第162話 グレイドニル・フォン・オベリスク
前回のあらすじ
王都に到着したユーマ達はギルドに向かう。
オベリスク王国の他国とは違う部分を学びながら換金を終え、国王に会うべく王城を訪れる。
「何故こうなったんだ……」
僕は思わずそう呟いた。
否、呟かずにはいられなかった。
何故なら、僕はついさっきまで玉座の間にいた筈なのに、その王城内にある騎士団の鍛練場に突然連れて来られ、目の前にいる巨人族の王、グレイドニル・フォン・オベリスク国王陛下と対峙しているのだから。
しかも国王は巨大なハンマーを担いでいて、僕と戦う気満々である。
どうしてそんな事になったのかというと、時は少し前まで遡る――。
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門番兵に案内された僕達は、城の中を進み玉座の間へとやって来た。
これまでにも何度も来た事があったので、僕達は流れる様な動作で玉座の前で跪き、頭を下げた。
「面を上げよ」
やがて前の方から声が聞こえ、頭を上げて見上げると、そこには巨大な玉座に腰を掛けた脚しか見えなかった。
その為もっと上を見上げると、そこにはアベルクス国王やロンドベル国王の様な煌びやかな服ではなく、雄々しい鎧に身を包んだ巨人族の姿があった。
この人物こそ、オベリスク王国の国王である、グレイドニル・フォン・オベリスク国王陛下だった。
「銀月の翼、『雷帝』のユーマ殿、『賢者』のラティ殿、『闘王』のクレイル殿、『聖弓』のコレット殿、その従魔である、竜神のアリア殿、グリフォンのクルス殿、フェンリルのレクス殿、ティターニアのアイン殿、よくぞ参った。儂の名はグレイドニル・フォン・オベリスク。このオベリスク王国の現在の王だ。お主達の噂は大陸を超えて我々の耳にも届いている。こうして会えた事、喜ばしく思う」
グレイドニル国王はそう言って、僕達を歓迎してくれた。
「ありがとうございます。改めまして、我々もご挨拶します。Sランクパーティー、銀月の翼のリーダ、ユーマ・エリュシーレです。こちらは従魔の、竜神のアリアです」
『初めまして、グレイドニル陛下。アリアでございます』
「銀月の翼に所属する冒険者、ラティ・アルグラースです。こちらは従魔の、特異種のグリフォンのクルスです」
「グルルゥ」
「クレイル・クロスフォードです。同じく、銀月の翼に所属しています。従魔の、フェンリルのレクスです」
「ウォン」
「同じく、銀月の翼の冒険者、コレット・セルジリオンです。こちらは従魔の、ティターニアのアインです」
「初めまして、陛下。アインです」
僕達も自己紹介し、グレイドニル国王は満足そうに頷いた。
「よろしくな。では『雷帝』殿、早速だが、この儂と一勝負と行こうか!」
国王はそう言って、傍に置いてあった巨大なハンマーを手に取り、僕に向けて来た。
「…………へ?」
彼のその言葉に、僕は思わず間の抜けた声を出してしまった。
「フム、どうやら聞こえていなかった様だな。ではもう1度だけ言うぞ。『雷帝』殿、早速だが、この儂と一勝負と行こうか!」
国王は全く同じ事と同じ動作で、僕に言って来た。
そして漸く言葉に意味を理解し、僕は慌てて両手を振った。
「いやいやいやいや!? 何でいきなり勝負になるんですか!? それに、どうして国王様と戦わないといけないんですか!?」
僕がそういうと、グレイドニル国王はハンマーを引き、理由を答えた。
「答えは至って単純だ。儂は1人の王である前に1人の戦士として、前回のヴォルスガ王国の武闘大会を最年少で優勝し、エリアル王国とアルビラ王国を救い、更にはかの『超獣』のベヒモスを討伐し、ダルモウス山脈のダンジョンを制覇したパーティーのリーダーの実力、1度試してみたくなったのだ!」
つまり、この人は僕の実力を見たくて、直接戦う為に僕に勝負を挑んだという事か。
しかもそんな理由で1国の国王が勝負を挑むなんて、この人は相当な戦闘狂の様だ。
「ですが、あなたはこの国の王様ですよね? そんな人と戦って、僕は大丈夫なんですか?」
