第175話 宣戦布告
前回のあらすじ
デスペラード帝国のSランクパーティー、八輝帝のミスティは『雷帝』の異名を持つユーマを自分達の仲間に相応しいと勝手な事を言う。
その為に自分達の仲間を平気で切り捨てる事を知ったユーマは誘いを断るも、ミスティはそれを拒否する。
話が進まない中、更に『炎帝』のガルーザスと『風帝』のリーシャが現れる。
僕はさっきミスティに言った様に、ガルーザスとリーシャにも僕は八輝帝に入らないという事を伝えた。
「折角ですけど、僕には既に銀月の翼というパーティーがあります。その仲間達を裏切る事は出来ないので、僕は八輝帝には入りません。既にミスティさんにもそう返事しました」
だけど、2人は全く聞く耳を持たなかった。
「お前の意見なんか聞いちゃいねぇよ。俺達がお前を仲間にすると言ったら、お前はそれに従えばいいんだよ」
「ミスティから聞いたと思うけど、あなたの力を伸ばしたいならそれ相応の場所にいるべきよ。それはこの八輝帝しかないの」
この2人もミスティと同様に傲岸不遜な態度をとっていた。
「ほら。分かったらさっさとこっちに来い。他の皆が待ってんだ」
ガルーザスが僕を無理やり連れて行こうと手を伸ばしたその時、
「いい加減にしないか、ガルーザス」
ゼノンさんが彼の手を掴んで行った。
「おい、この俺様の手を掴むのは何処のどいつだ?」
その時、ガルーザスは殺気の籠った視線をゼノンさんに向けると、途端にニヤケついた。
「よおぅ、ゼノンじゃねぇか。まさかこんな所でお前みたいな雑魚に会うとはなぁ」
ゼノンさんが雑魚だって……。
ガルーザスのその暴言に、僕も黙っていられなくなった。
「その言葉、撤回してください。ゼノンさんは雑魚なんかありません。僕達と心が通じ合った、仲間なんです」
しかしガルーザスは聞く耳を持たず、ミスティに声をかけた。
「ミスティ、こいつの情報はあるか?」
「ええ。『雷帝』様に関する情報は、全て入手済みです」
答えたミスティは、さっきクレイルとラティの情報を話した様にゼノンさんの事も語り始めた。
「ゼノン・ウィンザルグ。悪魔族のイリス・ドルリアーナと組んでいる冒険者パーティー、赤黒の魔竜のリーダー。『雷帝』様と出会った時はBランクでしたが、現在はAランク冒険者。従魔は水晶竜のスニィ。戦闘法は竜化魔法による徒手格闘。前回の武闘大会の後、銀月の翼とアライアンスを結び、その後アルビラ王国で起こった行方不明事件解決の立役者の1人にもなっています。また、現在は異名持ちであり、『竜闘士』と呼ばれています」
「成程な。雑魚のお前もあれからちっとは成長している様だな」
ガルーザスはどうやら、ゼノンさんと知り合いの様だった。
「ゼノンさん、彼と知り合いなんですか?」
「ああ。奴とは、ドラグニティ王国にいた頃から私のライバルであった」
「だが俺には1度も勝つ事が出来なかった、まさに雑魚だったがな」
あのゼノンさんが当時1度も勝つ事が出来なかったなんて……ガルーザスはそれ程の実力者という事か。
「だがお前は相手をリスペクトする竜人族の誇りを穢した愚か者。故に国を追放されていたが、後にデスペラード帝国に凄腕の竜人族の冒険者が現れたと、風の噂で耳にした。名前を聞いた時、お前だと分かるのには時間はかからなかった。あの国ならば、例え国外追放されていた者でも実力があれば問題はないからな」
ゼノンさんによると、このガルーザスという男はドラグニティ王国を追放されていた様だ。
普通ならそういう人を他の国で認められるのは難しいけど、あの国は実力第一主義だから、冒険者として実力を見せれば例え追放者であっても認められるという訳か。
「しかしこの『雷帝』とアライアンスを組んでいるという事は、雑魚だけでなく『雷帝』の腰巾着にもなったんだな。どうせその『竜闘士』の異名も、アルビラ王国の事件解決も、『雷帝』にくっついて美味しい思いを分けて貰ったって所だろ」
挙句の果てに、ガルーザスは何も知らないくせにそんな暴言を吐いた。
「ちょっと! そんな言い方ないじゃない! ゼノンさんはあの時、イリスさんと一緒にあたし達を先に行かせて従魔も入れたたったの4人で多くの敵を引き受けてくれたのよ! それに、あたしとユーマ君がべオルフに苦戦していた時だって、助けてくれたのよ!」
僕が何か言おうとする前に、ラティが抗議した。
「そうね。それに、私の相方をそんな風に言われると、流石の私も黙っていられないわね」
イリスさんも怒気のオーラを放って、ガルーザス達に向き合った。
「イリス・ドルリアーナ……今ここであなたを敵に回すのは、我々としても得策ではありませんね。ガルーザス、その人には手を出してはいけません」
その時、ミスティがイリスさんを見た途端に引くよう指示を出した。
「…………っち! 確かにこの女は一筋縄じゃいかないからな」
ガルーザスまで従って引いた。
どうしたんだ。
イリスさんが出てきた途端に、急に彼らの態度が変わった。
イリスさんを敵に回すデメリットが、彼らにあるのか?
