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第204話 魔皇帝と帝妃

前回のあらすじ

イリスの正体がガイノウト帝国の皇女だという事を知り、ユーマ達は彼女が皇族としての境遇から世界を知る為に冒険者をしていた事を聞かされる。

それにより、ユーマは先日の八輝帝の件からの彼女に関する疑問が全て解ける。

 入って来たのは、イリスさんをもっと大人びた雰囲気にした悪魔族の女性と、これまで出会った魔族を遥かに凌駕する凄まじい威圧感を発する白髪の魔族の男性だった。

 その2人の背後には、全身を真っ黒なローブに包んで素顔がよく見えない者が控えていた。


「イリスティラン、よく戻って来たな」


「2年振りかしらね。去年は帰ってこなかったから、寂しかったわよ」


「お久し振りです、お父様、お母様」


「ご無沙汰しております、魔皇帝陛下」


「おお、ゼノン殿。お主も久し振りだな」


 ゼノンさんも魔皇帝陛下とは元々知り合いだった様で、再会の挨拶をしていた。


 そしてあの人達がイリスさんの両親……つまりこの帝国の魔皇帝と帝妃か。

 まだ目を合わせてすらいないのに、既に凄まじい魔力を感じる。

 更にあの黒ローブも、魔皇帝に勝るとも劣らない程の濃密な魔力を発している。

 おそらくあれが……。


 処で、今帝妃が気になる事を言ったな。


「去年は帰ってこなかったって、イリスさん去年は帰郷しなかったんですか? 確か家族での祝い事は家族全員でやるって言ってませんでした?」


 ラティも同じ事を思った様で、タイミング良くイリスさんに尋ねてくれた。


 あの時イリスさんが僕に頼んだ時に、彼女は家族の祝い事に関する家族ルールの様な物を言っていた。

 だけど、今の帝妃の言葉だと、去年は帰郷していなかった事になるから、ちょっと疑問に思ってしまった。


「ええ。去年は丁度ユーマくん達の実家に行っていて、別に帰れない事は無かったけど、Aランクになる為に結構力を入れていた時期だったから手紙で今回は帰れそうにないって伝えていたの」


 そうだ。

 今思い返すと、その頃は丁度イリスさんやゼノンさん達と出会った頃で、その時の赤黒の魔竜はBランク冒険者だった。

 前回の武闘大会が終わって僕達がアライアンスを結んで共同で依頼を受けて、それぞれの次の目的地を決めた時、ゼノンさん達はアルビラ王国に行くと決めて、僕とラティはアルビラ王国に僕らの実家がある事を話して、2人はお父さん達に挨拶する為にアルビラ王国へと向かった。

 そして僕達がエリアル王国に行ってコレットと出会い、暫くしてからお父さん達やゼノンさん達と手紙でやり取りをしていた。

 その手紙のやり取りで、ゼノンさんやイリスさんがガイノウト帝国に行っていない事は、自然と去年イリスさんは里帰りしていなかったという結論になる。


 イリスさんによると、その頃はBランクからAランクになるべく様々な依頼を受けていて、冒険者業に力を入れたり、アライアンスを結んだ仲間の僕達が生まれ育った国を見たりするのに忙しかった事で帰郷するのが難しかったそうだ。


「そういう事ですか」


「でも大丈夫よ。あの時はちゃんと手紙で知らせたし、受け取った返事も了承が出たから、ユーマくん達が気にする事は何1つ無いから」


 僕達がイリスさんと話していると、魔皇帝陛下が僕達に視線を向けて来た。


「イリスティラン、この者達か。兵達が知らせに来た、お前が連れて来た客人というのは」


「はい、お父様。私とゼノンが冒険者としてアライアンスを結んでいる仲間、銀月の翼とマッハストームの者達です」


 イリスさんが僕らを紹介し、僕達も改めて自己紹介した。


「初めまして、魔皇帝陛下。Sランクパーティー、銀月の翼のユーマ・エリュシーレです。こちらは従魔の竜神のアリアです」


『初めまして。アリアと申します』


「銀月の翼のラティ・アルグラースです。この子は従魔のグリフォンのクルスです」


「グルルゥ」


「クレイル・クロスフォードです。こっちは従魔のフェンリルのレクスです」


「ウォン!」


「コレット・セルジリオンといいます。私の従魔のティターニアのアインです」


「アインです。初めまして」


 僕達が名乗ると、魔皇帝は喜びと驚きが混ざった様な感じになった。


「ほう! 君達がかのエリアル王国の英雄であり、最近名を轟かせている銀月の翼か! まさか私の娘と親交を結んでいる冒険者が君達とは、驚きだな」


 やはり魔皇帝陛下も、僕達の活躍は知っていたのか。


「それからお父様。こちらはマッハストーム、私がアライアンスを結んでいるもう1つのパーティーで、彼らもまた私の大切な仲間です」


 イリスさんがバロンさん達を紹介し、彼らも自己紹介した。


「お初にお目にかかります、魔皇帝陛下。Aランク冒険者パーティー、マッハストームのリーダーのバロン・レブラントです。こっちは俺の従魔のガストイーグルのロップスです」


