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第193話 『聖弓』VS『風帝』

前回のあらすじ

八輝帝Bチームとの決勝戦の時を迎え、ユーマ達はそれぞれの相手に向けて対峙する。

ユーマはフォースを発動させ、イグザムと対峙して彼の武器が神器にも耐えられる素材で出来ている事を見抜く。

そしてイグザムはバロンを破った魔法を発動させ、ユーマにけしかけた。

 コレットside


 ユーマ達が戦いを始めている頃、私はユーマとラティから借りたマジックアイテムを周囲に浮かせたまま、『風帝』のリーシャと向き合っている。


「私の相手はあなたなのね」


「ええ、そうよ。あなたとはハイエルフ同士で戦いたいと思っていたの」


「コレット・セルジリオン、エリアル王国出身のハイエルフ。ハイエルフの歴史で、史上最年少でハイエルフになった文字通りの神童ね。私は160歳くらいの時にハイエルフになったから、20歳でハイエルフになったあなたの話を聞いた時、正直戦慄を覚えたのよ。もしかしたら、『風帝』の異名を得ていたのは、私ではなくあなただったかもしれなかったからよ」


 どうやらリーシャは私がハイエルフになった時の噂を耳にしていた様ね。

 正直、あの時は世界中が騒いでいたのを覚えているし、情報収集に優れた彼女なら、それを知るのは容易だった事だろうしね。


「私の事を知っていてくれたのは光栄だわ。だけど私は『帝』の異名には興味はないわよ。私は今の『聖弓』の異名が気に入っているの。『風帝』の肩書に拘っているなら、私を恐れる必要はないわよ」


「あらそう、それは安心したとでも言おうかしらね。なら、さっさとあなたを片付けるとするわ。イグザムから雑魚のあなた達を徹底的に潰す様に言われているからね」


 リーシャはそう言い、何も持っていない両手を構えた。

 昨日の試合でトロスさんとダグリスさんを苦しめた、あの見えない攻撃ね。


 私は対策通り、ユーマから借りたマジックアイテムからジルドラスを選び、それに追従する形で白百合と黒薔薇を動かし、私の周囲にはアルテミスに2本のエンシェントロッド、元素の杖が彼女に向けられている。


