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第154話 意外な最強生物

前回のあらすじ

バイライルの街の領主、フォルラから『見えざる悪魔』の事を聞かされたユーマ達は、その悪魔を何とかしようと決める。

ユーマの探知魔法で探る為に、空中と地上の二手に分かれて行動を開始する。

 『見えざる悪魔』の正体を暴く為に、僕はアリアに乗って沖合に出て、探知魔法を海中に向けて発動させている。


『どうだ、ユーマ? 何か分かったか?』


 通話の腕輪からクレイルの声がして、僕は答えた。


「まだ始まったばかりだよ。それに、こんなに早く見つかったら、悪魔何て呼ばれる筈がないよ」


『その通りよ、クレイル。焦らずに行きましょう』


『分かってるよ。ユーマ、こっちは大丈夫だから、見つけたらいつでも知らせてくれ』


「了解」


 通話を切って、僕は再び探知魔法で集中した。


『しかし、一体その『見えざる悪魔』とは何者なんでしょうか?』


「さあね。でも、『悪魔』っていう単語から何か嫌な予感がするよ」


 こういう時、人間の嫌な予感と言うのは思いの外的中したりする。

 その『見えざる悪魔』の『悪魔』の単語で、ある種の魔物ではないかという予想もあった。


 その魔物とは――


「ユーマくん! あそこの船、何か変よ!」


 その時、クルスに乗って上空を警戒していたラティが、何かを発見した。

 その先では2隻の漁船が騒いでいた。


 その時、探知魔法で漁船の下、つまり海中に強力な魔力の反応が現れた。

 その魔力の主は魔物で、全体的に球体の様な形に細長い形の魔力を感じた。


 何だ……この形は……。


「ラティ! その船の下に何かがいる! 形からどんな奴かはまだ分からないけど、ランクはSだ!」


「Sランクの魔物!?」


「アリア、あの漁船に接近して! 僕達が炙り出して正体を突き止めるから、ラティは漁船の人達に避難を指示して!」


「分かったわ!」


 アリアとクルスは漁船に接近し、船に乗っていた海人族の漁師達が2体に驚いた。

 傍には従魔らしきサハギンなどが畏縮したり、警戒したりしている。


「りっ、竜にグリフォン!?」


「まさか襲いに……!?」


「いや待て! 人が乗っているぞ! きっとあの人達の従魔だ!」


 アリアとクルスを見て、一瞬襲いに来たのだと思っていたが、すぐに僕やラティが乗っているのを見て、2体が僕らの従魔だと判断してくれた。


「僕達は銀月の翼のユーマとラティです! 最近噂の『見えざる悪魔』を探っていたら、この騒ぎに気付き、駆け付けました!」


「一体何があったんですか?」


 銀月の翼の名前を聞き、漁師達は安堵してから僕達に教えてくれた。


「悪魔だ! 『見えざる悪魔』が現れたんだ!」


 やはりさっきの反応はその悪魔らしい。


「俺達が漁をしていたら、網や獲った魚がたちまち腐ったんだ! これは悪魔による被害なんだ!」


 よく見てみると、その網にかかっていた魚などは形が分からない程腐っていた。


「しかも、姿が見えないから、何処にいるかも分からなくて、何処に逃げればいいか!」


 今も探知魔法を使っているが、その悪魔はこの下にいて漁船の周りを泳いでいる。

 どうやらそいつは姿を見えなくする能力はあっても、魔力を隠す事は出来ない様だ。


 この漁船には探知魔法の使い手が乗っていないのか、気配は感じていても姿が見えないから混乱している様だ。


「ラティ、ウラノスの能力で、僕が指示した場所の海を開いて!」


「分かったわ!」


「皆さんはすぐにここから離れて、湾頭に戻ってください! 僕達の仲間がいます!」


「分かった!」


 漁師達は漁船を動かして、湾頭へと退き返した。

 そこに従魔達が後ろから泳いで押す事で、船の速度を上げた事で一気に僕達との距離が空いた。


 すると、その魔力の主である悪魔が漁船を追い始めた。

 船には魔物除けのマジックアイテムがあるから漁船その物を襲うのは無いと思うから、きっと海に入った従魔達が狙いだろう。


「させない! サーチ、ロックオン! ライトニングジャッジメント!!」


 僕はホーミング魔法を使い、その魔力を狙って頭上から雷を放った。

 水は電気を良く通す為、そこに僕のホーミング魔法が合わさって水を伝って届き、結果『見えざる悪魔』に命中した。


「ラティ、奴に魔法が命中した! 今雷が落ちた場所をウラノスで操作して!」


「了解!」


