第23話 実戦訓練
前回のあらすじ
ゲイル達に自分の前世の事を打ち明けたユーマ。
しかし、皆は驚きながらも、正体が何だろうがユーマはユーマだという事に変わりはないと、ユーマは皆に受け入れてもらえるのだった。
皆に正体を明かし、次の朝になった。
僕は寝間着から着替えて、アリアと一緒にリビングに入った。
「おはよう、ユーマ」
「おはよう、ユーマくん。今朝ご飯が出来るからね」
そこには、今まで通りのお父さんとお母さんの朝の挨拶が待っていた。
「おはよう、お父さん、お母さん」
僕は嬉しさの余り、泣きながら挨拶した。
お父さんとお母さんは僕の気持ちを察し、優しく抱きしめたり、撫でたりしてくれた。
あの告白の後、お父さん達は僕が転生者だと知りながらも今まで通りに接するといった。
だが、アリアだけが真実を知っていたと知ると、今度はアリアが皆にお説教を食らっていた。
正直、竜神のアリアがお説教を食らっているのは結構シュールな光景だった。
でも、お説教が終わったら、僕は改めて皆の家族としてまた暮らせる様になった。
朝食を食べて片付けが終わった後、僕はアリアを頭に乗せて家の外に出た。
「おはよう、ユーマくん!」
ラティが挨拶しながら抱き着いてきた。
これもいつも通りだ。
足元にはクルスもいる。
「おはよう、ラティ。昨日はごめんね」
「もういいわ。でも、またあんな事を言ったら複合魔法のフルコースだからね」
「肝に銘じます」
「よろしい。うふふふ」
そういって満面の笑みを浮かべたラティは、とても可愛かった。
最近身体が成長した影響か、女の子に反応する事が増えてきた。
これってもしかして……。
「あらあら。朝からお熱いですわねぇ」
エリーさんが見つめ合ってる僕らを見て、そんな事を言った。
その後ろにはダンテさんも同じ様に微笑んでいた。
まさか今のを見られていたのかな。
だとすると恥ずかしくなってきた。
そして、お父さん達も出てきて、口を開いた。
「それじゃあ、今日からは魔物との実戦訓練に入る。期間は5年間。2人にはこれから、魔物との戦闘、剥ぎ取り、従魔との連携、それらを実戦で覚えてもらう。この訓練からはアリアとクルスも参加してもらうから、皆頑張ってくれ」
「「『はい!』」」
「クルルゥ!」
僕達はバルバドス達につながれた馬車に乗り込み、一度王都の外に出た。
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それから1時間ほど公道から離れた場所を移動して、僕達は馬車から降りた。
そこは全く人の手が入っていない自然豊かな平原だった。
「魔物は国の城壁から離れた所にいる。まずは2人で魔物を捜して戦ってみるんだ。その後、アリアとクルスにそれぞれ、最後に全員で戦ってみるんだ。2人はこの5年の修業で、俺達と互角に戦えるようになっている。単純な強さなら、恐らくAランクの魔物にも引けを取らない筈だ。後は、魔物との戦いでその経験を積む事だ」
「まずは、魔物を捜しましょう。ユーマくん、探知魔法で魔物の魔力を捜してみて」
「うん、お母さん」
探知魔法とは無属性魔法の1つで、僕が使用できる無属性魔法だ。
自分の魔力を自分を中心に波の様に広げて、目標物の魔力を感知する魔法だ。
魔力は人や魔物だけでなく、木や岩といった自然の全ての物質に含まれている為、そういった物も探知魔法で目標物の魔力を見つける事も可能だ。
更に僕はその探知魔法を鍛えて、感知した魔物の魔力の強さからランクの測定ができる高等技術もできる様にもなった。
ここで無属性魔法の説明をしておこう。
無属性魔法とは、魔法の8属性のどれにも含まれない魔法。
個人によって使用できる魔法が変化するという特徴を持ち、主に誰でも使用できる魔法と、その人にしか使えない魔法の2種類に分けられる。
まず1つ目は標準魔法。
これは誰でも使用できる魔法で、主に身体強化、収納魔法などが該当する。
そして2つ目が固有魔法。
これはその人が使える魔法で、僕の探知魔法はこれに該当する。
でも、探知魔法は使用できる人が10人中1人は存在する、所謂レア度の低い魔法で、中には世界でその人のみが使えるという様なレアな固有魔法がある。
「サーチ」
僕は探知魔法を発動させ、半径500メートルまで範囲を伸ばした。
基本的に無属性魔法は発動させるのに魔法名を唱える必要はないのだが、僕は広範囲を探知する時はこうして「サーチ」と言って発動させている。
何故だかこうした方が唱えない時よりも広範囲を探知できるからだ。
すると、その中で微弱ながらも魔力の反応を感知した。
「見つけた。ここから西の方角に魔力の反応がある。数は10。魔力の強さから見て、Fランクだ」
「よし。では行ってみよう」
