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第150話 神殿にお泊り

前回のあらすじ

炎竜王の側近の獄炎竜に案内され、ユーマ達は火山の中にある炎竜王の神殿に招待される。

そこで炎竜王とも出会うが、アリアのお陰で無事に受け入れられる。

 落ち込んでいた獄炎竜は暫くして漸く立ち直った。


『皆様、お見苦しい所をお見せしました』


 客人である僕達や竜神のアリアの前で醜態を曝した事を、獄炎竜は謝罪した。


「いいんですよ。獄炎竜さんが気にする事はありません」


『そうですよ。炎竜王様が苦労を掛けたのが悪いんですから』


『ぐっ……』


 流石に自分にも非がある事を自覚していたのか、炎竜王も獄炎竜に謝罪した。


『すまなかったな、獄炎竜よ。お前にはいつも苦労を掛けているから、近い内に何かお詫びをしよう』


『本当ですか? 約束ですからね、炎竜王様』


『ウム。私に任せておけ』


 とりあえず、この2体の竜が無事に和解した所で、僕達は今後の事を話した。


「それから炎竜王様、僕達は明日にはここを出て目的地の街へ向かおうと思っているんですが、この火山には僕達人間やクルス達が休める場所はありますか?」


『それなら心配いらない。この神殿は人化が出来る竜族も暮らせる様に出来ていてな、中には人が暮らせる場所もある。今日はそこを提供するので、安心して休んでいくがよい』


 炎竜王から宿泊の許可も下りて、僕達は今日この神殿に泊まる事になった。


『では炎竜王様、私達もそろそろ人の姿になりませんか? アリア様は良くても彼らからすれば、私達は余りにも大きいですから、視点を合わせるのも客人に対する礼儀かと思います』


『それもそうだな。すまなかった、ユーマ殿達よ。今から姿を変える。ちょっと待ってくれ』


 そう言うと、炎竜王と獄炎竜の身体が輝きだし、次の瞬間には目の前に2人の人間の姿があった。


 1人は身長が2メートルを超えそうな大男で、ゼノンさんの様な中国の様な武闘服を着た赤髪を腰まで伸ばした偉丈夫だった。


 もう1人はスラリとした体躯に深くスリットのあるチャイナドレスを彷彿させる服を着た、赤髪の美女だった。


「……男性の方は炎竜王様だっていうのは分かるけど、女性の方は誰? あんな人――竜っていたっけ?」


 ラティの疑問に、アリアを除く僕達は揃って首を傾げた。


『何を言っているのですか? あの人は獄炎竜様ですよ』


「「「「「えええええええええっ!!? 嘘おおおおおおおおおっ!!?」」」」」


「グルルゥ!?」


「ウァフっ!?」


 アリアの衝撃な言葉に、僕達は一斉に驚愕の声を上げた。


 声だけでは性別が分からなかったとはいえ、まさか獄炎竜が雌の竜だったとは思ってもいなかったからだ。


「まあ、気付かないのは仕方ないかもしれんな。我々竜族の性別はぱっと見では人間には判別するのは難しいだろうしな。ましてや獄炎竜は声音が中性的だから、尚更だろう」


「皆様に言わなかったのは私ですけど、こうも驚かれるとちょっとショックですね……」


『申し訳ありません、獄炎竜様。私もユーマ達に言うのを忘れていました』


 アリアも獄炎竜に謝罪したのと同時に、自身も人化の術を使い、幼女の姿になった。


「とにかく、獄炎竜様、今日は久しぶりの再会です。炎竜王様もご一緒に、楽しみましょう」


「そうですな。獄炎竜よ、火竜達を呼び戻して、宴の用意をさせよ。『竜神様が来ている』という事も、まだ知らない若者達にも知らせよ」


「はい。ただ今すぐに」


 人間の姿になった獄炎竜は、そのまま部屋を出て行った。


「さあ、炎竜王様、準備が出来るまでの間、私がこれまでの出来事をお話ししましょう」


「おお。それは良いですな。ではユーマ殿達もご一緒に。是非、そなた達からも聞かせて欲しい。アリア様の事を」


 それからは獄炎竜が宴の準備をしている間、僕達は炎竜王に、僕がアリアと出会ってからの出来事を中心にこれまでの事を語った。

 アリアも僕と出会う前の出来事、主に先代竜神が無くなる前後辺りの事も語り、炎竜王は感慨深そうに聞いていた。


「成程。ではアリア様は当時我々竜王の許を回っている時に、コレット殿とアイン殿と出会ったのですな」


「はい。それ以来、私とアインお姉様は姉妹同然の仲です」


「そうね。でも、それ以来会う事が無くて、あの日ユーマ達と出会った時に再会したのは、嬉しかったし驚きもしたわ。何せ竜神と適合した人族なんて、あたしだって初めて見たんだから」


「そうですな。我ら竜王も、竜神様と適合した人間と出会った事など、今まで見た事もあった事もありませんでした」


 やはり竜神と適合した人間なんて、僕しかいない様だ。

 EXランクと適合する確率は100億人に1人という確率で、決していない訳ではないけどそれでもこのアインや炎竜王の様な人よりも長く生きている存在でも見た事がないくらいだ。

