第165話 完璧なスイーツ
※総合PVが50万を超えました。
これからも頑張ります。
前回のあらすじ
グレイドニル国王と模擬戦を行い勝利したユーマは、その後ラティ達と共に国王の後ろ盾を得る。
そして城からのおもてなしを受けるが、ユーマは仲間達へのお仕置きを実行した。
それは唐突の事だった。
僕達は昨晩、王城に泊めて貰い、僕達は各部屋に己の従魔と共に休ませて貰っていた。
『……マ。ユー……マ。起きてください、ユーマ……』
そこに誰かに呼ばれる声がして、僕はゆっくりと目を開けた。
そこには――
『ユーマ……おはようござい……ます……』
ミイラの様にやつれたアリアの顔があった。
「~~~~~~~~~~~~~~~!!!?」
僕は声にならない悲鳴を上げてベッドから転げ落ちた。
「どうしたの、ユーマくん!?」
「どうしたんだ!?」
「何事なの!?」
僕の悲鳴を聞き、城内の各部屋で寝ていたラティ達が武器を手に持って僕の部屋に駆け込んで来た。
「どうしたのだ。『雷帝』殿!?」
更に神槌トールを手にしたグレイドニル陛下も臨戦態勢で駆けつけた。
「アリア、何なの! その顔!」
アリアは一晩でげっそりとやつれ、全体的に骨と皮だけのミイラの様になっていて、今にも倒れそうな程に震えていた。
『ユーマ……何か、甘い物を私に……ください……』
「…………へっ?」
アリアの第一声が甘い物、つまりスイーツを要望だった。
「まさか、デザートを1回抜いただけで、そんな風になったの?」
僕の質問に、アリアは震えながら頷いて肯定した。
「アリアの甘党がこれ程だったなんて……」
どうやらアリアの甘党は1回デザートを抜いただけで、ミイラの様になってしまう程栄養が抜けてしまう様だ。
「何だよ……珍しくユーマの悲鳴が聞こえたから、焦って駆け付けてみれば……」
「原因はアリアのスイーツの断食だったのね……」
「女の子としては分からなくはないけど、これはちょっと……」
僕もちょっとしたお仕置き程度のつもりだったんだけど、まさかアリアにここまでの効果が出るなんて思わなかった。
『お願いします……ユーマ……何か、甘い物を……』
アリアの今にも力尽きそうな様子に、僕は慌てて部屋を出た。
「待ってて、アリア! 何か作るから! 陛下、すみませんが厨房をお借りします! ラティ達は大広間で待ってて!」
「う……ウム! 使用を許可するぞ!」
「分かったわ! アリアは任せて!」
僕は厨房に駆け込んで、すぐに材料を取り出し、あるスイーツを作り始めた。
――――――――――――――――――――
せっかくなので国王の分も合わせた人数分のスイーツを台車に乗せて、僕は大広間へとやって来た。
テーブルにはラティ達にグレイドニル国王、その周囲にクルス達従魔達に、今にも事切れそうなアリアと初めて見る巨大な魔物の姿があった。
「『雷帝』殿、紹介しよう。儂の従魔、アシュラコングのガイザスだ」
アシュラコングはその名の通り阿修羅を彷彿させる、3つの頭と6本の腕を持った巨大なゴリラの魔物だ。
大きさが約8メートルと、以前ダンジョンで遭遇したクラッシュコングよりも格上の存在感を放っていた。
巨人族は主に体が大きかったり、パワーのある魔物と適合しているためこのアシュラコングは見た目だけでなく、パワーもかなりの物なのだろう。
「皆の分も作りました。アリア、出来たよ」
僕はアリア用の巨大な器に盛ったスイーツを運び、アリアの前に置いた。
『こ……これは……』
「複数のフルーツに、生クリーム、竜花蜂の蜂蜜をふんだんに使った、僕特製のフルーツパフェだよ」
僕が説明すると、アリアは目もくれずに巨大パフェに喰らい付いた。
一口含んで咀嚼し、「ゴクン」と喉を鳴らして飲み込むと、たちまち全身の鱗が煌めき、色艶もよくなってきた。
……なにこれ。
まさか、甘い物を食べた事で、一気に栄養バランスがよくなったのか?
