第176話 互いの実力を確認
前回のあらすじ
新たに現れた『炎帝』のガルーザスと『風帝』のリーシャは、傲慢な態度をとりながらユーマを連れて行こうとするがゼノン達に阻まれる。
その際、ゼノンとガルーザスの因縁を知る。
ユーマを確実に手に入れる為に、リーシャは武闘大会で勝負をする事を持ちかける。
ユーマは自分の気持ちと仲間たちの気持ちを確認し、その勝負を受ける事になった。
八輝帝のミスティ達から宣戦布告を受けた翌日、僕達はバロンさん達と一緒にギルドの鍛練場に来ていた。
ここに来たのはバロンさんがセイナさんの宿にやって来て、僕達を引っ張り出してきたからだ。
「さて、こうしてお前達に来て貰ったのは他でもない。あの腐れ野郎共からユーマを守る為に、2週間後に迫った武闘大会に向けて、俺達で特訓だ!」
僕達をここへ連れて来たバロンさんが張りきりながら言い、既にゼノンさんやイリスさんもやる気満々で準備体操までしていた。
更にクレイルとラティ、ダグリスさんはパチパチと拍手しながら盛り上げている。
この空気についていけていなかったのは、僕とコレット、それからトロスさんの3人だ。
尚、アリア達は従魔スペースに預けていて、今頃はアリア達も従魔同士での再会を喜んでいる頃だと思う。
「何なの、この空気」
「皆の意図は分かるけど、これ程だとどんなリアクションしていいのか分からないね」
「すみません。ですが今回は僕もバロンと同じ気持ちですので、あまり強くは言えないので、何卒分かって欲しいです」
「ええ、それは勿論です」
僕達が皆の気持ちを理解していると、まずバロンさんが背中に帯剣した剣を抜いた。
「とりあえず、まずは互いの実力を確かめ合おうぜ。それぞれ2人1組になって模擬戦だ。それぞれが終わったら、また組み合わせを替えて模擬戦して、終わったらまた入れ替えて、それを繰り返していこう」
つまり模擬戦を通して互いの実力を確認しつつ、己の技量を少しでも上げるという趣向か。
確かに今の僕達に出来る事はそれくらいしかなさそうだな。
僕達はそれに同意し、最初の組み合わせは、クレイルとゼノンさん、ラティとダグリスさん、コレットとトロスさん、僕とバロンさんという組み合わせになった。
全員の数が奇数だからイリスさんはハブられたという形になったが、彼女は僕達の模擬戦をジャッジして、終わったら別の人に代わるというやり方で行く事にした。
そして僕は予定通り、バロンさんと向き合った。
「お前とこうしてやり合うのは丁度1年振りだな。互いに思う存分行こうぜ」
バロンさんは、1年前にサイクロプスの討伐依頼で使っていた予備の剣ではなく、前回の武闘大会で僕と戦った時に使った風斬剣の面影を感じさせる剣だった。
「バロンさん、もしかしてその剣は……」
「おう。お察しの通り、こいつは以前、お前に壊された風斬剣をロマージュ共和国の鍛冶工房で修理と同時に強化した、パワーアップ版の風斬剣。風斬剣・嵐だ」
風斬剣・嵐。
名前からして僕の白百合と同様に風属性が付与されているのかも。
元々風斬剣は突風を巻き起こしてその風の勢いで攻撃が出来る魔剣だったけど、「嵐」の名前が追加されているという事は、前よりも風属性の特化した魔剣に強化された可能性が大きい。
そう考えれば、僕も小手先の手は通用しないと判断して、鞘に納められた状態のアメノハバキリを構えた。
勿論、振った際にすっぽ抜けない様に鎖で固定してだ。
「それは確か、お前が新たに手に入れた神器だったな」
「はい。僕の武器の中でも特にしっくりくるので、これを使います。でも、前回のミネルヴァでの破損がありますから、今回は鞘に納めたままでやらせて貰います。ですが、これは決してバロンさんを侮っている訳ではありません」
