第198話 第5の後ろ盾
前回のあらすじ
八輝帝に勝利したユーマ達は、勝者の権限でファルムス達に追放したライオルドに謝罪し、パーティーに戻すよう告げる。
そして表彰式で、ユーマは獣王陛下にあるお願いをする。
「驚いたぞ。お前達がかつてアルビラ国王から聞かされた、竜神と特異種のグリフォンと適合し、彼が後ろ盾になった者達だと知った時はな」
僕達の目の前で、ヴォルスガ王国の国王、獣王陛下ことレオンハルト陛下がそう言っていた。
現在僕達はヴォルスガ王国の王城に来ていて、ここはその応接間だ。
いるのは、僕達銀月の翼の他に、バロンさん達マッハストームにゼノンさんとイリスさんの赤黒の魔竜の9人と、目の前に座っている獣王陛下だ。
その後ろには宰相の牛人族の初老の男性が控えている。
尚、アリア達従魔組は別室で待機している。
僕達が武闘大会の表彰式で陛下にお願いしたある事とは、王城への謁見許可だ。
現在僕達はアルビラ王国、エリアル王国、ロマージュ共和国、オベリスク王国の4つの国の後ろ盾を得ていて、既に王侯貴族であろうと迂闊には手出しが出来ないのだが、冒険者としての接触では話が変わり、その結果八輝帝との一悶着へとなってしまった。
そこで僕達は少しでも後ろ盾を得ようと、このヴォルスガ王国でも頼ろうと優勝者の権限という物で、獣王陛下に謁見の許可を求めたんだ。
そしてその願いは聞き入られ、僕達はバロンさん達を一緒にこうして王城へと招かれたという訳だ。
バロンさん達が一緒なのは、獣王陛下がアライアンスを結んでいる冒険者達も連れて来いと言って来た為だ。
「そしてお前達は、この私にも後ろ盾になって貰いたいという事か」
「はい。僕達は今回、八輝帝という冒険者パーティーにちょっと因縁を付けられてしまい、僕達に変な事をしてくる人は貴族などだけではなく同業者にもいるという事を知りました。そこで、そういった人達からの揉め事を回避する為にも、僕達には1つでも多くの後ろ盾が必要だと痛感したんです」
オベリスク王国の時までは後ろ盾とまでいかなくても面識を持つだけで良かったが、今回の八輝帝の件で僕らには後ろ盾が必要だというのが、僕ら銀月の翼の結論だった。
そこで武闘大会に優勝して表彰式に出た時に獣王陛下と対面したのをチャンスに、こうして謁見の申し出をしたんだ。
僕らの申し出を聞き、獣王陛下は腕を組み考える素振りを見せた後、何かを決めた様で口を開いた。
「分かった。私としても、アベルクス国王や我が盟友グレイドニル国王が後ろ盾になった以上、私も受けないという選択肢はないからな。私もお前達の後ろ盾になる事を約束しよう。ビッグスよ、王家のメダルを持って来てくれ」
「畏まりました」
無事に獣王陛下は、僕らの後ろ盾になってくれる事を約束してくれた。
ビッグスと呼ばれた宰相は、メダルを持ってくるべく退室した。
「ありがとうございます!」
僕は反射的にソファから立ち上がり、頭を下げてお礼を言った。
「そう畏まらなくてよい。私としても、1年前の表彰式でお前達に会った時にすぐに気づいて後ろ盾になるべきだったのだ。お前達の事は、数年前にアベルクス国王から聞かされ、力になって欲しいと頼られていたのでな」
そして獣王陛下は、次にバロンさん達に視線を向けた。
「それからそちらの5人の冒険者は、お前達とアライアンスを結んだ仲間の冒険者だったな。では、そちらの者達にも後ろ盾のメダルを与えるべきだな」
「俺達もですか?」
「それは有り難いですが、何故私達も?」
バロンさん達にも後ろ盾になると宣言し、理由を尋ねられた獣王陛下は答えた。
「それにはちゃんと理由がある。まずお前達はこの銀月の翼とアライアンスを結んでいる冒険者だ。そしてそのアライアンスを結んでいるのは、お前達だけだ。つまり、彼らと最も近しい冒険者はお前達だけだ。その事にかこつけて、お前達にも何かしらの厄介事が舞い込んでくる可能性は十分に考えられる。それは彼らとしても望まぬ事であろう。故に、お前達にもメダルを与え、余計な火の粉が降りかからない様にしようと思ったのだ」
獣王陛下は、しっかりとかなり先の事を考えていた。
この人と会うのは1年前の表彰式の時と合わせて2回目だが、これまでの王達と比べてあまり接点がなかった所為か、かなり意外な印象を感じてしまった。
多分、あの戦闘狂のグレイドニル陛下と友人関係という点から、この人もそっち系の人なんじゃないかという先入観が僕の中にあったのだと思う。
こういうのを通して、何事も先入観だけで物事を捉えてはいけないのだと痛感する。
とにかく、この人は僕らの人間関係の事も考慮して、バロンさん達の後ろ盾にもなる事を約束してくれた。
「そういう事ですか。俺達のことまでそんなに考えてくださるとは……喜んでお受けします。ありがとうございます」
「私も竜人族として、その心遣い、感謝極まりなく思います」
バロンさんとゼノンさんがそれぞれのパーティーを代表して獣王陛下に感謝を述べ、イリスさん達も追従する様に頭を下げた。
そして退室したビッグスさんが戻って来て、全部で9つのメダルを持ってきた。
「これが我が王家のメダルだ。銀月の翼が持っている他のメダルや証文と同様、我が王家の後ろ盾を証明出来る。受け取ってくれ」
僕達はそれぞれメダルを受け取り、これで僕達は5つ目の国の後ろ盾を得る事が出来た。
バロンさん達は1つ目だが、十分過ぎる程の後ろ盾になる筈だ。
そもそも国が個人の後ろ盾になる事なんて、かなり珍しいケースでもあるんだから。
僕らがメダルを受け取ってそれを確認していると、ふと獣王陛下がイリスさんを見ていた。
「そちらの魔族の女性よ。名を何と申す?」
尋ねられたイリスさんは、なんだか動揺を隠す様に答えた。
「ええと……その……イリス・ドルリアーナと申します」
イリスさんは何だか目が若干泳いでいた。
「フム……その容姿、その名前、何処かで聞いた覚えがあるが……すまぬな。もしかしたら人違いかもしれない」
獣王陛下も何かを考えながらも引き、それに対してイリスさんは何だかホッとしている様だった。
どうしたんだろう、イリスさん。
そういえば、ミスティ達が最初に皆と一触即発になった時、イリスさんが出てきたらミスティはガルーザス達に退く様に言ったな。
たしか確かこの人を敵に回す訳には行かないって。
あの八輝帝が引いたり、一国の王が考えたり、イリスさんって何者なんだろう。
そんな疑問を抱きながらも、僕らは無事にヴォルスガ王国の後ろ盾を得る事に成功した。
これでこの国でやる事はあと1つだ。
バロンさん達に、打ち明けないといけない事があるから。
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次回予告
宿に戻ったユーマ達は、マッハストームにユーマの秘密を打ち明かす。
そして次の目的地を決める際、イリスはユーマにある頼み事をする。
次回、打ち明けと同行
次回で第11章が終了します。




