第168話 特殊属性
前回のあらすじ
指名依頼を出したマグルスから、魔力栓症に罹った伯爵夫人を治療する為に魔流草を採取して欲しいという事を聞いたユーマ達は、自分たちに任せろと言いヒュドラのいる洞窟を訪れる。
王都を出てアリアに乗って上空を移動して1時間程で、僕達は依頼対象の魔流草がある洞窟へとやって来た。
「ギルドの情報とマグルスさんの話によると、魔流草があって、ヒュドラがいるのはこの先の大空洞らしい。でも、この洞窟はこれといった魔物もいない様だから、ヒュドラと出会うまでは戦闘は無いと見て良さそうだ」
「ならその前に、それぞれの役割を決めましょう。大きく分けて、ヒュドラを引き付けるのと魔流草を採取するの2つね」
「ヒュドラに関しては、俺とユーマ、後はアリアとレクスで行けるんじゃないか?」
「それなら、あたしも魔法で援護するわ。コレットさんが採取するんなら、後衛のあたしは両方を護れるし」
「そういう事なら、戦闘と防衛は僕達に任せて。コレットは薬草を採取して。クルスとアインはラティと一緒に後方から支援して」
「グルルルゥ!」
「オッケー、任せなさい」
ヒュドラ戦の役割を決めて、僕達は洞窟の奥へと歩を進めた。
事前に聞いていた通り、この洞窟は太陽の光こそは届いていないが、壁や天井に付着しているコケが光を放って、まるで日中の様な明るさを出していた。
「本当に明るいな。まるで洞窟にいる感じがしないな」
「そうね。でも横や上を見れば、ちゃんと壁や天井があるからそれで洞窟の中だって分かるけど、これはそれを錯覚させる様な感じがするわね」
コケから発する光を観察しながら進むと、やがて大きな空洞へとやって来た。
そしてそこには、あの魔物がいた。
その魔物はデビルヴァイパーよりも巨大な蛇の魔物で、9本の首を持った禍々しい色をした体躯を持っていた。
奴こそ、僕達に指名依頼を出す最大のきっかけとなった魔物、ヒュドラだ。
「あれがヒュドラか。ベヒモスの時程じゃないけど、かなり強そうなオーラみたいなのがヒシヒシと伝わって来るな」
「皆、気を付けて。ヒュドラは通常の魔物とは決定的に違う所があるわ。それはあいつは8属性のどれにも属さない、『特殊属性』の魔物なのよ」
「特殊属性って確か……」
特殊属性とは、このアスタリスクに存在する属性とは異なる属性の事だ。
基本的にこの世界の魔法には炎、水、風、土、雷、氷、闇、光の8つの属性に、それらに含まれない無属性が存在する。
そして魔物も、その8属性や無属性などを持っている。
だが魔物の中にはその8属性とは別に、全く異なる属性を持った魔物も存在する。
それこそが特殊属性だ。
因みに、以前僕とアリアが戦った三つ首竜や、グレイドニル国王の従魔のアシュラコングのガイザスも特殊属性の魔物であり、複数の属性を持つという効果の多属性に分類されている。
「そしてあのヒュドラの場合は毒属性。デビルスコーピオンやデビルヴァイパーなどの毒を使う魔物もそれに含まれていて、ヒュドラはその中でも特に強力な毒を持っていて、毒属性の魔物では最強の魔物とも言われているわ」
毒属性は名前から分かると思うが、毒を操る属性だ。
これまでの魔物だと、魔甲蜂に竜花蜂、デビルスコーピオンやデビルヴァイパーといった毒系の攻撃手段を持った魔物がそれに含まれていて、ヒュドラはその毒属性の中でも別格だと言われている。
その毒の種類はかなりの数を誇り、分かっているだけでも神経毒から致死性の毒、腐食性の毒といったあらゆる毒を使い分けて獲物をじわじわと弱らせて動けなくなった所で捕食する。
毒の種類はまだ分かっていない種類もあるそうで、かなり厄介な相手だ。
しかも毒の使い分けまで出来るとなると、かなり頭も良さそうだな。
「とにかく、毒に気を付ければいいんだろ? なら話が速いぜ。毒を喰らう前に速攻で片をつけてやるまでだ!」
クレイルはメルクリウスを装備した両腕を構えて、戦闘態勢になった。
「確かに、あれこれ考えていても仕方ないよね。だったら、僕も思いっきりやるまでだ」
クレイルに続いて僕もアメノハバキリを左手に持ち、僕とクレイルは全身に魔力を注ぎ込んだ。
