第201話 訓練の成果
前回のあらすじ
アライアンス組を連れてオベリスク王国の領内へと転移したユーマ達は、アリアとスニィで帝都を目指す。
その途中、ユーマ達はバロン達に部分強化の訓練を施し、彼らの指導を行う。
バロンさん達を鍛え始めてから数日、僕達はアリアとスニィに乗っての移動を並行して彼らを指導し続け、僕らは遂にガイノウト帝国の領内へと入った。
魔族の国というから、結構禍々しいイメージとかがあったけど、他の国とあまり変わらない景色が続いていた。
そんな光景を飛んでいたら、途中魔物の姿を捉えた。
見たのはAランクのタイラントグリズリーだった。
これまでに見てきた熊の魔物では、別格の巨大さで鋭い牙と爪は禍々しい瘴気を纏っていた。
本来なら素通りしていく手もあったが、バロンさん達がこれまでの訓練で身に着けた新しい実力を試したいと言って、現在5人はそのタイラントグリズリーと対峙していた。
僕達はバロンさん達の従魔のロップス達と一緒に、見える位置でその戦いを見守っていた。
『ユーマさん、ご主人達は大丈夫でしょうか? 今までAランク以上の魔物との戦いでは必ず私達従魔も参戦していましたから、いきなりご主人達だけで戦うのは流石に心配で……』
スニィは今までの戦いなどの経験から、いきなり自分達抜きで戦おうとしているゼノンさん達を心配していた。
「大丈夫だよ、スニィ。ゼノンさん達はまだ自分達の新しい実力を目の当たりにしていないだけで、既に今まで以上に強くなっているんだ。この戦いで、きっとそれを実感するよ」
『スニィさん、ここはユーマと私を信じて、彼らを見守りましょう』
『アリア様……分かりました』
スニィも見守る事を決め、ゼノンさん達へと視線を向けた。
一方ゼノンさん達は既にタイラントグリズリーと戦闘を始めていて、まずは最初に動いたトロスさんが脚部に魔力を集中し始めた。
「行きますよ!」
トロスさんの駆けだした瞬発力は、これまで以上のスピードを出し、気付いた時には既に相手の背後に回り込んでいた。
そして両手の長剣と小剣に魔力を纏わせて斬りかかり、タイラントグリズリーの両脚の腱を切った事で機動力を奪う事に成功した。
「でかしたぜ、トロス! 今度は俺の番だ! 行くぜ、ゼノン!」
「承知!」
トロスさんが後退して距離を空けたのと同時にバロンさんとゼノンさんが仕掛け、バロンさんは風斬剣を持った両腕に、ゼノンさんは右腕に魔力を部分的に集中させた。
「喰らえ! 風撃烈斬!!」
バロンさんの両腕が風に覆われ、それが風斬剣にも伝わって巨大な風の剣となってタイラントグリズリーの胸元を真一文字に切り裂いた。
あれがバロンさんの部分強化の訓練を得て身に着けた、新たな戦い方だ。
バロンさんの戦闘法は、風属性の効果が付与された風斬剣を使った、斬撃の風による攻撃だった。
そしてその風斬剣を全身に力を入れて振り回し、魔力を全開にした嵐で攻撃していたが、部分強化によって繊細なコントロールを得た事で風の勢いを調節して、あの様な風の剣を形成して攻撃する事が出来る様になった。
言うなれば、『風帝』のリーシャの様な風の刃による戦い方により特化した魔法剣士という風になった訳だ。
そして両脚と胸元に大きなダメージを負ったタイラントグリズリーに、今度はゼノンさんが仕掛けた。
「行くぞ! 竜頭顎関節撃!!」
ゼノンさんの右腕が竜化魔法による魔力に覆われ、次の瞬間彼の右腕全体が竜の頭部の形へと変化した。
ゼノンさんは竜化魔法で竜化させた四肢での格闘戦を行っていたが、今回の訓練でその戦い方を更に強化した。
元々腕や脚のみを竜化させていたゼノンさんは、その部分強化の基礎が既に出来上がっていた状態だった。
そこに部分強化の訓練によってより細かな制御が出来る様になったゼノンさんは、全身に魔力を流す要領でその量の魔力を右腕――というよりは片腕に集約させる事で、竜化魔法による変化を質量を持った魔力へ変換出来る様になった。
あの竜の頭は、正確にはゼノンさんの右腕を覆っている魔力の集合体の様な物だ。
だがゼノンさんやガルーザスが武闘大会で使ったあの究極奥義という技の技術を応用して、腕に竜の頭の形をした魔力を纏った一種のフォースの様な物だ。
つまり、あの牙や首は実際に触れる事が出来るから、打撃系の攻撃手段として活用させる事も出来、同時に首の部分は魔力で構成されているから、ゼノンさんの腕の動きに合わせてガルーザスの青龍剣の様にしならせての伸縮自在に操る事が出来る。
つまり――
「その腕、貰った!」
その牙でダメージを与える事が出来るという訳で、ゼノンさんが右腕を振り上げた勢いで竜の頭部がタイラントグリズリーに襲い掛かり、左腕に喰らい付いてそのまま噛み千切ってしまった。
『あれがご主人の新たな技……まるで本当に竜を纏って攻撃している様です』
スニィもその新技の威力に驚愕していた。