僕が予め言うと、バロンさんも頷いた。
「分かってるさ。大会がもうすぐだというのに、下手してまた壊されたら俺は大会に出るどころじゃなくなるから、自分の力をセーブする方法として、それを選んだんだろ? 例え壊れてもお前なら一瞬でロマージュ共和国へ転移して、そこで直す事も出来る事は出来るけど、もし時間が掛かる様な事になったら結局は同じ事だからな。俺はちゃんと理解しているから、気にせずに向かってこい」
バロンさんも僕の懸念を理解してくれた様で、僕は安心してアメノハバキリを構えた。
「各自の準備が出来た様ね。それじゃあ、行くわよ。始め!」
イリスさんの掛け声で、僕達のそれぞれの模擬戦が一斉に始まった。
「行きますよ! ライトニングエンチャント!! 縮雷!!」
最初に動いたのは僕で、雷の複合強化からの移動術で一気にバロンさんに接近し、上段でアメノハバキリを振り下ろした。
バロンさんはそれに反応して、風斬剣を上にかざして防御した。
「前よりも動きのキレが増しているな! でもそれは、この俺も同じなんだよ!」
アメノハバキリによる初撃を受け止めたバロンさんは、1歩下がって風斬剣を斜めにして僕の攻撃を左に受け流してしまった。
僕がそのまま着地したのと同時にバロンさんが追撃をしてきたが、まだ縮雷が使えた為、一瞬で移動して回避した。
「やるな! だがこれならどうだ! ガストショット!!」
バロンさんは風斬剣の剣先をこちらに突き出し、その瞬間風の魔力による突きの衝撃波が飛んできた。
僕は紙一重で躱したが、衝撃波はそのまま壁へと向かい、壁に当たった。
その箇所は、周りに罅1つ入れずに綺麗な風穴があいていた。
「かなり正確な魔力が制御されていた。これもバロンさんの実力と、あの新しい風斬剣の力によるものなのか……」
まだ模擬戦が始まって少ししか経っていないが、バロンさんがこの1年で更に強くなっている事が伝わって来た。
「さあ、ユーマ! まだまだ勝負はついていないぞ!」
バロンさんは更なる追い打ちに、僕と距離を詰めて風斬剣での攻撃を繰り出してきた。
僕はその全てをアメノハバキリや魔竜のローブに通した袖などで防御し、攻撃の隙を待った。
そして一瞬大降りになったのを見て、縮雷で躱しつつ上を取った。
「隙ありです!」
僕は右足を上げてから、バロンさんの肩に目掛けて踵落としを繰り出した。
だがそれをバロンさんは剣を握っていない左腕の手甲で受け止めた。
「俺が剣だけだと思ってたか? 生憎だけど、ゼノンと再会してからあいつと暫く一緒にいてな。あいつに体術の手解きを受けたんだ……ぞっ!!」
バロンさんは一瞬で僕の右脚を掴み、そのまま僕を地面に叩きつけようとした。
「させま……せん!」
だがその寸前で空歩の靴を起動させ、横から上へと連続ジャンプでバロンさんの手を振りほどいて、距離を空けつつ体勢を立て直した。
「っとと!? あのタイミングでこれを防いだのか……その機転の良さ、ますます磨きがかかったな」
「そっちこそ。まさかあの一瞬で僕の空中踵落としを防ぐなんて。バロンさんも前よりも強くなってますよ」
僕とバロンさんは互いの1年間の成長をこの僅かな間で確認し合った。
「さあ、まだ勝負はついていないぞ! 来い、ユーマ!」
「行きます、バロンさん!」
その後僕とバロンさんは互いの剣技で勝負をした。
最初はほぼ互角だったけど、バロンさんは両手剣で僕は日本刀という武器の大きさの違いから、取り回しのききやすさで僕が優勢に立ち、最後は僕が振り上げたアメノハバキリでバロンさんの風斬剣が弾き飛ばされた。
武器を失って、後は素手での格闘戦しかないが、僕はまだ武器を持っているという状況判断から、バロンさんは両手を上げた。
