第173話 スカウトされた『雷帝』
前回のあらすじ
武闘大会に参加する為に、ユーマ達はヴォルスガ王国へ転移する。
泊る宿に以前利用した月の狐を訪れ、セイナとスーと再会し、スーの従魔のモココとも出会う。
ギルドに入ると最初に感じたのが、僕達に向けられた冒険者やギルドのスタッフ達の視線だった。
何か話している声も聞こえ、耳を澄ますと「銀月の翼だ」とか、「あれが前回の優勝チームと準優勝者か」などといった内容が聞こえて来た。
やはり僕達の事は既に話題になっている様で、その本人を見た事で所謂ミーハー的な反応になっているのだろう。
前回の武闘大会から1年が経つが、その間もこのヴォルスガ王国の王都のギルドを拠点にしている冒険者もいるだろうし、そういった人達が話題を広めた事で、こうして僕達がすぐに銀月の翼だと知られたと考える方が自然だ。
「ユーマ、周りを気にしていたらキリがないし、とっととアライアンス情報を聞きに行こうぜ」
クレイルに促されて、僕達は受付へ足を運んだ。
「あの、すみません」
「はい、本日はどの様な御用件でしょうか?」
受付嬢の恒例の営業スマイルに迎えられ、僕はギルドカードを差し出して用件を伝えた。
「僕達銀月の翼とアライアンスを結んでいるパーティー、マッハストームと赤黒の魔竜が現在何処にいるのかを知りたいのです」
「はい、畏まりました。少々お待ちください」
受付嬢は僕のギルドカードを受け取って受付の奥へと行き、暫くして戻って来てカードを返してきた。
「確認が取れました。マッハストーム、赤黒の魔竜、どちらも現在この王都にございます。このギルドにいれば会えるかもしれません」
僕達の推測通り、ゼノンさん達はこの王都にいた。
「やっぱり、武闘大会に出場するつもりなのかもね」
「前回ユーマとラティに負けたから、そのリベンジのつもりかもな」
確かに、ゼノンさんとイリスさんは1度やられたままで終わる様な人達じゃないし、バロンさん達は前々回の武闘大会の優勝チームだから、それなりのプライドみたいなのもあるだろうから、クレイルの言うリベンジの可能性はありそうだな。
そう考えていると、ギルドの扉が開き、5人程の冒険者が入って来た。
「おい、ユーマ! あれ!」
クレイルがその冒険者達を見て、驚きと喜びが混ざった様な顔になった。
僕もその人達を見て、それもその筈だと納得した。
だってその人達は……今その会いたいと思っていた仲間だったのだから。
「ゼノンさん! バロンさん!」
僕が呼びかけると、その冒険者――ゼノンさんとイリスさんの赤黒の魔竜、バロンさん、トロスさん、ダグリスさんのマッハストームがこちらを振り向いた。
「おお、ユーマ! ユーマじゃねえか! 久し振りだな!」
「ユーマ殿! やはり来ていたか! ここでまた会えて嬉しいぞ!」
2人の後ろにいたイリスさん達もラティやクレイルに挨拶した。
「ラティちゃん、暫く振りね。また一段と魔力が強くなった様ね」
「はい、イリスさん。あたしもあれからまた更に強くなりましたよ」
「クレイルくん、お久し振りですね。また会えて、僕らも嬉しいですよ」
「ゼノンとイリスから聞いたぜ。アルビラ王国ではかなり活躍したそうだな」
ラティとクレイルはイリスさん達と挨拶して、僕達はアライアンスを結んだ皆と久し振りの再会を楽しんだ。
その時、ふとバロンさんがコレットを見た。
「ユーマ、あのエルフのお姉ちゃんがお前達の新しい仲間なのか?」
「はい。僕達の仲間で、クレイルの婚約者のコレットです」
コレットはマッハストームの面々に向かい、自己紹介した。
「初めまして。コレット・セルジリオンよ。ユーマ達のパーティーに所属しているSランクの冒険者よ。こっちは私の従魔の、ティターニアのアインよ」
「どうも。アインよ。よろしくね」
「俺はバロン・レブラント。マッハストームのリーダーをやっているAランクの冒険者だ。ユーマとは直接戦って心を通じ合わせた仲で、今はこいつとアライアンスを結んでいる」