「ドラグーンフォース・ライトニング!!」
「フェンリルフォース・フレイム!!」
僕とクレイルはフォースを発動させ、最強の戦闘形態になった。
「相手は特殊属性の毒属性。加えてSランク」
「そんな相手なら、フォースで戦う方が分がいいよな!」
「ユーマくん、クレイルくん、あたしもいるわよ!」
僕達の後ろでは、ラティもウラノスを構えている。
「ユーマ、クレイル、奴の後ろに、さらに奥に通じる所があるわ。おそらくそこに魔流草がある筈。私が行く為に、まずは道を作って」
「了解だよ、コレット。アリア、まずは奴の意識をこちらに引き付けよう」
『任せてください。この広さなら、私も戦う事が出来ます!』
僕はアリアが元の姿になったのと同時に駆け出し、ヒュドラに攻撃を仕掛けた。
ヒュドラも僕に気が付いて首の1つをこちらに向け、毒液を牙から噴射してきたが、僕はそれを躱して首の真横に回り込み、右手で収納魔法からミネルヴァを取り出して、ヒュドラの首の1つを2本の神器で斬り落とした。
『少し大人しくしていて貰いますよ!』
首の1本を失った事で、ヒュドラが驚いた隙にアリアが飛び掛かり、ヒュドラを抑え付ける事に成功した。
「今だ、コレット! この隙に奥へ行くんだ!」
「ありがとう、皆! 私もすぐに戻って来るから、ここは任せたわ!」
コレットはその隙に洞窟に奥へと向かい、クレイルとラティもヒュドラに攻撃を仕掛けた。
「喰らいやがれ!」
クレイルはアリアに抑え付けられているヒュドラのもう1本の首を炎の爪で切り裂いた。
「アリア、離れて! 超重力!!」
ラティも重力魔法を発動させ、アリアが離れた直後にヒュドラの全身が強くなった重力に襲われて凄まじい勢いで押し潰された。
そこにクルスとレクスが仕掛け、ラティが重力を解除した瞬間にそれぞれの首を切り裂いた。
「今度はあたしよ! ライトニングブラスト!!」
アインも雷魔法を放ち、更にもう1本の首を黒焦げにしてしまった。
これで僕達は9本の内、5本の首を倒す事が出来た。
「よし! このまま残りの首を倒して、とっととこいつを倒しちまおうぜ!」
「いえまだよ! 油断しちゃ駄目よ!」
クレイルをアインが制した瞬間、ヒュドラの倒した首が全て再生し始めた。
「何!? こいつら首を再生できるの!?」
「これがヒュドラの最大の強み、無限再生能力よ! これを何とかしない限り、こいつは討伐出来ないわ!」
考えてみれば、こいつはSランクの中でも上位に入る魔物。
あんな簡単に倒せる筈もないか。
コレット、早く薬草を集めて戻って来て。
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コレットside
ユーマ達にヒュドラを任せて、私は洞窟の更に奥を走っていた。
そして最深部に行き着くと、そこには光輝く薬草が沢山生えていた。
「見つけた。間違いないわ。魔流草だわ」
私は依頼対象の魔流草を見つける事が出来た。
「確か魔力栓症に罹っているのは巨人族だったわね。となると薬を作るにはかなりの量も必要になる筈。それにマグルスさんはこの薬草の在庫を切らしているとも言っていたわ。なら、その分も含めてあるだけ回収する必要もあるわね」
私は急いで魔流草の採取を始め、採れたのから私の収納魔法に入れた。
皆、すぐに終えるから待ってて。
すぐに集め終えて、それから加勢に行くから――。
魔物情報
ヒュドラ
Sランクの爬虫類種の魔物で、9つの頭を持った毒蛇の姿をしている。
特殊属性の内の1つ、毒属性の魔物の中でも最強クラスの戦闘力を持ち、牙に含まれている毒液は様々な効果を持った毒に変える事が出来る。
また決まった討伐法でしか倒す事が出来ず、それ以外の戦闘では、頭を斬り落としても胴体を両断しても、たちまち元に再生してしまう。
討伐証明部位は、中央にある東部に生えている角。
次回予告
ヒュドラの討伐法をアインから聞き、それを実行しようとするが、コレットの援護がない分攻撃の隙が生まれてしまい失敗してしまう。
それでも諦めず、ユーマ達の戦闘は根競べへと発展する。
次回、ヒュドラを討伐