第191話 対策を練る
前回のあらすじ
トロスとダグリスの敗北を機に、バロン達の戦いは状況の悪化を招き、イリスはミスティに追い詰められ、ゼノンはガルーザスと最大級の魔法を激突させる。
しかし、リーダーのバロンがイグザムの放った魔物の群れに襲われ、彼の敗北によってマッハドラゴンの敗北が決定してしまう。
ユーマside
観客席からバロンさん達の試合を見ていた僕達は、バロンさん達が敗北して医務室に運ばれたと知り、急いで駆け付けた。
「バロンさん! ゼノンさん!」
「大丈夫ですか!?」
医務室に入ると、そこにはベッドに座ったり眠っているマッハドラゴンの5人の姿があった。
コロシアムに施されていた効果で、イグザム達に負わされた傷は全て再生していたので包帯などは巻かれていなかったが、ゼノンさんは魔力切れの影響で顔色が悪く、バロンさんとイリスさんは先に意識が戻ったがトロスさんとダグリスさんはまだ眠っていた。
「心配はいらない。トロス殿とダグリス殿はまだ目覚めていないが、命に別状はないそうだ。この2人ならもう暫くすれば意識が戻るだろう」
ゼノンさんから2人の状態を聞かされ、5人共大丈夫だと知り安心した。
そして暗い表情だったバロンさんが口を開いた。
「ごめんな、ユーマ。約束、果たせなくなっちまった」
「ごめんね、ラティちゃん。必ず勝つって約束したのに、こんな様で」
バロンさんとイリスさんから謝罪を受けたが、僕達は気にしていなかった。
「気にしないでください。皆さんが無事だったのですから」
「そうですよ。あたし達が皆の分まであいつらをぶちのめしますから」
「これで遠慮なく、あいつらを叩きのめす事が出来る様になったからな」
「後の事は、私達に任せなさい」
「すまねえ。だが油断するなよ。あいつらは口だけじゃなく、実力は本物だった。俺達も全力で挑んだが、あいつらの強力な魔法や武器に成す術がなかった」
「私もだ。ガルーザスと決着を付ける筈だったが、先に魔力切れ寸前になってしまい、結局奴に勝ち逃げされたままになってしまった」
「ユーマくんと戦ったファルムスもそうだったけど、あのミスティも人族の中ではかなりの実力よ。実際に魔力身体能力共に優れた魔族である私に膝をつかせた人族は、ユーマくんにラティちゃん、そしてあの女だけだったから」
僕達は明日の決勝戦に備えて、バロンさん達の戦いも合わせてあの4人の対策を練る事にした。
「まずはあのイグザムだ。八輝帝の武器は、ファルムスさんの神槍アポロン以外は全てラーガンさんが造った物で、その性能は途轍もなく高い。その中でもあの大鎌はかなり厄介だ。相手の魔法を闇で吸収して取り込み、それを解放して相手に返す。ただそれだけだけど、遠距離からの魔法も魔物の攻撃とかも、全てが効かないとなると、接近戦で戦うしかなさそうだね」
「その見解は正しいぜ、ユーマ。あの大鎌は例え魔法でも近接系の攻撃は吸収出来なかった。つまり、お前のあのフォースとかいう魔法で仕掛ければ、勝機があるかもしれない。だがもう1つ厄介な事がある」
「最後に使った、あの魔物を召喚する魔法ですね」
僕の指摘にバロンさんは頷き、あの時の光景を思い出していた。
あの時イグザムは、大鎌を使って魔法を発動させて、それでバロンさんの周りに多数の魔物が現れた。
それがあいつの固有魔法であるのは確かだが、僕の知る限り、召喚魔法という名前の固有魔法は聞いた事がない。
もっとも、ラティの貯蔵魔法やクレイルの加速魔法の様なかなり珍しい固有魔法があるくらいだから、そういうのがあってもおかしくはない。
だが、あれがその召喚魔法だという事はまずない。
何故なら、
「この武闘大会の規定で従魔の参加は認められていないから、魔法で魔物を召喚したりしたら規定違反になって、イグザム達は即失格になってバロンさん達の勝ちになっていましたからね」
この大会のルールを思い出し、イグザム達もそのルールにはちゃんと則っていたから、その線は限りなく低いというのが僕達の結論だった。
そうして今度はコレットが推測した。
「もしかしたら、魔族などが得る事が多い、幻影魔法かもしれないわ」
幻影魔法とは、魔力を使って幻を形成して相手に見せる、ただそれだけの魔法だが濃密な魔力を持つ魔族が使う事で、その再現度はかなりの物になるらしい。
「でも、本来その幻影魔法で造られた魔物はあくまで幻で、実体がないから触れる事が出来ない筈。バロンさん、あなたがあの魔物達にやられた時、確かに触れた感覚があったのよね?」
コレットの確認にバロンさんは頷いて答えた。
「ああ。確かに俺が魔物を斬った時も、殴られたり踏まれた時も、確かにやられたっていう感覚があったぜ。実際にその痛みで俺は気絶したんだからな」
となると、あの魔法は幻影魔法じゃないのか……。
だがその時、僕の頭にある可能性が出て来た。
イグザムは『闇帝』という事から、その得意とする属性は闇。
そして幻影の筈なのに触れた感触がする謎の魔法。
それらからある対抗策が見えて来た。
「皆、イグザムは僕に任せてくれない? チームリーダー対決というだけじゃなく、僕ならその魔法を無力化出来るかもしれない」
