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第221話 皇太子決定

前回のあらすじ

リリスティラン皇女が開発したトランスゴーレムは、量産したらアルビラ王国の誘拐事件で従魔を失った被害者達に優先的に与えると発表された。

ユーマ達はその理由に感銘を受け、リリスティラン皇女も従魔の代わりとしてのデメリットもしっかりと理解し、それでも被害者達の為にとゴーレムの開発をして来たと伝える。

そして魔皇帝陛下はそのリリスティラン皇女の成果と決意を聞き、その場で皇太子を選ぶと告げた。

「まずはイリスティランとヴェルフェンだが……先に確認するがイリスティランよ、お前はこれからも冒険者としての道を選ぶので良いのだな? これが皇太子になりえる最後のチャンスでもあるぞ」


 その問いにイリスさんは魔皇帝陛下を真っ直ぐと見て答えた。


「はい、私には冒険者としての生き方が性に合っています。継承権を実質放棄する形にしてしまったというのは、お父様の期待に添えられないという事は承知しています。ですが、これが私の決めた道ですので、これからも冒険者のイリスとして生きていくつもりです。そもそも、これまでずっと祖国に尽くして来たお兄様達と違って、私は冒険者となって自由にやって来たのですし、今更皇太子になりたいと図々しく言う資格は、今の私にはありません」


 イリスさんは冒険者として自由奔放にやって来たという事から、自分には今更皇太子を目指す資格はないという結論を出していた。


「そうか。それがお前の決めた事ならば、私も1人の父親として認めよう。だがこれだけは覚えていてくれ。お前がこれからも冒険者として生きようが、その前にお前は私達の家族のイリスティランだという事を」


「はい、お父様」


 そして魔皇帝陛下は、ゼノンさんとスニィ、カミラに視線をやった。


「カミラ、娘の従魔として、これからもイリスティランを支えてやってくれ。そしてゼノン殿、スニィ殿、これからも娘をよろしく頼むぞ」


「はい。イリスの事は、我らにお任せください、皇帝陛下」


「私とご主人も一緒ですので、どうか大船に乗ったつもりで任せてください」


 ゼノンさんとスニィも了承し、イリスさんは改めて冒険者として生きる事が出来る様になった。


「次にヴェルフェンだが、お前も帝位継承権には興味がなく、この国の騎士達を率いる将軍として、強いては騎士総団長となってこれからのガイノウト帝国に貢献するという事で本当に良いのだな?」


「はい。俺は一国の王になって後ろで構えるよりも、先陣を切って戦う前で構える方が性に合っています。その為に騎士団で地位を築き、行く行くは将軍、最終的には総団長になって、兄上や姉上を支えていきたいと思っています」


 ヴェルフェン皇子もイリスさんとはまた違う形で帝位継承権には興味がなく、自分が目指す形でこの国の為にやりたい事を告げた。


「確かに王というのは後方で指示を出し、政治関連で部屋にいるという印象が強いが、各国の歴代の王の中には、お前の目指す様な先陣を切っては部下を率いて盗賊を始めとする犯罪組織との戦いで戦果を挙げた武闘派の王というのも存在している。だからお前の目指す武の面で優れた皇帝というのも少なからずありだと思うぞ」


 確かに、王というのは一見すると玉座に座っているイメージが強いけど、ヴォルスガ王国のレオンハルト国王やオベリスク王国のグレイドニル国王とかはどちらかと言うと、今魔皇帝陛下が言った様な年間行事で武闘大会を開催したり、王家に伝わる武具を扱える事で王の座についたりな武闘派寄りの王だった。

 そういう意味なら、ヴェルフェン皇子も自ら先陣を切って味方の士気を上げるという存在の皇帝にもなれる気がする。


「確かにそれもありと思います。ですが、俺よりも多くの実績を出してきた兄上や姉上の方がより皇帝の器を持っているというのが俺の見解です。俺は俺なりに、自分の力量を見極めたつもりです」


 しかしヴェルフェン皇子は自分よりも人徳のあるヴァンデルン皇子とリリスティラン皇女がより皇帝の器だと考え、そして自分は己の力を活かせる場所を求める事もあって、自ら将軍を目指している様だ。


「成程な。お前がそう言うのなら、私はそれを尊重し、お前の夢を応援するとしよう。ではお前も帝位継承権を残る2人に譲るという事で良いのだな?」


「はい」


 ヴェルフェン皇子ははっきりと答え、魔皇帝陛下は深く頷いた。


「分かった。それでは、ヴァンデルンとリリスティラン、この2人から皇太子を選ぶとしよう」


 魔皇帝陛下は2人を見て、それぞれの功績や人望などを語り始めた。


「ヴァンデルンはその魔眼や、自身のカリスマ性でヴェルフェンやリリスティランを始め、このガイノウト帝国で成功を収めた者達の殆どを現在の地位へ上り詰めるきっかけを作り、更にはお前自身も常に努力を重ね、帝国中の民もお前に絶大な信頼を置いている。それらを踏まえても、お前は誰よりも皇太子に向いているかもしれない」