「問題はない。この城では儂がルールだからな。儂が『問題無い』と言えば全て問題無いのだ。だからこの勝負で儂が怪我を負っても、それは儂にとっては名誉ある傷であるので、全く問題はない!」
国王はそう言って豪快に笑った。
僕達が呆然としていると、宰相らしき巨人族の男性が僕達に声をかけた。
「申し訳ありません、皆さん。陛下はあの通りの性格でして、1度言い出したらテコでも動かんのです……以前ヴォルスガ王国のレオンハルト陛下から銀月の翼の事を聞かされてから、陛下はいつか『雷帝』様と模擬戦すると決めていまして、それが叶うと喜んでおられるのです」
そういえば、獣人の国、ヴォルスガ王国とこのオベリスク王国は、どちらも武闘派の国として深い親交があったな。
つまり僕とラティが武闘大会で優勝した後、獣王がこの人に通信系のマジックアイテムか何かで僕達の事を話し、僕達に興味を持ったのか。
そう納得していると、宰相や大臣と思われし巨人達が、僕を囲んで真剣な表情になった。
「『雷帝』殿! この際ですので、あの陛下にガツンと痛い目に遭わせてください!」
『お願いします!!』
宰相の驚きの言葉と大臣達のお願いに、僕は思いっきり動揺してしまった。
「痛い目に遭わせてって、あなた達の王様ではないですか! いいんですか!?」
僕は何とか最悪の事態を回避しようと粘ってみたが、彼らに一蹴されてしまった。
「構いません! あの人は戦いに関しては本当に言い出したら引かず、これまでに何度我々が後始末を押し付けられてきた事か!」
「私なんか、以前突然模擬戦しようと付き合わされ、結果ボコボコにのされてしまったのです!」
「私もです!」
「ですから『雷帝』殿! 我々の仇をどうか討ってください! お願いします!!」
完全に僕はグレイドニル国王と模擬戦をする方向へと、引っ張られてしまった。
ラティ達に助けを求めようと振り向いたが、皆は逸早くその場から離れていた。
「ユーマくん、頑張ってね!」
「グルルルゥ!」
「よかったな、羨ましいぜ!」
「ウォン!」
「後で感想聞かせてね」
「よろしくね!」
『ユーマ、怪我しない様に気を付けてください』
皆、僕に巻き込まれない様に素早く退避してしまっていた。
僕の巻き込まれ体質を理解した上での行動だ。
恨むよラティ、アリア、皆……。
僕は今、これ程に皆を強く恨んだ事は無かった。
同時に、今回程自分の巻き込まれ体質を恨んだ事もなかった。
こうなったら、今度皆の食事をおかわり抜きにしてやる。
そしてアリアもデザートを抜きにする。
あまりにも安直なお仕置きだと思うが、僕も鬼ではないのでこれくらいで許すつもりだ。
寧ろ、大食い組からすれば途轍もない精神ダメージを与えられそうだし、アリアも絶望するのは容易に想像出来る。
「それでは『雷帝』殿、早速始めたいので鍛練場へ行くぞ!」
そう決意し、僕は巨人族達に騎士団の鍛練場へと連行されて行ってしまった。
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そして時は現在になり、僕はこうしてグレイドニル国王と対峙しているという訳だ。
「よいか、『雷帝』殿! ルールは1対1の模擬戦である! 勝敗はどちらかの敗北が決定した時のみとする!」
「分かりました。それでいいです」
現在僕の装備は、両腰に白百合と黒薔薇、アメノハバキリに背中にはミネルヴァが帯剣されている。
神器はいざという時に為に保険にして、今は魔剣の二刀流で行くつもりだ。
僕は白百合と黒薔薇を抜き、グレイドニル国王も巨大なハンマーを構えた。
「それではこれより、グレイドニル陛下と『雷帝』のユーマ殿による模擬戦を行います! それでは……始め!!」
宰相の合図によって、僕達の模擬戦が始まった。
次回予告
グレイドニル国王との模擬戦が始まるが、彼の使う武器はユーマ達の想像を超える物だった。
そのパワーに押されるユーマは、訓練の成果の一部を解放する。
次回、神槌トール