第148話 ヴェルニア火山
前回のあらすじ
ユーマとクレイルは武器無しでの状態でフォースを使って模擬戦をし、現在の自分達の実力を確認する。
結果、余程の事がない限りフォースの使用は無いと判断する。
クレイルと模擬戦を行って少しして、僕達はアリアの背に乗って移動していたがその途中から景色が変わって来た。
全体が熱気に包まれ、空が普通の曇りとは違っていたのだ。
「何だか、少し熱くなって来たな。今、どの辺なんだ?」
熱気を感じたクレイルに聞かれ、僕は世界地図とは別のこのメビレウス大陸の地図を取り出し、その首都から目的地の港がある街の間を見た。
「今僕達がいるのは、この熱気から察するに……ヴェルニア火山に近い場所かも」
「ヴェルニア火山。メビレウス大陸でも特に炎属性の竜種が多く生息している地帯ね」
ヴェルニア火山は今でも活動している活火山の中では、メビレウス大陸でも最大の規模を持っている火山だ。
その一帯を中心に熱気が広がっており、その環境を好む炎系や溶岩に関連した魔物が多く住んでいる。
そしてこの火山地帯での生態系の頂点に立つのが、炎属性に生まれた竜種だ。
炎属性の翼竜や走竜、他に炎属性の上級竜や、中には炎属性の古竜種もが確認されている。
『ですが、その火山に住む王は、古竜ではありません』
すると突然アリアが口を開いた。
「どういう事? アリア」
『ヴェルニア火山に生息している魔物を統べ、この一帯を縄張りとしているのは炎属性の竜の王、炎竜王様です』
その言葉に、僕達は驚愕した。
「竜王だって!?」
その火山には8体いる竜王の内の1体が住んでいる事が分かった。
竜王はSランクに位置する竜種だ。
この世界の8属性、つまり炎、水、風、土、雷、氷、光、闇の各属性を極めており、その力はSランクの中でも上位に入る。
それぞれの竜王が各地に散らばっていると言われているが、まさかそこに炎竜王がいるとは思わなかった。
「というか、どうしてアリアが知っているの? もしかして、過去に炎竜王と会っているとか?」
ラティがそんな推測を立てたが――
『その通りですよ、ラティ。名推理です』
――なんと思いの外当たっていた。
『私がまだ生まれたばかりの頃、私はお母様に連れられて、世界各地にいる竜王様の許を回った事があります。私という当時の次代の竜神が誕生したという事を、お母様が各竜王様に知らせる為です。故に50年程前にこの火山を訪れ、炎竜王様とお会いしたのです。また、その過程で世界樹にも行き、そこでコレットさんやお姉様と出会ったのです』
アリアによると、先代竜神――アリアのお母さんはアリアが生まれて間もなく、自分の後継者を紹介するべく各竜王の許を回ったそうだ。
そして竜王が住んでいる訳ではないが、この世界の象徴である世界樹をアリアに見せるべく、エリアル王国に行ったら、そこで先代竜神が以前にあったコレットとアインとも再会し、それでアリアとアインが姉妹分になったという事だ。
『ですから、ヴェルニア火山を通過するとなると、別に許可がいる訳ではありませんが私個人としては、炎竜王様に挨拶をしておきたいものです』
アリアにとっては久し振りに知り合いに会う様な物だ。
だからこそ挨拶しておきたいんだな。
「皆、ちょっと寄り道になるけど、炎竜王の許に行ってみようか?」
「いいんじゃねえか。俺も竜王には会った事がないからな。いい機会だし、行ってみるのも面白そうだな」
「あたしも。アリアの知り合いっていうのもあるし、あたし達も挨拶しておこう」
「アリアの希望もあるしね。私は構わないわよ」
クルス達も頷いていて、僕達はアリアの要望を聞く事にした。
『皆さん、ありがとうございます。それでは、このままヴェルニア火山に向かいます』
アリアは翼を広げて、ヴェルニア火山へ向かって飛び立った。
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ヴェルニア火山にやってくると、さっきよりも強い熱風や溶岩による地熱からの熱気が僕達を襲ってきた。
「流石に、これ以上はレジストが無いとコレット達には危険ね。アリア、皆に耐熱のレジストを掛けるわよ」