「そう言って貰えて、光栄です」


「リリスティランもまた、様々なマジックアイテムを研究、開発をし、その製造法を全ての国に共有させる事でマジックアイテムによる魔法技術の発展を促し、更には今回、試作品だがお前の長年の研究成果のトランスゴーレムを完成させた。お前のこれからの研究も考慮しても、今後のマジックアイテムの技術の進歩が大変楽しみだ。それは民も同様だ。研究者として、学院の魔導科に特別講師として活躍しているお前の姿に、民の大きな支持を得ている。それはヴァンデルンにも引けを取らない程にな」


 やはり、イリスさんを除く皇族の兄弟姉妹の中では、ヴァンデルン皇子とリリスティラン皇女が絶大な支持を得ていた。

 ヴェルフェン皇子も主に騎士団などから支持を集めているが、彼の場合は次期皇帝を目指してではない為、純粋な支持率ではあの2人の方が上だというのが、僕達にもはっきりと伝わってくる。


「しかしリリスティランはこれからもマジックアイテムの研究と開発に努め、更なる技術の発展を目指したいのだな?」


「はい。その為に、このトランスゴーレムをもっと改良し、量産化に向けてもっと研究を重ねようと思っています」


「成程な……では、これらの事を纏め、いよいよ皇太子を決めようと思う」


 遂にこの時が来た。


 僕達を始め、ゼノンさん、マッハストーム、それにセリスティラン帝妃に、自ら降りたイリスさんとヴェルフェン皇子が見守る中、魔皇帝陛下は前に並ぶ2人の皇族を見やって口を開いた。


「私は、皇太子に第1王子のヴァンデルンを選ぼうと思う。理由は人徳の他に、リリスティランの今後も考えてだ。リリスティランの開発したマジックアイテムはどれも非常に役に立つ物ばかりだ。だが、リリスティランが皇帝になれば、研究は勿論続けられるが政治関連の仕事と並行しなければならない為、どうしても研究の時間が減ってしまう。それはリリスティランも望む事ではないだろう。よってそれらの事情などを考慮し、同時に民達からの信頼なども含めて、誰よりも人を導く才能に長けたヴァンデルンが次期皇帝に相応しいというのが私の答えだが、皆はこれに異論はないか?」


 その問いにまずはヴェルフェン皇子が答えた。


「俺は異論はありません。寧ろ、兄上でしたら納得しかありません。俺は既に兄上が皇帝になったら、騎士団を率いて生涯支えると決めていますから」


「私も文句はありません。それに、お父様が私の研究の事を思って決めてくれた事には、感謝しかありません。私もこれで思う存分研究に力を注いで、これからもお兄様を始めとする全ての人の為に頑張ろうと思います」


 リリスティラン皇女も同じで、イリスさんも頷いていた。


「私もいいと思います。正直最初に継承権を放棄した身としては、お兄様達に国の未来を押し付けた様な物で申し訳なく思っていますが、私もヴァンデルンお兄様でしたら間違いなく素晴らしい皇帝になると確信しています」


 3人の皇族から賛成の声が上がり、ヴァンデルン皇子は魔皇帝陛下の前に跪いた。


「分かりました。不肖ヴァンデルン・フォン・ガイノウト。魔皇帝陛下のご期待に応え、皇太子になると宣言します」


 ヴァンデルン皇子が宣言した事でこの瞬間、彼がガイノウト帝国の皇太子になる事が決定した。


「ウム。期待しているぞ、ヴァンデルン。正式に国民に皇太子と宣言する立太子の儀式についての詳しい内容は、追って話す。だが彼を皇太子にするという事は決定しているので、各自この事を覚えて置く様に」


 正式に皇太子になるのは立太子の儀式を行ってからというのは、アルビラ王国のルドルフと同じ様で、その詳しい内容についてはまた後日に国中に発表するという事になった。


 こうして何事もなく、皇太子の決定は終了し、イリスさんを始めとする皇族はこれで問題なくそれぞれの道を歩めるようになった。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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次回予告

誕生日会が終了し、ユーマ達はその後それぞれで活動する。

その中でユーマ達はある場所を訪れた。

そこはリリスティラン皇女が総責任者を務める、魔道研究所だった。


次回、魔道研究所を見学

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― 新着の感想 ―
[良い点] 全員が有能且つそれぞれが自身に出来る事を理解した上でしっかり選ばれ、 その事に全員が納得したという流れなら確かにすんなり話が纏まるな。 [気になる点] これから本格的に皇太子達はルドルフ王…
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