 すかさずラティがウラノスを使って海に干渉し、ライトニングジャッジメントが落ちた場所の海水を動かして、その箇所だけ海水を無くす事が出来た。


 すると、そこに1つだけの魔力反応が狼狽える様に動いていたが、肉眼では姿が見えなかった。

 だが、魔物の心臓部である魔石がうっすらとだが見えた。

 あれは間違いなく魔物だ。


「まだ姿が見えないなら、場所だけでも分かるようにしてやる!」


 僕はローブの懐から投擲用の短剣を3本取り出し、その魔石が見える所に目掛けて投擲した。

 その時、まだ海底部どころか魔石にも到達していないのに、短剣が向きをそのままに空中停止した。

 今ラティがウラノスの能力で操作して、あの部分は海水がないから、見えない『何か』に刺さっていると思った方が納得だ。


「アリア、土属性のブレスで、あの辺を攻撃するんだ!」


『分かりました。マッドブレス!!』


 アリアが放った泥を含んだブレスが着弾し、その泥を浴びた事で見えなかった魔物が姿を現した。


 その姿は上部が球体状になっていて、下部から2本の太い触手と、無数の細い触手を持った20メートルはありそうなクラゲの魔物だった。

 そしてアリアのマッドブレスを浴びたからか、茶色の半透明上になっていて、球体状の頭部の中には心臓部である魔石があった。


『あれはデビルジェリーフィッシュ! 海にいるデビル種の中でも最強クラスの魔物です!』


 どうやらあのクラゲはデビル種の魔物の様だ。


 しかも海のデビル種でも最強と来た。

 でもそれに関しては納得も出来る。


 前世では海の生物で最強なのは何なのかと聞かれると、クラゲと答える人もいた程だからだ。

 実際クラゲというのは思った以上に危険な生き物で、中には鮫と言った海の捕食者をも撃退出来る種がいる程だと聞いた事がある。


 だから、あのデビルジェリーフィッシュが海のデビル種で最強と言うのも、そのクラゲの危険性を知っている人が聞けば納得出来る筈だ。


 しかし、今回のデビル種はこれまでとはかなり違っていた。

 僕達がこれまで遭遇したデビル種は、デビルスコーピオン、デビルオクトパス、デビルヴァイパーの3種だけど、いずれもドス黒い色をしていたのに、今回のデビルジェリーフィッシュは今でこそはアリアのブレスを浴びた事で茶色の半透明だけど、元々は無色透明と黒い要素はなかった。


 ……ともかく、これで『見えざる悪魔』の正体が分かった以上、このまま討伐するのが良い。


「クレイル、コレット、『見えざる悪魔』の正体は、デビル種のデビルジェリーフィッシュだった。コレット、そこから今僕達がいる所を狙う事は出来る?」


 通話の腕輪で湾頭にいる2人に連絡をすると、コレットから返事が返ってきた。


『アリアが飛んでいるのが見えて、その辺りの海が穴の感じに変化しているのが見えるわ。でも、肝心の魔物の姿は見えないから、その海の穴を狙って矢を放つから、撃ったら腕輪で知らせるわ』


「それなら、僕が空間魔法で迎えに行くから、2人は一旦アリアの背に来て、僕とクレイルが降りて直接戦闘をして、コレットとアインはアリアの背から援護をして。そっちの方が確実に狙撃が出来るでしょう?」


『分かったわ。じゃあ、すぐに迎えに来て』


『待ってるぜ、ユーマ』


 通話を切り、僕はすぐに空間魔法を使って湾頭に転移の門を繋いで上半身だけを潜った。


 その先には、クレイルとコレット、レクスとアインの姿があった。


「いた。さあ、早くこっちに来て!」


「よし! 今行くぜ、ユーマ! 来い、レクス!」


「ウォン!」


「行くわよ、アイン!」


「了解!」


 クレイル達も門を潜って、アリアの背に来た。


 そして早々2人もデビルジェリーフィッシュの姿を目にした。


「あれがデビル種のクラゲか」


「デビルジェリーフィッシュ……名前は聞いた事があったけど、実際に見たのはこれが初めてよ」


「あいつをここで討伐しておかないと、色々と面倒な事になりそうだからね。クレイル、相手はSランクのデビル種だ。ここは戦闘形態になって速攻で倒した方が良さそうだ」


「フォースだな? 分かったぜ。んで、属性はどうする?」


『デビルジェリーフィッシュのあの太い触手は、捕まえた獲物を瞬時に麻痺させ、無数の細い触手は触れた途端にミスリルをも腐食させるといいます』


 麻痺毒の腐食の毒の2種類を使うのか。

 だがクラゲなら、身体の殆どは水分、つまり海水に限りなく近い筈だ。


「クレイル、僕の予想が正しければ、あいつには雷属性が有効かもしれない。ここは2人共、雷のフォースで仕掛けよう。アリアとコレットとアインは、雷系の魔法や矢で援護して」


