第174話 八輝帝
前回のあらすじ
武闘大会の参加登録を済ませたユーマ達は、ギルドでゼノン達と再会する。
バロン達マッハストームとは約1年ぶりの再会だった事で、積もる話もあり楽しく歓談する。
その時、ミスティと名乗る女性が現れ、ユーマをスカウトしに来た。
「えっとぉ……僕を迎えに来たって、どういう事でしょうか?」
「言葉通りの意味です。『雷帝』様、あなたは我ら『八輝帝』の雷属性のメンバーを担うのに相応しいお方です。この様な普通の冒険者の方々とパーティーやアライアンスを組んでいては、あなたの才能は永遠に埋もれたままです。それを防ぐ為に私がこうしてお迎えに参ったのです。さあ、こちらへいらしてください」
ミスティと名乗った女性は、僕の家族や仲間を言いたい放題言った後、まるで僕が手を取らない事を疑っていない様に手を差し出した。
僕が言葉を出そうとした時、クレイルとラティが間に出て来た。
「おい、あんた。黙って聞いていれば、俺達がユーマの才能を埋もれさせるなんて、随分と言ってくれるじゃねえか。生憎だけどな、ユーマは俺達の銀月の翼のリーダーなんだ。何処の馬の骨とも分からない奴に渡せるわけないだろう」
「そうよ。ユーマくんを奪うなんて真似、あたし達が許さないわ」
2人を前にして、ミスティは静かに口を開いた。
「クレイル・クロスフォード。銀月の翼に所属する狼人族の獣人、16歳。異名は『闘王』。従魔はフェンリルのレクス。戦闘スタイルはスピードを上げるタイプの固有魔法を活かしての、四肢に装備した手甲や脚甲による格闘戦。性格は4人の中で最も活発で、常に自分の思いのままに行動する」
ミスティはクレイルの事をスラスラと述べ、次にラティを見やった。
「ラティ・アルグラース。銀月の翼創設時のメンバーにして、『雷帝』様の婚約者。16歳。異名は『賢者』。従魔は特異種のグリフォンのクルス。全ての属性の魔法を高い水準で扱う事が出来、その威力は我らにも匹敵すると言われている。固有魔法は分かっていないが、高威力の魔法を連発しても魔力切れを起こさない事から、魔力系の固有魔法と思われる。性格は天真爛漫で、4人の中でも最もなお人好し」
その余りにも的中している内容に、2人は驚いた。
「何であたし達の事をそんなに知っているんですか!?」
「私達の仲間に、情報収集に長けた者がいまして、その者の手にかかれば、あなた達の情報など1日もあれば集める事など容易い事です。そして、『雷帝』様以外の3人は、私達の足元にも及ばない事など、すぐに分かります」
そしてミスティは尚も、2人を嘲笑った。
「まずは『闘王』ですが、戦闘法が接近戦という時点で、私達の敵ではありません。私達が魔法を使って接近できない様にすれば、『闘王』など無力も同然になるからです。次に『賢者』ですが、彼女の魔法は見た訳ではありませんが、彼女の魔法が我々にも匹敵するというのは評価しましょう。しかし、全ての属性を扱えてもそれは我々からすれば、所詮は器用貧乏。1人で全てが上手く出来るほど、冒険者稼業は甘くはありません。各属性の特化した我々が揃えば、『賢者』など恐れる事もありません」
ミスティはどうやら、自分と彼女の仲間が揃えばラティは敵じゃないと言いたい様だ。
「黙って聞いていれば好き放題言ってくれるな。そもそも、あんたは一体何者なんだ?」
クレイルが尋ねると、ミスティは呆れた様に溜息を吐いた。
「先程名乗ったと思いますのに、どうやら『闘王』殿は頭の出来も悪い様ですね。ですが『雷帝』様には仲間となる者の事を知って貰う為に、改めて自己紹介をさせていただきましょう。私はミスティ・リンゼルーグ。デスペラード帝国を拠点にしていますSランクパーティー、八輝帝の一角を担う、『氷帝』でございます」
改めて名乗ったミスティの自己紹介を聞いて、バロンさん達が何かを思い出した。
「そうか、思い出したぞ! あれがあの噂の八輝帝、『氷帝』のミスティか!」
「バロンさん、知ってるんですか?」
「ああ。あれはいくつかあるSランクパーティーの中でも最高と謳われている、とんでもないパーティーだ」
バロンさんによると、八輝帝は冒険者の平均ランクが最も高いと言われているデスペラード帝国を拠点にしていて、現在存在するSランクの中で最もEXランクに近いパーティーとも言われている。
メンバーは8人で、1人1人が8属性の各自に特化した魔法使いや魔法戦士で構成されている。
現在はその8人中7人が『帝』の付いた異名を持ち、『炎帝』、『水帝』、『風帝』、『氷帝』、『地帝』、『光帝』、『闇帝』の7人の『帝』が存在している。
つまりミスティはその内の1人の『氷帝』を担う人物だという事だ。
「しかしおかしいです。確か八輝帝には既に、非常に優秀な雷魔法の使い手が所属していた筈です。それなのにユーマくんをスカウトするとは、どういう事なのですか?」
どうやら八輝帝には既に雷属性のメンバーが存在している様だ。
しかしトロスさんの質問に、ミスティはあっさりと答えた。
「ええ。確かに私達には、いずれは『雷帝』の異名を持つかもしれなかった者がいました。しかし、その前にそちらのユーマ様が『雷帝』の称号を得た事により、その者、ライオルドは不要となりました。不要物には用がないので、私と他6人との総意で彼を追放しました。これにより、我々は『雷帝』様をお迎えするご用意が整いましたので、私がこうしてあなたをお迎えに参ったのです。これで満足でしょうか? さあ、『雷帝』様、こちらへいらしてください」
彼女の言葉を聞いて、僕達は全員が言葉を失った。
パーティーメンバーを、仲間を不要物として追放した?
