第181話 ブチギレた『雷帝』
前回のあらすじ
2回戦の相手のチームが作った超音波による無音の空間に動揺するも、ユーマの機転で逆転する。
そして銀月の翼、マッハドラゴン、八輝帝の2チームは全て勝ち進んだ。
僕達が無事に2回戦を勝ち抜いた時点で、僕達が戦った手応えのあるのは静寂の支配者が最後となり、そこからは文字通りの驀進だった。
3回戦、4回戦、5回戦、準々決勝を勝ち進み、無事に準決勝へと勝ち上がった。
バロンさん達も無事に準決勝まで勝ち進み、今大会で勝ち残ったのは、僕達銀月の翼、バロンさん達マッハドラゴン、ファルムスさんとレミスさん、ラーガンさんの3人の八輝帝Aチームと、イグザムを始めとする僕を引き入れる事に賛成派のBチームだった。
そして今日の4日目を終えて現時点でのトーナメント表が提示された。
そこには準決勝第1試合に銀月の翼VS八輝帝Aチーム、第2試合にマッハドラゴンVS八輝帝Bチームという組み合わせが出ていた。
「明日の準決勝、俺達の相手はファルムスさん達になったな」
「対して俺達はあの傲慢野郎共か」
「でもこれは好都合じゃない? あたし達がそれぞれ勝てば、ユーマくんを賭けた勝負に勝てて、決勝戦はあたし達による最高の試合が出来る」
「ラティの嬢ちゃんの言う通りだな。俺達は必ずあいつらを倒す。だからお前らも、絶対に負けるんじゃねえぞ」
「勿論です」
僕達が改めて決勝で戦うという誓いを立てた所に、後ろからあの声がした。
「俺様達を倒すとは、随分と粋がってんじゃねえか」
振り返ると、そこにはガルーザスとミスティを筆頭とした、八輝帝のBチームの面々の姿があった。
「ガルーザス……」
「ようゼノン。ちょいと聞いてみれば、お前ら、俺様達に勝つなんて事が本当にあると思っている様だな」
そのあからさまな挑発に、バロンさんが反応した。
「だったら何だ? 俺達は絶対にあんたらに勝つつもりだぜ。でなきゃ、最初にユーマを賭けて勝負するなんて、受けてる筈がないぞ」
「それは確かにそうですが、それでもあなた達に勝ち目など、始めからありません。ここまで勝ち上がった事は評価しますので、これで諦めてユーマ様をこちらに渡していただけませんか? そうすれば、無様な姿を衆目の前に晒す事もありません」
既に彼らはこの勝負に自分達が勝って、僕が八輝帝に入る事が確定した事を前提に話ている。
ここまでそんな態度を取られると、流石の僕も我慢の限界が来てしまう。
既に何度も皆を侮辱されて、我慢してきた怒りのボルテージが限界点に達してしまいそうだった。
だが、あの彼らの態度に到頭限界点が吹っ飛び、僕は到頭キレてしまった。
これまでにもローレンスの街の無責任な領主や黒の獣のべオルフ、あの馬鹿王子のヘラルとかにキレた事があったけど、今回はあの時以上の怒りだ。
「黙ってください。これ以上皆を馬鹿にするのだったら、僕もいよいよ黙ってはいませんよ」
僕の怒気に雷の魔力が漏電し、僕の周囲には電気が迸っていた。
どうやら雷魔法に特化した僕は、怒りの臨界点を超えると魔力が漏れ出して電気となって反応する様だ。
「ユーマくん……?」
「ユーマ、お前……まさか本気で怒ってるのか?」
「何気にユーマが本気で怒るのって、初めて見る気がするわ……」
後ろではラティ達が驚く声がしたが、今の僕は気に留める事なく、目の前のガルーザス達に向かい合っていた。
「おいおい、何怒ってんだよ? 俺達はこれからお間の仲間になる奴らだぜ。仲間にそんな怒りを向けるのはおかしいだろ。なあ、イグザム?」
ガルーザスに呼ばれたイグザムが前に出て来て、僕に声をかけた。
「ガルーザスの言う通りだ。『雷帝』、お前は俺達が認めた選ばれし者だ。そのお前が冒険者をやるのに、そんな奴らといたのでは折角の力にカビが生える。お前にはもっと相応しいパーティーがあるんだ」
「それが、あなた達八輝帝という事ですか」
「そうだ。お前の仲間はそんな奴らじゃない。お前の本当の居場所はこっちにある。さあ、分かったらこの手を取れ」
イグザムはそう言いながら僕に右手を差し出した。
後ではミスティ、ガルーザス、リーシャが僕が手を取る事を疑っていない様子で見守っている。
当然僕の答えは、
「ふざけるなよ」
そんな低い声と共に手を払いのけた。
「何?」