「尤も、ゼノンさんとバロンさんの新しい技は、あれだけじゃないけどね。それもいずれ見る事が出来るよ」
ゼノンさんもバロンさんも、あの新しい攻撃手段に加えて、新しい魔法が完成しつつある。
まだ未完成の段階だけど、後はそれぞれの自己研磨で完成するだろう。
そう思っていると、既に戦いは終わりへと近づいていた。
両脚の腱を斬られて上手く動けず、胴体を大きく斬られ、左腕を失って満身創痍となったタイラントグリズリーを、イリスさんとダグリスさんの魔法が捉えようとしていた。
「ボルテックスインフェルノ!!」
「ダークネステンペスト!!」
イリスさんの放ったら稲妻を纏った獄炎と、ダグリスさんの放った漆黒の闇を含んだ暴風が同時に襲い掛かり、タイラントグリズリーは感電しながら業火に焼かれ、同時に暗黒の竜巻に巻き上げられて身体がバラバラになって絶命した。
「勝てたな」
「ああ。スニィ達のサポート無しで、Aランクの魔物に苦戦する事なく勝つ事が出来た」
「しかも足や腕のみに魔力を流しただけで、あれだけの動きや攻撃が出来るなんて、正直予想外でした」
「私達の魔法も、今までは魔族故の膨大な魔力で威力の調整が難しかったのに、魔力の制御がより上手く出来る様になって、それぞれ最上級の複合魔法を使ったのに、ゼノン達を巻き込まない様に細かい調整が出来て放てたわ」
「ああ。こんなに短い間でここまで成果が出るなんて、思っていなかったぜ。俺達、何時の間にここまで強くなれたんだな」
皆はこの数日の訓練で向上した自分達の実力を目の当たりにして、凄く驚いていた。
でもそれは、本来のバロンさん達の中に眠っていた本来の実力であり、僕らはそれを魔力制御の訓練で気付かせる様に手助けをしただけだ。
決して僕らが強くしたのではなく、バロンさん達が自分達の力で手に入れた強さなんだ。
戦闘が終わったのを確認して、僕らはスニィ達を引き連れて彼らの許へと向かった。
「どうですか? 実際に戦闘をしてみて」
「ああ。正直俺達も驚いているぜ。Aランクの魔物といえば、単騎で倒せるのは余程の実力者じゃないと無理なんだが、それを俺達5人だけでこうも無傷で勝てたんだからな」
「単純な力だけじゃなく、魔法の威力もかなり調整が利く様になっていたし、今までよりも魔力の流れが自然な形になっていたわ」
「力任せに流すのではなく、己の身体の一部の様に委ねた事で、私の竜化魔法もより理解出来る様になった」
「でもそれは、皆さんが元々持っていた力です。僕らはあくまで、その強さに気付く様にしただけです」
「その強さが自分達に会った本来の物だって事を忘れないで。皆は元々それだけの強さを持っていたのだから」
「ユーマ……皆……ありがとうな。俺達、自信が戻って来たぜ」
「ありがとうございます、皆さん。ここまでしていただいて、感謝しきれません」
「お前達に出会えた事、俺達にとっては最高の喜びだ。ありがとうな」
「かたじけない、ユーマ殿。これからもより鍛えて欲しい。奴らに2度と、お主達の腰巾着などと言われない様に、もっと力を付けたいのでな」
「私達は仲間として、あなた達と肩を並べていたいからね。よろしくお願いしたいわ」
自分達の強さを実感した事で、八輝帝に負けて打ち砕かれたプライドを取り戻す事が出来た様だ。
これでもう安心だ。
「ええ。これからも一緒に頑張りましょう」
こうして僕らは、バロンさん達のプライドを取り戻す事が出来、彼らの内にあった強さを実感させる事に成功し、彼らとの絆をより深める事が出来た。
そしてタイラントグリズリーのバラバラの死体から素材と魔石を回収し、再び帝都を目指して出発した。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
「面白かった」、「続きが気になる」、「更新頑張ってください」と思った方は、ブックマークや評価、感想して頂けると今後の励みになります。
評価はどれくらい面白かったか分かりますし、1人1人の10ポイントの評価は大きいので、まだ未評価の方は是非お願いします。
ポイント評価は最新話の広告の下に評価欄があり、そこからワンクリックで評価できます。
感想は、確認し次第返信する方針で行きますので、良かった所、気になった所とかがありましたら、是非感想を送ってみてください。
魔物情報
タイラントグリズリー
Aランクの獣種の魔物。
他の熊の魔物よりも大きな巨体を誇り、鋭く巨大な牙と爪を武器としている。
非常に食欲が旺盛な熊で、雑食性というのもあり1週間で1つの山の動植物を喰らい尽くしたという記録も残っている。
更に巨体に見合わないスピードも持ち合わせており、下手に接近するとあっという間に餌食となる。
討伐証明部位は額に生えた角。
次回予告
帝都へとやって来たユーマ達は、その魔族の国の首都の様子を目の当たりにする。
そしてイリスの実家へとやってくるが、そこで驚きの事実を知る。
次回、帝都に到着




