第157話 ゼピロウス大陸に到着
全開のあらすじ
ゼピロウス大陸を目指して海に出たユーマ達は、途中無人島に立ち寄りアリアを休ませる。
海岸から見える夕暮れを見て、ユーマ達は心が安らぐ感覚を覚える。
メビレウス大陸を出発して1日半程アリアに乗って移動して、遂に僕達の視界に新たな大陸、ゼピロウス大陸が見えた。
「あれがゼピロウス大陸だな。漸く着いたな」
「このまま上陸したら、どの国が1番近いのかしら?」
ゼピロウス大陸にある国は全部で3ヶ国。
ゼノンさんの故郷の竜人族の国、ドラグニティ王国、イリスさんの故郷の魔族の国、ガイノウト帝国、そして巨人族の国、オベリスク王国だ。
僕は世界地図を広げて、僕達が通った航路を確認した。
「ええっと……僕達が出発したバイライルの街がここ。ここからこうやって飛んで、こうやって行って着くのはオベリスク王国の領土の港だ」
「巨人族の国の領内か」
「皆が良いならこのまま行くけど、もし他の国から行きたいならこのまま迂回出来るよ」
「いいんじゃねぇか? 俺個人も巨人族をちゃんと見た事もないし、最初は巨人族の国からスタートしてもいいと思うぞ」
「あたしも。巨人族とちゃんと会った事ってないから、ここでしっかりと交友を深めたいわ」
「私はユーマ達の決めた様にして」
クレイルとラティの希望を聞き、コレットにも後押しされ、僕は最初に行く国を決めた。
「分かった。じゃあ、最初はオベリスク王国から行こう。アリア、このまま真っ直ぐ行って上陸して」
『分かりました』
空中で停止していたアリアが再び進み、僕達はゼピロウス大陸へと上陸した。
港の湾頭に入ると、そこにいた巨人族の人々が突然現れたアリアに驚いた。
「皆さん、大丈夫です! この竜は僕の従魔なので安全です」
僕はライトニングウィングでアリアの背から降りて着地して、驚いた人達に告げると、僕の前に一際目立つ鎧を着た巨人族の男性が現れた。
背が3メートル前後はある為、顔を見るには見上げる必要があった。
「お前は人族だな。突然竜の背に乗ってやって来た処、旅人の様だ。船の便でやって来なかった事を問う事はしないが、何か身分を証明できる物はないか?」
鎧を着ていて、僕に身分を確認してきた辺り、この港の街にいる騎士だと判断した僕は、懐からギルドカードを取り出して、彼に渡した。
巨人族は身体が大きい分手も大きい為、カードをまるでフィギュアを持つかの様に摘まみ、顔を近づけて記入された欄を見た。
「銀月の翼のユーマ・エリュシーレ!? という事は、お前はメビレウス大陸でも有名な、あの『雷帝』か!?」
その騎士は僕の名前を知り驚愕していた。
どうやらゼピロウス大陸にも僕達の事はかなり知られている様だ。
まあ、数年前に行われた世界会議でアベルクス国王が各王達に僕やラティの事を話したそうだから、当然ゼピロウス大陸とグランバレス大陸の国の王達にも伝わっていてもおかしくはない。
それに、僕達はメビレウス大陸でかなり色々な事をやらかしてきたからね。
アルビラ王国ではアリアやクルスと出会った事を始め、『魔の平原』の問題を解決した事、
長く王国に巣食っていた犯罪組織、黒の獣をお父さん達とゼノンさん達と協力して壊滅、
そして黒幕である元第1王子を断罪へと導いた。
ヴォルスガ王国では武闘大会で僕とラティが史上最年少で優勝し、後に加入したクレイルも同じく最年少で準優勝。
エリアル王国ではコレットも入れた4人と4体の従魔でスタンピードで活躍し、死者を0人にして鎮圧させる事に成功。
ロマージュ共和国では長きに渡って誰1人制覇する事が出来なかったダルモウス山脈のダンジョンを制覇して、同時に『超獣』と呼ばれるベヒモスも討伐、
そして僕とラティ、クレイルは最年少でSランクへと昇格。
僕とラティが冒険者になってから約1年程でこれだけの成果を出しているから、冒険者や商人などが他の大陸にも渡っているかもしれないから僕らの事が知れ渡っていても何ら不思議じゃない。
「僕達はこの度、ゼピロウス大陸を旅する為に、このオベリスク王国へとやってきました。ギルドカードで大丈夫でしたでしょうか?」
僕が尋ねると、巨人族の騎士は姿勢を直して僕にカードを返してきた。
「大丈夫だ。ようこそオベリスク王国へ」
無事にオベリスク王国への入国を済ませた僕達は、アリアから降りたラティ達、標準サイズになったアリアや元の姿になったクルス、亜空間から出て来たレクスやコレットの肩に乗っているアインと一緒に、宿を目指した。
その途中で住民の巨人族に聞いた処、ここはオベリスク王国の海に面した街、グランミアの街だという事を知った。
