第179話 幸先のいいスタート
前回のあらすじ
武闘大会の開幕を迎えたユーマ達は、八輝帝と遭遇する。
『闇帝』のイグザムの挑発に一触即発となるが、『光帝』のファルムスによってその場は収まり、ユーマ達は八輝帝の良心ともいえる面々と邂逅する。
開会式が終わった後、すぐに第1試合が執り行われた。
第1から第3試合までとてもいい試合となり、観戦していた人達も歓声が常に上がっていた。
そしてあっという間に僕達の番となり、僕達はフィールドへと上がった。
僕はその際に係員にローブの内側に投擲用の短剣を入れている事を教えて、アメノハバキリやミネルヴァの他に武器を持ち込んでいる事を予め話した。
多分大丈夫だとは思うが、もしこの短剣を使用した場合不正で武器を追加で出したと思われる可能性も捨てきれなかったから、余計な不安は先に除去しておこうと思った。
結果、係員から大丈夫と言われ、僕は無事に上がる事が出来た。
僕達が現れると、観客席からさっきまで以上の大歓声が上がった。
「うわっ!? びっくりしたぁ」
「大方、前回の優勝チームと、準優勝者が出て来て、お客さんも喜んでいるのね。3人ともかなり人気じゃない」
「まあ、俺はあれだけ派手に暴れたからな。ユーマ達も俺やゼノンさん達との試合では、かなり実力を出したしな。今回も俺達の活躍ぶりに、大きく期待してんだろ」
やがて対戦相手のチームも入場し、審判員が声を上げた。
「それではこれより、第3試合、銀月の翼と豪鉄の巨兵の試合を始めます!」
僕達の初戦の相手は、巨人族5人によるチームだった。
全員が大剣やハンマー、バトルアックスといったパワー系の装備で、2人だけ巨大な大盾を装備していた。
「巨人族だけあって、魔法系の攻撃をする人はいない様ね」
「だけど、巨人族なら、つい最近俺達は嫌と言う程戦って来たからな」
「確かに。だから僕達ならいけるかもね」
僕達は神器を展開し、戦闘態勢に入った。
今回は模擬戦ではなく相手は全く知らない相手だから、バロンさん達の様に武器を破壊した後の心配もいらない為、僕もアメノハバキリを抜いて構える事が出来た。
尚、いざという時の為に、ミネルヴァは背中に帯剣されている。
ラティもウラノスを手に入れた後はエンシェントロッドと元素の杖を使う機会は無くなったが、あの後も所持し続けていて、今回はその2本を保険として背中に差している。
クレイルとコレットは予備の装備は所持しておらず、メルクリウスとユグドラシル、アルテミスを展開しただけだ。
コレットの場合は初めて会った時は暫く普通の弓とクロスボウを使っていたが、僕達に神器を見せてからはそれしか使っていない為、最初の頃に使っていた武器は収納魔法に納めたままとなっている。
そして巨人族チームも構えて、審判も声を上げた。
「それでは……始め!!」
戦闘開始の合図が出されたのと同時に、相手は盾持ちの2人が前に出て突っ込んできた。
「盾持ちを前に出して防御に徹しつつ、戦いの主導権を握るつもりか。クレイル、まずは僕達で一撃を入れよう。ラティは盾が崩れた所で追撃の魔法を。コレットはラティの傍にいて、彼女の防衛を頼む」
「了解。ラティは私に任せて」
「行くよ、クレイル」
「おう!」
僕とクレイルは同時に駆け出し、先頭の盾兵に攻撃を繰り出した。
抜刀したアメノハバキリから繰り出された斬撃と、クレイルのメルクリウスによるそれぞれの一撃が、2人の持つ盾を完全に破壊した。
「そんな!? 俺達の盾がこうもあっさりと!?」
「俺達の盾はミスリルを惜しげもなく使った、最高クラスの防御力があるのに、何で!?」
2人の巨人族は自慢の盾が壊された事に酷く狼狽していたが、僕とクレイルは後方からの魔力に合わせて後退した。
その際、クレイルがある一言を告げた。
「何でなのかを教えてやるよ。俺達の武器がオリハルコンだって壊せるほどの代物だからだよ」
言い終えた時には既にラティの魔法の準備が終わり、僕達が着地したと同時にラティの魔法が発動した。
「グラビティスフィア!!」
ラティのウラノスから放たれた重力球が盾を持っていた2人を重力の力で吹き飛ばし、そのまま壁際まで行き気絶してしまった。
威力を調整していた様で、致命傷にはなっていなかった。
「これで後は3人だ! ユーマ、一気に行くぜ!」
「分かった! コレット、援護を頼む!」
「了解よ!」
クレイルが盾持ちの後ろにいた3人に向かって突撃し、僕もそれに続いた。
相手もそれに反応し、まずはハンマーを持った奴がクレイルを返り討ちにしようと横にスイングしてきたが、その瞬間に僕が間に入り、アメノハバキリを一閃した。
すると、柄が真っ二つに斬られ、ハンマーの頭の部分が明後日の方向に飛んでいき、攻撃が空振りに終わった。
「ちょっと寝ていて貰いますよ」
すかさずアメノハバキリの峰の部分で打ち付け、腹に峰打ちを喰らった巨人族はそのまま崩れ落ちた。
「安心しな。峰打ちだ」
1度行ってみたかった決め台詞を言い、僕はアメノハバキリを納刀してクレイルの方を見た。