 それだけ僕がアリアと適合しているのがとんでもない事なんだというのは、僕自身も十分分かっている。

 だってそうじゃなきゃ、僕がこうしてラティ達と一緒に世界を回って安住の地を探す旅をしている事もないから。


「ですが、私が出会ったのが、ユーマの様な方で本当に良かったです。ユーマと共にいるのが、私の最高の幸福なのです」


 アリアも僕と出会えた事に、心から幸せを感じている。

 それを伝えるには十分過ぎる一言だった。


「本当にこちらのユーマ殿と固い絆で結ばれているのですね。ユーマ殿、アリア様を大切にしてくださって、本当にありがとう。我も竜王の一角として、感謝する」


「こちらこそ、こうして僕達を受け入れて頂いた事、本当にありがとうございます」


「しかし、人間が全てそうと言う訳ではないが、中には碌でもない輩というのが本当にいるのだな。アリア様やクルス殿を利用しようとした者、自分が暮らす国を真っ先に見捨てて国家転覆を図った者、王子の身分に生まれたというのに自国の民を攫い苦しめた者、一概に人間と言ってもとんでもない者がいたものだな」


 炎竜王は僕達が話した内容の中でも、ヴィダールやレイザード、ヘラルといったこれまでに僕達が巻き込まれ、最後は自滅した奴らの事を聞き、かなり怒っていた。

 やはり彼も竜神の下の立場だが「王」の立場で仲間を纏める身分という物から、所謂悪の権力者を嫌っていた。


 人と竜という全く違う存在でも、こうして話は合うし、何より気持ちを共感出来るというのは良い物だ。


「私も様々な人間を見てきましたが、そういう酷い人間もいれば、とても好きになれる人間も存在します。こちらのユーマやラティ、クレイルさんにコレットさん、他にも私とお母様が亡くなる前にあったアベルクス王、ユーマの両親とラティの両親、ユーマに心に惚れて良き仲間となった冒険者達、そういった者達と出会い、私は彼らとも絆を得ました。そしてその絆こそが私の誇りです」


 アリアはかつてスタンピードで戦った三つ首竜に諭した己の誇りを、炎竜王にも語った。


 それを聞いた炎竜王は感慨深そうに頷いた。


「その通りですな、アリア様。我も竜王となって幾星霜(いくせいそう)、多くの竜だけでなく、この地にやってくる人間を見てきました。その中には私利私欲で竜を狩る者もいれば、竜と親交を持ちたいという者もいました。そういった者達を見た事で、我も人間という者を見て、知ってきました。そして中にはここにいる者達の様に親交を結び、友情を抱いた者もいました。その時に思いました。何かと繋がった時、我々は本当に正しき力を振るう事が出来る。獄炎竜や仲間の竜という存在の為に戦う時、我は誇りを抱いて戦う事が出来たのです。まさに絆こそが最高の誇りなのだと、我も胸を張って断言できます」


