第186話 『雷帝』VS『光帝』・後編
前回のあらすじ
ユーマが対峙したのは、八輝帝のリーダー、『光帝』のファルムス。
彼の使う武器は神器の1つ、神槍アポロンだった。
そしてユーマとファルムスの間には、神器を使って来た時間と経験の差があった。
「雷龍!!」
2つの神器を突き刺した地面から、雷の魔力で出来た巨大な竜が現れ、その竜の頭がファルムスさんを捉えて襲い掛かった。
「これ程の魔法を操れるとは……確かに君は、ライオルド以上に『雷帝』の名に相応しいな。だがこちらとしても、そう易々と負けるつもりはないぞ! ソーラーレーザー!!」
だがファルムスさんのアポロンから放たれた極太のレーザー光線によって、雷龍が相殺された。
だがこれだけの規模の魔法が相殺された事で、凄まじい爆発による煙幕が発生して、僕達の互いの姿が見えなくなった。
だがこれこそが僕の目的だ。
確かに互いが見えなくなったけど、僕には固有魔法の探知魔法があるから、これを使う事で僕にはファルムスさんの位置が丸分かりだった。
僕は最初から雷龍で倒すのではなく、敢えてファルムスさんに高威力の攻撃をさせて相殺させる事で、この爆発による煙幕で相手の視界を奪うつもりだったんだ。
そしてその探知魔法を使って位置を探り、補足した場所へドラグーンフォースの翼で一気に高速で移動し、ミネルヴァとアメノハバキリで斬り伏せようとした。
「ファルムスさん、覚悟!!」
だが、僕の強襲に対して、ファルムスさんは全く動じていなかった。
「それはどうかな?」
すると、僕の斬撃はファルムスさんの身体を通過して、そのまま空振りになってしまった。
「これは……!? まさか、蜃気楼!?」
「正解だ」
その時、背後に本物のファルムスさんが現れ、アポロンで突きを繰り出してきたがそれを2本の神器で受け止めて、鍔迫り合いに持ち込んだ。
「光属性の中級魔法、ミラージュ。光の屈折で相手に蜃気楼を見せる、光属性の撹乱魔法だ。君がさっきのアポロンの閃光で目が眩んだ時に、すぐに魔法を発動させて私の幻を作り出していたのさ」
「でもそれなら、魔法と出された蜃気楼にも魔力が通っている筈です。だけど、僕の探知魔法ではファルムスさんの魔力は1つだけでした。そしてさっきの攻撃もその幻のある所から放たれたのに、どうして……」
「それに関しては本物の私が幻と同じ地点に立ち、そこから攻撃していたのさ。そして私の固有魔法は遮断魔法。自身の魔力や気配などを相手に感知されない様にする魔法だ。この魔法とミラージュを組み合わせる事により、私は魔力感知に長けた人間や魔物を相手にしても一切捕まらずに戦えるのさ」
やられた……。
僕がさっきの雷龍を囮にするよりも前に、ファルムスさんは僕を嵌めていたのか。
神槍アポロンだけでなく、ここまで光を自在に操れるとは……やはりこの人、八輝帝を纏めるだけの事はある。
「だけど、そうやって僕に種を明かして、それが自分の首を絞める事になるかもしれませんよ。これでも、僕もかなりの場数を踏んできていますから」
「それもそうだな。だが、私が再び閃光などで君の眼を晦まし、その間に再び幻を作り出して遮断魔法を使えば、どっちにしろ君はさっきと同じ事の繰り返しになるぞ」
確かにそうだ。
光を自在に操る時点で、ファルムスさんにかなり有利なのは変わらない。
しかも、そこに神槍アポロンが加わる事で、その戦闘力を何倍にも強化している。
だけどその時、僕の中にあるアイディアが浮かんできた。
ファルムスさんが自分からさっきの戦術を立てたなら、それを敢えて……。
僕は2本の神器に力を入れて、強引に鍔迫り合いに押し勝って、ガラ空きとなったファルムスさんの腰に回し蹴りを決めた。
「ぐっ……!?」
その隙に後ろに下がって距離を空け、雷の魔力を溜めた。
「サンダーレイン!!」
雷属性の広範囲に広がる魔法を使い、上空から落ちてきた雷を僕達の周囲に落として、周囲に砂煙が巻き起こった。
「これで私の視界を奪うつもりかい? だが、これで私の姿を、君は再び見失った。これで私がミラージュと遮断魔法を使い、君の探知魔法を欺けば、今度こそ君の負けだ」
煙の中からファルムスさんの声がするけど、確かにこれは賭けだ。
この勝負を制しなければ、僕に勝ち目はなくなるだろう。
僕は目を閉じて意識を周りに集中した。
その瞬間、1ヵ所の煙に変化が出た事に気付いた僕は、
「そこだ!!」
フォースの翼を翻し、雷速で突撃した。
するとそこにはファルムスさんの姿があった。
「馬鹿な!?」
その驚愕した様子から彼が本物だという事を確信し、そのままアメノハバキリを一閃した。
そのギリギリの間合いでファルムスさんは間一髪避けたが、完全には避け切れず左腰を掠った。
だが神器による攻撃の為、掠っただけでもかなりのダメージとなり、その掠った箇所から血が噴き出た。
戦う者にとって腰回りが生命線でもある為、ファルムスさんはその腰を負傷した事で膝をついた。
「どうして……私の位置が分かった……? 私は確かに遮断魔法で魔力と気配を消していた筈だ……いくらあのスピードでも、あの一瞬で私を捉えるなど……」