 僕の指示に全員が頷き、僕は神器の二刀流で構えた。


「ドラグーンフォース・ライトニング!!」


「フェンリルフォース・ライトニング!!」


 僕はこれまで通りに雷のフォースを発動させたが、今回はクレイルも雷のフォースを使い、クレイルの身体が雷の爪や鬣、尻尾に包まれて雷のワーウルフの様な外見になった。


「ラティ、あの海をこのまま維持させて!」


「分かったわ!」


「行くよ! クレイル!」


「おうよ!」


 僕とクレイルはアリアの背から飛び降りて、目の前のデビルジェリーフィッシュと対峙した。

 更に僕達の傍には、レクスもいる。

 EXランクのレクスの体毛なら、あの触手の腐食毒にも耐えられる可能性は確かにありそうだ。


 デビルジェリーフィッシュは触手を使って上手く立ち、僕達に向かって2本の太い触手を伸ばして襲い掛かって来た。


「遅い!」


 僕は雷の強化による効果で上がった反射神経で見切り、すれ違い様に雷を纏ったミネルヴァで触手を切断した。


 結果、雷が断面を伝ってデビルジェリーフィッシュの本体に届き、全身が感電した様に見えた。


「やっぱり奴は雷属性に極端に弱いみたいだ! コレット、アリア、アイン、見ての通りだ! 雷の援護を頼む!」


「了解よ! ライトニングスコール!!」


『ライトニングブレス!!』


「サンダークラッシュ!!」


 コレットの放った無数の雷の雨、アリアの放った雷のブレス、アインの放った雷の魔力の塊が炸裂し、デビルジェリーフィッシュは一気に大ダメージを負った。


「こっちにもいるぜ!!」


 すかさずクレイルが接近し、四肢の雷の爪で頭部の球体を大きく抉った。


「ガルルルゥァ!!」


 レクスも頭部を爪で斬りつけ、更にダメージを与えた。


 しかし、デビルジェリーフィッシュは斬られていないもう1本の太い触手を開かれた海の断面に当てると、たちまち僕に斬られた触手や、クレイル達によって受けた傷が再生し始めた。

