第178話 開幕から早々に喧嘩を未然に阻止
前回のあらすじ
『水帝』レミスから八輝帝の内部事情を知り、ユーマにこだわる理由を知る。
レミスは勝負の撤回を申し出るが、ユーマ達は今後の厄介事を減らす為に、敢えて勝負を受ける事を決める。
遂に今年の武闘大会の日を迎え、僕達は開会式に出るべくコロシアムへとやって来た。
途中で合流したバロンさん達も一緒で、現在コロシアムの受付で参加者のチェックを済ませた。
「成程。ルールブックは何度も見たし、皆の説明もあったから、武闘大会のルールは把握したわ。これといって分からない部分は見当たらないし、この分なら問題ないわね。殺しが駄目な部分も、私のユグドラシルとアルテミスなら魔力の矢で殺傷力を調節出来るし」
開会式が始まるまでの間に、僕達はコレットに大会のルールの最終確認をして、彼女の戦い方が問題ない事を確認した。
コロシアム内では外に出れば即死クラスでなければどんな怪我も元に再生するが、この大会では事故を除いた意図的な殺しはNGだから、弓矢での戦闘だと急所を外す事を前提に戦う必要がある。
でもコレットはハイエルフ故に魔力の攻撃が上手く、加えて神器のユグドラシルとアルテミス、コレットの必中魔法による百発百中の弓術が加わる事によって、コレットは敵を生かすも殺すも自由自在となる訳だ。
「大丈夫そうでよかった。これで後は開会式を迎えて、僕達の試合の番まで待つだけだ」
そんな時、トーナメント表を見に行ったバロンさんとイリスさんが戻って来た。
「お~い! 見て来たぞ!」
「まずユーマくん達銀月の翼は第4試合よ。それに私達マッハドラゴンは最終試合になってたわ」
マッハドラゴンというのはバロンさん達のチーム名だ。
彼らは今回は1つのチームとして登録した為、マッハストームと赤黒の魔竜を合わせてマッハドラゴンという訳だ。
「それからもう1つ。トーナメント表に2つ、気になる名前のチームが載っていたんだ」
バロンさんが差し出したトーナメント表を見てみると、2ヵ所にある名前が記載されていた。
「八輝帝Aチームと」
「八輝帝Bチーム」
そう書かれた名前が存在していた。
「これってあいつらの事だよな」
「何で2つのチームに分かれてんだ?」
バロンさんとダグリスさんはよく分からないという表情だったが、先日のミスティやレミスさんの話を思い出した僕が推測した。
「きっと、メンバー全員が出られる様にする為の措置だと思います。僕を引き抜く為にライオルドさんという人を追放した事で、八輝帝のメンバーは現在7人です。ですが武闘大会に出る際、参加できるのは1チームにつき最大5人までです。仮にAチームに5人いれたとしても、それでは2人余ってしまい、Bチームは残りの2人になってしまって戦力が均一に出来ません」
「成程な。つまり片方に4人、もう片方に3人と分ける事で戦力の均一化を図ったのか」
「その通りです」
その時後ろから聞き覚えのある声がして振り返ると、そこにはミスティやガルーザス、リーシャにレミスさん、そして初めて見る3人の姿があった。
それぞれドワーフの男性、真っ黒なローブを纏いフードを目深まで被った魔族の男、そして真っ白なローブを纏った人族の20代後半くらいの男性だった。
「こんにちは、ユーマ様。そちらの自称仲間達との日々は堪能出来たでしょうか?」
早速のミスティの暴言にクレイルが反応してしまった。
「何だとこの!! 『自称仲間』ってのは俺達の事か!? それはあんたらの事だろう!!」
「何だこの犬ッコロ野郎。俺達とやるのか? ああ?」
クレイルとガルーザスが一触即発となり、僕は慌ててクレイルを羽交い絞めにした。
「ちょっと、クレイル! こんな所で揉め事は駄目だよ!」
「放してくれ、ユーマ! 今度という今度は我慢出来ねえ!! この女、俺達とお前との絆を自称って言いやがって! そんなに俺達がユーマの仲間に相応しくねえって言いたい様だな! だったら俺達だって黙っていねえよ!」
「俺達……?」
クレイルの言葉に嫌な予感を感じた僕は後ろを振り向くと、そこには怒り心頭のラティ、イリスさん、バロンさん、ダグリスさんの姿があった。
コレットとゼノンさんとトロスさんも見るからに「自分達は激おこです」という雰囲気だったが、この3人はまだ冷静な部分が残っていて、感情を表に全開する様な事は無かった。
「随分とあんまりな事を言ってくれますね。そもそも、ユーマくんはあたしの未来のお婿さんなんです。それを何処の馬の骨とも知らない様なパーティーにあげる訳ないでしょう」
「そうだな。俺もこいつとは1年程会っていなかったけど、こいつと過ごした時間は俺達にとってとても大切な物だ。それを何にも知らない奴らに侮辱されるのは、とてもじゃないが我慢出来る事じゃねえよ」
ラティ……バロンさん……。
「下らんな。冒険者は力が全てだ。その為には絆や思い出など、力を縛る枷に過ぎない」
