第190話 最悪の結果
前回のあらすじ
八輝帝のBチームと激戦を繰り広げるバロン達は、イグザム達の圧倒的な実力に苦戦をする。
そして、リーシャの見えない攻撃がトロスとダグリスに襲い掛かり、2人は敗れてしまった。
時は少し遡り、ミスティと激突していたイリスは、ミスティの実力に苦戦を強いられていた。
イリスの身体は素肌が露出した部分のあちこちに剣が掠った傷があり、その箇所が凍結して酷い凍傷を起こしていた。
「そろそろ身体の体温が大分下がって来たんじゃありませんか?」
「余計な気遣いは無用よ。こんなの、全然平気だから……」
ミスティに指摘されたイリスは、一見は平面を装っているが既に凍傷や冷え切った体温によって手足が悴み、ミスティの姿が目に映りにくくなっていた。
(流石にちょっと不味くなって来たわね……無効魔法を使えばまだいけるかもしれないけど、あれをやるには時間が必要。その準備をするだけの時間をあの女が許す筈もない。やっぱり、この勝負は無効魔法は使えそうにないわね)
イリスは心の中で自分の固有魔法のデメリットを思い出し、この状況では使えそうにないと結論を出していた。
「いかに魔族のあなたであろうと、この氷神の細剣と私の氷の力の前では間もなく倒れる事でしょう」
ミスティは手に持っていたレイピアを構え、イリスに向かって突きの体勢に入った。
「何度も同じ手は食わないわよ! ナイトメアテンプテーション!!」
イリスの背中の悪魔の羽根が広がり、手に持った杖を使って闇属性の最上級魔法である漆黒の魔力波がミスティへと放たれた。
「無駄です。氷神の獣爪!」
ミスティはレイピアを突き出し、そこから巨大な獣の爪をした氷が出現し、イリスの放った魔法を魔力ごと凍り付かせた。
更にその氷漬けになった魔法を粉々に砕き、氷の爪はイリスへと向かっていった。
「舐めないで! クリムゾンフェニックス!!」
対してイリスは炎属性の魔法で対抗し、巨大な火の鳥が現れ、氷の爪を溶解させた。
「流石に炎は凍らせる事が出来ませんか」
ミスティは打ち破られた自分の魔法を見て呟いた。
「今の炎で、少し暖まって手足の感覚が戻って来たわ。ここからが反撃よ」
「中々やりますね。ですが、もう既にリーシャが終わらせた様ですので、そろそろ私も勝負をつけるとしましょう」
ふとミスティの見ている方を見ると、そこには血塗れになって倒れたトロスとダグリス、そしてその2人を見やって踵を返したリーシャの姿があった。
「そんな!? あの2人が!?」
「何を驚いているのですか? 私達の前では誰が相手でも、それは雑魚です。よってリーシャが勝つのは当然です」
「黙りなさい! 私の仲間を雑魚呼ばわりはさせないわ! あなたを倒して、あの『風帝』も倒してやるわ!」
「出来る物でしたら……ね」
ミスティは冷たい笑みを浮かべ、レイピアを構えた。
「あなたはもう十分に戦いました。そろそろお休みなさい。氷神零ノ一閃!!」
そしてイリスに絶対零度の冷気を纏った剣が襲い掛かった。
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ゼノンはガルーザスと激しい戦いを繰り広げていた。
「飛竜烈波拳!!」
ゼノンの竜化させた腕から繰り出された拳をガルーザスは得物である炎神の竜剣で受け流す。
「炎竜の牙撃!!」
対してガルーザスは炎を纏った剣を振り上げ、その剣先を竜の牙の如く突き落としてきた。
「雷翔竜脚斬!!」
ゼノンも負けじと雷を纏った足を振り上げ、ガルーザスの腱を握った腕を狙って攻撃し、その振り落とされた剣を逸らして躱す事に成功した。
「火竜転輪脚!!」
そのまま炎を纏った回し蹴りを繰り出したが、それをガルーザスの竜化させた腕によって防がれた。
「俺は何時だってお前より強かった! なのに国の奴らが評価するのは、お前だけで俺は褒められた事がなかった! そうして俺の実力が評価される事なく、挙句には追放だ! だが俺は冒険者として成功し、ここまで成り上がった! 俺は正しいんだ! 強い奴が勝って当たり前なのに、何故お前だけが!!」
ガルーザスは剣を振り上げながらゼノンを攻撃するが、その大振りになったのを見逃さず難なく躱す事が出来た。
「何故分からない! 我ら竜人族は、常に強者に敬意を払い、称え合う誇り高き種族! だが貴様は常に力だけを求めるだけで、負かした者には敬意を払わずに見下して来た。その驕った心が、貴様を祖国から追放させるきっかけになったのだと、どうして分からないのだ!」
ゼノンも負けじと反撃に出るが、ガルーザスは完全には油断していなかった事で、青龍剣によって弾かれた。
「何が敬意を払うだ! 所詮戦いってのはな、最後は強い奴だけが勝つんだよ! 他人の事なんか知るか! そんな甘ったれたプライドに拘るからお前はいつまでも俺に勝てなかったんだよ!」
青龍剣の刀身を伸ばして変幻自在の攻撃を繰り出し、ゼノンは再び身体を切り裂かれるも、負けじと反撃する。
「確かに私はお前には勝つ事が出来なかった。だが、お前が冒険者となって強くなったのと同じ様に、私も故郷で修行を重ね、イリスに誘われて冒険者となり、多くの者や魔物と戦ってきて強くなれた。ユーマ殿達との出会いもまた、彼らと絆を結ぶ事によって、私は強くなれたのだ!」
