第149話 炎竜王
前回のあらすじ
ヴェルニア火山に炎竜王がいるという事を知ったユーマ達は、アリアの挨拶したいという願いを聞き入れて立ち寄る事にする。
途中ラヴァゴーレムと遭遇するが、神器のウラノスを使たラティによって瞬殺される。
火山に到着すると、謎の炎の竜が現れる。
僕達の前に現れたのは、ゼノンさんのスニィと同じぐらいの大きさで、全身が燃え盛る炎に包まれた竜だった。
『その立ち振る舞い、その感じる魔力、間違いなくあなた様は竜神様。しかし、以前にお会いした竜神様とは、僅かに魔力が違います』
炎の竜はアリアの魔力を感じていて、そう言った。
『それは私のお母様の事です。私はその娘です。今では、亡きお母様の跡を継ぎ、今代の竜神としています』
『なんと!? ではあなた様は、あの時の幼い娘様……!』
『お久し振りです。獄炎竜様』
アリアは獄炎竜と呼んだ炎の竜に、僕達を紹介した。
『獄炎竜様、こちらの人間達は私の仲間です。私を従魔として召喚したユーマ、その幼馴染であり婚約者のラティ、その従魔のグリフォンのクルス、狼人族のクレイルさん、その従魔のフェンリルのレクス、ハイエルフのコレットさん、その従魔であり、私のお姉様のティターニアのアインお姉様です』
獄炎竜はアリアの背に乗っている僕達――正確には僕を驚いた顔で見ていた。
『こちらの人間が、彼の竜神様を従魔として召喚したというのですか!?』
獄炎竜はまじまじと僕を見つめ、まるで品定めをするかの様に見た。
やがて見終わると、目を閉じて大きく息を吐き、再び目を開いて僕を見た。
そして僕の評価を語りだした。
『その目、とても澄んだ心を感じます。あなたから発している魔力も途轍もない質と量があり、確かにこれなら竜神様と適合しているというのも頷けます。竜神様、あなたは良い人間と出会えた様ですね』
獄炎竜は僕の目や魔力を見て、僕を認めた様だ。
『ありがとうございます、獄炎竜様。それから、私は竜神である前に、今はユーマの相棒のアリアです。どうか名前で呼んでくれませんか?』
『分かりました、アリア様。そしてユーマ様、ラティ様、クレイル様、コレット様、クルス様、レクス様、アイン様、ようこそヴェルニア火山へお越しくださいました。私は炎竜王様にお仕えする側近の竜、古竜の獄炎竜です』
やはり、僕もこの竜から感じる魔力で分かっていたが、獄炎竜はAランクの古竜だった。
しかも炎竜王の側近と来た。
『して、アリア様達は本日どの様な御用件で、こちらにいらしたのでしょうか?』
尋ねられたアリアは口を開いて答えた。
『私達は現在、世界を巡る旅をしていまして、今はゼピロウス大陸へ向かう途中だったのですが、このヴェルニア火山が炎竜王様がお住まいになっている地だという事を思い出し、折角ですからご挨拶をしていこうと思い、こちらに参りました』
『そうですか。それは炎竜王様もお喜びになると思います。これから皆様を炎竜王様の下にご案内しますので、私について来てください』
獄炎竜はそう言って炎に包まれた翼を広げて、火山の方へと飛び立った。
『私達も行きましょう。獄炎竜様の後を追います』
アリアも獄炎竜の後を追うべく、翼を広げて飛び立ち獄炎竜の後ろに着いた。
暫くアリアと獄炎竜は火山を迂回する様に飛び、やがて火山の火口部に近づくと1ヵ所だけ横穴があった。
『あの穴が炎竜王様の住む神殿に繋がっています。行きますよ』
獄炎竜がまず最初に穴に入り、アリアもそれに続いて穴に入った。
穴の中は暫くの間トンネルになっていて、暫く2匹が飛んでいるとやがて大きな空間に出た。
そしてそこには巨大な神殿が建っていた。
「アリア、あの神殿なの?」
『はい。あれが炎竜王様が住んでいる神殿です』
『炎竜王様は神殿の中にいます。こちらです』
獄炎竜の案内で僕達は神殿の入口へとやって来て、僕達はそこでアリアから降りた。
入口はとても大きく、あのベヒモスが余裕で通れるくらいの高さと幅があった。
「この入口の大きさだと、炎竜王はベヒモスみたいな巨大な竜かもしれないな」
「そうね。やっぱり『王』が付いている以上、それなりに巨大な方が威厳がありそうよね」
クレイルとコレットもこの入口から、炎竜王の姿を想像していた。
『皆様、どうしましたか? こちらの奥に炎竜王様がおられます。どうぞ』
僕達が炎竜王の姿を想像していた事で歩が止まっていた様で、獄炎竜が心配そうに戻って来た。
「大丈夫です。ご心配なく、すぐ行きます」
すぐに獄炎竜に追いつき、僕達は獄炎竜に案内されて、大きな部屋へとやって来た。