 更にアリアの泥のブレスを浴びて茶色になっていた身体も、また無色透明になり始めた。


「しまった! 奴は水を吸収する事で身体を再生させる能力があったんだ!」


「不味いぞ! このままじゃまた姿が見えなくなっちまう!」


 だがすでに遅く、デビルジェリーフィッシュは再生を終え、身体が透明になったが、そこには何かが残っていた。


 それは、最初に僕が居場所を突き止める為にはなった、投擲用の短剣だった。

 ついでに探知魔法で探ってみると、その短剣の場所に奴の魔力反応がはっきりと見えた。


 まさに頭隠して尻隠さずならぬ、身体隠して短剣隠さずだった。


「あの短剣の場所に奴がいる! 皆、あそこを狙って集中攻撃だ!!」


 僕の指示に最初に動いたのがクレイルだった。


「もうかくれんぼは終わりだ! ライトニングインパクト!!」


 クレイルの繰り出した雷の爪の一撃が、頭部の一部を抉り、その際に受けた雷に感電して全身に電気が走り、身体の形とその場所がはっきりと分かった。


『そこですね! コレットさん、急降下しますよ!』


「分かったわ!」


 アリアも追撃するべく、上空から急降下してきた。


『ジェノサイドクラッシャー!!』


 両前脚に雷を纏い、それによる爪の一撃でデビルジェリーフィッシュに大ダメージを与えた。


 再生する前から立て続けに雷の攻撃を受けたからか、デビルジェリーフィッシュはかなり弱っていた。

 姿こそは見えないけど、探知魔法では魔力が微弱になりつつあった。


「奴はかなり弱って来てる! コレット、アイン、止めを刺すから動きを封じて!」


「分かったわ! アイシクルプリズン!!」


「こっちも行くわよ、アイン! ロックフォールアロー!!」


 アインが発動させた氷魔法で、短剣の場所を中心に氷の檻で囲み、更にその上からコレットの放った岩の矢で檻の隙間を覆う事で上以外を完全に閉じ込める事が出来た。


「今だ!」


 雷の翼に魔力を込めて飛翔した僕は、そのまま檻に覆われていない上を取り、その中にある僕の短剣を視界に捉えた。


 つまり、あそこのデビルジェリーフィッシュがいるという事だ。


「これで、終わりだ!! ライトニングタイガーの能力解放!!」


 左手のアメノハバキリにライトニングタイガーの能力を纏わせて巨大な雷の刀身にし、ミネルヴァと同等の大きさになった大剣の二刀流状態になり、ドラグーンフォースの加速で一気に駆け抜け、2本の剣を振り抜いた。


 そして氷と岩の檻はバラバラに斬られ、そこから1つの物体が飛び出した。

 大きさが70センチ程の、デビルジェリーフィッシュの魔石だ。


 探知魔法で確認してみると、そこにはもうデビルジェリーフィッシュの魔力を感じなくなった。

 完全に死に絶え、魔力も消滅したんだ。


「やったのか?」


 クレイルが確認し、僕は魔石を手に取って答えた。


「うん。デビルジェリーフィッシュ、討伐完了だ」


「やったわね。Sランクの魔物だからもうちょっとてこずるかと思ったけど、意外にも攻撃は簡単に通ったわね」


『きっと、隠密性を活かした奇襲に特化している分、攻撃を受ける事には慣れていない魔物だったのでしょう。後は、苦手な属性で攻めたというのも大きいでしょうが』


 確かにデビルジェリーフィッシュは、その無色透明の身体と2種類の毒を使い分けた不意打ちに特化したデビル種で、強力な探知魔法の使い手じゃないと接近に気付かず、気付いた頃には既に餌食なっているというくらい強力な魔物だった。


 だが、いざ自分の居場所が分かった場合の対処は出来ていなかったのか、弱点を突かれると再生が追い付いてもいずれは僕達が倒した様に、討伐が出来た。


 やはりSランクでも、クルスやベヒモスの様にあらゆる戦い方が出来るのもいれば、こいつの様な1つのやり方に特化して他の対処が苦手なのもいるというのを今回の件で理解した。


「ユーマくん、問題の『見えざる悪魔』も討伐出来たから、そろそろ街に戻りましょう。フォルラさんや、助けた漁師の人達に教えないと」


 色々考えを纏めていた時、僕の傍にクルスに乗ったラティが降りて来て、街に戻ろうと進めた。


「そうだね。今回はありがとう、ラティ。君のお陰で、こうして地上で戦う事が出来たよ」


 僕がお礼を言うと、クレイル達もラティにお礼を言った。


「そうだな。お前がこうして海を割ってくれたから、足場で奴と戦えたんだ。お前の役割はとっても有り難かったぜ。サンキューな、ラティ」


「ええ。私も矢での攻撃がし易かったわ。ありがとうラティ」


「えへへ。あたしも役に立てて良かったわ」


 ラティは嬉しそうに後頭部を掻いて微笑んだ。


「よし、そろそろここを出て街に戻ろう。ラティ最後の後始末に、この海を元に戻しておこう」


「任せて」


 僕達はアリアに乗り、海面に出た後にラティがウラノスで開いた海を元に戻した。


 そして悪魔の討伐を報告する為、湾頭を目指して帰還した。

魔物情報


デビルジェリーフィッシュ

デビル種のSランクの魔物。

魔石以外が無色透明の身体を持っており、簡単には姿を見る事が出来ない。

その唯一の魔石も海の景色と同化している為、海上に出てこない限り魔石をも視認する事が困難。

高度な気配遮断とステルス能力を持っており、獲物に密かに接近しては麻痺毒の触手にからめとられ、腐食毒の触手で身体を解かされて捕食されてしまう。

しかし、身体が水分で出来ているため電気を非常に通しやすく、加えて奇襲に特化している分攻撃の受けには耐性が皆無。

討伐証明部位は魔石。


次回予告

デビルジェリーフィッシュの討伐を報告し、街は歓喜の声に包まれる。

ユーマ達は英雄として崇められ、街を出発する際には盛大な見送りが待っていた。


次回、ゼピロウス大陸へ出発

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