第146話 新たな旅路に向けて
前回のあらすじ
ユーマとアリアは久し振りにイリアステルと再会する。
そこで神器のアメノハバキリを贈ってくれた感謝を述べ、その後積もった話をした。
セレストの街のギルドでSランクになった翌日、僕達は再びギルドに来ていた。
「お待ちしておりました、銀月の翼の皆様。昨日お預かりしました魔物の素材と魔石の換金が済みましたので、その金額をお渡しします」
受付嬢は奥からスタッフを数人呼び、そのスタッフがそれぞれが大きな布袋を両手で持っていた。
あれってまさか……。
「こちらの袋は全て、中身は換金された白金貨、および金貨でございます。ベヒモスの魔石や角を始めとした一部の素材に加え、数あるSランクの魔物、デビル種、そして多くの魔物の魔石と素材を換金した結果、袋をいくつにも分けて貰いました」
僕達は袋を受け取り、その中身を確認した。
中には、無数の白金貨や金貨がどっさりと入っていた。
「こんな大金、本当にあたし達が……」
「俺……何だか手がめっちゃ震えてるんだけど……」
基本的に金銭関連は僕やコレットが担当していたからか、ラティとクレイルは金銭袋を震える手で受け取っている。
対して、僕とコレットは内心の興奮を押しとどめて、落ち着いた表情で受け取った。
ランクは昨日上がっていて、今お金も受け取ったから、もうこの街にいる必要がない為、僕達は1度首都へ戻る事にした。
僕達は街を出て少しした所で、僕の空間魔法で首都の近くへ転移して、馬車で城壁に向かって中に入った。
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首都に入って僕達はまず、デミウル工房に向かった。
僕達にウラノスの情報をくれたガリアンさんとネルスさんに報告する為だ。
馬車を走らせて数分して、デミウル工房に到着した僕達は、馬車をしまって工房に入った。
「すみません。ガリアンさん、ネルスさん、いますか?」
2人の名前を呼ぶと、工房の奥から2人の男性が入って来た。
この工房主のドワーフのガリアンさんと、その専属錬金術師のエルフのネルスさんだった。
「おお! ユーマの坊主達じゃねえか!」
「皆さん、よくご無事で! こうして戻って来たという事は……」
そのタイミングで、ラティが背中に差していた神杖ウラノスを抜いて見せた。
「はい。この通りダンジョンを攻略して、この神器の杖、神杖ウラノスを手に入れました!」
ラティが手にしたウラノスを見て、ネルスさんは興味深そうに杖を見つめた。
「これが神器の杖ですか。今まで噂でしか聞いた事がないので、こうして現物を見れる日が来るとは……私も嬉しいです。ラティさん、おめでとうございます」
「ありがとうございます、ネルスさん」
僕もガリアンさんと話し合っていた。
「やったな、坊主。しっかしベヒモスを討伐しちまうなんて、正直俺もびっくりしたぞ。今この首都での冒険者の間じゃぁ、銀月の翼の話題で持ちきりだ。あの難攻不落のダンジョンを初めて攻略したとなれば、そうなるのも無理はないけどな」
僕達が攻略の報告をしたのは昨日なのに、既に首都ではその話題で持ち切りという事を知った。
全てのギルドに話したとオーヴァンさんが言っていたから、首都となればその話題が最も広がるのはある意味当然かもしれないな。
「ええ。そのお陰で、僕達はSランクにもなりました。つまり、お父さん達と同じになったんです」
懐からギルドカードを出して見せる事で、昇格もしたという事を話した。
「おお! そうか! 遂にゲイル達に追いついたのか! あいつらがSランクになったのは18になったばかりの頃だったから……お前とラティの嬢ちゃんはそれを超えたという事か!」
僕達はSランクになった際、Aランクの時と同じく最年少でSランクに達したと言われた。
それは、それまで最年少記録だったお父さん達、暁の大地を超えたという事になり、僕達銀月の翼は実質暁の大地を超えたと言っても過言ではないかもしれない。
だがそれは僕らすれば、お父さん達にちゃんと勝つ事で初めていえる事なんだけどね。
「ですが、僕達はまだSランク冒険者としてはまだ若輩者です。これからの冒険者活動にも、僕達の旅を通してもっと頑張ります」
それから暫く、僕達はガリアンさんとネルスさんにダンジョン攻略での事を話し、話し終えた僕達は工房を後にして宿を取った。
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その夜、僕達は僕とラティの部屋に集まり、今後の事を話し合っていた。
勿論アリア達従魔も一緒だ。
僕達の視線はテーブル上に広げられたアスタリスクの世界地図に向けられている。
「俺達、このロマージュ共和国でこのメビレウス大陸の国を全部回ったんだよな。次は他の大陸に行くのか?」
クレイルは世界地図を見て、そう聞いてきた。
「そのつもりだよ。もうこの大陸の国々は全て回った。僕達の安住の地を探す旅は、いよいよ次の大陸へと移るけど、肝心なのは次はゼピロウス大陸かグランバレス大陸のどっちにするかなんだ。どっちにも興味のある国があるから悩みどころだよ」
「確かに、ゼピロウス大陸にはゼノンさんとイリスさんの故郷の、ドラグニティ王国とガイノウト帝国があって、グランバレス大陸にはデスペラード帝国やアルカディアス神聖国があるのよね。どっちも行ってみたい国だから、どの大陸を先にするのか迷うわね」
問題はそこだった。