確かにパフェはフランス語で「完璧な」という意味のparfaiから、「完壁なスイーツ」という意味とされる。
今回のフルーツパフェも、果物、生クリーム、蜂蜜を中心に作ったから、三大栄養素の蛋白質、炭水化物、脂肪を一気に摂ったから、それでさっきまでミイラの様だったのがここまで回復したのか?
でも、もしそうだとしたら、アリアの身体は一体どんな構造なんだろう……。
やがてアリアはパフェを食べ終えて、大きく深呼吸し、高く声を上げた。
『復活です!!』
その言葉と共に、アリアは完全復活したのだった。
「何だか、アリアの相棒なのに、未だに分からない事が多いよ」
「分かるわよ、ユーマ。あたしもこれ程の甘党、長い年月を生きて来ても見た事がないから、どういう理屈なのか解せないわよ」
僕とアインは、アリアの不思議な生態に大きな疑問を抱いていた。
だがともかく、アリアが無事に回復した事に安堵した僕達は、一緒にパフェを食べて、朝から少々贅沢な気分になっていた。
グレイドニル国王も竜花蜂の蜂蜜という高級品を食べた事で、その美味しさに感動していた。
――――――――――――――――――――
王城を後にした僕達は、ギルドに来ていた。
「オベリスク王国の事をもっと知る為に、何か長距離を移動する依頼とかないかな」
僕達はクエストボードを見て、依頼を選んでいた。
「何か今の俺達に向いた依頼とかないかな。魔物の群れの討伐とか、極悪犯罪者の討伐とか」
「少なくとも、この国ではそれは難しいと思うわよ」
コレットの指摘は確かにその通りだ。
魔物の群れの場合は、この国は巨人族の国で巨人族は8種族の中でも戦闘力が高い部類に入る種族だ。
その巨人族の冒険者や狩人なら、余程の事、それも緊急依頼でもない限りはまずそんな大規模な討伐依頼は発生しないと思う。
犯罪者の場合も、この国は荒野が中心だ。
見晴らしもよく身を隠せる場所も少ない為、犯罪者が奇襲を仕掛けられるような場所は限られるから、犯罪者が現れてもその場で戦闘になって討伐されるか、国外に脱出されるだろうから、国内でいつまでも放置されるのは難しいだろう。
尤もそれはクレイルも承知していた様で、すぐに受け入れていた。
「あのぉ、少々宜しいでしょうか?」
ふと、背後から声を掛けられ、振り向くとそこには昨日素材の買取をお願いしたエルフの受付嬢がいた。
「銀月の翼の方々でよろしいですよね?」
「はい。そうですが、何か?」
「よかったぁ……まだこの王都にいて……」
受付嬢は僕達を確認するなり、いきなり安堵しだした。
「『よかった』という事は、何か私達にして貰いたい事があるの?」
コレットが質問すると、彼女は頷いて答えた。
「はい。実は、銀月の翼がこの国に来ているという噂を聞きつけた、ある商人から指名依頼が来ているんです」
どうやら僕達の事を知って、指名依頼を出した者がいる様だ。
でも、今の僕達にとっては、場合によってはやり甲斐がありそうかもしれない。
そう判断した僕達は、その依頼の内容を聞いてみる事にした。
アリアの凄すぎる所
その18、甘い物を1食だけでも食べないとミイラの様にやつれる。
その19、しかし、すぐに栄養分と一緒に摂取すると一瞬で復活する。
魔物情報
アシュラコング
Sランクの獣種の魔物。
3つの顔と6本の腕を持ち、ゴリラの魔物では同じSランクのクラッシュコングを上回る戦闘力を有している。
6本の腕からはそれぞれ炎、雷、風の3つの属性を纏った打撃を繰り出す事が出来、3つの口から放たれる雄叫びは強力な衝撃波にもなっている。
討伐証明部位は中央の顔の額にある宝玉。
次回予告
ユーマ達を指名した依頼はある商人からの物だった。
4人はその依頼の詳細を聞きながら、その依頼人の事を知ろうとする。
次回、指名依頼