第177話 話の分かる『水帝』
前回のあらすじ
八輝帝の宣戦布告を受けたユーマ達は、ギルドの鍛練場で互いの実力を確かめ合う。
それぞれの組み合わせで後退で模擬戦を行い、ユーマ達銀月の翼が全戦全勝の成績を出す。
その後宿に戻ると、「水帝」と名乗るレミスという海人族の女性と出会う。
レミスと名乗る女性の事はまだ完全に信用する事は出来ないけど、このまま外で話すのもあれだと思った僕達は一旦彼女を連れて宿に入り、一同僕とラティの部屋に集まった。
従魔達もミニサイズになったりクレイルの亜空間から顔を出したりで、その場にいる。
全員がいるのを確認したら、最初にレミスが僕達に土下座してきた。
「この度は、私の仲間が大変失礼な事をして、本当に申し訳ございませんでした!!」
その突然の展開に、僕達は呆然としていた。
まさかあの八輝帝に、こんな礼儀正しい人がいたのだから。
ミスティが他の仲間の総意で仲間を追放したと言っていたから、八輝帝のメンバーは全員があんな感じなのかと思っていたからね。
「あのぉ、レミス……さんは、僕達と敵対するつもりは無いという事で、話を進めていいんでしょうか?」
「はい。正確には、私の他に2名、『地帝』のラーガンと、『光帝』のファルムスと私の3人が、皆様と敵対する気はありません」
どうやら八輝帝にも、多少は話の分かる人がいる様だな。
「ならあんたには聞きたい事がある。どうしてミスティ達は、平気で仲間を切り捨てる様な事をするんだ?」
クレイルの質問は、おそらくあのパーティーに元々いた雷魔法の使い手の事を指しているんだろう。
僕を入れる為に総意で追放したと言っていたが、どうしてそんな簡単に一緒にいた仲間を捨てる事が出来るのか、それは僕にもどうしても理解できない事だった。
「おそらくミスティが私達の総意と言ったと思いますが、実はあの追放に関しては私とラーガン、そしてファルムスは本当は反対したんです。しかし、『雷帝』のユーマさんを自分達の仲間に入れるには、ライオルドは不要とミスティ、ガルーザス、リーシャ、それに『闇帝』のイグザムが主張し、多数決の結果4対3と追放の意見が可決され、私達反対派の意見が潰されてその結果、私達の総意という形でライオルドが追放されたんです。こうなってしまってはいくら私達が何を言っても、彼らは聞く耳を持たなくなります」
仲間を追放した経緯を聞いた処で、僕は次の質問をした。
「レミスさん、ミスティ達は僕の居場所があのパーティーだとか、僕の力を伸ばすにはそれ相応の場所にいるべきなどと言っていましたが、どうしてミスティ達は僕にこだわるんですか? 確かに『雷帝』の僕が加入すれば、全ての属性の『帝』が揃いますが、何か他にも理由があると思うんです」
僕がそう尋ねると、レミスさんは静かに頷いて答えた。
「はい、その通りです。ユーマさんは鋭いですね。私達は元々、ソロで活動したり、コンビで組んだりで活動していた冒険者だったんです。しかし、所謂運命の巡り会わせという物で私達は1つのパーティーとして組む事になり、後の『光帝』のファルムスがリーダーとなって今の八輝帝が結成されました。最初は私達は常に互いを支え合うとても仲の良いパーティーでした。ガルーザスもあの性格ですが、自分を受け入れてくれたあのパーティーに居心地を感じて、結構上手くやれていたんです。しかし、最初にファルムスとイグザムが『光帝』と『闇帝』の異名を得た頃から、私達の関係は少しずつ現在へと変わっていきました」
その2人が『帝』の異名を得たのを皮切りに、ミスティやガルーザスがある日、「自分達はいずれはEXランクになるべき者達だから、その為には全員が『帝』の異名を持つべき」と主張したそうだ。
だが八輝帝の面々は最初からEXランクを目標にしていた事もあり、その主張が一理あるという判断から、レミスさん達もより努力を重ねて、そのライオルドという人を除いた7人が『帝』の名を獲得し、ライオルドももうじき『雷帝』の座に着こうとしていた。
しかし、半年以上前にエリアル王国で起こったスタンピードを鎮圧させた英雄の1人――つまり僕がその活躍で『雷帝』の異名を得てしまった事で、ライオルドさんは『雷帝』の名を得る事が出来なくなってしまった。