そのままイグザムの胸ぐらを掴み、その顔を僕へと近づけた。
「ふざけるなって言ったんです。僕の仲間が誰か、僕の居場所が何処か、そんなのあなた達が決める事じゃない。決めるのは僕自身だ! これ以上僕達の邪魔をするようなら、僕も黙っている訳には行きません! 僕は本気であなた達を倒します!」
僕の叫びにイグザム達も怯み、後ろではラティ達も固まっていた。
考えてみれば、僕も過去に怒りを表した事は何度かあったけど、ここまで怒りを燃やした事は無かった。
基本的にクレイルやラティ、レクスやアインとかが怒って、それらが僕達全員の気持ちとして表れていたが、今回は僕自身の本気の怒りだから、皆もそれに驚いていた。
僕も自分に対しての事ならいくらでも我慢する事は出来るけど、イグザム達のラティ達やバロンさん達に対する度重なる暴言や見下した態度に、徐々に怒りのボルテージが上がっていた。
そして今仲間を侮辱された事に対する怒りが、遂に爆発してしまった。
「……っチ! どうやらこいつは思った以上にそこの雑魚共に入れ込んでいる様だな。だったら俺達がお前の目を覚ましてやる。そいつら雑魚共を完膚なきまでに叩きのめしてな! 行くぞ!」
イグザムも本気で僕達の相手になると宣言し、僕達の前から去っていった。
姿が見えなくなると、大分怒りが静まって来て、僕は自分のやらかした事に気付いた。
「……ごめん、皆。思わずカッとなって、勝手に話を進めちゃって……」
僕が皆に頭を下げて謝罪すると、僕の肩に手が置かれた。
ふと頭を上げると、そこには怒っている処か逆に微笑んだクレイル、その後ろには同じ様な表情の皆がいた。
「何言ってんだよ、ユーマ。お前、俺らの為に怒ってくれたんだろ? お前があんなに怒ってるのは初めて見たから驚いたけど、同時に嬉しかったぜ」
すかさずラティが隣にやって来て、僕の右手を握った。
「本当よ、ユーマくん。あんなに激しく怒ってくれたのは、あたし達があいつらに馬鹿にされるのが許せなかったからでしょう? それはユーマくんが本当に優しいからよ」
ラティ曰く、僕は誰よりも優しく、誰かの為に怒る事が出来る強い人と、そう言われた。
「そうね。いつだってユーマは誰かの為に動いてきたわね。私達の為、友人の為、他にも顔も知らない赤の他人の為にも怒ったり、悲しんだりしたわね。でも、それがユーマの良い所だし、寧ろ私達も誇りに思うわ。こんなに強くて優しい仲間なんて、早々出来る物じゃないんだから」
コレットの言葉に、バロンさん達も頷いている。
「そうだよな。俺達がお前と初めて会った時も、お前はラティの嬢ちゃんの為に1人で俺達に挑んで来たしな。どっかの馬鹿貴族の所為だったけど、それでもお前は誠実に約束を守って1人で俺達に挑み、そして勝った。誰かの為にそこまで出来るなんざ、簡単には出来る訳じゃないんだ」
「ユーマ殿、お主は家族や友の為に力を振るえる、誇り高き戦士だ。人は、誰かと繋がる事でより力を発揮する事が出来る。私達との繋がりが、今のユーマ殿という存在を形作っている。何よりもラティ殿やクレイル殿、コレット度、アリア様、クルス殿、レクス殿、アイン殿の存在が、ユーマ殿の強さの支えになっているのだ。その者達の事を大切に想っているからこそ、あの怒りを抱けるのだ」
皆僕の事を理解してくれている事実に、とても嬉しくなった。
前世でもこれ程に理解してくれる人には中々会えるものでもない。
僕はこの素晴らしい仲間を持てている事を誇らしくなった。
「皆、ありがとう。なら、僕達のやる事はただ1つだ」
「ああ! 俺達が倒すべき相手は八輝帝!」
「俺達は必ずあいつらに勝つ!」
「そして決勝は私達マッハドラゴンと銀月の翼の対決! それを必ず実現させてみせる!」
僕達は改めてこの誓いを立て、その夜は宿でゆっくりと休み英気を養った。
そして翌日となり、僕達銀月の翼はファルムスさん達Aチームとの試合に向け、フィールドへと赴いた。
ファルムスさん達には恨みはないけど、僕達の目的の為に全力で倒そう。
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次回予告
準決勝第1試合で遂に当たるユーマ達とファルムス達。
先刻の件で、容赦をしないと決めたユーマとクレイルは、あの魔法を発動させる。
次回、全力で挑むからこそ