「おい、あんたら。ユーマはな、お前達みたいな仲間を平気で切り捨てる奴らと組む様な奴じゃないんだ。こいつを無理にでも連れて行く様ならな、俺達も黙ってる訳にいかないぞ」
そしてバロンさん達も出て来てかなりヤバそうな雰囲気になって来てしまった。
「待ってください、バロンさん、イリスさん! 今ここで揉め事を起こしたら、武闘大会への参加資格を剥奪されるかもしれません」
「だけどこのままじゃ、こいつらもお前を諦める事はないぞ」
「その通りです。『雷帝』様には是が非でも我らのパーティーに来て貰います。それがお互いの為になるのですから」
「おい! あんたしつこいぞ! ユーマは断ったじゃねえかよ!」
ミスティの尚も僕を加入させるという態度に、クレイルが再び怒り出した。
「でもこれじゃあキリがないわね。そういえば、あなた達は武闘大会に出ると言っていたわね」
「ええ。私達銀月の翼も、彼らも出る予定よ。私達はもう参加登録も済ませたし」
コレットが僕達が武闘大会に出るという事を話したら、リーシャが何かを思いついた。
「それなら……ミスティ、ガルーザス。ちょっと……」
リーシャはミスティとガルーザスを呼び寄せて何かを話し合い、少しして3人は再び僕達に向き合った。
「ではこうしましょう。私達八輝帝もその武闘大会に出場します。そしてその場で『雷帝』様を懸けて私達と勝負しましょう」
「俺達がお前らに勝って優勝すれば、『雷帝』は俺達のパーティーに加入。逆に万一でもお前らが俺らに勝てれば、『雷帝』は諦める」
「これならどっちに転んでも納得いくと思うわ。どうかしら」
つまりこれは八輝帝から僕達への宣戦布告の様な物か。
負けた時のリスクは大きいけど、勝てれば何も文句はない条件だ。
僕は皆に自分の意思を伝えた。
「皆、僕はこのパーティーとアライアンスのままにいたい。でもこのままじゃあの人達は納得はしません。それなら、この勝負を受けて勝つ事で、何も文句が出ないようにしましょう」
「ユーマくんの決定なら、あたしは文句はないわ。あたしは当然力になるわよ」
「お前を守る為にも、俺達は力になるぜ」
「私も当然力を貸すわよ」
ラティ達は力になってくれる事を誓ってくれた。
「ユーマ、俺達は、お前ともう1度勝負したい。その為には、こいつらに勝つ必要がある。その為なら、俺達もライバルとして、仲間として力になるぜ」
「僕も当然力になりますよ」
「俺もだ。仲間の為に力になるのは当然だろ」
バロンさん達マッハストームも同意してくれた。
「ユーマ殿。私も竜人族の誇りに誓って、お主の力になる事を誓おう」
「私もよ。相方を馬鹿にされて、私もかなり頭に来ているし、あなたをあんな奴らに渡したくもないしね」
ゼノンさんとイリスさんも僕の力になってくれると誓った。
「ありがとうございます、皆。その話、受けさせて貰います」
僕はミスティ達に勝負の受諾を告げた。
「でも勝負は受けますが、後で僕達が勝っても『そんな約束はした覚えはない』とか言って、約束を反故にするのはなしですよ」
僕が確認をしようとすると、ミスティ達は鼻で笑いながら答えた。
「安心してください。私達も冒険者です。そんな周囲からの信頼がなくなりそうな事はしませんから。まあ、あなた達が勝つというのは万に一つかもしれませんが、頑張る事ですね」
そして3人は踵を返した。
「それでは、私達は一旦仲間の元に戻り、この事を話して武闘大会の参加登録を行います。『雷帝』様、どうか今の仲間との最後の時間を堪能してください。では」
ミスティはそう言って、ガルーザスとリーシャを連れてギルドから去っていった。
「ゼノン、俺の邪魔をした事を後悔させてやるよ。今度はあの頃以上に痛めつけてやるからよ。間違って死んじまっても恨むんじゃねえぞ」
「何時までもあの頃の私だと思うな。私もあれから強くなったのでな」
「はっ! そんな台詞、俺様に勝ってから言いな!」
最後にゼノンさんとガルーザスが啖呵を切り、3人はギルドから出て行った。
そして僕は皆に頭を下げた。
「ごめん、皆。僕の所為でこんな事になっちゃって……」
「気にするな、ユーマ。お前は何にも悪くないんだからよ」
「そうよ。悪いのは一方的に話を進めようとしたあっちだもん」
「お前は何にも気にする事は無いぜ」
クレイル、ラティ、バロンさんに励まされ、僕は元気を取り戻す事が出来た。
「ありがとう、皆。武闘大会、絶対に勝ち上ろう」
『おおおおおお!!!』
僕達は新たな強敵を前にして、武闘大会への準備を進めた。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
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今後の執筆の励みにもなりますので、よろしくお願いします。
※お知らせ
この度、皆様から魔物のアイディアを募集しようと思います。
魔物の名前、ランク、種類、特徴、戦闘スタイルなどを感想や活動報告のコメントなどで送ってもらえれば、こちらで採用するかどうかを判断します。
採用された魔物は、後のストーリーに手出す予定ですので、是非アイディアを送ってみてください。
待っています。
次回予告
八輝帝からの宣戦布告を受けたユーマ達は、バロンの提案の許互いの実力を確かめ、更に高め合う事を決める。
まずはそれぞれの組み合わせで模擬戦を行う。
次回、互いの実力を確認