そこにミスティやガルーザスといった後の追放派からの重圧で、ライオルドさんはパーティー内でも居心地が悪くなってきてしまったらしい。
レミスさんやリーダーのファルムスさんは何とか精神の繋ぎ手となって、暫くは何とかなっていたが、ある日追放派はこう進言してしまった。
『雷帝』の僕を八輝帝に引き抜く為に、ライオルドさんをパーティーから追放しよう、と。
あまりにも突然の事に、当人もレミスさん達否定派も何とか反論したが、最終的に多数決で4対3という結果になり、ライオルドさんの追放が決定してしまった。
「ライオルドはパーティーの今後の事を想って、追放を受け入れ、私達はそれを見守る事しか出来なくなりました。つまり、ミスティ達がユーマさんにこだわるのは、単にユーマさんの力を伸ばせるのは八輝帝だけだという考えの他に、全ての『帝』を加えたパーティーという実績を入れて、EXランクに近づくという打算的な部分があるんです」
確かに、そういう打算的な考えがあると言われれば、僕にこだわるのも頷けるな。
「そういう事ですか。では、レミスさん達は僕を八輝帝に加入させる事については反対なんですか?」
「それに関しては、ユーマさんの気持ちを尊重させる方針です。しかし、ミスティ達は意地でもユーマさんを入れるつもりです。デスペラード帝国を拠点にしている私達がこの国に来たのも、リーシャの集めた情報から推測したものなんです」
今のレミスさんの台詞からして、あの時ミスティが言っていた情報収集に長けた人物というのは、『風帝』のリーシャの事だったのか。
「ライオルドが追放された後、リーシャはユーマさんの情報や、あなたに関する情報を全て調べ上げました。リーシャの従魔はワールドトレントというトレント系の頂点に立つSランクの魔物で、世界中の植物を介してあらゆる情報を見聞きする能力を持っているんです。リーシャはその能力と固有魔法で従魔の言葉を翻訳して集めた情報を纏め上げたんです」
その情報で、僕達銀月の翼が前回の武闘大会を優勝していて、今回2連覇を目指してこのヴォルスガ王国に来る可能性が高いと考え、この国にやって来たそうだ。
そしてギルドで僕達はミスティと遭遇し、あの結果になったという訳か。
「そして今日、ミスティはイグザムの命を受けてガルーザス、リーシャと共にユーマさんを迎えに行ったのですが、帰ってきた時にユーマさんの姿がなく、スカウトに失敗したのかと思ったら、ユーマさんを賭けて銀月の翼と彼らとアライアンスを結んでいるマッハストームと赤黒の魔竜に武闘大会で決着をつけると宣戦布告したと報告を聞いたんです。事情を聴いた私達は余りにも申し訳なく思い、ファルムス達を代表して私がこうしてお詫びに来たんです」
その際、僕達が泊っている宿にいた事に関しては、そのリーシャが集めた情報の中に僕達が去年の武闘大会が開催中はこの月の狐に泊まった事を思い出し、同じ宿に泊まっているかもと思ったとの事だ。
「それでここからが本当の本題ですが、ミスティ達は私やファルムス達が何とか説得します。ですからどうか勝負の事は無かった事にしてくれませんか? あなた達が望むのでしたら、お金やマジックアイテムなどもお渡しします。ですからどうか――」
レミスさんの目的は、僕達へのお詫びと例の勝負の撤回の様だ。
確かにあの場合は、どちらかというと被害を受けたのは僕達という見方が取れるかもしれない。
僕を無理矢理パーティーに引き抜こうとして、剰えラティ達やゼノンさん達まで侮辱したんだ。
あの時僕が止めなかったら、ギルドの中で派手な喧嘩となって僕達は武闘大会の出場が剥奪されたり、何らかのペナルティーを受けていたかもしれないんだ。
更にガルーザスは僕を無理やり連れて行こうという未遂行為までしている。
これだけの事をされたら、レミスさんがお詫びに来たのも頷けるな。
そして勝負の撤回は、単に僕達への謝罪や僕の気持ちを尊重する為だけではなく、レミスさん――強いては八輝帝のリーダーらしきファルムスさんの打算も含まれているのかもしれない。
