第171話 次の国へ向かう前に
オベリスク王国の騎士団の強化を始めて、数日が経った。
既に彼らは部分強化を完全に使える者が多くなり、まだ完全ではない者ももうすぐという段階まで来ていた。
元々巨人族は8属性よりも無属性魔法を得意としている種族で、身体強化を中心にして戦うから、その身体強化の派生である部分強化を習得するのに時間はかからなかったからだ。
そして現在、僕とクレイルは既に部分強化を習得した巨人騎士達との、2対複数の変則模擬試合を行っている。
「まずは俺が行くぜ。ユーマ、お前は取りこぼしたのを頼むぞ」
「分かったよ。油断しないでね」
「お前もな」
最初にクレイルが動き出し、巨人騎士達の中央に向かって突撃した。
「来るぞ! 盾部隊、前へ!」
団長の合図で盾兵が前に出て、巨人族の身体を覆い隠すほどの大きさの大盾を横に並ぶ様に突き出し、クレイルの先制攻撃に対する防御を整えた。
「いっくぜ! メテオストライク!!」
クレイルが炎の一撃を放ったが、彼らはその一撃を盾で受け止める事に成功した。
「上手い。部分強化で腕を強化して、巨人族の腕力と併合する事で防御力を何倍にも上げたのか。しかも盾兵は複数いるからそれで全員で合わせれば、クレイルの攻撃もあの通りに防げる」
クレイルもこれ以上は打ち破るのに苦労すると判断したのか、盾を踏み台にして後ろへと跳んだ。
「逃すな! 槍部隊、攻撃だ!」
その瞬間、盾と盾の間に隙間が開き、そこから巨大な槍が飛び出してクレイルに襲い掛かった。
「エアステップ!」
しかし咄嗟の空中歩行の魔法で、クレイルは簡単に騎士達の上を取って後ろに入り込んだ。
「これで前後を挟み撃ちに出来るな。僕も行きますよ!」
僕もアメノハバキリと黒薔薇の二刀流となって突撃し、彼らは盾部隊の半分を僕に、もう半分をクレイルに向けて防御の姿勢をとった。
「さっきは防がれたけど、今度は俺達が強化の手本を見せてやるよ!」
「僕もです!」
僕とクレイルは同時に攻撃を仕掛け、鞘に納めたアメノハバキリに魔力を流し、同時に腕を部分強化し、クレイルもメルクリウスを纏った腕を部分強化して炎を纏った。
「はあぁっ!」
「喰らえ!」
僕達の攻撃が同時にそれぞれの盾に決まり、盾兵の持った盾は全て粉々に砕かれた。
「何!? 我々の盾が一瞬で!?」
「こちらも部分強化をしていたんだぞ!?」
「生憎だけど、俺達の強化は実際に戦闘を重ねて鍛え上げたんだ。たった数日で身に着けただけのとじゃ、格が違うんだよ」
クレイルの言う通り、僕達の部分強化はただ魔力制御を訓練しただけでなく、その後も魔物と戦う事でその精度を常に磨き上げてきた。
まだ身に着けたばかりではその精度がまるで違う為、同じ土俵に立っても練度に差がある為こうなったんだ。
「怯むな! まだ我々の負けが決まった訳ではないぞ!」
団長の掛け声に士気を取り戻した騎士達が、剣や槍などを構えて向かってきた。
「そうでなくちゃな!」
「受けて立ちます!」
僕達も迎え撃ち、そこからは僕達が圧倒していた。
クレイルは次々と襲い掛かってくる武器を部分強化した腕や足であしらい、バランスを崩したり他の攻撃を激突させたりと、その隙をついて腹に打撃を与えて倒した。
僕も二刀流の構えで受け止めては横に流してを繰り返しながら彼らのバランスを崩し、その瞬間に鞘による打撃を打ち込んで1人、また1人と騎士の意識を奪っていった。
そして数分後、この場に立っているのは僕とクレイルだけになり、後は騎士達全員が倒れていた。
「勝負あったな。この勝負、『雷帝』殿と『闘王』殿の勝利とする!!」
勝負を見ていたグレイドニル国王の掛け声により、僕達の勝利が決定した。
そしてこの勝負を見ていたまだ部分強化を完成させていない巨人騎士達が歓声を上げ、僕達は一息ついた。
暫くして騎士たちの意識が戻り、彼らのコレットとラティが近づいた。
「皆さん、お疲れ様です。結果は負けでしたけど、皆さん部分強化がよく出来ていました」
「後は自分達で試行錯誤しながら鍛練を積めば、自分達だけの戦い方が出来る様になるわ。まだ完成していない人達も、完成まで時間の問題だから、焦らずに修練をしてね」
『はい! ありがとうございます!!』
僕達の指導に感謝をして、騎士達は深く頭を下げながらお礼を言った。
こうして、僕達の依頼である騎士団の強化期間は終わったのだった。
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その後僕達は謁見の間に来て、グレイドニル国王と依頼完了の手続きをしていた。
「これで良いかな。銀月の翼よ、儂からの依頼を受けてくれた事、感謝するぞ」
僕に記入を終えた依頼用紙を渡した国王が僕達にお礼を述べた。