「ユーマくんには何か秘策があるのね? ならあたしはユーマくんを信じるわ。必ずバロンさんの仇を取ってね」
「頼んだぜ」
「任せたわ」
皆の了承を得て、次にガルーザスの対策に移った。
「ガルーザスは炎神の竜剣という青龍剣を使い、それに竜化魔法によって強化された力で攻撃している。奴は『炎帝』というだけあり、炎を使った攻撃が中心だ。しかもあの剣は内部に仕込まれた鉄線でリーチも自在になっている。あの軌道を予測するのは至難の業だ」
僕達も観戦していたから、あの剣の事もしっかりと見ていた。
刀身が伸びたり、リーチを自在にして攻撃するというのは、前世で漫画とかで連接剣や鞭剣などを見た事があるから、僕としてはそれほど珍しいという印象は無かったりする。
ただ、竜化させた四肢での徒手格闘のゼノンさんと違って、奴は竜化させた腕から繰り出される剛腕であの巨大な剣を振り回し、更に炎属性を絡めた攻撃を仕掛けて来るから、単純なパワー面で厄介なのは明らかだ。
「ユーマ、あいつの相手は俺に任せてくれ。俺のスピードならあの剣にも対抗出来る」
確かに僕達の中では、クレイルが1番あいつとの相性が良さそうだ。
ラティとコレットも不満はなさそうだし、これならクレイルに任せても問題はなさそうだ。
「分かった。頼んだよ、クレイル」
「任せろ! 俺を犬っコロ呼ばわりしたあいつに、ゼノンさんの分も含めてきっちり落とし前付けて来るぜ!」
どうやらクレイルは単に相性で決めただけでなく、これまで馬鹿にされた怒りもあって決めた様だ。
でも問題はないので、僕も思う存分やる様にと付け加えた。
次にミスティだ。
「ミスティの属性は氷よ。あのレイピアは斬った箇所を一瞬で凍結させて、酷い凍傷になるわ。しかも自分の氷の魔力と合わせて、相手が放った魔法すらも魔力を凍らせる事で封じてしまうわ」
凍結した傷と凍傷で相手の体温を奪い、身体の感覚が無くなって来た処で一気に決めるのが彼女の戦い方の様だ。
「でも炎の魔法はどうしようもないみたいですね。ユーマくん、あの女はあたしが戦うわ。あの女には最初に会った時も、散々あたしを雑魚とか器用貧乏とか、好き放題言ってくれたから、イリスさんの分も含めてあたしが倒すわ」
「そうだね。確かに魔法での戦いに持ち込むんなら、ラティが適任だ。任せるよ」
「お願いね、ラティちゃん」
3人目の対策はあっさりと決まり、残ったのは『風帝』のリーシャだ。
「話そうにも、肝心のトロスとダグリスは眠ったままだ。俺達は直接見た訳じゃないし、どうしたもんか……」
そう困っていると、タイミングよく2人が目を覚ました。
「ここは……」
「俺達は一体……」
「おお、トロス、ダグリス。目が覚めたか」
「バロン、僕達は一体」
「試合はどうなったんだ?」
バロンさんは2人に試合の結果を話し、自分達が負けた事と決勝で僕達が戦う為に今4人の対策を練っていた事を話した。
「そうですか……僕達は『風帝』にやられた後に、皆もやられたんですか」
「すまねえな」
「気にするな。だから、その『風帝』と戦ったお前達に少しでも教えて欲しいんだ。ユーマ達は明日、その『風帝』とも戦うんだからな」
「分かりました。そういう事なら」
そして2人はリーシャの事を話してくれた。
曰く、彼女は目には見えない謎の武器を使って自分達を攻撃していたとの事だ。
腕を振るうごとに自分達は突然斬られたという事から、剣を使っていた可能性があるが、もしかしたら風魔法による真空波だったかもしれない。
そして最後は、僕達も見た風魔法を使った攻撃でやられたという訳だ。
「話を聞く限り、『風帝』のリーシャは戦士というよりは暗殺者みたいな感じね。それにその見えない武器、それの正体が分からない限り、私にも勝つのは難しくなりそうね」
コレットは既に自分がリーシャと戦うのを前提に話している。
まあ、僕がイグザム、クレイルがガルーザス、ラティがミスティと戦う事が決まった以上、コレットは残るリーシャと戦うのが自然だから、コレットに確認する必要もなかった。
「コレット、その見えない武器の正体は、やっぱり剣とか槍とかかな」
「その線が強いわね。でも、私に考えがあるわ。ユーマのジルドラスがあれば、その正体が掴める可能性がある」
「ジルドラスが?」
「ええ。だから、明日はユーマとラティに今日と同様完全装備で出て欲しいの。それで、2人のマジックアイテムを使わせて貰うわ」
「分かった。コレットの作戦に必要なら、僕も協力するよ」
「あたしも」
こうして明日の決勝戦は、僕はイグザムとリーダー対決、ラティがミスティ、クレイルがガルーザスの因縁に近い対決、コレットがリーシャのハイエルフ対決となる事が決まった。
僕の居場所を賭けた対決と、各自の因縁に決着を付けるべく、僕達は明日の決勝戦に備えて対策を練り、夜を過ごした。
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次回予告
遂に決勝の時がやって来て、ユーマ達はバロン達の思いを胸にBチームと対峙する。
試合が始まり、ユーマとクレイルはフォースを発動させ、4人はそれぞれの相手と対峙する。
次回、雌雄を決する時