『分かりました、お姉様』
アリアとアインは僕とラティ以外の全員と自分達に耐熱のレジストを掛け、準備を済ませた。
『ここから少し進むと、火竜の縄張りに入ります。ダンジョンの時と違ってここは炎竜王様の住まう場所でもありますから、今度は向かってくる可能性もあります。ですがその時は私が竜神として鎮めますので、ご安心しください』
「分かったよ。頼りにしているからね、アリア」
僕達は一旦火竜の住処に向かう事にして移動すること数分、途中僕の探知魔法に魔物の反応が現れた。
「来る。Aランクの魔物が7体」
僕達の前に現れたのは、全身が溶岩の身体で出来たゴーレムの魔物だった。
「溶岩のゴーレム、ラヴァゴーレムね。7体いるとなると、どうする? いつも通り、全員でやる?」
コレットが尋ねた時、ラティが挙手を上げた。
「ユーマくん、コレットさん、ここはあたしに任せてくれない?」
「ラティ?」
「このウラノスの力を試したいの。あたしも神器の所有者になったんだから、しっかりとこれで戦える様にしておきたいの」
ラティはダルモウス山脈のダンジョンで手に入れた神杖ウラノスを抜き、自分に任せてくれと言い出した。
ラティの魔法に神器のウラノスの能力が合わされば、Aランクの魔物とは言え大丈夫かもしれない。
「分かった。僕達は何時でも動ける様にしておくから、ラティは何も気にする事なく戦っておいで」
「神器の力をしっかりと引き出すのよ」
「思いっきりやって来い、ラティ」
「うん。行って来るわ。クルスはあたしの傍にいてね」
「グルルルゥ」
ラティはクルスを連れて前に出て、ウラノスを構えた。
ラヴァゴーレム達はラティに狙いを定め、ゆっくりと溶岩の身体を前にして前進してきた。
「行くわよ。ウラノスの能力、解放!」
ラティはウラノスに魔力を流した。
すると、周囲の様子が変わり、ラヴァゴーレム達の周囲から溶岩が噴き出した。
溶岩の身体を持つラヴァゴーレムには溶岩を浴びても効果はないが、周囲が溶岩に囲まれた事で一時的に奴らの動きが止まった。
「ユーマ、ラティは何をしたんだ?」
「恐らくラティは、ウラノスの森羅万象の効果で、この辺りの地脈を操作したんだ」
ウラノスの特殊能力は、神羅万象、つまりこの世界の自然現象を意のままに操る事が出来る能力だ。
この場合は火山地帯で、地下には溶岩が流れている。
ラティはそれをウラノスの能力で干渉して地脈を刺激し、ラヴァゴーレム達の周りにだけ溶岩が噴き出る様にしたんだ。
「しかもこれは魔法とは違うから、ラティはそこに自分の魔法と組み合わせる事が出来る。強力ね」
「……つうか、反則近いだろ」
確かにね……。
でもラヴァゴーレムはすぐにでも溶岩を渡って来る筈だが、ラティはどうするつもりだろう。
「まだまだ行くわよ! マグマウェーブ!!」
ラティは噴き出て溶岩を魔法で操作して、マグマの津波を起こした。
ラヴァ―ゴーレム達はその津波に飲み込まれ、姿が見えなくなった。
「普通の魔物ならこれで倒せるけど、ラヴァゴーレムは溶岩の身体だからこれでは倒す事が出来ない。ラティは何をするつもりかしら」
コレットが疑問に思ったその瞬間、ラティは次の魔法を放った。
「ニブルヘイム!!」
氷属性の最上級魔法によって、噴き出た溶岩を一瞬で凍結させ、ラヴァゴーレム達をそのまま纏めて倒してしまった。
『考えましたね。ラヴァゴーレムを同じ性質の溶岩の中に閉じ込めて同化させ、そのまま氷属性の凍結魔法で固める事で一網打尽にしたのですね。これなら1体ずつを順番に倒すよりも魔法の回数を減らす事が出来て、とても効率的に戦えますね』
ラティはウラノスの能力と、自身の魔法を瞬時に組み合わせてこの戦いが出来た。
彼女もまた、神器を手に入れただけでなくあのダンジョンでの戦いでかなり成長している事が分かった。
「後は討伐証明部位の魔石を回収するだけね」
ラティは再びウラノスを構えて、濃密な魔力を収束させた。
「グラビティスフィア!!」
ウラノスから巨大な重力エネルギーの塊である球体が発生し、凍結された溶岩の塊を粉々に砕いてしまった。