「行くわよ!」


 リーシャは私に突撃して、切り倒すべく向かってきた。


「マジックフルバースト!!」


 私はユグドラシルとアルテミス、3本の魔法杖から魔力の矢、複数の魔法を一斉に放ち、リーシャの接近を牽制した。


「そこね! ジルドラス!」


 リーシャが横に飛んで私の死角に入った所に、制御魔法で操作したジルドラスを飛ばし、更にその死角からリーシャに仕掛けた。


「無駄よ!」


 だがリーシャは左手を振って、高い金属音と共にジルドラスの攻撃を弾き返した。


「トロスさんの言った通り、見えない何かを持っている様ね」


 だがその何かの正体は、トロスさん達の証言からある程度の目星がついている為、後はその正体を晒すだけだった。


 私はジルドラスと白百合、黒薔薇を操作して、3本をリーシャの周囲に移動させて取り囲んだ。


「それで取り囲んだつもり? 私はレミスの様にはいかないわよ。風神刃!!」


 両腕を振り上げたリーシャから無数の風の刃が放たれ、魔剣と魔槍を振り払おうとした。


「ウィンドアロー・ショット!」


 ユグドラシルから無数の風の矢を放ち、その風の刃にぶつけて相殺させた。


 すかさずジルドラス、白百合、黒薔薇を操作してリーシャに斬りかかり、彼女はそれを両手を振って次々と弾き返した。


「魔力陣」


 次に3本の魔法杖を私の正面に来るように空中に配置し、3本に魔力を流して起動させて私の正面に魔力の円陣が現れた。


「ライトニングアロー!!」


 その円陣に雷の矢を放ち、その矢に含まれた魔力を陣によって増幅させ、巨大な雷の矢に強化した。


「そんなのでやられるつもりはないわよ! 風神翔一閃!!」


 対抗するべくリーシャの放った凄まじい風の斬撃が、強化された雷の矢を掻き消してしまった。


「後ろががら空きよ!」


 すかさずジルドラスで攻撃を仕掛け、リーシャはそれを風の衝撃波で防いだ。


「一体どういう事……確かに的確な攻撃だけど、殆ど決定打を狙った攻撃じゃなかった。しかも私に攻撃をさせても、同威力の攻撃で相殺を……一体どういうつもり?」


 リーシャはジルドラスを受け止めながら、私の狙いを探り始めた。


 だけどまだ気づいていない様ね。

 私が敢えて攻撃をする様にジルドラスを中心に仕掛けて、彼女の持つ見えない武器を炙り出そうとしている作戦に。


 私はその後も何度もジルドラスを使って攻撃しては彼女に弾き返させ、それを繰り返していった。


「いい加減にしなさい! こんな事をしても、あなたは私には勝てないのよ! 風撃天翔波!!」


 私の時間稼ぎとも言える様な戦い方に、リーシャはしびれを切らして大技を繰り出し、周囲のマジックアイテムを一掃して私を一気に仕留めようとしてきた。


「私の狙いに気付いていないのなら、そろそろ教えてあげるわ。白百合、黒薔薇、行くのよ」


 制御魔法で2本の魔剣を左右から同時に攻撃させ、リーシャはそれを見えない武器で受け止めた。


「それであなたが何か持ってるのは丸分かりよ。そしてこれよ!」


 そこにジルドラスを遠隔で魔力を流して双頭の槍に変化させ、高速回転させてリーシャに飛ばした。


「舐めるなあああああああ!!」


 リーシャは迫って来るジルドラスを防ぐべく、両腕に力を入れて魔剣を弾き飛ばし、両腕をクロスさせてジルドラスを受け止めた。


「ねえ、その両手をよく見て見なさい」


 頃合いだと思った私は、リーシャに現在の状態を教えてやる事にした。


「こっ……これは!?」


 リーシャが自分の両手を見てみると、そこにはうっすらと黒い瘴気の様な物が何か武器の形に浮かび上がっていた。


 ユーマの魔槍ジルドラスは、デミウル工房のガリアンさんとネルスさんによって、素体となったジルドラスに黒の獣のべオルフの従魔だった特異種のケルベロスの牙を使って、瘴気による闇属性が付与されたジルドラス・瘴に強化された。


 そのジルドラスから出される瘴気を彼女の武器に当てる事で、少しずつ蓄積された瘴気が武器に染まって浮かび上がって来た。


「あなたの攻撃の正体を見破らないと、流石に苦戦するという結論で、こうして瘴気を纏った攻撃を重ねて武器を見える様にしたのよ。大体の目星はついていたけど、やっぱりマジックアイテムだったのね」


 そして瘴気によって浮かび上がって来て、リーシャの武器の姿が漸く見える様になった。

 それは極薄の2本の片手剣だった。


「恐らく、今生きている人間の中で私の武器を肉眼で捉えたのは、あなたが初めてかもしれないわね。これが私の武器、風神の双剣よ」


 どうやらあの双剣は、その柄の部分まで極限までに薄く、鋭く圧縮された刀身が如何なる相手をも断ずる、切れ味に特化した剣の様ね。

 それに彼女は風属性に特化した『風帝』。

 それらから纏めて、あのマジックアイテムは風魔法による真空波といった、風の刃を極限にまで高める能力を持った類の武器なのかもね。


 そして彼女が『風帝』と呼ばれる所以は、あの双剣から繰り出される風の刃による攻撃に特化した風魔法の使い手という事で付いたのね。

 シンプルだけど、確かに風の性質を考えると納得出来るわ。


 それに、()()()()()()のマジックアイテムは私も見るのが初めてだわ。


「マジックアイテムの武器といえば、冒険者や騎士などの戦士達が使う力の象徴として強大な印象というのが強いけど、ラーガンさんの造った武器にはそんな発想もあったのね」


「私はデスペラード帝国で生まれ育ったエルフ。後にエリアル王国でハイエルフになる為の試練を受けたけど、その育ちは殆どがデスペラード帝国なの。本来弓や短剣といった武器での戦闘を得意とするエルフだけど、デスペラード帝国なら剣の修行も出来るから、身体強化を鍛えて剣も振れる様にしたのよ。それに、ラーガンが造ったこの剣なら、とても軽くキレ味も良いから、エルフの剣での戦いにとっても向いているのよ」