次にバロンさんはラティ達と話していたトロスさんとダグリスさんを呼んでコレットに紹介した。
こうして全員の再会と自己紹介が終わり、僕達はギルド内の席に座って軽食と飲み物を頼んだ。
「しっかし、最初に会った時は俺達よりもランクが低かったユーマ達が、今ではSランクになってすっかり俺達を追い抜いちまったな」
「僕達も噂で聞いたのですが、あのダルモウス山脈のダンジョンを制覇したそうですね」
「あのダンジョンを突破するなんて、お前達は本当に凄いな」
バロンさん達は僕達があのダンジョンを攻略したという事を知っていて、僕達の事を凄いと評した。
「ねえラティちゃん。そのダンジョンを攻略したという事は、その神器の杖を手に入れたのよね? ちょっと見せてくれない?」
「いいですよ」
イリスさんに頼まれたラティは、神杖ウラノスを取り出し、皆に見せた。
「それが神器の杖、神杖ウラノス……見ただけでも凄い杖だって分かるわ」
「ああ……俺は剣士だから杖の事はさっぱりだけど、その俺でもとんでもない代物だってのは分かるぞ」
ウラノスから発する神器の力を直感で感じで、皆はまじまじとウラノスを見ていた。
「そうだ。実は、俺達もロマージュ共和国で、スゲエ事が分かったんだ」
クレイルはゼノンさん達に、自分のメルクリウスが神器だという事を教え、僕も首都のダンジョンで新しい神器、神刀アメノハバキリを手に入れ、そのダンジョンで僕はミネルヴァに、クレイルはメルクリウスに主として認められた事を話した。
「何と……クレイルくんのガントレットとグリーブも神器だったとは……しかもユーマくんも2つ目の神器を手に入れたとは……」
「しかもコレットも神器の弓とクロスボウを持っているとはな……つまりお前達は全員神器を持っているという事か」
トロスさんとダグリスさんは僕達が全員神器持ちだという事に気付いた。
「つまり、ユーマ殿達は特異種のクルス殿も入れて、全員がEXランクの従魔と適合し、全員が神器を持っているという事か……まさにSランクの称号に相応しいな」
「ありがとうございます、ゼノンさん」
その後も歓談を続け、イリスさんがある事を聞いてきた。
「処で、この時期のヴォルスガ王国にあなた達が来たという事は、やっぱり今年の武闘大会にも出るつもりなの?」
イリスさんの問いは、僕達が武闘大会に出るのかという内容だった。
「そのつもりですよ。オベリスク王国のグレイドニル国王からもうすぐ開催される事を聞いて、僕のロストマジックの空間魔法で一気にやって来たんです」
「それってつまり、ユーマはあれからロストマジックを手に入れたって事か?」
バロンさんに尋ねられて、僕はまだマッハストームに皆に僕とラティがロストマジックを習得したという事を言っていない事に気付いた。
僕とラティは1年前皆と別れた後、クレイルの知り合いのハイエルフの冒険者、コレットの許を尋ねて、暫く臨時でパーティーを組んでいた事、
その後にスタンピードが起こって、僕達はアリア達の秘密を公にする代わりに、戦いで死者を出さずに鎮圧させた事、
その後にコレットに認められて、僕は空間魔法、ラティは重力魔法の魔法書を貰い、半年の修行でロストマジックを身に着けた事を話した。
「……って事は、ユーマ達は行った事のある場所なら、自由に行き来できるって事なのか?」
「そして最近までゼピロウス大陸の国にいたのに、一瞬でこのメビレウス大陸まで転移して来た」
「しかも転移系のマジックアイテムも必要ないとなると、マジで反則級だな。ロストマジックは」
バロンさん達がロストマジックの凄さを目の当たりにしている所で、僕はゼノンさんに武闘大会の事を尋ねた。
「あの、ゼノンさん達も武闘大会には参加するんですよね?」
「無論だ。前回お主達にやられた雪辱を果たすという目的もあるが、やはりこういう場では多くの強敵と戦えるのでな。まだ見ぬ強き者と戦う私の目的には、丁度良いのでな」