 炎竜王は本当に心が正しい竜だ。

 一概に人間を害な存在だと決めつけず、信じられる時は信じ、敵だと思えば仲間の為に力を振るう。

 一見簡単そうに見えるけど、それが中々出来ないのが意思を持った者の宿命という奴だ。


「本当にその通りです。今日はこうして話す事が出来て良かったです」


 そうして僕達が盛り上がっていた時、席を外していた獄炎竜が戻って来た。


「皆様、宴の用意が出来ました。既に火竜達も揃っていますので、こちらにどうぞ」


「ウム。では行くとしよう」


 僕達は炎竜王によってヴェルニア火山に生息する竜達に紹介され、アリアの存在を通して熱烈な歓迎を受けた。


 料理はこの辺りで取れた魔物を火竜達が焼いた丸焼きに、火山から離れた森で採れた果物などを丸ごと乗せた、とても豪快な料理だった。


 僕もそういったのに更に手を入れて調理し、出来たのを炎竜王達に振る舞ったら、皆とても喜んでくれた。


――――――――――――――――――――


 やがて食事が終わり、僕達は獄炎竜に案内された天然の温泉にやって来た。

 ここは火山地帯と言うだけあって、天然の湧き温泉が存在している。

 そして竜達はその温泉を利用し、疲れを癒しているのだという。


 僕達は男湯と女湯に分かれ、僕とクレイルはクルスにレクス、そして炎竜王と一緒に男湯の温泉へとやって来た。


 温泉は人化できない火竜達も浸かれる程の深さがあったが、湯の中の岩の足場を上手く利用して肩まで浸かる事が出来た。


「はあああぁぁぁ。気持ち良い……やっぱり温泉はこうでないとなぁ……」


 僕はその温泉の気持ち良さに寛いでいた。


「グルルルゥゥゥゥゥゥゥ……」


「ワフゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……」


 クルスとレクスも湯に浸かって犬掻きをしながらゆっくりと泳いでいる。


「おおっ! クレイル殿! お主、相当鍛えておるな! その筋肉の付き方、良い鍛え方をしている証拠だ!」


「炎竜王のおっさんだってスゲエな! その鋼の身体! これこそが本当の男って奴だな!」


 クレイルと炎竜王は温泉に入る前に、お互いの裸を見て様々なポーズをしながら互いの筋肉をも褒め合っている。


 あの2人、結構気が合うのかもね。


 そして2人も入って来て、僕達はその温泉の気持ちよさに時間が経つのを忘れていた。


――――――――――――――――――


 ラティside


 ユーマくん達と別れたあたし達は、獄炎竜の案内で女風呂へとやって来た。


 普段は竜達は男女関係なしに温泉に入っているそうだけど、今回は人間のあたし達がいる為、炎竜王が別々の温泉に案内してくれた。


 あたしとしてはユーマくんと一緒でもよかったけど、クレイルくんもコレットさんも一緒だから、そこは仕方ないと割り切っていた。


 あたしとコレットさんは温泉に着くと、服を脱いで裸になり、長い髪を結って温泉に入った。

 続いて同じく裸になったアリアが、獄炎竜に髪を結って貰って、一緒に入って来た。

 更にドレスを脱いだアインも入って来た。


「気持ち良いわねぇ」


「そうね。日頃の疲れが吹っ飛んでいく感じがするわねぇ」


「このヴェルニア火山で湧いた温泉は、様々な効能があります。体内に溜まった僅かな疲労も全て出て行き、新陳代謝の促進効果もあります」


「それは良い事尽くしね。あたし達は明日にはここを出発するから、今日はぞんぶん浸かって、しっかりと備えましょう、アリア」


「はい、アインお姉様」


 あたしは両腕を上に伸ばして背伸びを、温泉の中で軽いストレッチをした。

 その際、あたしの胸がお湯の中で「たゆん」と揺れた。


「そういえばラティ、最近また胸が大きくなったんじゃない?」


 アインがあたしの胸を見ながらそう言う。


「そうかな? あんまり気にした事は無いけど……」


 あたしが自分の胸を見ていると、獄炎竜がなんだか一気に落ち込んできた。


「何故、私の胸はこうなのでしょう……ラティ様もコレット様もとても大きいというのに、私はこんな絶望的な……」


 獄炎竜は自分の胸部に手を置き、大きさを確かめたけど、何処からか「スカっ」と空気が通り過ぎる様な音がした。


「はあぁ……これでは、炎竜王様を喜ばす事も出来ないでしょうね……」


 何故かここで炎竜王の名前が出てきた。

 その時、あたし達の中である予想が出来た。


 そしてストレートに聞いたのがアインだった。


「ねえ、獄炎竜。あなた炎竜王の事が好きなんじゃないの?」


 すると獄炎竜は驚いて、温泉の中に沈んでしまった。


 すぐに上がってきて、咽ながら口を開いた。


「ゲホッ、ゲホッ! ……なっ、何故そのような事を!?」


「だって、自分の身体を見て、男である炎竜王を喜ばせるかなんて、これは完全に男を想う仕草よ」


 そうアインに指摘され、獄炎竜は観念したかのようにゆっくりと頷いた。


「……はい。私は1匹の竜として、炎竜王様をお慕い申しております」


 獄炎竜は、炎竜王について語りだした。


 いつも仲間の竜を大切にしていて、自分も例外ではなくとても大切にされている。

 何か悩みがあれば、常に相談に乗ってくれる。

 そして何よりも強く、どんな時も頼れる御方だと。


 確かに強くて優しくて、頼りになる男性って、とても魅力的よね。

 あたしもユーマくんのそんな所で惹かれて、初恋になったんだから。


「ですが、今私は炎竜王様の側近として傍にいますが、私の他にも、あの御方の隣を狙う雌の竜は多くいます。そんな者達に、私が適うのでしょうか」


 途端に弱気になる獄炎竜に、あたしは助言してあげた。


「挫けちゃ駄目よ。獄炎竜は側近である以上、炎竜王の傍にいる時間が最も多いんだから、身近な事でもいいから徐々に距離を縮めるのよ。そうすれば、炎竜王にも気持ちが伝わるわよ」


「そうね。常に一緒にいるというのは大きなアドバンテージなんだから、それを活かしてもっとアピールしてみて。それくらいしか言えないけど、私達もそうやってクレイルやユーマと結ばれたんだから」


 あたしとコレットの助言を聞いて、獄炎竜は次第に瞳に活気を取り戻した。


「そうですね。私はあの方の側近なのです。それに、先程炎竜王様は何か詫びを用意してくれると約束してくれました。ならば、それで一気に周りとの差をつけてみます」


「その意気よ、獄炎竜。あたし達も応援しているわ」


「頑張ってください、獄炎竜様」


「ありがとうございます、ラティさん。ありがとうございます、アリア様」


 こうして、あたし達の炎竜王の許で過ごす夜は過ぎて行った。

次回予告

一晩が過ぎ、ユーマ達は炎竜王達と別れる。

その際、炎竜王と獄炎竜は出発に合わせてある便乗を用意する。


次回、出発と別れ

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[一言] 竜種がそうなのか獄炎竜さんが(ty
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