第152話 バイライルの街
前回のあらすじ
炎竜王の神殿で1泊したユーマ達は、出発する為に炎竜王と獄炎竜に別れを告げる。
その際2体の心づくしとして、安全な出発が出来た。
ヴェルニア火山を出て数日、僕達は目的地の港がある街、バイライルの街へとやって来た。
「このバイライルの街から、ゼピロウス大陸やグランバレス大陸へ出向する船が出ているのよ。でも私達の場合はアリアがいるから、船に乗る必要も、その前に乗る為にチケットを買うお金も必要もないから、問題なく飛んで渡る事が出来るわ」
僕達はこの街からゼピロウス大陸への航路を確認して、そこからどうやって飛んでいけるかを知る為に、一旦この街へやって来たのだ。
「でも一応、この街の領主に会いに行った方がいいかもね。あたし達が船に乗らずに大陸を渡るのは変わりないけど、領主の許可があれば何事もなく行けそうだからね」
この領主の事は予め決めていた事だ。
以前ゼノンさんに聞いたけど、ゼノンさんとイリスさんは故郷のある国がゼピロウス大陸にあり、水晶竜のスニィに乗ってメビレウス大陸に渡って来たと聞かされた事がある。
その際、領主の許可は取らなかったけど問題なく出来たとも言っていたが、僕達の場合はアリア達の存在もある為領主に報告して船に乗らずに竜のアリアに乗って大陸を渡ると報告した方がいいと、ゼノンさんとイリスさんに忠告されていた為、こうしてこの街へやって来たんだ。
「まずはこの街の領主に会いに行こう。幸い僕達は先日Sランクになったから、この身分を活かせばアポなしでも会う事が出来る筈だ」
冒険者はランクが上がると貴族並みの発言力を得られ、Sランクになれば王族にも同等に話せる程の権力を持つ事が出来る。
ロマージュ共和国は民主制の国家だから貴族はいないけど、1つの街を収めている人物だから他貴族でなくても権力は持っている。
だからその人にあって僕達がこれからゼピロウス大陸に行く事を話すのは、僕達なりの礼儀ともいえる。
「その際、この証文を見せれば1発で許可が出ると思うけどね」
首都に着いた日にグレンツェン大統領から貰った後ろ盾を証明する証文もあるから、これを見せれば許可を貰えるだろうと確信があった。
「なら善は急げだ。早速その領主の所に行こうぜ」
『焦る必要はありませんが、速い方がいいですからね』
「なら早速行こう」
街に入ってすぐに僕達は、まず領主に会いに行く為にその場に向かった。
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街を歩いていると、これまで見なかった種族があちこちにいた。
「ユーマくん、あの耳がヒレみたいな形をした人達って……」
「うん。海人族だよ」
これまで僕達が見た種族は僕ら人族の他に、クレイルやトロスさんの獣人族、コレットやロランさん、ネルスさんのエルフ族、ゼノンさんの竜人族、イリスさんやダグリスさんの魔族、ガリアンさんやグレンツェン大統領のドワーフ族で、海人族と巨人族の2つは見た事がなかった。
巨人族はヴォルスガ王国の武闘大会で参加者として見た事はあったが、冒険者や住民として見た事は無かった。
「そういえや、俺達って海人族や巨人族をあまり見た事は無かったな」
「あまり考えた事がなかったわね。どうしてかしら?」
僕達がこの疑問を思っていると、教えてくれたのはコレットとアインだった。
「それは、巨人族と海人族が自身の特徴を活かせる場が限られているからよ」
「どういう事?」
「まず海人族は、ここは海に面しているでしょ? 海人族は陸上では肺呼吸、水中では鰓呼吸で活動出来て、手足には水掻きがあって水の中では無類の強さを発揮出来る種族よ。でも、水関連に特化しすぎていてそれ以外の環境下では人族並みになるから、海人族が暮らしているのは、海人族の国のネプチューン王国か、ここバイライルの街の様な海や湖に面している街くらいなのよ」
成程。
海人族は自分達の能力を活かせる様に、人族や獣人、エルフの様に何処にでもいる訳ではなかったのか。
「じゃあ、巨人族はどうなんだ?」
今度はアインが答えた。
「海人族とはまた違うけど、巨人族も同じ理屈よ。巨人族は名前に『巨人』とついているけど、身長は3メートル程と常人より高めというくらいよ。でもその大きな体から、普通の人の家とかでは暮らすのが難しい為、基本的にオベリスク王国くらいでしか暮らしていないの。でも、ヴォルスガ王国やドラグニティ王国とは親交が深いから、この2国でなら見る機会があるわ」
だからあの武闘大会で巨人族の参加者もいたという訳か。
2人からの説明で、僕達はお母さんの授業でも聞かなかった海人族と巨人族の事情という奴を知った。
「だからこれまでの国でこの2つの種族を見る事がなかったのね」
「でも、ここの様な海辺の街やこれから向かうゼピロウス大陸に行けば、海人族と巨人族に会う機会が増えるわよ」
旅の楽しみがますます増えるという訳か。
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暫く街を歩き、住民に領主の屋敷の場所を聞きながら進み、僕達はやがて領主の住む屋敷にやって来た。
門番のドワーフに僕達は声をかけて事情を話した。
「話は分かりました。では、身分を明かせる物は持っていますか?」
聞かれた僕は懐からギルドカードを取り出し、門番に見せた。
「ユーマ・エリュシーレ!? ではあなた方はあのSランクの銀月の翼ですか!?」
僕達の昇格が伝わっていた事もあり、門番は僕らの事を信じてくれた。
「では、領主に会わせてくれますね?」
「はい、勿論です! では、少々お待ちください!」
門番は屋敷に入っていき、次に戻ってくると僕達を中に案内してくれた。
「どうぞ。領主様もお会いしてくださるとおっしゃってます」
僕達は無事に領主に会う事が出来た。
次回予告
領主に報告をしたユーマ達は、そこである情報を聞かされる。
自分達へかかる危険減らすという建前で、ユーマ達はある決意をする。
次回、見えざる悪魔