ゼノンさんは僕達へのリベンジと、強者との戦いを求めて参加すると言った。
分かってはいたけど、この人本当に戦闘狂の一面があるよな。
まあ、それでもかなり良識的だから、僕も全然苦手意識を抱く事は無いし。
「俺も、やっぱり元優勝チームとしてのプライドってのがあるからな。お前達にリベンジする為に、今年も参加するぜ」
僕達の予想通り、バロンさん達もゼノンさん達も、僕達へのリベンジマッチが目的の大部分を占めていた。
「だがその為にはお前達と当たるまで、俺達は勝ち続けるのが1番の前提になる。だが勝負は時の運というのもあるからな。絶対に勝てるという保証は流石の俺にも無い。そこで俺達は目的が共通しているという事で、俺達マッハストームと、ゼノンとイリスの赤黒の魔竜は、今回同盟を組んで1つのチームとして出場する事にしたんだ」
何と、バロンさん達は本来別々のパーティーだが、今回はアライアンスの仲間と同じ目的を持っているというのを利用して、1つのチームに纏めて参加する様だ。
確かに武闘大会は、1チームに最大5人まで入れて出る事が出来る。
今回バロンさん達だと、バロンさん、ゼノンさん、イリスさん、トロスさん、ダグリスさんの丁度5人だから、確かにこれ程の面子だと、勝ち上れる確率も大きくなる。
そう考えれば最善の策だ。
「それは凄いですね。でも、僕達だって、前回は僕とラティの2人だけでしたけど、今回はその前回の準優勝のクレイルに、ハイエルフのコレットもいるんです。今回も優勝は僕達が頂きますよ」
僕も負けずに5人に啖呵を切った。
「面白い事を言うな。なら、俺達と当たるまで、絶対に負けるんじゃねえぞ。俺達も必ず勝ちあがる。そして最高の舞台で戦おうぜ」
「ユーマ殿、私達もあれから更に精進を重ねた。その成果を必ずぶつけるから、覚悟しておれ」
「望むところです。必ずまた戦いましょう」
僕はバロンさんとゼノンさんと固く握手を交わし、互いに大会で戦う事を誓った。
そうして話が盛り上がった所で、ある出来事が起こった。
「失礼します。少々よろしいでしょうか?」
後ろから透き通った女性の声がして、振り返ると、そこには水色を基準にしたゆったりとした感じのドレスアーマーを纏った、パッと見て20歳くらいの、水色の長髪の綺麗な女性がいた。
その腰にはレイピアの様な細剣が帯剣されていた。
種族は人族の様だ。
そして女性は僕を見ると、ゆっくりと近づいてきた。
「そちらの黒いローブを纏った殿方、『雷帝』のユーマ様で合っていますでしょうか?」
どうやら僕に用がある様だった。
「はい。僕はその『雷帝』のユーマです。えっと……あなたは?」
僕が問うと、女性はゆっくりとお辞儀をしながら名乗った。
「申し遅れました。私はミスティ・リンゼルーグ。人は私の事を、『氷帝』のミスティと呼びます」
『氷帝』……僕の『雷帝』の異名とよく似ているな。
もしかしてこの人は……。
「『雷帝』のユーマ様、本日は、あなたを我らのパーティー、『八輝帝』に招待するべくお迎えに参りました。私と一緒に来てくださらないでしょうか?」
…………はっ?
今この人なんて言ったんだ?
僕をお迎えに来たって、それってつまり、僕はこの人にスカウトされたって事?
そしてこれが、僕の巻き込まれ体質による新たな騒動のきっかけになるのだった。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
「面白い」、「更新頑張れ」と思った方は、是非評価をしてみてください。
今後の執筆の励みにもなりますので、よろしくお願いします。
次回予告
ミスティと名乗った女性からスカウトに戸惑うユーマ。
その彼女が所属するパーティは、デスペラード帝国を拠点にする、各属性に特化した冒険者によって成り立っていた。
だが、その彼女の態度に一触即発となる。
次回、八輝帝