第164話 第4の後ろ盾
前回のあらすじ
グレイドニル国王と模擬選する事になったユーマだが、彼の扱う武器が何と神器のハンマーだった。
それに対抗する為に、ユーマは腕の身を強化しての神器の二刀流になって、見事に勝利した。
「『雷帝』殿、お主と戦う事が出来て、儂は嬉しかったぞ。勝負を受けてくれて感謝する」
模擬戦が終わり、僕達は城内の一室でグレイドニル国王から感謝されていた。
「はい。こちらこそ、ありがとうございました。処で、お身体の方は大丈夫なんですか? ミネルヴァで魔力炉を斬られると、暫くは動けなくなるんですが……」
「その辺は問題ない。我が国には優秀な回復魔法の使い手がいてな、その者にパーフェクトヒールを掛けて貰い、巨人族の身体能力も相まってすぐに回復した。だから心配は無用だ」
国王の身体の心配は無くなっても、僕にはもう1つの懸念がある。
「それからもう1つ。僕、最後は少々本気になって国王陛下に勝ってしまいましたけど、これってもしかしてヤバい事になるのでは……」
現在僕はSランクの冒険者で、そのランクによって王族にも匹敵する程の権力を有しているけど、今回は場合によってはかなり不味い結果になりそうだからだ。
いくら国王から臨まれた模擬戦とはいえ、厳密には平民の身分の冒険者がその国の王様を打ち負かしたとなると、最悪不敬罪という理不尽な扱いになる可能性もある為、こうして国王に聞いてみた。
「その心配も無用だ。今回は儂が勝負を挑み、正々堂々と戦った末にお主は儂に勝った。何より巨人族は自分に勝った者に敬意を払う。だからこそ、儂はお主を心から称える。その者を不敬罪に問おうなぞ、それこそがオベリスク王国の王家の末代までの恥だ。だから安心してくれ。儂らはお主達を犯罪者には決してしないと、ここに誓う」
それを聞いて安心出来た。
「分かりました。では、後はお願いします」
「ウム。儂の挑戦を受けてくれて、本当に感謝するぞ、『雷帝』殿」
僕は陛下と握手を交わし、そこに宰相がやって来た。
「陛下、こちらを」
「ウム」
グレイドニル国王は宰相が持ってきたトレイから何かを取り出し、僕達に差し出した。
「お主達にこれを授けよう」
国王が差し出したのは、このオベリスク王国の王家の紋章、交差したハンマーの様な物が刻まれた、アルビラ王国とエリアル王国のメダルより一回り大きいメダルだった。
「これは我がオベリスク王国の王家の証であるメダルだ。これを持っていれば、儂の後ろ盾を証明も出来る。受け取ってくれ」
なんとグレイドニル国王は、僕達の後ろ盾になると言って来たのだ。
「お言葉ですが陛下、僕達は本日はただ面識を持とうとしただけで、決して後ろ盾になって欲しいと言いに来た訳ではないのですが」
念の為にこう言ってみると、国王は真面目な表情になって口を開いた。
「それは儂も分かっておる。しかし先程も言った筈だ。『巨人族は自分に勝った者に敬意を払い、故にお主を称える』と。それにお主は模擬戦とはいえ、王である儂に勝ったという点から、やはり中には何か言ってくる者もいるというのが、人間の悲しい性でもある。それらを防ぐ為に、儂がお主達の後ろ盾になるというのは必要不可欠な物なのだ。尤も、お主達には既にアベルクス国王、ロンドベル国王、グレンツェン大統領の後ろ盾があるから、3つの国を同時に敵に回す様な愚か者がいるというのは考えにくいが、やはり儂本人の後ろ盾もあった方が何かと都合が良い。そう思わぬか?」
確かに、暫くはこの国を旅するのだから、この国の王様の後ろ盾があった方が僕達的には行動しやすくなる。
そう考えると、グレイドニル国王の言葉はとても理に適っている。
「分かりました。陛下のお気持ち、喜んでお受け取りします」
僕達は差し出されたメダルを受け取り、この瞬間、僕達は4つ目の後ろ盾を得たのだった。
「今日はお主達は我が城に泊まっていくがよい。心からのおもてなしをしよう」
その言葉に喜んだのは、クレイルやラティを始めとするうちの大食い組だったが、ここで僕は先程見捨てられた事に対する仕返しをする事にした。
「クレイル、ラティ、レクス、クルス、アリア、今日のこの城での食事で、君達はおかわりを禁止するからね。それからアリアも、食後のデザートは抜きだ」
その言葉に、5人は絶望したかの様な表情になり、僕に詰め寄って来た。
「何でだよ、ユーマ!?」
「あたし達に何か恨みでもあるの!?」
『それは一体何の拷問ですか!?』
クレイル、ラティ、アリアは身に覚えがないような言い方だったが、コレットとアインが罪悪感の籠った顔で答えた。
「ユーマ、それってさっき私達があなたを見捨てた事に対する仕返しね」
その言葉に、3人は思い出した様だ。
「そういう事。でもアリアだけデザート抜きというのは流石に可哀想すぎるから、デザート抜きは全員にしよう」
お仕置きの内容に若干の変更は入れたけど、それでも皆は納得しつつ何処か死んだ様な表情になっていた。
コレットとアインは素直に受け入れる様だったので、正確には大食い組のみだったが。
「これはなんというか……何だかすまぬ事をしたな……」
グレイドニル国王も自分が原因だというのが分かっていたのか、ラティ達に謝罪していた。
そしてその後お城での食事を食べたのだが、大食い組曰く、「今日のご飯は涙の味がした」との事だった。
それは当然だろう。
だって滝の様な涙を流しながら大切にゆっくりと食べていたのだから、その料理に涙が付着して「涙の味」になったのだから。
今回は城での食事だった他ので量に関しては、僕が予め指定したのでクレイル達は折角の大型の魔物の肉を使った巨大料理も普通の量として食べる事しか出来なかったので、余計に堪えていた様だ。
アリアもおかわり抜きはそれなりに堪えてはいたが、デザートが無いというのが余程ショックだったのか、アリアの目はまるで死んだ魚の様な目だった。
この城の料理人達は、最後にデザートも用意してくれるそうだったけど、僕がそれはいいと言って出ない様にした為、何時も僕が用意した量ではなくても結局デザートを食べる事が出来なかった為、アリアはかなり落ち込んでいた。
皆には悪いけど、その表情は今までに見た事がなかったので、結構斬新な気持ちになっていたというのは、僕、コレット、アインだけの秘密だ。
次回予告
城に泊まった翌朝、ユーマは驚きの姿になったアリアを見る。
そのアリアの為に、ユーマは厨房を借りてスイーツを作る事にして、アリア達に振る舞う。
次回、完璧なスイーツ