お父さんが馬車を収納魔法に入れて、僕達は魔力の反応がした方に足を進めた。
少し歩いて、肉眼で見える所まで近づくと、そこには某RPGの序盤で出て来る雑魚中の雑魚の魔物がいた。
「スライムか。あの数なら危険はないな。じゃあ、まずは2人で行ってみよう」
「「はい!」」
僕は収納魔法から実戦用のロングソード2本を、ラティは短剣2本を取り出して戦闘態勢に入った。
「ラティ、僕が左の5匹をやる」
「じゃあ、あたしは右の5匹ね」
それだけで打ち合わせを終えた僕達は、スライムに向かって突撃した。
「ライトニングエンチャント!」
僕は体に雷の魔力を纏った。
ライトニングエンチャント、無属性の身体強化に雷の属性を加えた複合魔法だ。
この魔法を発動させた状態では、通常の身体強化の遥か数倍に身体能力が向上する。
また脳から発する電気信号による伝達速度も上がり、反射神経なども飛躍的に向上する魔法だ。
「縮雷!」
更にその効果で一瞬でスライムの許まで加速した。
縮雷、お父さんの縮地を元に、ライトニングエンチャントによる雷速で可能にした、僕のオリジナルの移動術だ。
僕は一瞬でスライムに接近して、スライム達が気付いた時には1匹、また1匹とわずか5秒で5匹のスライムを倒した。
ラティも身体強化と短剣の二刀流で、残り5匹のスライムを倒した。
「2人共上出来だ。やっぱりFランクの魔物は瞬殺だったな」
お父さん達が褒めながら近づいてきた。
「2人とも、スライムがいた所を見てみて」
お母さんが指した所を見ると、スライムは消滅して代わりに虹色に輝く綺麗な石があった。
数は10個、スライムの数と同じだった。
「これは魔石といって、魔物の心臓部よ。魔石は魔力を貯める事も出来るし、マジックアイテムの材料にもなって重宝されているの」
お母さんが魔石の1つを拾って教えてくれた。
マジックアイテムは魔石を主体に錬金術で作られた、特殊なアイテムだ。
この世界の錬金術は錬金魔法という無属性魔法で行われているらしい。
高ランクの魔物魔石なら、武器や防具の材料にもなって様々な恩恵を得られる。
「スライムの場合は、この魔石が討伐の証明部位になるの」
「証明部位って?」
「自分達が討伐した種類の魔物を証明する部分の事よ。その魔物の種類ごとに部位は異なって、魔石も一緒に出すと報酬が2倍に増えるの。だけど、スライムはこの魔石が証明部位だから報酬の倍加はないわ」
「そうか。スライムは魔石を核にゲル状の体を持った魔物だ。だから、死ぬとゲルは消滅して核の魔石だけが残る。結果、証明する部位が魔石だけになるから魔石による追加報酬もないんだ」
「その通りよ、ユーマくん」
僕が転生した人間だという事を話して以来、こうして普通に難しい話にも参加出来る様になった。
僕達はスライムを魔石を回収して収納魔法に入れた。
「さあ、ユーマ。この調子で、次の魔物も探そう」
「うん。サーチ」
僕は再び探知魔法を使った。
その時、こっちに近づいてくる反応を感知した。
でも、その数がちょっと多い。
「こっちに近づいてくる反応あり。数は……これは……4……いや50! 強さは、Eランクの魔物だよ!」
「Eランクで50匹の群れで来るという事は……大丈夫だ。油断さえしなければ2人なら対処できる」
お父さんはその魔力の正体が何なのか分かったのか、苦笑いしながらそう言ってきた。
……何なんだろう?
「そろそろ見えるよ」
ダンテさんの声で反応があった方角を見ると、こっちに向かってくる何かがうっすらと見える。
身体強化で視力を強化すると、それは緑色の肌にスキンヘッド、身長は1メートルほど、腰布だけを纏って手には棍棒やナイフを持った魔物の集団だった。
「あれって確か……」
「ゴブリンよ。Eランクの魔物の定番ともいえる魔物よ。知能は低く、本能だけで動く獣ね。常に群れで行動し、他種族の雌を連れてきては自分達の繁殖用の苗床にする、まさに女の敵よ」
お母さんが嫌悪感をむき出しにしながら、説明した。
その説明を聞いて、ラティも気持ち悪そうな顔をした。
「なら殲滅よ! せ・ん・め・つ!!」
ラティは意を決した顔で結構物騒な事を口にした。
ラティはこの年で、繁殖や苗床の意味を分かっていたんだ。
でもそれには僕も同意だ。
そんな魔物は即殲滅するに限る。
「ならラティ、今度は」
「そうね」
僕はロングソードを収納魔法に入れて代わりに、お母さんからもらった魔法杖を取り出した。
ラティも同じく魔法杖を出して構えた。
僕達は魔力を練り上げ、魔法の発射態勢に入った。
「ユーマくん」
「いつでもいけるよ」
「じゃあ、行くわよ!」
僕らはそれぞれの魔法を放った。
「バーニングストーム!!」
「アクアトルネード!!」
