第144話 帰還、そして昇格
前回のあらすじ
ベヒモスを討伐し、ユーマ達はその奥で目標だった神器の杖、神杖ウラノスを発見する。
ウラノスには特殊な制限がかけられていたが、ラティはそれを十分に満たしている事を確信し、ラティは無事にウラノスに認められた。
神杖ウラノスの説明書を読み終えた事で、紙は消滅した。
「後はこのダンジョンから脱出するだけだね」
「この近くに脱出用のワープゾーンがある筈よ」
僕達は辺りを見回して、クレイルとアインがそれらしいのを発見した。
「あそこに何かあるぜ」
「どうもワープゾーンみたいよ。あそこから外に出られるみたい」
僕達はそのワープゾーンの魔法陣に乗り、次に気付くとダルモウス山脈のダンジョンの入口の所にいた。
『戻って来ましたね』
「1ヶ月振りに本物の太陽が見れたわね」
アリアとアインが日差しを浴びながら背伸びしている。
「ユーマ、これからどうすんだ?」
「まずはこの前情報収集した街に戻ろう。そこのギルドでダンジョン攻略の報告をして、討伐した魔物の素材を買い取って貰おう」
僕は空間魔法で麓のセレストの街の手前に転移し、馬車で街の城壁へと向かった。
城壁に着くと、門番が僕達がダンジョンから帰還した事に驚いていた。
考えてみれば、あのダンジョンに行った者は大概が亡き者となり、仮に戻って来れても五体満足ではなかった様だから、こうして僕達が無事に帰って来た事に驚くのは無理もないかもしれない。
何とか無事に検問を終えて街には入れた僕達は、そのままギルドに向かった。
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「おい! あれを見ろ!」
「あぁ? ……って、あれは銀月の翼じゃねえか!?」
「確かダルモウス山脈のダンジョンに挑戦しに行ったんじゃねえのか!?」
「まさか逃げ帰って来たのか! ……て、1ヶ月も行ってたんだからそれまで姿を眩ますのは無理があるか。でもあいつら本当に無事だぞ」
「まさか、あいつら本当にあのダンジョンを攻略したのか!?」
ギルドに入ってそうそう、冒険者達は僕達を見て騒ぎ始めた。
城壁の門版と同じ反応で、僕達はこうも続けて同じ反応に思わず苦笑いしてしまった。
「ユーマ、あまり気にしないで、さっさと報告を済ませましょう」
「分かった」
コレットに促され、僕達は受付カウンターに足を運び、受付嬢に声をかけた。
「あの、すみません」
「はい。本日も当ギルドをご利用くださり、ありがとうございます。本日はどの様な御利用でしょうか?」
受付嬢は全てのギルド共通の営業スマイルで出迎え、僕ははっきりと告げた。
「ダルモウス山脈のダンジョンを攻略したので、その魔物の素材と魔石を買い取って貰いたいんです」
「…………へ? あの……私の聞き間違いでしたらすみませんが、もう1度言ってくれませんか?」
「ですからダルモウス山脈のダンジョンを攻略したので、その魔物の素材と魔石を買い取って貰いたいんです」
受付嬢に頼まれ、僕はもう1度同じ事を話した。
すると、受付嬢の表情が次第に真っ青になり、プルプルと震えだした。
「えっ……ええええええええええええええええええええええ!!!!?」
その瞬間、受付嬢が途轍もない悲鳴を上げ、ギルド全体に木霊した。
更に後ろで聞いていた冒険者達も更に騒ぎだした。
「マジか!? あのダンジョンを攻略したのか!?」
「嘘を言っているんじゃねえのか!?」
「だがあの銀月の翼だぞ! もしかしたら本当に!」
後ろの冒険者達は僕達があのダンジョンを攻略したという事に、半信半疑だった。
分かってはいるけど、やはりこういう反応を取られると、どうしても嫌な気分になりそうになるな。
僕達は何も嘘は言っていないのにこうも疑われると、流石に滅入って来るかな。
「ユーマ、こうなったら、アレを見せちまおうぜ」
クレイルの提案に頷き、僕は収納魔法からある素材を取り出した。
それは、巨大な1本の角だった。
「こ……これって……」
受付嬢が更に硬直しながらも尋ねて来る。
「ダルモウス山脈のダンジョンのボスの魔物、ベヒモスの討伐証明部位の角です」
僕が発した言葉を聞いて、周りが沈黙したがすぐにまた騒ぎ出した。
「マジか!? あいつら、本当にあのダンジョンを攻略しちまった!?」
「ベヒモスの討伐証明部位なんて、俺初めて見たぞ!?」
「ベヒモス何てバケモンを討伐しちまうなんて、あの4人凄すぎだろ!」
流石に討伐証明部位を偽る事は出来ないから、冒険者達はこの角を見てすぐに僕達がダンジョンを攻略したという事実に気付き、僕達を称賛していた。
端から見れば調子の良いように見えるが、やはり冒険者としてのルールとしての討伐証明部位の提示が効果が大きかったというのもあるのだろう。
まあ、なんにせよ変な騒ぎが起こらなかっただけでも良しとしよう。
変に冒険者達が騒いで、下手してクレイルやアリア達を怒らせたら目も当てられない事になりそうだから。
「とりあえず、信じて頂ける事でよろしいでしょうか?」
いまだに呆けている受付嬢に声をかけた。
「……はっ! 大変申し訳ありませんでした! 皆様を疑う様な反応をしてしまい、不快な反応をさせてしまった事、深くお詫び申し上げます!!」
受付嬢は深く頭を下げて謝罪した。
「大丈夫ですよ。あのダンジョンは今まで誰にも攻略できなかったダンジョンだったのですし、それを突然攻略しましたと言われて信じる方が少ないのは当然でしょうからね」
