第232話 レイシャ・トリシュローグ
前回のあらすじ
ゼノンの師匠との対面を迎えたユーマ達は、ゼノンと師匠の攻防から始まる。
彼の師匠は振り向く事もなくこれまでの旅で強くなったゼノンの攻撃を片手で受け止め、その実力の高さの片鱗を見せる。
そしていざ対面するとその師匠、レイシャは幼女の外見をしていて、本人曰く昔ある魔物によってこの姿にされたと語りだす。
フェニックス……それって確か――
「フェニックスといえば、EXランクの幻獣種じゃない!?」
今アインが言った通り、フェニックスは全ての幻獣種の頂点に立つEXランクの魔物で、クルスの種である空の王者的な存在と言われるグリフォンを更に上回る、空の魔物の絶対的支配者とも言われている。
全身が蒼い炎に包まれた鳥の魔物で、その炎は相手を燃やすだけではなく、傷ついた者を癒す再生の効果を宿している。
その再生の炎は己の身体にも効き、自身の魔力が尽きない限り如何なる攻撃を受けても炎と共に再生してしまう。
更に仮に瀕死になったとしても、溶岩や炎の海の中に入る事でその身体を完全に再生させ、何度でも蘇るとも言われている事から、討伐記録が存在しないEXランクの中でも絶対に討伐が不可能とも言われている。
また、種類は幻獣種だがその鳥という外見から幻獣種だけでなく鳥獣種の魔物達の頂点にも立つそうだ。
「あたしも数百年前に会った事があるけど、フェニックスは気まぐれな性格で、自分から人間に危害を加える事は無いけど目の前に死にかけた人間がいれば、助ける事もあれば見殺しにする場合もあるという、もう1度言うけど本当に気まぐれな性格の奴なのよ。だからそのフェニックスに命を救われたというのは、はっきり言ってレイシャさんは相当に運がいいと言えるわよ」
僕達の中でもコレット以上に人生経験が豊富なアインが言うなら、そのフェニックスがとんでもない気まぐれ者というのは事実なのだろう。
「確かにな。あの時もフェニックスは儂を助けた時、これはちょっとした気まぐれだとか言って、虫の息だった儂を助けてくれたのじゃ」
「それじゃあ、その時フェニックスに助けられた際に何か呪い的な物を掛けられて、それでその姿になったんですか?」
その質問に、レイシャさんは首を横に振って否定しながら答えた。
「いや。儂がこの外見になったのは呪いの類ではなく、その再生の炎による副作用による物なのじゃ」
副作用?
「儂が先程話した依頼先でしくじり、瀕死の重傷を負ったというのが今から200年以上も前の話。じゃというのに儂の身体がこの幼女の姿の理由は、そのフェニックスの再生の炎による物なのじゃ」
レイシャさんによると、その瀕死の状態でフェニックスに出会って気まぐれで助けて貰った際にその再生の炎を分け与えてくれた事で、レイシャさんは助かった。
「じゃが、気まぐれ故に再生の調節がいい加減じゃった様で、儂の身体に必要以上に再生効果が効き過ぎた結果傷と共に身体年齢まで再生――つまり若返ってしまい、儂は大人の身体からこの幼女の身体へと変貌してしまった」
それがレイシャさんが年齢とはあまりにも不釣り合いな外見をしている理由か。
「でもさ、ゼノンのお師匠さんよ。それが200年以上も前の話なら、そこから現在までで何で身体が成長していないんだ? 竜人族の寿命を考慮しても、とっくに大人どころかある程度の老人になっている筈だぜ?」
バロンさんの言った通り、ただ若返っただけならまた歳を重ねる事で肉体も成長している筈。
だがそれから200年以上もの間、レイシャさんはこの幼女の姿を保っている。
まるでエルフ並みの寿命になっている様だ。
「実はのぅ、この話にはまだ続きがあるのじゃ。若返っただけならまだいいのじゃが、フェニックスの再生の炎はその後もまだ儂の身体に影響を与え続けておるのか、儂の寿命がハイエルフ並みに増えてしまい、儂の身体は老化が非常にゆっくりと進む体になってしまったのじゃ。実はこう見えても、この200年間で最近漸く1~2歳分成長したくらいなのじゃよ」
200年で1~2歳分って……それって本当にハイエルフ並みだ。
つまりレイシャさんはフェニックスに助けられたが、その再生の炎をいい加減に与えられた事で肉体が若返り、その影響で寿命が増えて肉体の老化が遅くなってしまったという訳か。
確かに呪いの類ではなかったが、その再生の副作用はある意味呪いに近いかもしれないな……。
「じゃがな、この身体になったからといって、何も悪い事ばかりではないんじゃ。前向きに考えれば、結構良い物じゃよ」
えっ、どういう事?
