第222話 魔道研究所を見学
前回のあらすじ
魔皇帝はイリス達皇族の兄弟姉妹の実績や思いなどを確認し、それらから纏めた結論としてヴァンデルン皇子を皇太子に選ぶ。
イリス達はそれに異論もなくヴァンデルン皇子の実績や人徳に納得し、何事もなく皇太子選びは終わった。
ヴァンデルン皇子が皇太子になる事が決まり、魔皇帝陛下の誕生日はその後も全員で賑わって幕を下ろした。
それから数日の間、僕達はこの国での主な目的を達成していた為、それぞれで帝都を見て回っていた。
他にも、ゼノンさんはヴェルフェン皇子と共に騎士団に混ざって訓練をしたり、バロンさん達は帝都の武器や防具を扱っているお店を見て回ったりして過ごしている。
そして今日、僕達銀月の翼はとある場所訪れていた。
『ここが魔道研究所ですか』
「うん。リリスティラン皇女が総責任者を務めて、あの人が新開発したマジックアイテムの量産を始めとした、あらゆるマジックアイテムの開発と研究が行われている機関さ」
「その他にも、あのトランスゴーレムじゃない方の従来のゴーレムの研究が常に行われていて、その研究内容や過程などから様々な分野の発展の基礎となり、今ではガイノウト帝国だけに収まらずアスタリスクの全ての国からの信頼が集まっているそうよ」
曰くそれらはいずれも、リリスティラン皇女が現在の総責任者になってからの事らしく、それだけあの人が積み上げてきた功績が大きいという事だ。
「そう聞くと、改めてスゲエ人だなって思うぜ。リリスティラン皇女は」
「そうでしょ、スゲエでしょう」
ふと正面からそんな声がして、意識を向けると入口の前にリリスティラン皇女と、何やら巨大なスライムの様な魔物の姿があった。
今までは皇族としてのドレス姿のリリスティラン皇女しか見ていなかったが、今回の彼女は研究者らしいシャツとスカートに、白衣を袖を通さずに羽織った服装をしていた。
「リリスティラン皇女、本日は魔導研究所の見学許可を出してくださり、ありがとうございます」
「いいのよ。研究所の見学を許すくらい、皇女でありここの総責任者である私にはお安い御用よ。そもそも、ここは近年では帝立学院の社会見学として利用される事もあるくらいだから、今更冒険者の許可の1つや2つくらい私の権限さえあれば簡単に通るわよ」
先日ヘルフォレストに行く際にリリスティラン皇女の研究室を訪れて、彼女が魔道研究所の総責任者だという事を知ってここに興味が湧いた僕達は、ここを見学したいと思い、彼女に見学を頼んだ。
結果はあっさりと通り、魔皇帝陛下の誕生日会も終わってそれぞれが落ち着き始めたという事で、僕達は今日研究所を訪れて、リリスティラン皇女は案内役を買ってくれたんだ。
「それから紹介するわね。この子は私の従魔、グラトニースライムのフラムよ」
フラムと紹介されたスライムは3メートルはありそうな巨大なドス黒い色をしたジェル状の身体をしていた。
「グラトニースライムって確か、スライム系の中でも特に希少な、デビル種と同じ第一級危険生物にも指定されているAランクの魔物よ」
アインの指摘に、僕達は驚愕していた。
確かに魔族はその魔力の質の高さ故に高ランクの魔物と適合するが、リリスティラン皇女はその中でも危険指定生物になっている魔物と適合していた。
「確かに、グラトニースライムはその悪食で過去の記録では一晩で1つの島の動植物を全て喰い尽くしたという、雑食性面では暴食の限りを尽くす魔物の比ではないわ。でもフラムは従魔として適合された事でその食欲面もある程度治まっていて、今ではこの通りすっかり大人しくなっているわ」
そう言い、リリスティランは皇女は隣にいるグラトニースライムを撫でていて、グラトニースライムも巨大な身体を振るわせて喜んでいる。
「それで、こうして従魔として一緒にいる内に、グラトニースライムの知らない能力も分かって来たわ。それがこれよ」
リリスティランがフラムの身体に手を出すと、そのフラムの身体のその部分に穴が開き、そこに手を突っ込んだ。
そしてちょっとして手を引き抜くと、その手にはさっきまではなかった金属の塊が握られていた。
「何? 今、そのスライムの中から金属が出た様に見えたけど、それって何処にあったんですか?」
「文字通り、フラムの身体の中からよ。グラトニースライムは取り込んだ物を異空間に1度送って、それを順番に体内に戻して養分として吸収するの。一晩で島の動植物を食い尽くしたというのもその無限に収容出来る収納能力で取り込んだ物を少しずつ体内に戻して順番に吸収していたの。でも、異空間にある間は吸収されないから、こうして従魔にする事が出来れば、貴重品の保管庫にする事も出来るのよ」
リリスティラン皇女曰く、彼女は収納魔法も会得しているがそれらに入れているのは研究資料の書物や試作品のマジックアイテムを入れるのに利用し、材料となる素材や魔石、鉱石などはフラムの異空間に保管させているそうだ。
なんでもこうする事で収納魔法に入れた内容を覚えやすく出来て、従魔の方に入れて置けば防犯性にも優れるそうだ。