 確かに、筋力が弱いエルフの特徴を考えれば、あそこまで薄くすれば重さも極限まで軽減出来る。

 ただマジックアイテムの印象を逆手に取った発想というだけでなく、エルフ族である彼女の力に合わせる様に計算された造りにもなっていたのね。


「確かに面白い武器だけど、戦いのネタが割れた以上もう私には通用しないわよ」


「まだよ。確かに私の攻撃の正体を暴かれたのは予想外だったけど、私は最強パーティー、八輝帝の『風帝』。こんな所で負ける事は許されないのよ」


 リーシャは武器の正体を見られた事で、流石に焦りが生じたのか、私達の周囲に風の魔力が漂い始めた。


「これで勝負をつけてやるわ。風神天翔烈波!!」


 これは、トロスさんとダグリスさんを倒した、リーシャの最大魔法ね。


 私を取り囲む様に、巨大な旋風が巻き起こり、その風圧に目を開ける事が難しくなった。

 しかもユーマとラティのマジックアイテムは竜巻の外にあり、制御魔法で操ろうにも竜巻の風の壁によって阻まれてしまった。


「これで終わりよ、『聖弓』!!」


 リーシャはこの竜巻の中を高速で動き回り、四方八方から私に風の刃を放って来た。


 普通なら、このままでは防ぎきるのは難しく、最悪私はお終い。

 でも……


「面白い攻撃だけど、武器の正体が分かった時点で、あなたは降参するべきだったわね。ブレイズスコール!!」


 ユグドラシルとアルテミスで上空に炎の矢を放ち、この竜巻に目掛けて無数の炎の矢の雨が降り注いだ。


「風壁の指輪、マジックマント、起動」


 そしてすかさず、ロマージュ共和国のベルスティア商会で購入した2つのマジックアイテムを起動させて、身を守る態勢に入った。


 次の瞬間、リーシャの発生させた竜巻が私の炎の矢を飲み込み、巨大な炎の竜巻に変貌した。


「うああああああああああああああああ!!!?」


 竜巻の中から炎に焼かれるリーシャの悲鳴が聞こえ、私はこのマジックマントで炎のダメージを軽減させつつ、風壁の指輪で更にダメージが入らない様にした。


 これこそが私の狙い。

 銀月の翼では、私の攻撃はユグドラシルとアルテミス、後は場合によってユーマ達から借りたマジックアイテムを制御魔法で操るの2つで、直接的な攻撃力では私が1番パワーがない。

 レミスさんの時はラティと組む事でラティを援護する事で勝てたけど、今回は私1人でアインもいなかったから、『風帝』という強敵に勝つには相手の魔法を利用して初めて決定的なダメージを与える事が出来た。


 やがて炎の竜巻が消滅し、防御を解くとそこには炎に焼かれて倒れたリーシャの姿があった。


 近づいて容態を確認したけど、息はあったので大丈夫だと思った。


 まあ、彼女は八輝帝のメンバーだから、この程度じゃ死なないわよね。


 こうして私は『風帝』とのハイエルフ対決を制したのだった。

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次回予告

ガルーザスと対峙するクレイルは、自分がユーマ達の思いを胸に戦っている事を告げるが、ガルーザスはそれを下らないと切り捨てる。

しかし、クレイルはこれまでの彼の態度に怒りを燃やし、次々と自分が背負った思いをぶつける。


次回、『闘王』VS『炎帝』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 成程、だから「見えなかった」のね、 やはり一度見ていたのが効いたようだ。 見えないのに見ていたのが攻略の鍵とは何とも。 これで少し溜飲が下がったぜい。 [気になる点] ハイエルフの丸焼きな…
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