例えば、仮にミスティ達が勝って僕が八輝帝に入る事になれば、中には自分達の名を広げる為に余所のパーティーの冒険者を無理矢理引き抜いたとか、そんな風に言って八輝帝の名を陥れようとする者もいる可能性だってある。
また、僕達が勝って賭けに勝った場合でも、今度は散々馬鹿にした相手に負けた情けないパーティーという感じに陥れようとする事も有り得る。
つまり、どっちに転んでも八輝帝の名に傷がつく事が有り得るかもしれないという考えで、最初から勝負を無かった事にする事で僕の気持ちの尊重をしつつ、パーティーの信頼を守ろうとする目的も含まれているのだろう。
まあでも、冒険者というのは結構損得勘定で判断を下す事がよくあるから、そんなレミスさん達の気持ちは分かる。
「ですがレミスさん、仮に今回の勝負を無しにして僕のスカウトを止める事が出来たとしても、ミスティ達はきっと別の機会で僕を引き抜こうとする筈です。あれだけ僕にこだわっている以上、1回止めたくらいで僕を諦める様にはとても思えません」
「それは確かにそうですが……」
レミスさんも納得する部分があるのか、俯いていた。
「ですから、レミスさんやそのファルムスさんには悪いですけど、今回は敢えて勝負を受けて、はっきりと勝ってやろうと思います。そうして僕が今の仲間達といたいと主張すれば、きっと彼らも少しは諦めると思います。それに何より、ミスティ達は気付いていないかもですけど……仲間を、友人を、家族を貶されて、僕も大分頭に来ているんですよ。ですから武闘大会という場を使って、思いっきりやってやろうと思いましてね」
今の自分の気持ちを明かすと、レミスさんは暫く俯いた後、何かを決めたかのように頭を上げた。
「分かりました。元より私達はユーマさんの気持ちを尊重すると決めていましたので、それならば私もこれ以上は言うつもりはありません。ですがミスティ達が決めた勝負には、私達も不本意ながら参加する事になります。それはつまり――」
「僕達がレミスさんやファルムスさん、ラーガンという人と戦う事になるんですよね?」
「はい。私達3人は無理矢理な引き抜きには反対ですが、勝負の場となれば私達も冒険者です。手加減はせず、正々堂々と戦うつもりですよ」
「望む所ですよ。寧ろ僕達の力を見せつけてやりますよ」
「俺達に喧嘩売った事を、たっぷりと後悔させてやるぜ!」
「あたし達の本気を思いっきり見せますから」
「覚悟はとっくに出来ているわよ」
「分かりました。では、その時は私達も全力で相手になります。私はこれからファルムス達の所に戻りますので、今日はこれで失礼します」
レミスさんは僕達に丁寧にお辞儀して退出し、宿を後にした。
これで心置きなく戦う事が出来る為、僕達はその翌日もバロンさん達と訓練して力をつけた。
それからは2週間という時間はあっという間に過ぎ、武闘大会開幕の朝を迎えた。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
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今後の執筆の励みにもなりますので、よろしくお願いします。
※お知らせ
この度、皆様から魔物のアイディアを募集しようと思います。
魔物の名前、ランク、種類、特徴、戦闘スタイルなどを感想や活動報告のコメントなどで送ってもらえれば、こちらで採用するかどうかを判断します。
採用された魔物は、後のストーリーに手出す予定ですので、是非アイディアを送ってみてください。
待っています。
魔物情報
ワールドトレント
トレント系の頂点に立つSランクの植物種の魔物。
世界中の植物の根に自分の根を伸ばして、その植物が見た光景を共有する能力を持つ。
1度住処を決めたらその場からは動く事は滅多にないが、周りの植物を自由に操る能力を駆使して森全体、更には自然全体を手足にして戦う事が出来る。
討伐証明部位は魔石。
次回予告
武闘大会開幕の日を迎え、ユーマ達はコロシアムで開会式を待つ。
その時、八輝帝の面々が現れ、クレイル達を著初して、一触即発の雰囲気となる。
次回、開幕から早々に喧嘩を未然に阻止