな物でイリスさんの正体が皇族だと無意識に気付いたという事か。


「私も最初は王城の中に連れて来たという事から、ゼノンが王族関連の人間なのかと思ったけど、実際はこの武道館の師範代で王族にも顔が利くという事でそれでも驚いたわよ」


「因みに、その時は儂らもゼノンが女子を連れてきた際には、武道館中を騒然とさせたわ。あの堅物が服を着ている様な男がこれ程の別嬪さんを連れて来たんじゃ。驚くなという方が無理な話じゃ」


「ああぁ……何だか想像しただけで分かる気がするわぁ……」


 実際僕達もゼノンさんが見ず知らずの女性をいきなり連れてきたりすれば、絶叫の嵐に包むだろうな。

 うん、間違いなくそうする自信がある。


「それで王城に連れて来られたものだから、つい反射的に皇族としての態度でレイシャさんやゼノンに接して2人にその身分を怪しまれちゃったの」


「本来冒険者は身分に関係なくなれるものじゃが、イリス殿があの時に儂らに見せた雰囲気は明らかに高貴な身分のそれじゃった。それでちょいと聞いてみたらの、彼女がガイノウト帝国の皇女だという事を知ったのじゃ」


「当然私も知らなかったとはいえ、その時は驚いた。しかも騒ぎを聞きつけたルーカニクス陛下まで来たものだから、隠しきるのは無理そうだった為、イリスは私達に己の身分を明かして冒険者になった理由を話した」


 成程、僕達がイリスさんが皇女だと知ったのはガイノウト帝国の帝城に着いた時で、その時既にゼノンさんは知っていた。

 彼はイリスさんとパーティーを組んでいるんだから知る機会は何時でもあっただろうけど、その初めて会った時にイリスさんがうっかりぼろを出して明かしたのなら、最初から知っていた事にも説明がつく。


「それでもゼノン達はすぐに私を受け入れてくれて、私はドラグニティ王国に滞在している間はこの武道館で過ごす事が許されたの。同時に、ヴァンデルンお兄様がドラグニティ王国を目指せというのは、このゼノンという仲間に出会えるというお告げだというのが分かったのよ」


 それがゼノンさんとイリスさんの出会いだったという訳か。


「それで私は滞在中に、ゼノンを冒険者に誘ってみたの。師範代の実力を持つなら、きっと高ランクにもなれると思って」


「実はのぅ、儂も当時は前からゼノンに修行の旅を勧めておった。ゼノンは儂がその才能を見込み、直接鍛えた自慢の弟子。この国だけで終わらせるには惜しいと思い、世界にはまだまだ強い者が多くいるという儂の体験談を聞かせ、修行の旅に出る事を勧めたんじゃ」


「私も以前から世界には興味があった。だが中々その機会がなく、この武道館で兄弟弟子達と共に鍛える日々を過ごすだけだった。だが、年の近いイリスの旅の話を聞かされた時、それまで以上に世界に憧れの様な物が湧いてきて、私は冒険者になる決意を固める事が出来た。そして私は冒険者登録をして、誘ってくれたイリスと共に赤黒の魔竜を結成したのだ」


 そして冒険者になったゼノンさんは、イリスさんと共に旅立ち、徐々にランクを上げて最速でイリスさんと同じDランクになって改めて赤黒の魔竜のリーダーとなり、それから僕達と出会う約5年間スニィでの移動で大陸から大陸へと渡って様々な強敵と戦い、徐々に実力を上げつつ更なる強者との戦いを求めていったそうだ。


「そして1年のヴォルスガ王国の武闘大会で、ユーマくんやラティちゃん、クレイルくんにバロン達と出会い、ユーマくんを通じて親交を結んでこのアライアンスを結んで現在に至るという訳よ」


「そして私は共に高め合う友が出来、仲間の存在の大切さを学びつつより強くなる事が出来た。これも皆のお陰だ」


 ゼノンさんの言葉に、レイシャさんが嬉しそうに微笑んだ。


「そうじゃぞ、ゼノン。その友を思う心、そして仲間と共に強くなれたというその実感こそが、儂がお前に教えたかった物じゃ。我ら竜人族が使う竜化魔法は、心の強さでその力が左右される。それは誇りもそうじゃが、何よりも誰かの為に力を振るえるという思いも大切じゃ。それはお前の誇りを更なる力へと導き、いずれお前はこの儂を超える男になれるじゃろう。無論、儂もまだまだ現役じゃし、そう簡単にお前に越されるような事はせん。これからも共に邁進しようぞ」


「はい、老師様」


 こうして僕達は、仲間同士の出会いとその経緯を知る事が出来た。

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次回予告

ゼノンはレイシャにもう1つの報告をする。

それはガルーザスに関する事であった。

それを機にユーマ達はガルーザスの過去を知り、何故彼が国外追放になったのかを尋ねる。


次回、もう1人の愛弟子

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― 新着の感想 ―
[良い点] ユーマとラティも既に成人だけど ゼノンさん、イリスさんの二人は大人って感じだ。 [気になる点] これは師範や師範代とかじゃなくても門下生なら王城内に出入りできるって事かな。 [一言] …
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