「同じく、マッハストームのトロス・スティーブンです。私の従魔のシャドウパンサーのピックです」


「同じく、ダグリス・ハーナルドです。俺の従魔のリビングメイルのジオンです」


「君達の事も、イリスティランからの手紙で知っていた。こうして娘の友人達に会えて、私はとても嬉しく思う」


「あなた、そろそろ私達も自己紹介をしないと、皆様に失礼ですよ」


 イリスさんのお母さんである帝妃に指摘され、魔皇帝陛下はまだ名乗っていない事に気付き姿勢を改めた。


「これは失礼した。私はガイノウト帝国の皇帝、ヴァンパイア族のアスモデウス・フォン・ガイノウトだ。こちらは私の妻の、セリスティラン・フォン・ガイノウトだ」


 へえ、イリスさんが皇族だというから、魔皇帝陛下は悪魔族だと思っていたけど、ヴァンパイア族だったのか。


 ヴァンパイア族は、魔族の中でも特に特殊な能力を持つ種族で、血に関する能力を持っている。

 そしてその血を使って、様々な力を発揮するという特殊な種族だ。

 摂取した血の質によって力も変化するが、その力は魔族の中でも特に高いと聞く。


 そう考えれば、彼が魔族の現在の王というのも頷ける。


 そして自己紹介した魔皇帝は、隣にいたセリスティランという女性を紹介した。


「初めまして。イリスティランの母の、悪魔族のセリスティランと申します。うちのイリスティランがお世話になっている様で」


「いえいえ。僕らの方こそイリスさんには、良くして貰っております」


 僕らに自己紹介した魔皇帝陛下は、後ろに控えていた黒ローブを前に出して紹介した。


「こちらは私の従魔、ノーライフキングのノワールだ」


 ノワールと呼ばれた従魔のノーライフキングは、僕らに頭を下げて自己紹介した。

 その際、下げた頭を戻した時にフードの中身がちらっと見えて、そこには人間の頭蓋骨の一部があった。


『初めまして。アスモデウス様にお仕えする従魔、ノーライフキングのノワールと申す』


 ノワールの発する声は、アリアと同じ様に人間とはちょっと違う感じに聞こえた。


 こうして僕達はイリスさんの両親である、魔皇帝陛下と帝妃閣下と顔合わせする事が出来た。


「それでお父様、今回私が帰郷したのは、お父様のお誕生日を祝う他に、この子達に関するお願いを私からもしたいと思ったのです」


「ほう、一体何事かな」


 イリスさんが魔皇帝に頼み事をしようとした時、僕達が今いる部屋の扉が開き誰かが入って来た。


「父上、イリスティランが帰って来たのですか?」


「おお! イリスティラン、元気だったか!」


「おかえりなさい、イリスティラン、去年は帰ってこなかったから、寂しかったわよ」


 入って来たのは、ヴァンパイア族と悪魔族の男性と、悪魔族の女性だった。


「ヴァンデルンお兄様、ヴェルフェンお兄様、リリスティランお姉様、お久し振りです」


 どうやらイリスさんの兄と姉の様だ。

 という事は、彼らはガイノウト帝国の第1皇子と第2皇子、第1皇女という事だ。


 こうして、僕達はガイノウト帝国の皇族全員と顔を合わせる事となった。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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魔物情報


ノーライフキング

EXランクのアンデッド種であり、全てのアンデッドの頂点に立つ魔物。

生と死を超越した存在であり、生ける者物の魂を抜き取り死者にする能力と、死体に魔力を注いでアンデッド化させる2つの能力を持つ。

また、光属性の上級である浄化系の魔法も扱え、アンデッドを一瞬で浄化させる事も可能。

加えて非常に高い知性も持ち、意思の疎通も出来る。

そのアンデッドの常識を超えた特徴から、一説では神がアンデッドになった存在とも言われている。


次回予告

イリスの家族と出会ったユーマ達は、彼らと対面し、それぞれの性格や特徴などを見る。

その際にクレイルはヴェルフェン皇子に注目される。

そしてイリス差は魔皇帝に、頼みごとを話す。


次回、イリスの家族

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― 新着の感想 ―
[良い点] 家族仲良好そうでなにより。 [気になる点] そういえば魔物の死体をほっとくと瘴気がどうのこうのでアンデッドになる 事があるみたいな説明があった気がするけど。 ユーマ達が食べる用に狩ってる魔…
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