第147話 クレイルとの模擬戦
前回のあらすじ
ダンジョンを制覇してSランクになったユーマ達は、首都に戻って今後の旅の計画を練る。
メビレウス大陸の国を全て回った事で、次は別の大陸に行く事を話し、ゼピロウス大陸へ向かう事を決める。
首都を出発して数日、僕達はロマージュ共和国の領内の港がある街を目指している。
そこから海に出てゼピロウス大陸に向かう為だ。
現在僕達はその途中にある高原で休憩している。
そして僕とクレイルは、
「行くぜ! ユーマ!」
「来い! クレイル!」
ラティ達に見守られている中で模擬戦をしている。
お互いに武器は持っていない素手での組合だ。
「ドラグーンフォース・ライトニング!!」
「フェンリルフォース・フレイム!!」
僕達は互いに「フォース」を発動した。
あのベヒモスとの戦いから少しして、僕とクレイルはこの戦闘形態をフォースと呼ぶようになった。
主な理由はどちらも「フォース」という単語が付くからという単純な物だけど、思ったよりもしっくり来たためその呼び名が定着した。
「いっくぜ!!」
先手に動いたのはクレイルだった。
加速魔法とフェンリルフォースの超人的な加速力で僕との距離を一瞬で詰め、左手の炎の爪を突き出してきた。
メルクリウスを着けていないから威力は著しく落ちているけど、クレイルは獣人ゆえに素の身体能力が高いから、これで殴られれば常人は間違いなく即死、または運良く助かっても半年以上は病院生活を余儀なくされるだろう。
でも僕もフォースを発動させている事で身体能力は大幅に向上し、加えて魔竜のローブの防御力のお陰で真正面から受け止める事が出来る。
「ぐっ!」
故に右腕を盾にして、その攻撃を防御した。
すかさず左脚を振り上げ、クレイルの顎を狙った。
「おっと!」
しかし咄嗟に首を傾けて躱し、僕の右腕を掴んだまま身体を持ち上げて回転し、僕の後ろを取った。
「貰ったぜ!」
クレイルは再び加速して僕を後ろから組み伏せようとした。
「それなら!」
だがその寸前で僕は雷の翼で飛翔して躱し、空歩の靴を起動させて空中で立体的な動きをしてクレイルを撹乱させた。
その一瞬の隙をついて、僕は空中での高速移動と縮雷のスピードで、瞬時にクレイルとの距離を詰めた。
「ちっ……!?」
だがクレイルは身を屈んで僕の回し蹴りを上手く躱し、そのままジャンプしてからのサマーソルトを繰り出した。
僕は空中で身を捩じってギリギリで躱す事が出来た。
互いの攻撃が外れ、僕とクレイルは一旦距離を空けて体勢を立て直した。
「いっくぜ! これで決める!」
クレイルは真正面から突撃してきた方と思えば、ジグザグに走って僕がやったように撹乱させてきた。
そして一定の距離まで接近した所で、一気に飛び掛かって来た。
そして僕に掴みかかったと思ったその瞬間、
「貰ったよ!」
僕はその手を掴み、そのまま反転してクレイルを背負い込む様な姿勢になった。
「何!?」
そしてクレイルがバランスを崩したその勢いを利用して、僕は背負い投げでクレイルを投げ飛ばした。
「やるな、ユーマ! でもな!」
投げられても尚、クレイルは身をよじって態勢を整えて着地してしまった。
やはり身のこなしではクレイルの方に分があるか。
いくらフォースで強化していても、人族の僕では素手での組み手には限度がある。
武器が無いと常に格闘戦で戦っているクレイルが圧倒的に有利か。
「なら、短期決着で行くしかないか!」
そう結論付け、僕は宙に浮いた状態での雷速でクレイルに突撃した。
「面白いぜ! 受けて立つぞ、ユーマ!」
クレイルも地面を蹴ってのロケットダッシュで接近し、僕達は右腕の竜と狼の形をした魔力に覆われた拳を繰り出し、互いに激突した瞬間凄まじい衝撃波が発生した。
「うわあっ!?」
「うおっ!?」
僕達はその衝撃で吹き飛ばされてしまい、地面に倒れた際にフォースも解除されてしまった。
「っててて……フォースが解除されたって事は、それだけ俺達の攻撃が凄かったって事か。こりゃマジで余程の事がない限り使う機会はなさそうだな」
「そうだね。こうしてクレイルと模擬戦してみてわかったけど、このフォースを発動させた状態の僕達はSランクの魔物に匹敵する程の強さがある。それはあのダンジョンでも確認は出来ている」
ダルモウス山脈のダンジョンで僕とクレイルがこの魔法を編み出したのは、90階層での僕やクレイル、ラティの発想や助言を纏めた時で、実戦で使ったのが91階層のパンツァーサウルスと戦った時。
その時の戦闘で、僕達はSランクのパンツァーサウルスを圧倒して討伐してしまった。
その後も96階層までの戦いで、僕とクレイルはあらゆるSランクの魔物を討伐し、更にはベヒモスとも戦闘を経験した。
その過程を通して今、僕はこうしてクレイルとフォースを発動させての模擬戦をして確認をしたんだ。
フォースを発動させれば、僕やクレイルは単騎でもSランクの魔物と戦う事が出来、ラティやコレット、アリア達従魔と協力すればベヒモスの様な奴でも倒す事が出来る。
しかしそれは同時に、僕達の戦闘力が並みの魔物や犯罪者ではオーバーキルになってしまう事を意味していた。
本来Sランクの魔物は複数のパーティーで協力して討伐するのが主だが、僕とクレイルなら単騎でそれが出来てしまう。
それは僕達の強さが普通の冒険者を遥かに凌駕してしまう事を意味している。
「この分だと、僕達がフォースを使う時は、Sランクの魔物や余りないと思うけど、他のSランクの冒険者と戦う時にした方が良さそうだね」
「そうだな。そうした方が普段の戦闘でこれまでの複合強化を使って、フォースの練度に積み重ねる事も出来そうだ」
「勿論、フォースの腕を衰えさせない為に、定期的にクレイルと模擬選する事にしよう」
こうして僕達は普段の戦闘でフォースを温存させる事にし、定期的にフォースで模擬選する事を決めた。
「それじゃあ、ユーマ、クレイル。話が終わった所で、お昼にしましょう。私達が用意したから、すぐに食べられるわ」
僕達が模擬戦している間に、コレット達がお昼ごはんのスープを作っていてくれた。
スープは野菜たっぷりの具沢山スープだったが、僕が作った訳ではないせいか、うちの大食い組は何か物足りなさそうな顔をしていたが、僕が作り置きしていたデザートを食べる事で機嫌を直してくれた。
ここまでお読みくださって、誠にありがとうございます。
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次回予告
旅をつづける途中、ロマージュ共和国領内の最大の活火山、ヴェルニア火山にやってくる。
そしてそこには、ある竜が住む場所である事がアリアから告げられる。
次回、ヴェルニア火山