大切な仲間をまるでゴミを処理するかのような言い方に、僕は我慢が出来なくなった。
しかしそれは皆も同様だった様で、先にクレイルやバロンさんが口を開いた。
「おい、あんた。ふざけた事を言うんじゃねえぞ。仲間を不要物だと? そのライオルドって人は、あんたの仲間だったんじゃないのか?」
対してミスティは何を言っているんだという様な態度だった。
「何をおかしな事を言っているのですか? 仲間というのは、同じ立場に立つ者同士の事を言うのす。彼はいつまでたっても『雷帝』の異名が付かなかった、いうなれば無能です。そんな者が『帝』の称号を賜った私達と同じ立場なんて、とてもですが有り得ません。使えない者は切り捨てて相応しい者を入れる、それこそが一流冒険者という物なのです。そして『雷帝』様は名声、実力、その全てが私達の仲間になるのに相応しい水準に立ます。我ら八輝帝こそが、あなたのいるべき場所なのですよ。『雷帝』様、お分かりになりましたら、こちらにいらしてください」
その傲岸不遜な振る舞いに、僕は返答するべくミスティに話しかけた。
「ミスティさん」
「どうやら分かって頂けた様ですね」
ミスティは僕が向こうに行くと、完全に思い込んでいた。
「行きません。僕はあなた達のパーティーには入りません。仲間を平気で切り捨てる様な人達とは、僕は上手くやっていくのは無理です。この銀月の翼こそが僕のいるべき場所なのです。ですから折角ですが、この話は断らせて頂きます」
「ユーマ!」
「ユーマくん!」
僕の断るという返事に、クレイルとラティが顔を明るくした。
「いいぞ、ユーマ!」
「それでこそ、私達の認めた男だ、ユーマ殿!」
後ではバロンさんとゼノンさんも僕を褒めてくれた。
「成程。どうやらあなたは相当そちらの雑魚共に絆されている様ですね。ですがそれではあなたの為にはなりません。私は基本的には他人の意思を尊重する方ですが、今回はあなたの為に敢えて心を鬼にします。『雷帝』様、あなたが私達の話を断るという事を断らせて頂きます。あなたには何が何でも私達の仲間になって頂きます」
ミスティは僕の辞退をはねのけて、無理にでも引き抜こうとした。
「おい! あんた、ふざけんじゃねえぞ! ユーマは入らないって言ってるじゃねえか!」
「そうよ! これ以上ユーマくんに付き纏うというなら、あたし達ももう黙っていないわよ!」
「俺も加勢するぜ、嬢ちゃん!」
クレイル、ラティ、バロンさんが僕達の間に入って、一触即発な雰囲気になろうとした時、ミスティに声をかける者が現れた。
「おい、ミスティ。『雷帝』を迎えに行ってから、結構時間が掛かってるから来てみたら、何やってんだよ」
「見た所、全く上手くいっていない様ね」
ミスティの所にやって来たのは、赤い武闘服に身を包んだ竜人族の男性と、緑を基準にした軽装のエルフの女性だった。
「あら、ガルーザス、リーシャ、もうそんなに時間が経っていましたか? 申し訳ありません。『雷帝』様がかなりこの雑魚共に入れ込んでいる様でして、説得していたのですよ」
竜人族の男性とエルフの女性は僕を見て、こちらに歩を進めて来た。
「お前が『雷帝』か。俺はガルーザス・インフェルイド。八輝帝の『炎帝』を担っているんだ。仲間になる奴の事は覚えてくれよな」
「私はリーシャ・シュトロームス。同じく八輝帝にいる『風帝』の名を賜ったハイエルフです。よろしく」
この2人は、ミスティの仲間の『炎帝』と『風帝』の様だった。
しかも、2人も僕が八輝帝に加入している事を前提で話しかけてきた。
そして後ろではクレイル達が殺気の籠った目で睨んでいた。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
「面白い」、「更新頑張れ」と思った方は、是非評価をしてみてください。
今後の執筆の励みにもなりますので、よろしくお願いします。
※お知らせ
この度、皆様から魔物のアイディアを募集しようと思います。
魔物の名前、ランク、種類、特徴、戦闘スタイルなどを感想や活動報告のコメントなどで送ってもらえれば、こちらで採用するかどうかを判断します。
採用された魔物は、後のストーリーに手出す予定ですので、是非アイディアを送ってみてください。
待っています。
次回予告
新たに現れたガルーザスは、ゼノンと因縁がある相手だった。
ユーマを巡ってより険悪な雰囲気になるが、リーシャがある提案をする。
それは、銀月の翼、マッハストーム、赤黒の魔流への挑戦状だった。
次回、宣戦布告