「後は任せたよ、クレイル」
クレイルの前に今度はバトルアックスを構えた巨人が立ちはだかり、勢いよくバトルアックスを振り下ろしてきたが、
「させないわよ」
コレットの放った矢による狙撃で、バトルアックスの柄に矢を上手く当てて弾き飛ばした。
しかも最も力が入りやすい場所を狙っての的確な攻撃で、その巨人族は弾かれた姿勢のまま固まっていた。
「おらよ!」
そんな様子の巨人族に、クレイルは容赦なく鳩尾に右ストレートを決めて下した。
これで後は大剣を持った巨人族だけになった。
よく見ると、左腕にチームリーダーの証である赤い布が巻かれていた。
「あんたが最後だな。悪いけど、初戦突破は俺達が貰うぜ!」
「そう簡単には負けないぞ!」
リーダーの巨人は巨大な大剣を振りかざし、身体強化も掛けたのかクレイルとの距離を一気に詰めた。
「お前だけでも倒してやるぜ!」
「この俺を仕留める気か? どうせだからほんの少しだけ見せてやるよ。銀月の翼の切り込み隊長、『闘王』のクレイルの実力の一部をな!!」
クレイルは加速魔法を発動させ、ほぼ一瞬で背後に回り込み、巨人が気付いた時には既に大剣を振り下ろして隙だらけになっていた。
「これで終わりだ! フレイムクロー!! ……からの……煉獄魔爪撃!!」
炎の爪を纏ったクレイルの一撃を背中に喰らい、リーダーの巨人族は正面へと吹き飛ばされた。
そしてクレイルが地面に着地した時には、彼は白目をむいて気絶していた。
「そこまで! 勝者、銀月の翼!!」
見事に初戦を勝ち抜き、僕達は多くの歓声や称賛を浴びてフィールドを後にした。
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その後控室に移動した僕達を、ゼノンさん達が出迎えてくれた。
「よう! まずはいいスタートを切れたな!」
「見事な勝利だった。尤も、こんな所で躓く様な者達ではないと、私は信じていたがな」
「全くゼノンは。もう少し華やかな言葉を贈ったらどうなの? 折角仲間が勝利したんだから」
「本当に見事だったぜ。パワーでは全種族でもトップクラスの巨人族に圧勝しちまうんだからな」
「全員の連携が見事に取れていました。全く無駄がなく、それぞれの役割が果たせていました」
「ありがとうございます」
僕達はほんの束の間だが、バロンさん達と談笑し、少しして八輝帝――ファルムスさん達のAチームの試合が行われる時間になった為、観客席へと向かった。
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その後僕達は観客席から八輝帝のそれぞれのチームの試合を見たが、結果は各チームの圧勝で、どちらも試合時間は30秒もかかっていなかった。
かつてクレイルが単独で出場した時は、初戦を1分足らずで勝利した最短記録があったが、彼らはその記録を見事に塗り替えしてしまった。
「Aチームはファルムスさん、Bチームはガルーザスが1人で終わらせてしまった。しかもあまりにも一瞬で、何をやったのかがよく分からなかった」
「八輝帝の実力、正直ちょっと侮っていたかもね。EXランクに最も近いパーティーというのは伊達ではなかった様ね」
「このまま勝ち進めば、あたし達は準決勝でファルムスさん達Aチームと、イリスさん達も同じく準決勝でミスティ達Bチームと当たる事になるわね」
「つまり俺達が例の賭けで勝つには、必ず準決勝と決勝で勝たないといけないって事か」
僕達はトーナメント表を見ながら、この勝負までの道のりを確認した。
「とにかく、勝って勝って勝ち進めばいいんだろ? なら目標がシンプルでいいじゃねえか。俺達は必ず勝ち進む。そして、準決勝で両方共あいつらに勝つ。そして決勝で俺達との最高の勝負にしようぜ」
バロンさんがそんな感じに言い、トロスさんが呆れ気味にため息をつく。
「全くこの男は……簡単には言いますけどね、その為には決勝まで全部勝つ必要があるんですよ。勝負には時の運というのもあります。もしかしたら、変な油断をしてそれで負けるという事も有り得るんですからね」
「分かってるよ、トロス。俺達は絶対にそんなヘマはしねえよ。ユーマの今後が懸かってるんだ。だからこそ、絶対に俺達は勝たねえといけないんだろ」
「その通りだな。私個人としてもガルーザスとの決着をつけるというのもあるが、何よりもユーマ殿をあんな奴らに渡す訳には行かない」
「ええ。絶対に勝つわよ」
僕達は彼らと戦い勝つ為に、これからの試合により一層気合を入れ直した。
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採用された魔物は、後のストーリーに手出す予定ですので、是非アイディアを送ってみてください。
待っています。
次回予告
2回戦の相手チームには、一際珍しい獣人が存在していた。
そしてその魔法は、これまでの物とはまた違う効果だった。
次回、静寂の空間