「お主ら、子供の身体になったから儂が全盛期の頃よりも弱くなっていると思っている様じゃが、先程名乗った時、儂はこの竜魔武道館の師範にして全ての支部を束ねる総師範じゃぞ。それはつまり、儂がこのドラグニティ王国において最強だという事の証明になっておる。なのになぜ儂が弱くなったと思うのじゃ?」
「それって……まさか」
「フッ。ユーマ殿は理解した様じゃな。左様。儂は若返っても尚、身体能力がその全盛期の頃と遜色なかったのじゃ。つまり、儂は若返った事により身体の成長をやり直す事によって、更に強くなる術を見つけ、現在では若返る前での強さに加えて鍛え直した分も加わり、最強の竜化魔法の使い手となっておる。加えて老化も遅い為、ゆっくりと後世の育成にも時間を費やす事も出来てな。儂からすればこの若返った肉体は、まさにいい事尽くしなのじゃ」
若返っても尚それまでの強さが健在で、それに加えて身体の成長をやり直す事によってより強くなり、老化が遅いという事は寿命もその分長くなり、それを利用してゼノンさんの様な後世の育成にも時間を費やせる。
確かにレイシャさんの境遇は前向きに考えるといい事ばかりだ。
「それじゃ、レイシャさんはその身体に問題はないという事ですか?」
「そうじゃよ。儂は今後も弟子達と共に精進を重ね、ゼノンの様な素晴らしい人材を見つけては儂の持っている事の全てを受け継がせるつもりじゃ」
やっぱりゼノンさんの師匠というだけあって、素晴らしい人だ。
自分の身にあった出来事を真っ向から受け止めて、それらの経験から出来る事や出来そうな事を模索してこその判断。
こんな人を師匠に持てたゼノンさんが、あれだけに立派な人物になったのも目の前のレイシャさんを見れば自然と納得してしまう。
「ゼノン、お前さん立派な師匠を持てたな」
「そうだな。老師様は私も胸を張って誇れる、自慢の師匠だ」
「嬉しい事を言ってくれるな、ゼノンよ。師は本当に嬉しいぞ」
ゼノンさんとレイシャさんの師弟の絆を見て、僕達は改めて痛感した。
こんな素晴らしい人と仲間になれて本当に良かったと。
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魔物情報
フェニックス
EXランクの幻獣種の魔物で、鳥の魔物である為幻獣種と鳥獣種の2種類の魔物の頂点に立つ存在。
その蒼い炎は再生効果を宿しており、瀕死の生物を全快させるほどの治癒力を持っている。
更に己にも再生効果が効き、例え瀕死になっても炎のある場所に入る事で再び前回に再生する事から、EXランクの魔物の中でも最も討伐が不可能とされている。
次回予告
レイシャの話を聞き終えると、レイシャはゼノンがユーマ達を連れて来た事を指摘し、喜ぶ。
それはゼノンとイリスの出会いへと流れ、ユーマ達は仲間の出会いを聞きたくなり話すよう懇願する。
そしてゼノンとイリスは、互いの出会いの話をする。
次回、ゼノンとイリスの出会い