僕はしっかりとフォローして、誰も悪くない様に話を運んだ。
「ありがとうございます。それでは、素材の換金ですが、量が多いようでしたら、鍛練場で査定を行いましょうか?」
「はい、それでお願いします」
僕達は受付嬢が呼んだ鑑定魔法の使い手の職員と一緒に鍛練場に来た。
また、僕達がダンジョンで討伐した魔物の素材に興味を持った冒険者達も鍛練場の端で見守っている。
「それでは換金したい素材を出してください」
僕達はそれぞれ収納魔法から、あのダンジョンで討伐した魔物達の素材を取り出した。
その素材は、1番低いサイクロプスを始めとするCランクの魔物から、ベヒモスを始め、クラッシュコング、ガイアライガー、マンティコアなどのSランクの魔物、他にもデビルヴァイパーやデビルオクトパスといったデビル種の魔物があり、この鍛練場の殆どに埋める程の巨大な魔物の素材の山が出来た。
凄まじい量の数の素材が出て来た事で、冒険者達は驚愕していた。
中には盗もうとするような顔をした者もいたけど、素材に触れないように多数の職員が囲んでいた為、それは出来なかった。
「これは……攻略しただけあってその素材の数や種類、量も凄いですね……これ程の数ですと、査定が終わるのに丸1日は掛かりますが、宜しいでしょうか?」
「構いませんよ。僕達は今日はこの街の宿に泊まりますから、明日また来ます」
査定時間の話が付いたタイミングで、先程の受付嬢が小走り気味にやって来た。
「すみません、当ギルドのギルドマスターが、銀月の翼の皆様をお呼びしています」
「ギルドマスターがですか?」
僕達はギルドマスターの呼び出しを聞き、受付嬢について行ってギルドマスターの部屋へとやって来た。
「よく来ましたね。まずはそこに座ってください」
ここのギルドマスターはエルフの男性で、彼に促されて僕達は向かいのソファーに座った。
「まずは自己紹介で。私はオーヴァン・ローアル。このギルドのマスターをしている者です」
僕達も自己紹介をし、オーヴァンさんは軽く深呼吸してから口を開いた。
「まずは、先程全ての国のギルドにこう告げました。『銀月の翼がダルモウス山脈のダンジョンを攻略した』と。本来は1つのダンジョンの攻略にその様な事はしないのですが、今回は誰も攻略した者が現れなかったダンジョンを攻略したという事実な為、こうして全てのギルドに告げたのです。皆様の所業はそれだけの価値がある物でしたから」
オーヴァンさんの説明に納得しながら、僕達は話の続きを聞いた。
「そして本題ですが、この度の皆様の所業とこれまでの功績を考慮し、皆様全員のSランクへの昇格を認めます」
彼から告げられたのは、なんと僕達全員をSランクに昇格させるという事だった。
「それって本当ですか!?」
ラティが興奮を抑えながらも、嬉しそうに聞いた。
「はい。冒険者ギルドは世界中のギルドと情報を共有しています。よって、このギルドにも銀月の翼のこれまでの活躍というのもしっかりと記録されています。Aランクに昇格してからの皆様の主だった実績では、アルビラ王国にて国中を揺るがした行方不明事件の正体を解明し、それに伴って犯罪組織の黒の獣を壊滅、中規模とはいえこの国の首都にあるダンジョンを最短期で攻略、そして今回発見されてから数百年間誰も攻略できなかったダルモウス山脈のダンジョンを攻略し、ベヒモスの討伐をも成し遂げた。これだけの実績があって、皆様をランクアップさせない訳には行きません」
こうして聞いてみると、僕達は本当に色んな活躍をしてきたよなぁ。
その殆どが僕の巻き込まれ体質によって起こされた物だったけど……。
何はともあれ、Sランクに昇格できるのなら、僕達には辞退する理由もないし向こうもさせる気はないだろうな。
「ありがとうございます。では、ランクアップの手続きをお願いします」
「分かりました。コレット様はこれまでにSランクへも昇格を辞退し続けてきた様ですが、今回は受ける事でよろしいでしょうか?」
オーヴァンさんの問いに、コレットは頷いた。
「はい、お願いします。私がSランクになるのは、彼らと同じ時だと決めていましたので」
「分かりました。では、すぐに手続きの用意をします。皆様のギルドカードをお借りします」
僕達はギルドカードを差し出し、ランクアップをする為にロビーの受付へと移動した。
そこでオーヴァンさんが周りの冒険者達に聞こえる様に受付嬢に話し、受付嬢は僕達のカードをランクアップさせて、僕達に金色になったカードを差し出した。
「どうぞ。こちらが、Sランクのギルドカードでございます。皆様、本当におめでとうございます」
受付嬢の言葉に続いて、周りの冒険者達がドッと騒ぎ、僕達を祝う言葉で覆い尽くされた。
かくして、僕達銀月の翼は、メンバー全員がEXランクの従魔に続いて全員が神器持ちになっただけでなく、全員がSランクとなり銀月の翼のパーティーランクもSとなったのだった。
そして、この知らせは各国のギルドにも報告され、銀月の翼の知名度はさらに上がったのだった。
ここまでお読みくださって、誠にありがとうございます。
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次回予告
ギルドを出たユーマは、ラティやアリアを連れて教会へと向かう。
そこで久し振りに神の間を訪れ、イリアステルと再会、様々な報告をする。
次回、イリアステルと久々に会話