「確かにそうです。だけど、どんなに気配を消しても、この煙が舞う中を動けばそれで煙にも変化が現れるんです。ドラグーンフォースを発動中の僕は、五感なども強化されています。その五感を駆使して周囲に集中すれば、気配を消しても周りのわずかな変化にも気づけるんじゃないかと思ったんですよ。尤も、これは流石に大きな賭けでしたから、もし失敗すればあなたの言う通り、僕に勝ち目は無くなっていたでしょうね」
僕はさっきのファルムスさんの種明かしを真似る様に自分のやった事を明かすと、ファルムスさんは面白そうに笑っていた。
「成程な……だが君はその賭けに勝ち、こうして私に傷を負わせた。本当に君は凄いな。こうしている間にもどんどん成長し、私を追い込むほどにまでなっている。だが――」
ファルムスさんは身体に力を入れて立ち上がり、アポロンの穂先をこちらに向けて来た。
「私もこのまま降参する程、簡単に終わらせるつもりはない。だが、この傷では何度も大技を出すのは応えるのでな、最後の大勝負と行こうか。君の力を全て私にぶつけてみろ! そして見事に乗り越えてみせろ!」
「望む所です! 僕の雷魔法を見せてやりますよ!」
僕とファルムスさんは一定の距離を空け、それぞれの神器に魔力を流し、凄まじい雷と光の魔力が周囲に漂い始めた。
そして僕達はこの勝負最後の魔法を繰り出した。
「九頭竜神・雷!!」
「エターナルフォトンストリーム!!」
それぞれの神器を魔力の媒体にして放たれた、9本の頭を持つ雷の竜と極限まで集束された光の魔力波が激突した。
ファルムスさんの魔法は1つの魔力波だけだが、僕の九頭竜神は9つの頭な為、最初は拮抗していたが、1つ目、2つ目の頭が相殺されたがそれでもまだ7本の頭が残っていた。
それを見た僕はここで勝負を付けようと、残り7本の頭に魔力を流して1つに集約させて巨大な頭にした。
そして7本分の魔力を集約された巨大な頭が光の魔力波を消滅させ、そのままファルムスさんに襲い掛かった。
「見事だ……この勝負、君の勝ちだ――」
そう言い残したファルムスさんに僕の魔法が直撃した。
凄まじい衝撃波が広がり、やがて着弾地点からボロボロになって倒れているファルムスさんの姿があった。
「そこまで! 勝者、銀月の翼!!」
審判のコールが響き、僕達の勝利が宣言された。
「勝った……という事は、皆も勝ったんだ……」
勝負が終わった事でフォースを解除して、僕が振り返ると、そこには大喜びで駆け寄ってくる皆の姿があった。
「やったわね! ユーマくん!」
ラティが僕に抱き着いて来て、
「お前ならやってくれるって、信じてたぜ!」
クレイルが背中を強く叩き、
「お疲れ様、ユーマ。結構苦戦していた様ね」
コレットから労いの言葉を貰った。
「皆ありがとう。確かに結構きつい勝負だった。ファルムスさんが神器の使い手だという事もあって、その経験の差から苦戦したんだ」
「ファルムスさんって、神器の使い手だったんだ……」
「でも逆に考えても、あまり不思議じゃないわね。仮にもEXランクに最も近いパーティーを率いているんだから、神器を持っていてもおかしくはないわ」
「それは言えてるかもな」
皆が僕が苦戦していた理由を理解していると、僕達の許にレミスさんが寄って来た。
「皆さん、勝利おめでとうございます。気絶したファルムスとラーガンを代表して、皆さんの勝利を称えます」
「ありがとうございます、レミスさん。あの……ファルムスさん達は大丈夫でしょうか? 僕もかなりやり過ぎた気がしてしまって……」
「心配には及びません。ファルムスのローブはラーガンが造ったマジックアイテムで、魔法の攻撃を軽減する効果があります。ユーマさんの魔法はかなりの威力でしたが、ローブの効果もあって大事には至りませんでした。2人はこのフィールドを出て肉体が再生すれば、後は控室で休ませてあげれば回復するでしょう」
それを聞いて安心した。
「ですが気を付けてください。皆さんのお仲間が戦うのは、あのイグザム達です。あの4人は私達と違って一切の容赦がありません。おそらく、バロンさん達を完膚なきまでに叩きのめして、決勝に上がって来るでしょう」
どうやらレミスさんは僕達の決勝の相手が、マッハドラゴンではなく八輝帝Bチームだと考えている様だ。
「でも、相手はあのイリスさん達です。そう簡単に勝つとは思えません」
ラティも言葉を絞り出してそう言ったが、レミスさんは苦い表情のままだった。
「お仲間の勝利を信じる皆さんの気持ちは理解できます。ですが、常に最悪の結果だけは考えておいた方がよろしいです。では、私は2人の方へ行きますので、これで失礼します」
レミスさんはファルムスさん達を介抱するべく、2人の許へと行った。
「とりあえず、僕達も控室の方へ行こう。バロンさん達がそこで待っている筈だ」
「そうだな」
僕達もフィールドを後にして、コロシアム内の控室へと赴いた。
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次回予告
控室に戻ったユーマ達は、バロン達に出迎えられる。
その戦いを称えられ、ユーマは他の皆が戦った相手の戦い方を教えて貰う。
次回、束の間の一時