2人は互いに心情を吐き合いながら攻防を繰り広げ、やがて大きく距離を空けた。
「どうやらリーシャが既に終わらせた様だからな。そろそろ俺の方も終わらせるとするか。折角だ。俺の最強の魔法でお前を仕留めてやるよ」
そう言ったガルーザスは青龍剣を構え、凄まじい魔力を溜め始めた。
「最後の勝負か。良いだろう、受けて立つ!」
ゼノンも右腕を振り被り、竜化魔法の魔力を全て右腕に集中させた。
「我が内に眠りし竜の力を今ここに解き放ち、万物を引き裂く豪傑の爪を生み出さん!」
その瞬間、ゼノンの全身を覆う程の巨大な竜の右腕が出現した。
探知魔法のユーマや、彼の母のサラの解析魔法などなら分かるが、これは全て質量を持った魔力で作り出された物だ。
ゼノンは腕を竜化させるだけでなく、その内側に収めきれなくなった魔力を放出する事で、この巨大な腕を出現させたのだ。
対してガルーザスも振りかぶった青龍剣を中心に、巨大な竜の頭部を催した炎の塊が現れた。
「「竜化魔法究極奥義!!」」
「覇王竜天翔斬!!」
「覇王炎竜牙翔撃!!」
2人の放った最大級の魔法が激突し、2人の竜人族による最後の勝負が始まった。
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リーダー対決を繰り広げていたバロンは、イグザムの闇神の大鎌によって大ダメージを負いながらも、ユーマ達が待っていると自分に喝を入れて奮い立たせ、風斬剣を手に斬りかかっていた。
「無駄だ。既にリーシャが勝負を終わらせた。間もなくミスティ達も他に雑魚共を片付ける。お前が降参しないから、その大切な仲間達が次々と倒れていくんだぞ」
イグザムは大鎌の柄で攻撃を弾き、そのまま返し技でバロンの脇腹に重い一撃を入れた。
既に重傷を負い、更に追い打ちを受けて身体がふらつきながらも、バロンは踏みとどまってイグザムを鋭く見据えた。
「そんな事出来るかよ。トロスとダグリスは、全力でお前の仲間に立ち向かったんだ。なのに、俺がここで降参してチームとして負けたら、俺はあいつらに――ユーマ達にも合わせる顔がねえ。例えここで死んじまったとしても、俺は絶対に降参なんかしねえ。俺は冒険者として、あいつらの仲間として、最後まで戦い抜いてやる!」
バロンは風斬剣に魔力を流し、風を纏った刀身を構えて斬りかかった。
「裂傷風撃斬!!」
イグザムを大鎌で受け止めるが、さっきと違って攻撃を吸収したりはしなかった。
「お前の大鎌の能力は確かに厄介だが、こうして近接系の魔法攻撃で仕掛ければ、吸収のしようがないよな!」
「成程。この闇神の大鎌の放出系の力しか吸収出来ない事を見抜いたか。多少は頭が回る様だが、既に手遅れだ。お前はここで負けるのさ」
バロンは果敢に挑むも、イグザムは少しも苦戦する事なくいなし、大鎌の石突をバロンの腹部に突き当て、そのまま横に薙ぎ払って放り投げた。
「ぐっ……! まだだ!」
それでも倒れず、再び斬りかかろうと接近しようとしたが、イグザムは一足先に動き、大鎌の石突を地面に突き刺していた。
「俺のもう1つの力を見せてやるよ! ソリッドファントム!!」
すると、バロンの周囲に突然オーガやサイクロプス、更には地竜などといった多数の魔物が現れ、バロンはその魔物の群れに取り囲まれてしまった。
「何だこりゃ!? 固有魔法か!?」
「正解だ。だがその正体も分からないまま、お前はここでお終いだ。最後は冒険者らしく魔物の相手をして倒れな」
イグザムが指を鳴らすと、魔物達は一斉に襲い掛かった。
バロンは何とか応戦していたが、イグザムによって身体に溜まったダメージが動きを鈍らせ、遂にバロンは魔物達の総攻撃を受けてしまった。
やがて魔物の群れが跡形もなく姿を消すと、そこには血塗れで倒れたバロンの姿があった。
「ユーマ……すまねぇ……」
その言葉を最後に、バロンの意識は途絶えた。
「そこまで! 勝者、八輝帝Bチーム!!」
審判の合図と共に、イリスとミスティ、ゼノンとガルーザスの勝負も終了となった。
胸に真一文字の傷を負ったイリスは意識を失う寸前だったが、それでも大きなダメージを負い満身創痍となっていた。
ゼノンもガルーザスとの竜化魔法の究極奥義が最後まで続く事なく消滅したが、ゼノンは魔力切れ寸前の状態となり、膝をついていた。
「仕留めきれなかったか。まあいい。俺達の勝ちは勝ちだ。これで分かっただろ、ゼノン、お前は何時まで経っても俺には勝てないんだよ。じゃあな、負け犬」
「すまない……ユーマ殿……皆……」
その後、倒れたバロン達は係員によって担がれ、フィールドを出た事で身体の傷は再生したが、疲労によってゼノン以外の4人は意識は失ったままだった事で、そのまま医務室へと運ばれた。
こうして、第2試合の結果はレミスが言った通り、ユーマ達にとっては最悪の結果となった。
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次回予告
医務室に駆け付けたユーマ達は、バロン達から約束を果たせなかった事の謝罪を受ける。
その後、ユーマ達は決勝に備えてそれぞれの対策を練る。
次回、対策を練る