「参ったぜ。俺の負けだ」
バロンさんが降参した事で、審判をしていたイリスさんが声を上げた。
「はい! この時点で各模擬戦は終了よ!」
どうやら僕達が勝負している間に他の試合は既に終わっていたらしく、周りを見ていると膝をついているゼノンさんに、両手を上げているトロスさんとダグリスさんの姿があり、対してクレイル、ラティ、コレットの3人が立っていた。
「それぞれの勝者は、ユーマくん、ラティちゃん、クレイルくん、コレットさんの4人よ」
どうやら銀月の翼の完勝に終わったらしい。
「クレイル殿のスピード……前よりも格段に上がっている。私ですら目で追うのが難しかった」
「ラティの嬢ちゃんの魔法、凄すぎるぜ……そもそも同じ魔族のイリスが勝てなかった時点で、俺に勝算があるのは難しすぎるんだよ……」
「僕なんか、殆ど近づく事すら出来なかったんですよ……何ですかあの正確な矢での攻撃は……」
どうやら3人共ラティ達に手も足も出せずに負けた様だ。
「でも1つ分かった事がある。ユーマ達の強さは俺達の予想を超えているという事だ。この分なら、あの八輝何とかの奴らにも十分通用するかもな」
「後は私達の方という事か。ユーマ殿、次は私と手合わせを願いたい。ガルーザスと戦う時に備えて、少しでも力を着けたいのでな」
「勿論いいですよ。では、イリスさんと誰か審判を交代しましょう」
「なら私がやるわ。皆まだ体力は大丈夫そうだけど、クレイルとラティもそれぞれ相手の希望者がいる様だから」
そして審判をコレットが担い、次に僕とゼノンさん、クレイルとバロンさん、ラティとイリスさんで模擬戦をする事になり、トロスさんとダグリスさんは休憩で体を休める事にした。
それからも交代で模擬戦を行い、最終的に僕達銀月の翼は全戦全勝という結果になり、ついでバロンさんとゼノンさんがほぼ同率、更にイリスさん、トロスさん、ダグリスさんという順に勝率の順位が付いた。
やがて夕暮れになって、僕達はギルドでゼノンさん達と別れ、宿に戻った。
宿に着くと、宿前に1人の女性の姿があった。
「あの、すみません。皆さんは銀月の翼の方々でよろしいでしょうか?」
「はい。僕達は確かに銀月の翼ですけど、あなたは?」
「あ、申し訳ありません、突然で」
その女性は髪をかき上げて改めて自己紹介しようとした。
その際に耳が見えたけど、その形状は海人族の物だった。
「その耳って、もしかして海人族? 珍しいわね。こんな海辺でもない所に海人族がいるなんて」
コレットも同じ疑問を抱いていた。
「私はレミス・アイランディア。八輝帝に所属する、『水帝』の異名で呼ばれている冒険者です」
なんと彼女は、あの八輝帝の人間だった。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
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今後の執筆の励みにもなりますので、よろしくお願いします。
※お知らせ
この度、皆様から魔物のアイディアを募集しようと思います。
魔物の名前、ランク、種類、特徴、戦闘スタイルなどを感想や活動報告のコメントなどで送ってもらえれば、こちらで採用するかどうかを判断します。
採用された魔物は、後のストーリーに手出す予定ですので、是非アイディアを送ってみてください。
待っています。
次回予告
レミスを宿に連れて来たユーマ達は、彼女から最初に謝罪を受ける。
彼女が話の分かる人物だと判断したユーマ達は、レミスに八輝帝の内部事情を聴く。
その内容は、結構複雑な物だった。
次回、話の分かる『水帝』