第21話 再び神の間へと
前回のあらすじ
5年の時が経ち、ユーマとラティはゲイル、ダンテと最終テストとして模擬戦を行う。
これまでの経験を活かし、互角以上に戦える様になったユーマ達は合格点を貰い、魔物との実戦訓練を受けられるようになる。
一昨日お父さん達に模擬戦で合格点を貰い、いよいよ明日は魔物との実戦訓練だ。
でも、僕には1つ心配事がある。
それは僕に生き物の命を奪えるかという事だ。
そう、魔物と戦うという事は、その魔物を殺すという事だ。
更に冒険者にもなれば、犯罪者と戦って最悪殺す事も厭わない場合がある。
前世では命のやり取りとは関係ない、極めて平穏な生活を送っていた僕に命を奪う事が出来るのか不安だという事だ。
今僕はアリアと一緒に以前来た教会に来ている。
今回はお母さんもいなければ、いつも一緒のラティもいない。
ちょっと1人で行きたいと思って、一緒に行きたがるラティを何とか説得してアリアと一緒というお母さんからの条件でやってきたのだ。
「行こう、アリア」
『はい。イリアステル様に会えるといいですね』
あの時、別れの際にイリアステル様が僕が今後教会でお祈りをする時、また神の間に来れる様にすると言った通り、あれから僕とアリアは何度も教会に来てイリアステル様に会っている。
アリアも一緒なのは、イリアステル様が最初の時の事を教訓に、以降はアリアも一緒に神の間へ連れてきてもらっているからだ。
だから、今の僕のこの不安を打ち明けられるのはアリアとイリアステル様しかいなかった。
僕はシスターに神への礼拝に来たと告げて、女神像の間へ通してもらった。
その像の前に膝まづいてお祈りの姿勢をとると、意識が遠のくあの感覚がした。
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次に目を開けると、真っ白な空間にいてそこには僕の他にアリアとイリアステル様の姿があった。
「お待ちしておりました、ユーマさん」
「おはようございます、イリアステル様。ありがとうございます。神の間に呼んで頂いて」
「何やら下界から不安を告げるお祈りを感じたので、様子を見たらあなただったじゃありませんか。ですから、これは何か悩みがあるのだろうと思い、ここに連れて来たのです」
「ありがとうございます。あの、イリアステル様、実は今日はあなたに話したい事があったんです」
「あなたの様子はいつも見守っていました。ですから何を思っているのかは大体分かりますが、神として、民の相談は聞きます。どうぞ、お話しください」
僕はイリアステル様に、明日魔物との実戦訓練が始まる事を話した。
でも、生き物の命を奪う事が今になって怖くなって、不安になった事を話した。
「成程、ユーマさんのお気持ちはよく分かります。ですが、それでいいのです」
イリアステル様の口から出た言葉の意味がよく分からなかった。
「えっ? どういう事ですか?」
「ユーマさん、あなたは元々地球の信者だった事による影響か、命の尊さをよく理解しておられます。魔物でも犯罪者でも、このアスタリスクにある生命である事に変わりはありません。だからこそ、その命を奪う事に対する恐怖や不安は人間として当然であり、素晴らしいものです」
「でも、その不安の所為でこうして悩んでるんです」
「では、ユーマさんは最初から命を奪う事に何も感じない人間だった方がマシでしたか?」
イリアステル様の言葉は、僕の心にショックを与えた。
命を奪う事を何とも思わないなんて、そんなのは嫌だ!
「そんなのはもっと嫌です!! そんなのは人間じゃありません! むしろ本能のままに生きる獣です!!」
「そう。それでいいのです」
「えっ?」
「今あなたが言った通り、命を奪う事に何も感じないのは唯の獣です。人間は、生き物は他の命を己の糧にして生きていくのです。ですからユーマさん、魔物や犯罪者の命を奪う事を恐れるのは、恥ずべき事ではありません」
イリアステル様の言葉は、まさに目から鱗だった。
僕はいつも食事で、生き物や植物の命を食する事で生きてきた。
命を食するという事は、自分の命を繋ぐ為だ。
つまり、僕はとっくの昔に、それどころか前世の時から他の命を奪ってここまで生きて来たんだ。
なのに、魔物の命を奪う事に悩んで、イリアステル様にその苦しみをぶつけて、僕は自分が情けなくなったが同時に吹っ切れもした。
「ありがとうございます、イリアステル様」
「どうやら、吹っ切れたようですね。ユーマさん、私から忠告しましょう。これから先、もしあなたが再び命の事で迷う様な事があれば、その時は先程の私の言葉を思い出してください。そして、奪った命の重さを忘れないでください」
「分かりました。僕はもう迷いません。これからは、奪った命、僕の糧になった命、その一つ一つの重みを大切にして生きていきます」
「元気になって良かったです。そろそろ限界時間になりますので、お二人を現世に戻しますね」
「はい。今日は僕の悩みに付き合ってくれて、ありがとうございました」
「いいんですよ。では、またお会いしましょう」
その言葉と共に、僕の視界が霞んでいき、次に気が付いたらそこは礼拝堂だった。
『ユーマ、気分はどうですか?』
「大丈夫。ごめんね、アリア。心配かけて」
『気にしないでください。私はユーマが元気になってくれて、それだけで嬉しいのですから』
「うん。イリアステル様のおかげで、僕は今後の未来への不安が吹っ切れた。実はその際、決心した事があるんだ」
『何でしょうか?』
「お父さん達に、僕の正体を話す」
『いいのですか? 今まで皆にも秘密にしてきたのでしょう?』
「いいんだ。イリアステル様の言葉を聞いて、僕分かったんだ。今までの僕は、今の生活が幸せで正体を明かさなかったのは、その幸せを壊したくなくて逃げていたんだって。でも、イリアステル様に会い話が出来て、僕は決めた。例え、お父さん達や、何よりラティが受け入れてくれなくても、僕は正面から向き合うって」
『そうですか。それがあなたの望んだ事ならば、私はあなたの従魔として、あなたの道を肯定します』
「ありがとう、アリア」
そして僕達は教会を後にして、家への帰路についた。
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お待ちしております。
次回予告
遂に父親達に正体を話す決意をしたユーマ。
皆に事実を話し、それを聞かされた皆の反応は。
次回、正体の告白
次回は21時に更新します。




