第212話 害虫駆除作業
前回のあらすじ
バロン達はユーマ達によって鍛えられて会得した、それぞれの複合強化を使ってヘラクレスドラゴンの討伐に成功する。
その姿を見たユーマ達は、アライアンス組の実力がSランクにも届く程だと判断し、同時に八輝帝にも負けないとお墨付きを出す。
ヘルフォレストの北部を目指し、僕達はそれからもずっと森の中を進んでいた。
途中何度か魔物に遭遇したが、僕達と新たに複合強化を得たバロンさん達によって討伐され、順調に進む事が出来ていた。
そして現在、森に入って3日目となった。
この時僕達は朝食の準備をしていて、僕はトロスさんとイリスさんに料理を教えながら用意していた。
2人はそれぞれのパーティーの食事番を担当していて、僕に教えて貰いながら新しい料理を覚えようとしていた。
「この肉は、この合わせ調味料に漬け込んで一晩置いておいた物です」
「昨夜寝る前に何かしていたのは、これだったんですね」
「既にその時には料理が始まっていたのね。ユーマくんの作業を見ていると、勉強になるわ」
2人は僕が前もって仕込んでおいた材料を見て、色々メモしている。
そうして漬け込んだオークの肉を焼き、同時に作っていた野菜スープを人数分に配って、僕達は森の中での食事を楽しんでいた。
「やっぱユーマの作る飯は美味いな。うちのトロスも腕はいい方だけど、どうしても男だけだと単純な料理になりがちになるんだ」
「あら。それを言うなら私もそうよ。私も皇族としてあらゆる勉強をしてきたけど、料理は冒険者になって旅立ってから覚えたから、どうしてもお肉を焼いたり、簡単なスープだったりと、あまり手の込んだ料理は街の料理屋とかじゃないと食べられなかったわ」
「でもそれも仕方ないかもしれません。冒険者にとって食事は食べる事が出来ればそれでいいという考えが主ですから、僕達の様に簡単ですがしっかりと作っている方が珍しいのですから」
バロンさん達が言った通り、冒険者の主な食事は、保存の利く硬いパンだったり干し肉だったりと、長期保存が利いて味や栄養面が最低限摂れる物だったりする。
後はその時の現地調達で手に入れた肉や野菜などを焼いたりして食べるくらいで、僕達の様な旅の間でもしっかりと料理を作って食べている冒険者はかなり少ない。
「だが収納魔法に収めておけば、食材の鮮度は保たれ、同時に道具が揃っていればこうしてユーマ殿の様にしっかりとした食事が用意出来る。それにこの様な美味なる食事が出来れば、遠征に出ている時でもその日を頑張ろうと思えてくる。そう思うと、食事の大切さという物がよく分かる」
「そうですね。食事は生き物にとって、とても重要な物です。美味しい食事を食べると、人はその分力が出てきます。だからこそ僕は野外だろうと常に皆の事を考えて、こうしてしっかりした料理を作って皆のモチベーションを保っているんです。単に食事番と言っても、実はかなり重要な役割を持っているんですよ」
「本当にその通りだな。ユーマの美味い飯を食うと、今日も北を目指して頑張るぞって、力が湧いてくる気がするぜ」
皆が納得し、英気を養ったのを確認し、僕らはやがて食事を終えて片づけ、再びヘルフォレストの北部を目指して出発した。
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森に入って3日も経つと、流石に周囲の魔力に慣れて、僕も探知魔法で魔物の魔力と周囲の植物の魔力を見分けられる様になった。
それはつまり、アリア達上空の偵察組と飛行して、僕も魔物を探してそのランクを皆にいち早く教えられる様になったという事だ。
その時、右の方角から何だか聞き覚えのある虫の羽音の様な音が凄い音量でしてきた。
同時に、僕の探知魔法にも複数の魔物反応が出た。
「右の方から魔力を感じます。ランクはAで、物凄い数です」
「何だ? 何だかスゲエ嫌な気分になる音だな……」
「しかもこの数と音、かなりの数ですね……」
何か嫌な予感がしながら僕が示した方角から現れたのは、巨人族並みの大きさを持つどす黒い色をした蚊の魔物の群れだった。
「あれは鑑定するまでもなく分かるわ。あれはデビル種の魔物、デビルモスキートよ。デビル種らしく危険な魔物だけど、単純な強さならデビル種の中では最弱に位置する魔物よ」
イリスさんによると、デビルモスキートは普通の蚊と同じく吸血して栄養を摂取するが、その際血と一緒に魔力まで吸うそうだ。
しかも針が巨大な分、吸血と一緒に出血まで起こすから、刺されたらあっという間に失血死と以前黒の獣の下っ端が連れていたギガントスリーチよりも危険度が高いとの事だ。
「でもこんなでかい蚊を団体で見ると、スゲエ嫌な気分になるな……」
バロンさんは目の前のデビルモスキートの大群を見て、少々……というより物凄い嫌悪感を剥き出しにしている。
「ああ。俺の故郷は田舎だったから自然が多い分、蚊を始めとする害虫が多かったからある程度慣れているつもりだったけど、あんなでかいのを見ると気持ち悪くなってくるぞ……」
ダグリスさんも同じ様にしているが、よく見たらラティ達女性陣が真っ青になっていて、あのゼノンさんとトロスさんですら嫌悪感を剥き出しにしている。