グラビティスフィア、ラティが重力魔法を身に着けた事で使える様になった、重力魔法の攻撃系魔法だ。
重力のエネルギーを圧縮する事で、触れた者を重力によって捻じ曲げ破壊する強力な魔法だが、ラティがこれまでのエンシェントロッドや元素の杖では杖にかかる負担が余りにも大きすぎてと判断して、これまで使う機会がなかったのだが、神器のウラノスを手に入れた事でそのリスクが無くなり、魔力の消費もラティの無尽蔵の魔力でカバーできることで難のデメリットもなしで使える様になったのだ。
「ウラノスの神器の能力で、グラビティスフィアも問題なく使える様になったという事は、ラティはこれまでの杖で自身に掛けていたリミッターが無くなったからとんでもない魔法使いになったわね」
「やっぱあいつで良かったな。ウラノスに認められたの」
クレイルの言葉に、僕達は揃って首を縦に振っていた。
もしウラノスを別の者が持っていたら、その力を利用してどんな事に使っていたかは想像するのに難しくないからね。
ラティは重力球で破壊した箇所から7個の魔石を見つけた。
ラヴァゴーレムの討伐証明部位の魔石だ。
「これで討伐完了よ。さあ、行きましょう」
ラティはあれだけの魔法を使った後だというのに、全く疲れていなかった。
ウラノスの魔力の循環率と、自身の魔力制御によるものだろう。
「お疲れ様、ラティ。ウラノスを見事に使いこなせていたね」
「でも、いきなりグラビティスフィアを使ったのには、驚いたわよ」
「えへへ。このウラノスなら、今ならあれも出来るんじゃないかと思ったの。そうしたら案の上だったの」
ラティの直感で、ウラノスなら重力魔法をフルに活かせると判断した様だ。
「はい、ラヴァゴーレムの魔石よ。ユーマくんが持ってて」
僕はラティから魔石を受け取り、アリアに乗って再び移動した。
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それから少しして、僕達は結構開けた場所に出た。
そこには凄い光景が広がっていた。
「凄い! 竜が沢山いる!」
ラティが言った通り、目の前には翼竜や走竜、上級竜の火竜などが多くいたのだ。
翼竜や走竜は鱗の色が赤だったから、あれは炎属性で間違いない。
『ここは火竜達の楽園となっている場所です。私が50年前に来た時と全く変わっていません』
その時、火竜達が僕達の存在に気付いたが、警戒する前にアリアの姿を見て、全員が一斉に頭を下げた。
『どうやら私の正体に気付いた様ですね。ですがこれなら話がすぐに通ると思います。私に任せてください』
アリアは僕達を乗せたまま火竜達の前に立ち、大きく息を吸ってから口を開いた。
『皆様! 私は今代の竜神です! そして背に乗っておられるのは私の仲間です! 本日は、炎竜王様にお会いしたく、ここに参りました!』
火竜達はその言葉に驚き、人語こそは発してはいないが目の前に竜神が現れたという事実に酷く慌てていた。
『皆の者よ! 落ち着くのです!』
その時、頭上から中性的な声がして空を見上げると、そこには全身が燃え盛る炎に包まれた別の竜が現れた。
ここまでお読みくださって、誠にありがとうございます。
「面白い」、「続きが気になる」、「更新頑張れ」と思いました方は、ブクマ、感想、評価してくださると今後の励みになります。
魔物情報
ラヴァゴーレム
溶岩の身体を持つゴーレム種のAランクの魔物。
全身が溶岩な為、物理攻撃はほぼ効かず、流動体の身体である事を活かして魔法系の攻撃も通過、または消滅させる事が出来る。
しかし、水や氷の攻撃には弱く、受けると溶岩が冷えて固まり動けなくなる。
また溶岩の中に入る事で回復する能力も持っている。
討伐証明部位は魔石。
火竜
Bランクの上級竜。
炎属性に分類され、同ランクの中でもAランクに匹敵する戦闘力を持っている。
主に火山地帯に生息し、火竜が住み着いている火山は活火山である事が多い。
また、炎属性の古竜の眷属として群れで行動している場合もある。
討伐証明部位は逆鱗。
次回予告
炎の竜の正体は炎竜王の側近であった。
その竜に案内され、ユーマ達は炎竜王が住む神殿に案内され、そこで炎竜王と対面する。
次回、炎竜王