その時、ミスティとガルーザスの後ろに控えていた魔族の男が口を開き、ラティ達の思いを全否定した。
「何だ、あんたは?」
「俺を知らないとは、残念な頭だな。俺はイグザム・コンラッド。『闇帝』と名乗れば分かるか」
やはりこの男がミスティ達の纏め役の『闇帝』だったか。
「俺達はいずれはEXランクになるべきパーティーだ。その為には全ての『帝』を揃えるという実績が必要になる。だからこそ、そこの『雷帝』の力が必要になるんだ。それに、こんな勝負など、やる前から俺達の勝ちは決まっている様な物だ。だったら、大人しく『雷帝』をこっちに渡したらどうだ?」
やっぱりレミスさんの言った通り、彼らは僕を加入させて、全ての『帝』を揃えるという考えもあった様だ。
「あんた何を言ってんだよ! イグザムだか何だか知らねえけど、やってもいねえで結果を決めつけるなんざ、それこそ臆病者がやる事なんじゃねえのか!」
僕の腕の中でクレイルが更に騒ぎだした。
「落ち着いて、クレイル! 落ち着いて! コレットもゼノンさんも見ていないで、この人達を何とかしてよ!」
まだ冷静だったコレット達に助けを求めたが、結果は最悪だった。
「ごめんね、ユーマ。途中まではまだ我慢出来たけど、ここまでコケにされたら、流石の私も黙ってる訳にはいかないのよ」
「私もだ、ユーマ殿。友をここまで侮蔑されて黙っていては、それこそ私の主義に反する」
やばい……。
2人もかなりキレている……。
このままだとマジで大会どころじゃなくなると思った所で、八輝帝側から救済の声が上がった。
「いい加減にしないか、イグザム。ミスティもガルーザスも。そうやって相手を挑発する癖は止めろと、いつも言っているだろう」
レミスさんの傍にいた白いローブの男性だった。
「……っチ! ……分かったよ、ファルムス。ミスティ、ガルーザス、リーシャ、先に行くぞ」
イグザムはミスティ達を連れてその場を去った。
なんとかその場は収まり、クレイルを拘束から解放した。
「全くあの馬鹿共は……すまなかったな、うちの者が迷惑をかけて」
白いローブの男――ファルムスと呼ばれた男性は僕達に頭を下げて謝罪した。
「先に自己紹介しておこう。私はファルムス・ルランガム。この八輝帝を纏めるリーダーであり、『光帝』の異名を賜った者だ」
この人が八輝帝のリーダーのファルムスさんか。
「初めまして。銀月の翼のユーマ・エリュシーレです。世間では『雷帝』と呼ばれています」
「知っているよ。君に関する情報は全てリーシャが調べ上げたのでな。それから紹介しよう。私の仲間の、『水帝』のレミスと『地帝』のラーガンだ」
「よろしくな。ドワーフの『地帝』のラーガン・ロドギンだ」
ラーガンさんとも挨拶し、僕達はファルムスさん達から先程の謝罪を再度受けた。
「本当にすまなかったな。イグザム達は性格はあれだが、悪い奴らではないんだ。ただ、EXランクになる為に周りが見えなくなっている様でな。ライオルドもその所為で追放された様な口で……」
「とりあえず、この場を治めてくれた事には感謝します。ですが、レミスさんから聞いていると思いますが、僕は自分から望まない限り、八輝帝に入るつもりはありません。そもそも、この仲間達を裏切る様な真似はしたくないので、そんな事は決してありませんが」
「分かっている。私達3人は、君の意思を尊重するつもりだからな。だが、イグザム達はそうはいかない。君を手に入れる為に、本気で君達を叩き潰しに来るだろう」
「それは覚悟の上だ。私もガルーザスには元から因縁がある。ユーマ殿を守る為にも、私達は全力で迎え撃つ」
ゼノンさんの言葉に全員が頷き、僕達の絆の強さを見せつけた。
「どうやら覚悟はとうに出来ている様だな。だがこうして戦いの場に来た以上、私達もその時は全力で相手になる。その時は正々堂々と戦おう」
「はい。よろしくお願いします」
こうして武闘大会開幕前から早々一悶着あったが、何とか無事に開会式を終え、遂に僕達の試合の番がやって来た。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
「面白い」、「更新頑張れ」と思った方は、是非評価をしてみてください。
今後の執筆の励みにもなりますので、よろしくお願いします。
※お知らせ
この度、皆様から魔物のアイディアを募集しようと思います。
魔物の名前、ランク、種類、特徴、戦闘スタイルなどを感想や活動報告のコメントなどで送ってもらえれば、こちらで採用するかどうかを判断します。
採用された魔物は、後のストーリーに手出す予定ですので、是非アイディアを送ってみてください。
待っています。
次回予告
遂に武闘大会が開幕され、ユーマ達は初戦の相手チームと戦う。
そして八輝帝の実力を観客席から見る。
次回、幸先のいいスタート