第155話 ゼピロウス大陸へ出発
前回のあらすじ
『見えざる悪魔』の正体がデビル種のデビルジェリーフィッシュだったが、ユーマの機転と皆との力を合わせた戦闘で、無事に討伐が出来た。
デビルジェリーフィッシュを討伐した事を先に戻った漁師達に知らせると、港は歓喜の声に包まれた。
無理もないか。
何度も漁に被害が出て、しかも今まで正体すらも分からなかったんだから、それが討伐されたとなればこんなに喜ぶのは道理というものだ。
それにしても、こんなにも簡単に信じるなと思ったが、助けた漁師達によると、僕達が戦った際に使った雷魔法や、戦いの音が港にも届いていたらしい。
それで僕達が『見えざる悪魔』と戦っていると判断し、僕達が無事に戻ってくるのを祈っていたそうだ。
そして僕達が無事に悪魔を討伐して戻って来て、その討伐も聞き、こうして喜んでいるという訳だ。
港に着いて早々僕達は街の人々に囲まれ、感謝の言葉を掛けられ続けた。
何とかそれを潜り抜けて領主の屋敷に行くと、フォルラさんからも感謝された。
「本当にありがとうございます! まさかあの『見えざる悪魔』を話してから半日も経たずに討伐してしまうとは! 流石はSランクの銀月の翼です! 我々バイライルの街に住む者一同、心より感謝いています!」
フォルラさんは僕の両手を握って上下に激しく揺らしながら、街を代表して感謝を述べた。
「とりあえず、その悪魔のデビルジェリーフィッシュは討伐しましたので、これでこの街の漁も以前の状態に戻れる筈です。もし不安でしたら、安全が確認できるまで僕達もこの街に留まって様子を見ますが」
デビルジェリーフィッシュを討伐したからと言って、これで全てが解決したとは確実には言えない。
だからその安全が確認できるまで、この街に留まって付き合うのも僕達の意思だが、フォルラさんは目を閉じて静かに首を横に振った。
「いえ。そこまで気を遣われなくても大丈夫です。元々この街には海人族の冒険者やデスペラード帝国から派遣された海人族の騎士団も駐在しています。悪魔によって冒険者などにも犠牲者は出ましたが、決して再起不能になった訳ではありませんし、これ以上皆様に甘えては、領主として街の皆に顔向けが出来ませんからね。もうじき首都からの応援も来ると思いますので、後は私達に任せてください」
フォルラさんはとても逞しい人だった。
かつて自分のくだらないプライドの為に国に報告せず、『魔の平原』の問題を半年間も放置していたあの屑領主とは大違いだ。
この人なら首都から応援にやって来た人達と協力して、この街の繁栄を以前の状態に戻すのは難しくなさそうだ。
それに、ここまで真剣に告げられると、僕達も無理を言わずに従うのが良さそうだ。
「分かりました。では、僕達は準備が出来ましたら、最初に報告した通り、僕の従魔のアリアに乗ってゼピロウス大陸に出発します」
「分かりました。その時は街の皆で盛大に見送りさせていただきましょう。あなた達はこの街を救ってくれた、英雄なのですから」
僕達、エリアル王国に続いて、バイライルの街からも英雄と崇められる様になってしまったな。
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その後宿に戻ってきた僕達は、再び僕とラティの部屋に集まり、明日の予定を立てていた。
「もうすぐ日没だけど、今ならまだ買い出しとか出来るんじゃないか?」
「いや、今日は皆疲れていると思うから、今日はこのまま明日まで休もう。それで、明日は1日買い出しとか休息に当てて、明後日の早朝に出発しよう」
「そうね。じゃあ領主への出発の予定の報告は私に任せて。ユーマは皆と一緒に食料や消耗品の買い出しに専念して大丈夫よ」
「ありがとう、コレット」
「ならユーマ、消耗品の買い出しはメモを書いてくれれば、俺がやっておくぜ。そうすれば食料に集中できるだろ?」
「分かったよ、クレイル」
明日の予定は、僕とラティ、アリアとクルスで食料を、クレイルとレクスが消耗品を補充して、コレットとアインがフォルスさんに出発の日時の報告をするという風に役割をした。
計画を立てた後、クレイルとコレットは自分達の部屋に戻り、アリアやクルス、レクスは従魔小屋に移動し、この部屋には僕とラティの2人だけになった。
それからは……まあ、言わなくても分かる事だろう。
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その後僕達は各自に分かれて各補充や報告を行い、デビルジェリーフィッシュの討伐から2日経ち、僕達は遂に出発する日の朝を迎えた。
湾頭にやってくると、領主のフォルスさんを筆頭に、あの時助けた漁師の海人族に、街の人達が総出で僕達を見送りに来ていた。
「フォルラさん、これは一体……」
「昨日、コレットさんが今日出発すると伝えに来まして、街の者総出で御見送りをしようと、こうして参りました。皆さんはこの街を悪魔から救ってくれた英雄です。その英雄を黙って行かせてしまっては、我々は一生後悔してしまいます。今この場で、我々の感謝を伝えさせてください」
つまり僕達の旅立ちを見送るというのが彼らの感謝の表しという訳か。
「ありがとうございます。そのお心、喜んで受け取らせて貰います」
僕達はそれぞれ街の人々と握手を交わしたり、声を掛けられては返事をしたりと、彼らからの感謝を受け取った。
そしてそれも終わり、遂に僕達が旅立つ時が来た。
元の姿になったアリアが身を屈め、僕達はその背に乗り込んだ。
クルスはミニサイズになり、レクスはクレイルの亜空間に入り、アインは僕達と一緒に乗っている。
「では僕達は出発します。また会いましょう!」
「本当にありがとうございます! またこの街に来る事がありましたら、その時は我々全員がおもてなしします! どうかお気を付けて!」
アリアは水平線に向かって飛び立ち、フォルラさん達は僕らの姿が見えなくなるまで叫んで挨拶したり、手を振ったりして、僕達も手を振ってそれに答えた。
やがて人々の姿が見えなくなったのを確認して、僕達は手を休めた。
「さて……ここから僕達の旅はいよいよ新しい大陸に入るよ!」
「うん! 新しい大陸では、どんな出来事が待っているのか、楽しみよ!」
「クルルゥ!」
「どんな事が待っていても、俺達の力で乗り越えてやるぜ!」
「ウォン!」
「ゼピロウス大陸に行くのも随分と久し振りだけど、とっても楽しみね。何百年生きていても、旅はこれだからワクワクするわ」
「そうね。もっともっとワクワクを感じましょう」
『ユーマ、私達の新たな旅、どんな風になるのか楽しみです』
「僕もだよ、アリア。これからも頼りにしているよ」
『任せてください』
アリアは僕達を乗せて、ゼピロウス大陸への航路に入って飛び始めた。
次回予告
海の上を飛んで移動している途中、1つの無人島を発見し、アリアを休ませるためにその島で1泊する事を決める。
そしてユーマ達は海を見ながら不思議と心が安らかになるのを感じた。
次回、無人島で過ごす1日
次回で第9章が終わりです。