ゴブリンの群れの中心に僕が炎と風の複合魔法のバーニングストームを、ラティが水と風の複合魔法のアクアトルネードを発動させ、ゴブリンをその魔法の中に巻き込んだ。
バーニングストーム、火属性と風属性の複合魔法で、前世で言う火災旋風をモチーフにした魔法だ。
指定した場所に炎の竜巻を発生させて炎で焼きつつ風による真空の刃で敵を切り刻む、強力な魔法だ。
アクアトルネード、水属性と風属性の複合魔法で、バーニングストームの水バージョンともいえる魔法だ。
高圧の水で敵を窒息させつつ風の刃で切り刻む、これもまた強力な複合魔法だ。
やがて、火と水の竜巻が勢いを弱めていき2分ほどで竜巻は消滅した。
僕はすぐに探知魔法を発動した。
「ゴブリンの反応なし。殲滅完了だよ」
「ふう~、すっきりしたわ。どう? パパ、ママ」
ラティはお父さん達の方を見たが、そこには呆然とした大人達がいた。
「そっ……そうね。魔力の練り上げも、魔法の発動速度も文句なしの及第点よ」
エリーさんは一足先に我に戻って、僕らの魔法を褒めてくれた。
「ありがとう、ママ」
「じゃあ、ゴブリンの所に行って、今度は剥ぎ取りをやろう」
「「はい」」
僕達は魔法を放った場所に行き、そこには体のあちこちが千切れて、焦げたりずぶ濡れになったゴブリンの死体があった。
「これ程の数をこうもあっさりとはな。やっぱり2人は将来大物の冒険者になるな。じゃあ、剥ぎ取りを教えるよ」
そういって、お父さんとダンテさんが僕らに剥ぎ取り用のナイフを渡し、お父さんがゴブリンの死体の1つに近づき、剥ぎ取りの仕方を教えてくれた。
ゴブリンは右の耳が証明部位になる。
僕は死体の右耳の付け根にナイフを当てて、力を入れて耳を切り落とした。
覚悟してはいたが、この感触は若干気持ち悪い。
でも、僕はもう迷わないと決めた為、我慢して今度は胸にナイフを入れてそこに手を入れて血と内臓の感触に耐えながら魔石を取り出した。
お父さん達も手伝ってくれて10分ほどで50匹全部の剥ぎ取りが終わった。
終わった時には、僕とラティの手は血に染まってとても生臭かった。
「うぅぅ……ゴブリンの血が手について、変な気持ち……」
「ちょっと待ってて、ラティ。ミストウォッシュ」
僕は水属性の洗浄系の魔法を手にかけて、僕とラティの手から、血の汚れと臭いを綺麗さっぱり洗い流した。
「ありがとう、ユーマくん」
「じゃあ、最後にこの死体を焼却だ。ゴブリンは魔石以外は素材にならないから、残りは燃やして処分するんだ。そうしないと、死体から瘴気が広がって疫病が蔓延したり、魔物や動物がゾンビ化する危険があるんだ」
そう言われて、僕達はゴブリンの死体を一カ所に集めて、火の魔法を放ち死体を1つ残らず焼却した。
それから暫く魔物との戦闘を繰り返し、お昼になる頃の僕達の成果は、スライム20匹、ゴブリン50匹、角兎というFランクの魔物20匹、グリーンウルフというDランクの魔物20匹となった。
角ウサギやグリーンウルフは討伐証明部位に加えて、爪や牙といった素材も剥ぎ取った。
この数の多さに、お父さん達は驚きながらも褒めてくれた。
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魔物情報
スライム
史上最弱といわれるFランクの魔物で、半透明状のゲル状の体に心臓部の魔石が見えるのが特徴。危険度は皆無で、子供でも木の棒1本があれば討伐可能。また、その体から分泌されるゲル状の液体は、軟膏といった薬の原料にもなり、スライムと適合した人は薬剤師になるという選択肢も生まれる為、その存在は人々の生活を縁の下で支えている。討伐証明部位は魔石。
ゴブリン
身長120センチ前後の体躯に緑色の肌を持つEランクの魔物。基本群れで行動し、洞窟などに集落を築く。繁殖力が高く他の種族の女を見つけると、住処に連れ去り繁殖用の苗床にする生態がある為、女性からは「女の敵」、「この世から消えて欲しい魔物ランキングナンバー1」などと最も嫌われている。だが、従魔として適合されると、生殖能力が治まり、安全となる。討伐証明部位は右の耳。
角兎
額に一角の角を持つFランクの兎の魔物。大きさは普通の兎と大差ない為、角に気を付ければ難なく討伐できる。また、その肉は美味であるため、平民の食料として需要がある。討伐証明部位は角。
グリーンウルフ
草原に生息するDランクの狼の魔物。その名の通り緑色の体毛を持ち、常に20前後の群れで行動する。自身の体を周囲の草と同化させて、気配を消し獲物に近づいて仕留める狩りを得意とする。討伐証明部位は尻尾。
尚、グリーンウルフはユーマの探知魔法で、難なく倒されたそうな。
次回予告
ユーマとラティの戦闘から一転し、今度はアリアとクルスの初陣となる。
その際、2人は自分達の従魔の強さを目の当たりにする。
次回、従魔の戦い