何を隠そう僕ですら、鏡を見たらとんでもなく嫌そうな顔をしているのが分かるくらいだ。
前世の頃ちょっとした気持ちでネットの蚊のドアップ画像を見た時、そのグロい姿にトラウマになりかけたくらいだから。
そして目の前にいるデビルモスキートは、どす黒い色を除けばその画像の蚊をそのまま現像にした様な印象な為、早く駆除してやりたい気持ちになる。
「よく見たら、奴らのお腹が膨れているわ。ついさっき何かの獲物から血を吸ったばかりの様ね」
「という事は、今変に潰したら大量の血が辺りに飛び散りそうだ……ラティ、氷魔法で奴を氷結する事は出来そう?」
「やってみるわ……」
ラティは本当に嫌そうな顔で、ウラノスを構えた。
「コレット、あいつらの動きを牽制して」
「分かったわ。アルテミスと、普通のクロスボウでやってやるわ」
コレットは右手にアルテミス、左手に初めて会った頃に使っていた普通のクロスボウを収納魔法から取り出し、クロスボウの二丁流となった。
片手で持つ辺り、腕を部分強化している様だ。
いつもならユグドラシルを持つ処だけど、この間のヘラクレスドラゴンと違って動きが速そうな相手という点から、取り回しの利くクロスボウで攻撃を行う事にした様だ。
「クレイル、僕と一緒に腹部を避けて攻撃だ。アリア達も同じ様に腹部を避けて。バロンさん達もです。イリスさんとダグリスさんは氷系の魔法で動きを止める事に集中してください」
全員が頷き、僕達は戦闘を開始した。
最初にコレットがアルテミスと左手のクロスボウで魔力の矢を放ち、デビルモスキートを牽制し始めた。
アルテミスはその能力でヘルフォレストの草木の魔力を吸収して矢を形成している為、コレットの消費魔力は普通のクロスボウの矢のみとなっている。
よってコレットは大量の魔力の矢を放ってデビルモスキートの群れを翻弄したり、隙を見て数体の頭部を射抜いたりして仕留めていた。
「風使いの俺には、ちいっと戦いづらいな……このっ!」
バロンさんも風の刃で下手に斬らない様、上手く調節して胴体と頭部を両断して血が噴き出ない様に仕留めている。
「それでもやるしかないですよ!」
トロスさんも双剣で頭部を切断して仕留め、ロップスとピックも自身の能力を駆使して連携して翻弄しては着実に倒していた。
「ニブルヘイム!!」
「コキュートスフロスト!!」
「フリージングホール!!」
ラティ達魔法使い組の3人が放った最上級の氷魔法が次々とデビルモスキートを凍結させ、まだ生きている奴は見事に腹部のみが凍り付いて動けなくなっていた。
「凍った奴なら腹部を破壊しても血が飛び散る事は無い! もう遠慮する事は無いという事だ! 竜爪砕刃撃!!」
ゼノンさんの竜の爪で繰り出された一撃で、デビルモスキートを氷ごとバラバラに砕いて討伐し、スニィも続いて竜の尻尾や爪で砕いて止めを刺していた。
「クレイル!」
「おう!」
一気にクレイル、続いてアリア、クルス、レクスと一緒に仕掛けて、残りのデビルモスキートを仕留めた。
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漸くすべてのデビルモスキートを討伐したが、僕達の目の前には巨大な蚊のバラバラになった死骸が有象無象となって散乱していた。
その光景はかなりグロテスクだった。
「ウエッ……もう向こう100年は蚊を見たくないよ……」
「こんなのを持って帰ったら、ギルドも大騒ぎになると思うわよ……」
「そうね。とりあえず討伐証明部位の針と、魔石だけ回収して、後は焼却処分しましょう」
「賛成だ。こんなの死体ごと持って帰ってギルドで報告したら、女性スタッフや女性冒険者を中心にパニックになると思うぞ」
僕達は満場一致で証明部位と魔石だけ回収し、残りは辺り一帯に雷魔法や炎魔法を放って死体を焼き払った。
尚、火事にならない様あらかた燃えたらすぐに水や土の魔法で消火し、被害を最小限に抑えた。
「まさかこんなデビル種がいるなんて……魔物は奥が深いというか、迷惑というか……」
「今回は間違いなくもう2度と会いたくない奴だろうな」
そんな事を想ったり口にしたりしながら、僕達は北部へと脚を進めた。
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魔物情報
デビルモスキート
巨大な蚊の姿をした、Aランクのデビル種の昆虫種の魔物。
その巨大な針による吸血は、対象に血と共に魔力も吸い出し、その吸血量と速さはギガントスリーチの非ではなく、あっという間に致死量の血を吸われる。
また、吸血直後の腹部は強度が弱く、下手に斬ったり潰したりすると大量の血が飛び散り、他の魔物が血の匂いに釣られてやって来てしまう。
だがデビル種全体では最弱とも言われており、それを補う為に群れで生活する。
討伐証明部位は口部の針。
次回予告
遂に森の北部へとやって来たユーマ達は、イリスの提案で魔物が出そうな場所を目指す。
その中でイリスの話を聞きながらその場所を目指すと、そこにはヴァンデルン皇子のお告げにあったのに相応しい魔物の姿があった。
次回、北の森で