今ラティが言った通り、ゼピロウス大陸にはゼノンさんの故郷のドラグニティ王国、イリスさんの故郷のガイノウト帝国が存在している。
アライアンスを結んだ仲間の故郷がある大陸に行って、その2つの国を見て回りたいという思いもある。
グランバレス大陸にはアスタリスク最大の軍事国家のデスペラード帝国があり、宗教国家のアルカディアス神聖国がある。
この2国には全ての種族が暮らしているという特徴がある。
他の国にも他の種族はいるが、それでもその全種族の人口はこの2国が随一だ。
だから、この国になら僕達が暮らせる場所がある可能性が最も大きい。
仲間の故郷がある大陸に行くか、最も僕達の目標が達成できる可能性のある大陸に行くか、非常に大きな分岐点だ。
「皆はどっちの大陸に行きたい? それを参考にして決めよう」
1人では中々決められない為、僕は皆に意見を求めた。
「あたしはゼピロウス大陸かしら。ゼノンさんとイリスさんの故郷がどんな所なのか、早く見てみたいの」
「俺はどっちでもいいけど、どちらかと言えばデスペラード帝国に興味があるな。だからグランバレス大陸に1票だな」
「この地図を見ると、今私達がいるのはここだから、ここから出発すれば1番近いのはゼピロウス大陸ね。だから最も早く着けるという点なら、私はゼピロウス大陸に入れるわ」
ラティとコレットがゼピロウス大陸、クレイルがグランバレス大陸を希望した。
「確かに、このロマージュ共和国から出発すれば、ゼピロウス大陸に最も早く着けるね。アリアに乗れば、僕達は船に乗らずとも辿り着く事が出来る。それなら、まずは1番近い方から言ってみようか」
3人は僕の提案に頷いた。
「いいんじゃない? あたしはユーマくんと一緒なら、何処へでも行くわよ」
「このパーティーのリーダーはお前だ。俺はお前の判断に従うぜ」
「私達にも決めさせてくれるのは有り難いけど、最終的な決定はユーマがしていいのよ。だから遠慮はいらないわ」
アリア達も頷いて、僕は次の大陸を決めた。
「分かった。それじゃあ、僕達の次に旅する大陸は、ゼピロウス大陸にしよう」
クレイルも僕の決定に了承してくれて、僕達の次の目的地はゼピロウス大陸に決まった。
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翌日になり、僕達は宿を出て、再びデミウル工房に赴いた。
「おう、ユーマの坊主達じゃねえか。どうした?」
「今日は、ガリアンさんとネルスさんに挨拶に来ました。僕達はこれからここを出て、ゼピロウス大陸に向かいます」
「ですから、その前にちゃんとご挨拶をしようと思って、来たんです」
「そうですか。それは律儀な事で」
「しかし、他の大陸にも行くとはな。そうなると、お前達は暫くゲイル達にも会えなくなるぞ。大丈夫なのか?」
「大丈夫です。僕にはいつでもここやアルビラ王国の実家に戻る手段があります」
僕はガリアンさん達に、ロストマジックの事を話し、僕達がそれを身に着けている事を話した。
「成程な。つまり、お前さんの空間魔法があれば、いつでもゲイル達の所に里帰りも出来るし、俺達の所に来れば武器の整備も出来るという訳か」
「何時でも会えるというのに、態々私達の所へ来て報告をするとは、本当に律儀な方々ですね。ご両親には報告しなくてよろしいんですか?」
「パパ達には、さっき昨晩に書いた手紙を出しました。ですから、数日後には届いて、あたし達が他の大陸に行く事も伝わります」
「そうか。だが気を付けて行けよ。お前達はまだ若い。Sランクになったと言っても、お前達の命はたった1つだけだ。それを粗末にはするなよ」
ガリアンさんからの忠告に、僕達はしっかりと頷いた。
「分かっています。僕達は決してそんな事はしません」
「分かっているならいい。武器の整備が必要になったら、何時でも俺達の所に来い。必ず万全な状態にしてやる」
「私も協力は惜しみません。ですから、安心して旅をしてください」
「はい、ありがとうございます。それでは、また会いましょう」
「さようなら」
「また来ます」
「また会いましょう」
デミウル工房を後にし、僕達は次にギルドに向かった。
今度は夜明けの風に挨拶する為だ。
ギルドに着いてすぐにワッケンさん達に合う事が出来、僕達はゼピロウス大陸へ向かう為にこれからここを出る事を話した。
「そうか。でも、お前達が選んだ道なら、俺達は何も言う事は出来ないな。分かった。気を付けていきな」
「またいつか会おう」
「身体に気を付けるのよ」
「また会える日を楽しみにしています」
「新しい大陸でも頑張ってね」
「はい。ありがとうございます。では、また会いましょう」
僕達はギルドを後にし、そのまま城壁を出て首都の外に出た。
「アリア、お願い」
『分かりました』
元の姿に戻ったアリアの背に乗り込み、アリアは僕達が全員乗ったのを確認して翼を広げ、上空へと飛び立った。
「この方角に行けば、共和国の領内の港がある街に着く。まずはそこを目指そう」
『分かりました』
アリアは港町がある方角へと、巨翼を羽ばたかせて出発した。
これで第8章は終わりです。
次回から第9章、「旅は空を飛んでⅡ」となります。
ここまでお読みくださって、誠にありがとうございます。
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次回予告
ユーマとクレイルはある日、自分達の力を計るべく模擬戦をする。
お互いに武器を持たず、2人は戦闘形態となって模擬戦が始まる。
次回、クレイルとの模擬戦
第9章の前に2話ほど幕間を入れます。