「お役に立てた様で、僕達も嬉しいです」
僕達が依頼を終えたのを確認し、国王がある事を聞いてきた。
「そういえば、お主達は世界を巡る旅をしているのだったな。この国の次は何処へ行くのか決めたのか?」
「そうですね……このゼピロウス大陸はまだ来たばかりで、この大陸の国々はここのオベリスク王国しか見ていないので、この次はドラグニティ王国かガイノウト帝国に行こうと思っています」
「フムフム」
僕達がこれから何処へ向かうのかを話すと、グレイドニル国王は少し考えた後に、ゆっくりと口を開いた。
「実はの、ゼピロウス大陸ではないが、メビレウス大陸のヴォルスガ王国で、近々武闘大会があるのだ」
国王は僕達に今年の武闘大会が近い内に開かれる事を告げた。
何でも、友好国であるヴォルスガ王国の獣王から近々開催する事を聞いたそうだ。
「武闘大会……」
「あたし達にとっては、思い出が沢山ある所ね……」
今思えば、あれからもう1年が経った事になる。
あの武闘大会は、当時僕とラティ、アリアとクルスしかいなかった銀月の翼が様々な出会いや出来事があった。
まずはクレイルとレクスと出会い、
そして開幕してゼノンさんとイリスさん、バロンさんとトロスさんとダグリスさんの、アライアンスを結んだ仲間と出会い、
ある貴族とラティとの未来を懸けて見事に勝ち取ったり、
そして僕達が優勝したりと、
多くの出来事があった。
「ねえユーマくん、もしかしてゼノンさん達も今頃、ヴォルスガ王国に向かっているんじゃない?」
「有り得るね。もしかしたら、今年の武闘大会にも参加するかもしれない」
僕はゼノンさん達の事を考え、今ヴォルスガ王国に行けば、久し振りにバロンさん達マッハストームにも会えるかもしれないと思った。
「なあユーマ、いっその事俺達も参加して、2連覇を目指してみないか?」
「面白そうね。私も皆と一緒に参加してみたいと思ってたの」
クレイルとコレットも武闘大会への参加を望んでいる様だ。
「お主達がまた参加すれば、レオンハルト国王もさぞ喜ぶと思うのでな。こうして言ってみたのだ」
グレイドニル国王は、僕達が前回の優勝者だと言う事をおそらく獣王から聞いて、それで今年も出てみないかと勧めた様だ。
だが皆は出てみる気満々の様だから、僕達に拒む理由はなさそうなので良いかもしれない。
「そうですね。良い機会ですから、一旦メビレウス大陸に戻って、また武闘大会に出てみようと思います」
「そうか。レオンハルトには儂から連絡しておこう。『雷帝』殿の従魔の竜神なら、数日でヴォルスガ王国に行く事が出来るだろう」
「その事ですが、僕達にはもっといい移動法があります」
僕達はグレイドニル国王に僕達がロストマジックを習得している事を話し、僕の空間魔法なら一瞬でヴォルスガ王国に行ける事を告げた。
「成程……お主達はロストマジックまで身に着けていたのか。それならは明日にでもヴォルスガ王国へ行く事も可能という訳か。ではレオンハルトには今晩中にでも話を着けておこう」
「よろしくお願いします」
その後僕達は王城を後にして王都のギルドに向かい、ギルドで依頼完了の報告をした。
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翌日になり、僕達は城壁を出て王都が見えなくなる場所まで移動した。
「それじゃあ、早速懐かしのヴォルスガ王国へ行くとしますか」
「早く早く。イリスさんに会えるかと思うと楽しみだから」
「バロンさん達に会ったら、色々と積もる話があるからな。早く行こうぜ」
「ユーマ達がアライアンスを結んだ仲間達に会うのが楽しみだわ。年甲斐もなくはしゃいじゃいそうね」
『スニィさんやカミラさん達にも早く会いたいです』
「グルルゥ♪」
「ウォン♪」
「あたしも初めて会う皆の仲間に会うのが楽しみだわ。だからユーマ、早く開いて」
皆は早くヴォルスガ王国に行きたい様で、僕に急かし始めた。
「慌てないで。今から転移門を開くから」
僕は空間魔法を発動させて、ヴォルスガ王国の王都に近い場所へ繋いだ。
「潜ったら、そこからアリアに乗って王都に行こう。それじゃあ、出発だ」
僕達は門の先へと潜り、そこからアリアに乗って王都を目指した。
これで第10章は終わりです。
次回から第11章、「武闘大会再び」になります。
評価のやり方が新しくなりました。
まだ未評価の方は、是非お願いします。
また、既に評価された方も、この機会に評価し直してみてはどうでしょうか?
次回予告
再びヴォルスガ王国へとやって来たユーマ達。
早速コロシアムへ赴き、武闘大会への参加登録をする。
泊る宿を目指し、4人はある宿を探す。
次回、再びヴォルスガ王国へ