他にも、巨人族以外の種族が泊まれる宿は無いかと聞いたら、ちゃんとあるという事を教えられ、1つの宿を紹介された。
オベリスク王国の街には2種類の宿がある。
1つ目は巨人族が利用出来る宿で、2つ目は巨人族以外の種族が利用出来る宿だ。
何故2種類あるのかというと、巨人族は他種族よりも体が大きい分使う道具や家具などもかなり大きめに作られていて、人族などが使うには大き過ぎるからだ。
ベッドや椅子などは別に大き過ぎていても利用出来ない事は無いが、それでも高さなどの面から不便な点が多い為、結果オベリスク王国では巨人族が利用する宿とそれ以外の種族が利用する宿という風に分けられているという訳だ。
そして僕達はその宿、潮風亭へとやって来た。
宿の主は獣人族で、狸の耳と尻尾を持った狸人族だった。
宿には1泊する事にして、僕達は部屋の鍵を受け取った後、1度宿の外に出て街を散策する事にした。
街を歩いているとそこには巨人族は勿論だが、他の種族もいて、ここが海辺の街だという事もあり海人族の姿もあった。
特に港では巨人族が海人族や人族、そしてそれぞれの従魔と力を合わせて仕事をしていて、そんな光景を見てラティが呟いた。
「見た目は全く違う種族だけど、ああして手を取り合ってお互いを支え合っている姿を見ていると、とても素敵に思うわね」
そんなラティの言葉は、僕もとても共感出来た。
これまでも他種族が共に暮らしている光景は見て来たけど、今回は直に会った事の無い巨人族がいるから、より実感があるのかもしれない。
前世のラノベとかでは、中には違う種族というだけで差別といった迫害が起こり、挙句には戦争といった醜い争いがあったりもした。
このアスタリスクでも遥か昔は人族が他種族を『亜人族』という蔑称で蔑み、その結果人族と他種族との間で激しい戦争が始まってしまったという実話がある。
しかし今ではあの様に人族や巨人族などが手を取り合っている姿を見て、これこそが人のあるべき姿なんだなと思う。
全く違う種族がお互いの存在を認め合って、共に生きているというのはそれだけでとても素晴らしいと思うからだ。
勿論、中にはレイザードの様な自分達の種族以外を蔑む者が今でもいる事は分かっているが、その辺りはやはり差別的な態度をとるのは仕方ないのかもしれないと思う。
でもそれらを通して、他種族同士が共に生きているのだから、今のこの世界をいつまでも保っていきたいと心から願うな。
実際人族である僕とラティも、獣人のクレイル、ハイエルフのコレットと家族に絆で結ばれて共に生きているんだから。
そんな思いを抱きながら、僕達は街を探索した。
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日が沈み、街の探索を終えた僕達は潮風亭に戻り、部屋に集まっていた。
「明日この街を出て、王都に向かおう」
「王都って事は、この国の王様に会いに行くのか?」
「そう。これまでの国での事を思い出すと、王都に行ってこの国の王、グレイドニル・フォン・オベリスク国王に会って、僕らの事を話せば、後ろ盾ににはなってくれなくてもある程度の繋がりを持てる」
「成程ね。図々しく後ろ盾になって貰うのではなく、面識を持つ程度でもいいから、国王とパイプを持とうという訳ね」
コレットは僕の考えを察していた様で、それを聞いたクレイルとラティも納得していた。
僕達がこれまでで後ろ盾になって貰ったのは、アルビラ王国のアベルクス国王、エリアル王国のロンドベル国王、ロマージュ共和国のグレンツェン大統領の3名で、この3名はお父さん達の後押しや僕達の功績とかもあってスムーズに出来たけど、これからの国々でも同じようにあっさりと後ろ盾になってくれる保証はあるとは言い切れない。
世界会議でアベルクス国王が僕らの力になって欲しいと各王にも言ったそうだが、それでも他の王達は僕らに会った事すらないから、何処の馬の骨すら分からない者の後ろ盾になってくれるなんて、そう都合の良い事に名はならないと思う。
グレンツェン大統領の時はその都合の良いようになったけど、そう何度も起こりえるとは限らないから、あくまでも他の国王達に後ろ盾になって貰っている身分を活かして、少しでもいいから繋がりを持とうという事にしたのだ。
そうして話を止め、僕達は潮風亭で一夜を過ごした翌日、アリアに乗って王都を目指した。
次回予告
首都を目指す途中、ユーマ達は大型の魔物と遭遇し、戦闘を仕掛ける。
しかし思わぬ展開になる。
次回、付き過ぎた力