『炎竜王様をお呼びしてきますので、少しここでお待ちください。アリア様、少々失礼します』
獄炎竜は炎竜王を探しに、部屋を出て行った。
「結構広い部屋ね」
「ここが炎竜王の部屋なのかしら」
コレットとラティが辺りを見回したその時、僕達に対する鋭い視線を感じた。
「何だ? この視線は?」
すぐに探知魔法を使うと、後ろの方に途轍もない魔力反応がした。
その反応の強さは、Sランクだった。
「後ろの方だ」
出入り口から入って来たのは、あのベヒモスと同じくらいの巨大な竜で、全身が深紅の鱗に包まれ、額部には黒い1本の角があった。
その巨大な竜は僕達を軽く見やると、興味深そうに声を発した。
『ほう……ここに人間がやって来るとは、随分と珍しい事もあるな。それにティターニアにフェンリル、グリフォンも一緒とは。これは中々面白い組み合わせだな。そして何より……』
竜はアリアを見ると、彼女の前にやって来て深く頭を下げた。
『お久し振りです、竜神様。一目見た時にあなた様が、あの時先代竜神様が紹介してくださった娘様だとすぐに分かりました。とてもお美しくなられました。先代様によく似ていますよ』
『こちらこそ、お久し振りです。炎竜王様』
どうやらこの巨大な竜が炎竜王様の様だ。
『して竜神様、こちらの人間達は何者ですか? ここに人間がやって来るだけでも珍しいのに、竜神様と同格のフェンリルやティターニアまでいらっしゃるとは、いったいどういうご関係で?』
炎竜王に尋ねられたアリアは、さっき獄炎竜に説明した様に僕達を紹介した。
説明を聞いた炎竜王は、僕を見つめて少ししてアリアの時程ではないが頭を下げた。
『初めまして。ユーマ殿でよろしいだろうか? 我は炎竜王。その名の通り、炎の竜王である。竜神様とは、昔先代様に紹介されてお会いした事があり、こうして再び会えた事、喜ばしく思っている。そして、竜神様――アリア様と再会出来たこと、心より感謝する』
「初めまして。ユーマ・エリュシーレです。アリアと適合した人間です」
『私の最高の主です』
僕の自己紹介の続いて、ラティ達も挨拶した。
「あたしは、ラティ・アルグラースです。ユーマくんの婚約者で、アリアの友達です。こちらはあたしの従魔のクルスです」
「グルルルゥ」
「俺はクレイル・クロスフォード。狼人族でユーマの親友です。アリアとは一緒に戦っている仲間です。こいつは従魔のレクスです」
「ウォン!」
「初めまして、炎竜王様。ハイエルフのコレット・セルジリオンです。アリアとは先代の竜神様との縁で付き合いがあります。こちらは従魔のアインです」
「初めまして、ティターニアのアインよ。アリアとは姉妹分の関係で、妹の様に可愛がっているわ」
全員の自己紹介が終わり、炎竜王は改めて僕達に頭を下げ、僕達の竜王との初めての顔合わせが終わった。
「ねえ。そういえば、何か忘れていない?」
ラティの言う通り、何か忘れている気がする。
何だろう……。
『皆様、申し訳ありません。どうも炎竜王様が見つからなくて、もしかしたら外に出かけているのか……も……』
その時、炎竜王を呼ぶ為に部屋を出た獄炎竜が戻って来た。
そして炎竜王と獄炎竜の目が合う。
『おう、獄炎竜よ。何処へ行っておったのだ? 今竜神様が来ておられるというのに』
その後、炎竜王によって獄炎竜が酷く落ち込んだのは言うまでもない。
獄炎竜はかなり真面目そうだから、こうして失敗に終わったのだからショックも大きかったのだろう。
ここまでお読みくださって、誠にありがとうございます。
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魔物情報
獄炎竜
古竜の1体で、炎属性に特化した竜。
鱗と鱗の隙間から炎が噴き出ており、それによって全身が炎に包まれている。
この炎は獄炎竜の意思によって触れた者を燃やす事も出来れば燃やさない事も出来る。
燃えると念じた場合は、他の竜のブレスを炎と熱で掻き消してしまう事も可能。
討伐証明部位は逆鱗。
炎竜王
世界に8体存在する竜王の1体で、炎をつかさどっている。
炎属性を極めており、放たれる炎のブレスは1国の騎士団の総戦力並みの破壊力を誇る。
炎属性に対する完全な耐性を持っており、他の属性の攻撃を受けてもビクともしない防御力を持ち合わせている。
攻撃面に関しては竜王の中でもトップクラスである。
討伐証明部位は逆鱗。
次回予告
炎竜王の許可を貰い、ユーマ達は神殿で一晩を過ごす事に。
そこで歓迎を受け、更に天然の温泉にも招待される。
次回、神殿にお泊り