「――とまあ、私の話はこれくらいにして、そろそろ研究所の中を案内するわ。ついて来て」
本題を思い出したリリスティラン皇女に言われ、僕達は魔導研究所の中に入った。
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「凄い! 色んなマジックアイテムが研究されているわ!」
「グルルルゥ!」
「こっちにも色々あるぞ! よく見たら、あれって冒険者向けのタイプじゃないのか?」
「ウォン!」
研究所の中はいくつかの部門に分かれていて、それぞれで冒険者や騎士などで使う様な武器や兵器系のマジックアイテム、日常生活などに使用する生活補助系、更には複数の金属を錬金魔法で組み合わせて新たな合金を生成する研究などの、いくつもの部に分かれて成り立っていた。
そしてその研究の様子が巨大なガラス製の壁によって見えている為、さっきからラティ、クレイル、クルス、レクスはその光景に興奮しっぱなしとなっていた。
「確かに凄いですね。これだけ研究が盛んだと、やはり完成した物も相当な物なんでしょうね」
「それは当然かもね。そしてその出来上がった研究成果を発表し、特許を申請してその内容を全ての国に公開して共有させているんですよね?」
「そうよ。過去の人族と他種族の戦争以来、不可侵条約が結ばれて以降、全ての国はあらゆる種族を受け入れて皆が平等に暮らせる世界を歴代の各王達が築いてきたわ。勿論、中にはそれに賛同せずに過激な思想を持つ者もいるけど、それは人間の性と言うか業みたいな物だからどうしようもないと思っているわ。それはともかく、私はその世界をいつまでも保って行きたいと願い、皇族としての教育を通してマジックアイテムの研究に力を入れる様になり、こうして今では魔導研究所の総責任者にまでなったわ。そしていくつものマジックアイテムを開発しては量産を行って、それを各国と共有させ、遂には先日にあのトランスゴーレムの開発に成功したわ」
それを聞くと、本当にこの人も次期皇帝になるのに十分過ぎる程の実績を出していると改めて痛感する。
だがこの人はあくまで研究者としての道を歩み、それによって次期皇帝となるヴァンデルン皇子を支えていくと決めているから、本当にイリスさんの家族は凄い人達ばかりだ。
そんな風に思っていると、僕達はある部屋にやって来た。
「ここは、私が自ら設計して開発したマジックアイテムを量産させる開発室よ。そしてここにいる者達は皆、私が直接選出して助手に任命した腕利きの研究者達よ」
その部屋では、僕達が帝城の彼女の研究室で先日見た試作品のマジックアイテムの量産が行われていた。
空間拡張の効果が付与されたテントのマジックアイテム、魔物の身体に付着してマーキング出来るカラーボール型のマジックアイテムなどの様々なマジックアイテムが量産化されて、僕達は今日1番の感動に包まれた。
「見て、ユーマくん! あそこにあるのって、鑑眼鏡じゃない!」
ラティの指した方には、先日僕達が貰った鑑眼鏡の量産品がズラリと並んでいた。
「鑑眼鏡の量産は、もうあと1歩と言う所まで来ているわ。先日のあなた達のヘルフォレストの冒険を通して使用した感想を基に、色々改良を施して一般普及を出来る様にして、現在進行形で量産化が進んでいるわ。数か月後には冒険者ギルドや各商会に新製品として、その量産型が世界中に届くと思うわ」
もうすぐこんなにも凄いマジックアイテムが世界中に出回るのか。
「あなた達の試作機も、後でその改良点を追加しておくから、今夜中にでも私の所に持って来て。1日もあれば3つくらい簡単に出来るから」
僕達の持っている鑑眼鏡も改良してくれる事になり、僕達はその後も研究所のあちこちを見て回り、夕暮れになる頃には僕達は見学を終えて研究所を後にしようとしていた。
「今日はありがとうございました」
「とっても楽しかったです」
『私も、これ程に研究が進んだマジックアイテムを見れて、竜神としても貴重な体験が出来ました』
「そう言って貰えて私も嬉しいわ。もしこれからもここに来る事があったら、警備の人にいつでも通す様に言っておくから、また見学に来て」
今後の見学もフリーパスで来られる様になり、僕達は非常に満足して帝城へと戻った。
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魔物情報
グラトニースライム
スライム系の最上位に位置するAランクの不定形種の魔物。
過去の記録で一晩で1つの島の動植物を全て食い尽くしたという事例から、第一級危険生物に指定されている。
普段は3メートルほどの大きさだが、自身のサイズを自由に変える事が出来、捕食のペースを自由自在に出来る。
最近の研究でその体内に取り込んだ物は、一旦異空間に贈られ、それを体内に順番に戻して吸収していたという事が明らかになっている。
討伐証明部位は魔石。
次回予告
ラティはアリアとクルスを連れて帝都を散策する。
その途中バロンとゼノンと会い、ラティはこの組み合わせを珍しいと思う。
次回、ちょっと意外な組み合わせ




